自分の意志だけでは達成できなかった…プロ野球の連続出場記録を持つ元阪神・鳥谷敬の「やる気」の出し方
プレジデントオンライン / 2023年3月16日 13時15分
※本稿は、鳥谷敬『他人の期待には応えなくていい』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■「野球が大好きだったのではない」私がプロになったワケ
野球をしていた頃、毎朝「球場に行きたくないな」と思っていた。はっきりいえば、「面倒くさいな」といつも感じていた。
わたし自身、多くのプロ野球選手のように、「子どもの頃から野球が大好きだった」というタイプではなく、たまたま人よりも野球が上手だったから、小学生の頃からずっと続けていただけだった。
父親はサッカー経験者だったので、わたしもサッカーが大好きだった。
小学1年生のときに柔道を始めた。野球を始めたのは小学2年生の頃のことだ。小学生時代は月・水・金曜日は柔道、週末は野球という二足のわらじを履いた。
個人競技である柔道と団体競技である野球と、それぞれの魅力があったけれど、中学生になるときに野球に専念することを決めた。シニアリーグに入ると同時に、右打ちから左打ちに変えることにした。本腰を入れて、野球に取り組むためだった。
しかし、中学時代は一気に身長が伸びたことで成長痛になり、ひざを故障してしまって満足に走ることができなくなった。ようやくレギュラーの座をつかんだものの、今度は背中の肉離れに悩まされて、満足なプレーができなくなった。
それでも野球を続けていたのだが、高校進学時には真剣に「これで野球をやめよう」と決意した。「高校では大好きなサッカーをやってみようか」、そんなことを考えたこともある。しかし、「強制はしないけれど、できれば野球を続けてほしい」という父のひと言をきっかけとして、高校でも野球を続けることを決めたのだった。
以降、早稲田大学でも野球部に入り、タイガース、ロッテマリーンズと野球ひと筋の生活を送ることになった。
■「他人の目」をうまく利用すべき
怠け者で、それほど好きでもなかった野球をここまで続けることができたのは、「自分の意思」ではなく、「他人の目」のおかげだった。
現役時代、「鳥谷はすごく練習熱心だ」といわれていた。誰よりも早く球場に行き、黙々とランニングをしていたからだ。その姿が広まってくると、ますます「鳥谷はストイックだ」「練習の虫だ」と話題になるようになった。
練習をすればするほど、いい結果となって自分に跳ね返ってくるということを知っていたから、練習するのは当然のことだと思っていたが、最初に述べたように、元来は怠け者であり、「できれば球場に行きたくないな」というタイプの人間だ。
けれども、マスコミをはじめとして、ファンのあいだにまで「鳥谷は練習熱心だ」と広まってしまうと、サボったり、手を抜いたり、ましてや遅刻したりすることはできなくなる。第三者が自分のことを「練習熱心だ」と見ているのならば、その認識を自分のためにうまく利用したほうがいい。そう考えていたのだ。
![野球観戦](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/a/1200wm/img_4ae7d1b604af28d31a05a3a1e3ed6658402581.jpg)
連続試合出場記録が続いているときも、同様の考えだった。
毎日試合に出続けていれば、疲れも溜まってくるし、大なり小なり故障も抱えていく。「今日は試合に出たくないな……」と思う日だって、当然ある。
それでも、何年も連続試合出場記録を継続していると、まわりの人々は「鳥谷は試合に出ているのが当然だ」という思いになっていたことだろう。
ならば、その思いを自分のために利用すればいい。
■他人にどう思われようと気にしない
わたし自身はなにか突出した才能があるわけではなく、「打つ、守る、走る」、それぞれを満遍なくこなすことで評価されるタイプの選手だった。自己評価をするならば、すべての項目が5段階評価で3.8ぐらいの選手だろうか。ひとつも「5」はないし、決して「4」でもない。
少しでも休んでしまうと、自分のポジションを誰かに奪われてしまう恐怖が常にあった。
だから、試合に出続けるしかなかったのだ。
この間、何度もケガをしたけれど、チームに迷惑がかからない限りは、自分からは「無理です」「試合を休みたい」とはいいたくなかったし、実際にいったこともない。
その際に大きな力になったのが、「毎試合、試合に出るのはファンに対する義務である」という思いだった。キャンプ期間やシーズンオフに病院を慰問し、「病気が治ったら、ぜひ球場に見に来てくださいね」と約束したのに、当の本人が試合に出ていなければ、子どもたちはガッカリすることだろう。
自分の子どもたちにも、「一度でも自分で決めたことは最後までやり通すこと」と常にいっている。しかし、その言葉を発した父親が、実際は自堕落な生活で、有言不実行だとしたら、子どもたちの教育にもよくないのはいうまでもない。自分で口にした以上、自ら率先して手本を見せるしかないのだ。
こうしたこともまた、わたしにとっては「他人の目」なのである。
正直にいえば、他人からどう思われようと、どのように見られようと、わたしはまったく気にしていない。その反面、自分の価値を高めることにはかなりの意識を置いてきた。基本軸にあるのは、「他者ではなく、あくまでも自分自身」という思いがブレずにあるからだ。
けれども、それがチームやファンや家族のためになり、さらに自分の役に立つのであれば、積極的に「他人の目」を利用したほうがいい。
怠けそうになる自分を律するときに、「他人の目」は大きな力を発揮する。
■苦手な人との飲み会で考えていること
人から誘われたとき、乗り気でない場合ははっきりと「ノー」ということができる。しかし、学生時代、あるいはプロの世界に入ったときには、先輩からの誘いを断ることはできなかった。
まったく楽しくないのに、酒場に繰り出し、無為な時間を過ごすことも多かった。当時から「時間の使い方」を最優先していたわたしにとって、ただダラダラと過ごすだけの無駄な時間は本当に耐えられなかった。
しかし、ある程度のキャリアを積み、プロの世界で実績を残すにつれて、自分の意思を最優先して、行きたくないときにははっきりと「ノー」というようになった。その結果、次第に誘われる機会も減っていったのだが、わたしとしてはそれで困ることはなにもなく、むしろ好都合だった。
読者のみなさんも、気乗りしないのに「つきあいだから断れない」というケースが多いことだろう。もちろん、わたしにもいまでもそんなケースはある。
![アルコールを拒否](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/b/1200wm/img_5b37f76d1d7f93edf8fffda791137fa8410811.jpg)
本当ならば、「ちょっと予定があるので……」となんらかの理由を見つけて断ればいいのだろう。しかし、日々接する会社の上司や取引先からの誘いを無下にすることもできないのだとしたら、置かれた環境のなかで取り得る最善策を探すしかない。
■苦痛な時間を有効な時間に変える方法
気心の知れた人からの誘いならまだしも、自分が苦手だと思っている人、どうにも相性が合わない人の場合はなおさらつらい時間を過ごすことになる。
そんなときには、「自分が苦手な人ほど、実は学びが多いのだ」と考えるようにしている。楽しいときはあっという間に時間が過ぎる。その一方で、苦痛で仕方ないときには、本当に時間がたつのが遅く感じられる。
ならば、その「苦痛な時間」でさえも有効に使う方法はないか?
そのようにマインドチェンジを試みるのである。
例えば、最初に考えるのは「どうして、わたしはこの人が苦手なのだろう?」ということだ。「理由はわからないけど、この人といると落ち着くな」と感じる人がいるように、「なんだかわからないけど、この人といるとイライラする」という人がいる。
このとき感じた「理由はわからないけど」や、「なんだかわからないけど」を、あらためて自分なりに掘り下げて考えてみるのだ。
話し方が嫌いなのか、話の内容が退屈なのか?
あるいは延々と自慢話をするからなのか?
同じ話を何度も何度も繰り返すからなのか?
店の店員やタクシー運転手に対する態度が尊大だからなのか?
こうした視点で「観察」していると、いろいろな気づきが生まれてくる。その結果、「この人のこういう考え方が、自分には合わないのだな」とか、「こういう態度は他人を不快にさせるんだな」という発見がある。
■相手の長所も短所も取り込む
そうなれば、それを反面教師として、「自分はこういう考え方はやめよう」とか、「他人に接するときにはこういう点を注意しよう」と、今後に生かす道筋となる。
それだけでも、ただイライラしているだけよりはずっと意味のある時間となる。
はじめは、ただ「苦手な人だな」と感じるだけだったものが、このプロセスを経ることで「この人はこういう人なのだ」と、多少の受け入れ態勢も生まれてくる。
そう思えるだけで、心理的な負担はかなり軽減されることだろう。
自分が経験していないことを体験している人、自分とはまったく異なる発想や視点を持つ人はすごく大切な存在だ。
これは、相手の「長所」だけではなく、「短所」においても同じことがいえるだろう。見習うべきことは、「いいところを盗んでやろう」と貪欲に取り入れればいい。一方で、欠点については、「ここは絶対に真似したらダメだな」と反面教師にすればいい。
そう考えると、すべてに無駄がなくなる。
■物事は先入観なくフラットに見る
わたしはいつも、「物事は先入観なくフラットに見よう」と考えている。
いい面も、悪い面も、いずれもきちんと見極めなければ、正しい判断はできない。正しい判断をするための材料のひとつとして、苦手な人との時間を利用するようにすれば、不快な思いはかなり軽減されるはずだ。
![鳥谷敬『他人の期待には応えなくていい』(KADOKAWA)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/0/1200wm/img_c079301bfbf071a5ab43dca7e319d4ef247225.jpg)
あらためて思うのが、ここでもやはり「いかに時間を有効に使うか?」という思いが、自分の根底にあるのだということだ。
どうせ断ることができないつきあいであるならば、その時間を少しでも無駄にせずに自分のためになるように使う方法を考える。
そのために「他人」という存在を上手に活用する。損得勘定だけを重視した、いかにも打算的な考えのように見えるかもしれないが、それでも、苦痛を軽減し、時間を有効に活用するひとつの方法であることは確かだと、わたしは思う。
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プロ野球解説者
1981年6月26日生まれ、東京都出身。聖望学園、早稲田大学を経て2003年自由獲得枠で阪神に入団。正遊撃手として活躍。2020年にロッテに移籍し、2022年限りで現役を引退。2004年9月から2018年5月まで継続した1939試合連続出場はNPB歴代2位。遊撃手として、NPB公式戦シーズン最多打点記録(104打点)および、歴代最長のフルイニング出場記録(667試合)を保持している。撮影=平野司
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(プロ野球解説者 鳥谷 敬)
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