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「私、発達障害かも」の半数以上は勘違い…対人関係で悩んだときに知っておきたい「発達障害」の診断基準

プレジデントオンライン / 2023年3月8日 13時15分

加藤進昌先生

発達障害にはどんな特徴があるのか。東京大学名誉教授で精神科医の加藤進昌さんは「症状の特徴だけを見れば、似通っている精神疾患が複数ある。専門医も誤診することがあるので、注意が必要だ」という――。

※本稿は、加藤進昌『ここは、日本でいちばん患者が訪れる 大人の発達障害診療科』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■外来の半数以上は「発達障害ではない」患者

医療に携わる者の目から見て、「発達障害」がより多くの人に理解されるようになること自体は、喜ばしいことだといえます。しかし、社会での認知が広がるにつれ、「発達障害」という言葉が独り歩きを始め、どうかすると、脇道に逸れてしまいかねない状況が散見されるようになりました。

実際、「私は発達障害だと思います」と言って専門外来を受診する患者を、発達障害の専門医が診断した結果、「発達障害ではない」とわかる人が続々と現れるといった現象も起きています。

私の外来では、訪れる患者のうちの半数以上が発達障害ではありません。

しかし、発達障害をよく知らない医師であれば、患者の訴えを鵜呑みにして、発達障害と診断してしまうかもしれません。いま、医療現場で問題になっているのは、そうした発達障害の過剰診断なのです。

また、発達障害が、専門医であっても正確に診断することが困難なのは、表面上の症状(特性)だけに着目すると、似て見える精神疾患や精神障害があるからです。

発達障害のことをあまりよく理解していない医師の場合、似ている症状を示す他の疾患と間違えて診断してしまうケースもあります。また、発達障害同士も似た特性を持ち合わせているため、鑑別に時間がかかる場合があります。

■コミュニケーションがうまく取れない

1.統合失調症

発達障害と間違われやすい精神疾患・精神障害がいくつかあります。そのなかでも特に、ASD(自閉スペクトラム症)との鑑別が難しい疾患の筆頭にあげられるのが「統合失調症」です。統合失調症は、主に青年期に発症する精神疾患で、考えがまとまりづらくなり、気分や行動に異変が生じ始め、日常生活や人間関係にも支障をきたす病気です。

最もよく知られている症状が幻覚(幻聴)と妄想です。周りの人が自分の悪口を言っているような気がして、被害妄想を引き起こし、他人に攻撃的な行動をとることがあります。

また、思考がまとまらないため、突飛なことや支離滅裂なことを話して、人とコミュニケーションがうまくとれなくなります。さらに、しだいに感情表現が乏しくなり、意欲も低下して、他人との関わりを避けるようになっていきます。

統合失調症のこうした症状が、ASDの特性と部分的に似て見えることがあるのです。

たとえば、ASDの人は、過去のつらい出来事が突然フラッシュバックして思い出され、感情的な言動をとってしまうことがありますが、その症状は統合失調症の幻覚や妄想と似ています。

また、ASDの人は、他者への関心が薄く、人と積極的にコミュニケーションをとろうとしないため、感情表現も控えめなことが多いといえます。その様子が、感情の起伏が乏しい統合失調症の症状と似て見える場合があるのです。

■「自己と他者の関係性」で見るとむしろ正反対

このように、統合失調症とASDは断片的な症状だけを見ると、似ているように思えるのですが、決定的に異なる点があります。それは、“自分と他者”のとらえ方です。統合失調症は、“自我の障害”ともいわれ、自分と他人の境界線がはっきりせず、他人の影響を受けやすくなり、自分が誰かからコントロールされていると考えるようになります。

つまり、他人のことを必要以上に意識するのです。一方、ASDの人は、他人に関心がなく、自分が人からどう見られるか、どう思われるかをまったく気にしません。自己と他者の関係性という点で両者を比較すると、正反対と言っても過言ではないのです。

なぜ幻覚や妄想のような症状が生じたり、感情表現が乏しかったりするのか。そのベースにある障害の本質を注意深く見極めなければ、両者の鑑別が難しくなり、誤診が生じてしまいかねないということです。

統合失調症とASDの鑑別についていえば、統合失調症は青年期以降に発症し、症状は徐々に進行していきますが、ASDは生まれつきの障害であり、進行性のものではないという違いもあります。問診で子どもの頃の様子を親などから聞き取れば、その違いは明確になるはずです。

■同じ行動を何度も繰り返す

2.強迫性障害

「強迫性障害」も、ASDと間違えられやすい疾患のひとつです。強迫性障害は、非常に強い不安感や不快感(強迫観念)をもつことにより、その不安や不快を打ち消そうとする行動(強迫行為)を繰り返してしまう障害です。

たとえば、外出時に玄関を施錠したのに、本当に施錠したかどうかが気になり、家に戻って確認するという行為を何度も繰り返し、会社に遅刻してしまうといった状況が起こります。また、外から帰ってきて手を洗うとき、汚れやばい菌が十分落ちていないような気がして、何十回も手洗いを繰り返したり、長時間手を洗い続けたりしてしまうのです。

このような「強迫行為」を、本人も無意味で馬鹿馬鹿しいことだと理解しています。しかし、それでもやめられないのが強迫性障害です。

実は、こうした強迫行為が、ASDの人の“こだわり行動”と似て見えることがあります。ASDの人は変化や変更を嫌い、同じことを繰り返したり、同じ方法をとることを好んだりする傾向があります。

■繰り返す「動機」がまったく違う

たとえば、ASDの人のなかにも、長い時間かけて手を洗い続ける人がいます。ただし、この場合は、汚れが落ちていないような不安に駆られているのではありません。自分で決めた手洗いの手順があり、その手順通りにやらないと気が済まないのです。つまり、手の汚れではなく、手順にこだわっているということです。

ですから、ASDの人の場合、「食事の支度ができているから、今日は手洗いを早めに済ませよう」というような臨機応変な対応ができません。状況に応じて、手順を変えたり、時間を短縮させたりすることが難しいのです。そうした“こだわり行動”が、傍目には、強迫行為と似て見えてしまう場合があります。

しかし、両者の違いははっきりしています。強迫性障害の人は、自分でもやめたいけれどやめられないのですが、ASDの人はやめる気などさらさらありません。ASDの人にとって“こだわり行動”は、意味のある行動であり、やめる理由がないからです。

■他者との関りを避けようとする

3.社交不安障害

「社交不安障害」は、かつてよく話題にされた“対人恐怖症”とほぼ同義で、自分が他人からどう見られるか、どう思われるかを過度に心配することで、人と会ったり、人前に出たりするたびに、動悸や発汗、震え、パニック発作などの症状が生じる疾患です。こうした症状が繰り返し起こることで日常生活に支障をきたし、症状を避けようとして、人と会うことを避けたり、外出をしなくなったりするようになります。

頭を抱える女性
写真=iStock.com/Tinnakorn Jorruang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tinnakorn Jorruang

社交場面を避けようとする社交不安障害の症状が、他者と積極的にコミュニケーションをとろうとしないASDの症状と似て見える場合があります。確かに、他人との関わりを避けようとする症状だけに着目すると、両者は似ているのですが、その本質はまったく異なっています。

社交不安障害の場合、人からどう見られるかを気にしすぎるために人づきあいができなくなるものであり、過剰な自意識がベースにあります。これに対し、ASDは、むしろ自意識がなさすぎるといってもよく、人からどう見られるかがまったく気にならず、他人に関心が向かないのが特徴といえます。障害の根底にある心理は正反対といってもよいでしょう。

また、社交不安障害が、他者を意識し始める思春期頃から発症し始めるのに対し、ASDは生まれつきの障害であり、幼少の頃から他者への無関心が顕著です。発症のタイミングを振り返ることも、両者の鑑別の重要なポイントになります。

■他者に対して無関心で一人でいることを好む

4.パーソナリティ障害

「パーソナリティ」とは、その人が長年もち続けている考え方や認知、対人関係などのパターンのことで、「人格」や「人柄」とほぼ同じ意味です。

「パーソナリティ障害」とは、大多数の人の平均的なものの考え方や感じ方、行動からみて、著しく偏った考え方や行動をとってしまう障害で、そのことにより社会不適応が生じ、本人のみならず、周りの人たちも巻き込まれてつらい思いをすることになります。

パーソナリティ障害になりやすい素因をもっている人が幼少期から思春期にかけて受けた、いじめや虐待、ネグレクトなどの経験がもととなり、偏った考え方や自己像をもつようになり、人との関わり方が不安定になってしまい、発症に至るケースが多くみられます。

パーソナリティ障害は、その傾向から次の3つに大別されます。

・変わり者タイプ……奇異な考えにとらわれたり、ひきこもりがちになったりする。
・巻き込みタイプ……自己像が不安定で、周囲の人を振り回す。
・マイナス思考タイプ……不安感や恐怖感にとらわれやすく、周囲の目を気にし、自己評価を低下させやすい。

このうち、ASDと似た症状を示すのは、「変わり者タイプ」と「巻き込みタイプ」です。変わり者タイプのなかには、他者に対して無関心で一人でいることを好み、感情表現も乏しい特徴をもつ人がいます。こうした症状がASDと似て見えることがあります。

しかし、パーソナリティ障害の変わり者タイプの人は、幼少期に親や養育者が親密な関わりをもってくれなかったことが原因となっているケースが多く、人との心温まる交流を知らないがゆえに、他者への関心が希薄になってしまうと考えられます。一方、ASDは生まれつきの障害であり、養育環境が原因で発症することはありません。

■相手との関係性によって態度が変わる

また、パーソナリティ障害の巻き込みタイプでは、自分が信じたいと思った相手に対する強い「見捨てられ不安」が生じ、その人のささいな行動(約束の時間に数分遅れてしまうなど)で不安が募り、激怒したり、パニックになったりします。

信じたい相手に激しくのめり込んだかと思うと、小さなきっかけで幻滅を感じ、突然関係性を断ち切るといった極端な行為を繰り返す傾向があり、やがて、誰も信じられなくなり、人との交流を避けるようになります。このような状態が、対人関係に消極的なASDと似通って見えるのです。

しかし、巻き込みタイプも幼少期に親や養育者から十分な愛情を与えてもらえなかったことが原因で発症するケースが多く、生まれつきの障害であるASDとは異なっています。また、巻き込みタイプの場合、特定の相手や関係性において症状が現れるのが特徴的で、別の相手とは当たり障りのない関係性を維持することができます。

その点、ASDの人は、相手によって態度やつきあい方を変えることはしません。状況や場面、相手にかかわらず、同じような行動特性がみられるのが発達障害の特徴のひとつです。したがって、相手によって態度が変わったり、家庭と会社で別人のように振る舞ったりする場合は、ASDではありません。

■「フラッシュバック」に苦しめられる

5.PTSD(心的外傷後ストレス障害)

「PTSD」は、日本語では「心的外傷後ストレス障害」と訳されます。戦争や災害、事故、犯罪などによって、生命を脅かされるほど怖い思い、つらい思いをした体験がトラウマ(心の傷)となり、その記憶が何カ月も、あるいは何年も経ってから突然よみがえる「フラッシュバック」が生じ、精神が不安定になり、警戒心が過剰に強くなったり、動悸がしたり、不眠になったりといった心身症状が現れます。

ASDの人も、これと似た「フラッシュバック」が生じることがあります。何の前触れもなく、突然過去のつらい体験や嫌な思い出が、あたかも目の前で起こっているかのように鮮明によみがえってきます。その結果、不安や緊張、恐怖といった激しい感情が湧き起こることがあります。

PTSDでは、トラウマと関わりのある場所や人、状況を回避しようとする反応が起こりやすく、その経験を思い出して衝撃を受けたり、つらい思いをしたりしたくないという防衛反応から、経験自体を忘れてしまったり、感情を麻痺させて無反応・無表情になってしまったりする人もいます。ASDの人も、感情表現が乏しく、無反応・無表情に見えることがあり、PTSDと似て見えるケースがあります。

PTSDとASDは、トラウマとなるような、生命の危険を感じるほどの衝撃的な出来事を過去に体験しているかどうかで見極めます。しかし、どちらの「フラッシュバック」も、脳のなかで起きている反応は同じようなメカニズムではないかと考えられます。その点を踏まえると、ASDの人は、そうでない人と比べてPTSDになりやすい可能性があるかもしれません。

日本における若い女性のアロマセラピストカウンセリング患者
写真=iStock.com/Yue_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yue_

■「ひきこもりの原因は発達障害」という勘違い

「ひきこもり」とは、障害や病気の名称ではありません。厚生労働省では、ひきこもりを、「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人と交流せずに6カ月以上自宅に引きこもっている状態」と定義しています。つまり、原因にかかわらず、家族以外の人と関わりをもたずに家のなかに長期間閉じこもっている状態を「ひきこもり」というのです。

近年の内閣府の調査では、15~39歳のひきこもりは54万人、40~64歳のひきこもりは61万人と推計されています。若者と中高年を合わせると、全国で100万人以上のひきこもりの人がいるということです。

こうしたひきこもりの多くに、発達障害が関わっているのではないかと考えている人が少なくないようです。特に、ASDの人たちは、人と積極的に関わろうという意識がなく、コミュニケーションスキルも乏しいために、社会活動になじみにくい傾向があり、ひきこもりになりやすいと思われがちなのです。

実際、ASDのなかにひきこもりの人が一定数いることは否定できないと思います。ですが、だからといって、「ひきこもり=ASD」あるいは「ひきこもり=発達障害」ということにはなりません。

そもそも、ひきこもっているすべての人が、なんらかの精神障害をもっているわけではないということを踏まえる必要があります。

■発達障害や精神疾患は全体の3分の1

きちんと調べたわけではないので断言はできませんが、私の印象では、ひきこもり全体の3分の1は障害や病気とはまったく関係のない人たち、もう3分の1は社交不安障害の人たち、残りの3分の1が社交不安障害以外の統合失調症やうつ病、発達障害などの精神疾患・精神障害を抱えた人たちとみています。

ASDの人は最後の3分の1のグループに含まれますが、さらにASDに限れば、その割合はもっと小さくなり、ひきこもり全体の1割にも満たないのではないかと考えられます。

ひとつめと2つめのグループの人たち、すなわち、社交不安障害を除いた精神障害が関わっていないタイプのひきこもりの人たちの大半は、「本当はひきこもりたくない」「できれば社会に出て活躍したい」と思っている人です。不都合な状況や環境により、あるいは不安が強いために外に行きたくても行けず、他人と関わりたくても関われず、否応なくひきこもっているのだと思います。

■「社会に出れない気の毒な人」一律の支援に意味はない

加藤進昌『ここは、日本でいちばん患者が訪れる 大人の発達障害診療科』(プレジデント社)
加藤進昌『ここは、日本でいちばん患者が訪れる 大人の発達障害診療科』(プレジデント社)

しかし、ASDの人の場合、人と関わりたいと思っていないし、社会に出て活躍し、いろんな人たちから認められたいとも考えていません。部屋にこもって、自分の趣味や関心事に、誰にもじゃまされずに没頭していられることが幸せなのです。

一見すると、どちらも同じ「ひきこもり」ととらえられますが、本人の意図に反してしかたなく家にこもっている人と、自ら望んで家のなかにいる人では、事情は大きく異なります。

ところが、そうした背景をよく知らない多くの人は、どちらも“家に閉じこもって社会に出られない気の毒な人たち”という見方をしてしまいがちです。ひきこもっている背景に何があるのかを個別によく見極め、全員を同じように扱って一律の支援をしてしまわないことが重要です。

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加藤 進昌(かとう・のぶまさ)
東京大学名誉教授、医師
1947年、愛知県に生まれる。東京大学医学部卒業。帝京大学精神科、国立精神衛生研究所、カナダ・マニトバ大学生理学教室留学、国立精神・神経センター神経研究所室長、滋賀医科大学教授などを経て、東京大学大学院医学系研究科精神医学分野教授、東京大学医学部附属病院長、昭和大学医学部精神医学教室主任教授、昭和大学附属烏山病院長を歴任する。東京大学名誉教授、昭和大学名誉教授、公益財団法人神経研究所理事長。医師、医学博士。専門は精神医学、発達障害。2008年、昭和大学附属烏山病院に大人の発達障害専門外来を開設し、併せてASDを対象としたデイケアを開始。2013年からは神経研究所附属晴和病院(現在は新築中につき小石川東京病院で診療中)でもリワークプログラムと組み合わせた発達障害デイケアを開設した。2014年には昭和大学発達障害医療研究所を開設し、初代所長に。脳科学研究戦略推進プログラムに参画するなど、一貫して発達障害の科学的理解と治療、研究に取り組んでいる。2023年より東京都発達障害者支援センター成人部門(おとなTOSCA)が神経研究所(小石川東京病院)に開設され、成人発達障害の相談を広く受け付けている。

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(東京大学名誉教授、医師 加藤 進昌)

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