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声を掛けるのは路上よりもツイッター…男性スカウトが風俗嬢集めに運営する「金持ちアカウント」の正体

プレジデントオンライン / 2023年3月13日 15時15分

担当ホストと一緒に歌舞伎町を歩く女性 - 筆者撮影

新宿・歌舞伎町には、ホストに多額のお金をつぎ込む“ホス狂い”と呼ばれる女性たちがいる。月300万円以上も使うというホス狂いの多くは、風俗店で働いている。なぜ風俗店で働いてまで、ホストに貢ぐようになったのか。ライター・國友公司さんの著書『ルポ歌舞伎町』(彩図社)より紹介しよう――。(第2回)

■ホス狂い風俗嬢に人気の川崎・千葉エリア

ホスト業界において「エース」とは、ホストから見て自分に一番金を使ってくれる客を指す専門用語である。当然、ホストはエースの女の子をもっとも大切に扱うため、ホス狂いたちは競い合いながらエースを目指す。歌舞伎町にはじつに200店舗のホストクラブがある。各店舗の人気ホストたちそれぞれにエースがいるのだから、歌舞伎町には肩の温まったエースが何人もいることになる。

そのエースたちが一堂に集まる「A」というソープランドグループがある。パ・リーグで考えるならば、山本、千賀、髙橋光成、則本、佐々木朗希、上沢が一球団に集結しているようなものだ。球団の経営をかなり圧迫しそうではあるが、打者が小粒揃いだとしてもリーグ優勝間違いなしだ。

Aは川崎・千葉・大宮に店舗を持つ。大宮の店舗は激安を売りにしており、ホス狂いが集合しているのは川崎と千葉にあるソープランドだ。歌舞伎町でエースを張っている友人に「めっちゃ稼げるから一緒に行こーよー」と誘われ、キャバ嬢兼風俗嬢のアユもAのソープランドに在籍していたことがあった。

「歌舞伎町からだと川崎ってアクセスがかなりいいので、ホス狂いには川崎は人気なんです。千葉の店舗に行くときはみんな特急しおさいを使いがちです」

特急しおさいは東京―銚子を時速130キロで走り抜ける。本数は2~3時間に1本。わざわざ東京から千葉に向かうため、同店のソープ嬢たちは朝イチから出勤してガッツリ稼ぐ傾向にある。そのため、朝の特急しおさいの車内におけるホス狂い率はすこぶる高い。特急しおさいは男たちにひとときの夢を運ぶ列車なのである。

■待機室で発狂しつつも元気に働く女性たち

ホス狂いで溢れるAはどんな様子なのか。アユが語る。

「私はAの待機室を“ホス狂いグラチャン大会”って呼んでます。ただでさえ風俗の待機室はトラブルが多いんですから、グラチャン大会はもっとすごい。ホス狂い同士のマウントの取り合いでかなり殺伐としてますよ」

Aの場合、店で稼いだ額=ホストで使う額であるため、店のなかでは稼ぐ者だけが正義である。これはゆるぎない。またエースが集まるとはいえ、なかにはまだ“エース級”止まりの女の子もいる。

ホス狂いが待機室に集まればもちろん話題はホスト一択であるわけだが、稀に「ちょっと待って、アンタの担当ホスト、○○くんだよね?」と担当ホストが被る事態も発生し、その担当ホストも巻き込まれる形で修羅場に突入する。

Aで仲良くなったアユの別の友人は月に300万円を担当ホストに貢ぎ、売掛も2000万円あるという。頻繁に待機室で発狂していたものの、彼女はいまでも元気にAで働いているというが、額が額だけにそうはいかない子も当然出てくる。

■担当ホストが働くビルで飛び降りたい

Aに所属していた二十歳のあるホス狂いが、担当ホストを水揚げ(店を辞めさせてホストを経済的に養うこと)した。しかしそのホス狂いは過去に2000万円近いシャンパンタワーを注文しており、1500万円が売掛になっていた。さらにほかの売掛も積み重なっており、手に負えない状況になっていた。

売掛が払えなければ担当ホストの責任になる。つまり2人は支払いをはねて駆け落ちしていたということになる。まもなくAにホストクラブの人間たちが押し入り、彼女は連れていかれてしまった。その3カ月後にそのホス狂いは東新宿のマンションで飛び降り自殺をした。

ホスト客に声を掛ける無料案内所の男性
筆者撮影
ホスト客に声を掛ける無料案内所の男性 - 筆者撮影

歌舞伎町には飛び降り自殺が多発しているビルがいくつかある。その代表格が第6トーアビルだ。屋上に上がれるビルか否かがポイントになるわけだが、第6トーアビル(現在、屋上は封鎖)のように、ホストクラブが複数入居しているビルで自殺は多発するとアユは言う。

「恋のもつれでも金でも自殺の原因は担当ホストへの気持ちの強さであることに変わりはないので、死ぬなら担当ホストが働いているビルでって考える子は多いです」

たしかにその場合、担当ホストはその女の子のことを一生忘れることはないだろう。

■ホストとスカウトが結託しホス狂いを集める

Aにホス狂いが集まる理由はアクセスの良さだけではない。ホストクラブを経営している田口が言っていた「スカウトとホストの結託」が関係している。アユが話す。

「店にいるエースたちと話してたら、ホストと強いパイプで繋がっているスカウトグループがあることに気がついたんです」

そのスカウトグループはホストたちからホス狂いたちの情報をもらい、スカウトは彼女たちを意図的にAに入店させる。放っておいても鬼出勤するホス狂いたちを一カ所に集めることでA内での競争が激化し、女の子の単価は下がる。しかし客も集まれば薄利多売でも稼げるため、ホス狂いが店を辞めることはない。そして噂が噂を呼び、アユの友人のようにホス狂いが勝手に集まってくる。

スカウトグループは金が集まる“集金装置”を、Aを舞台にホストとホス狂いを使って作り上げたのだ。

■Twitterを使ったスカウト手法が確立された

スカウトたちは、どうやって女性を集めているのか。

暴力団関係者から暴行を受けていたことで話題になった「ナチュラル」は、歌舞伎町のスカウトグループのなかでも最大手である。SNSが社会に浸透するとともに、スカウトたちは路上でのスカウトからネットスカウトへ移行を図ったが、このネットスカウトの手法を確立したのがナチュラルであると、ナチュラルのスカウトを彼氏に持つキャバ嬢兼風俗嬢のアユが教えてくれた。

客引き同士の小競り合い
筆者撮影
客引き同士の小競り合い。「スカウト狩り」事件では、ナチュラルの男たちはボコボコにされてしまった - 筆者撮影

「キャバ嬢は顔出して表に出られるじゃないですか。インフルエンサーみたいになっている子もいますよね。そうなると口コミでその子のスカウトの名前も売れるんですけど、風俗の子は表に出れないですよね。だから、ナチュラルはTwitterを使って女の子を集め出したんです」

ネットスカウトと言っても、スカウトを名乗るアカウントが女性のアカウントに直接絡んでいくといった単純なものではない。Twitterには顔出しをしていない風俗嬢を名乗るアカウントが無数にある。「りりたん」とか「みおたん」など、個人を特定されないようなネーミングがほとんどだ。

ホストとの恋バナや客の愚痴など風俗嬢の日常をつづっており、フォロワーが6万人近いアカウントもある。そのようなアカウントのなかにはスカウトが担当している風俗嬢にバイトとして運営させているものがかなりの数交ざっている。

■月額1.5万円で風俗嬢アカウントを運営

また、リアルに風俗嬢が持っていた人気アカウントをスカウトがMAX10万円程度で買い取ることもある。買い取ったとしても実際にアカウントを運営するのはその風俗嬢だ。ツイートを全部消去してアカウント名もスカウトに変えるといったことはしない。

あくまでも「とある風俗嬢のアカウント」とフォロワーたちに思わせなくてはいけないのである。面倒になって辞めたというが、アユも1アカウントにつき月額1万5000円で4つのアカウントを同時に運営していた。そのなかにはより濃い情報を発信するために複数の風俗嬢でアカウントを共有しているものもあった。

國友公司『ルポ歌舞伎町』(彩図社)
國友公司『ルポ歌舞伎町』(彩図社)

「スカウトには“何も気にせずに自分のアカウントだと思ってつぶやけ”って言われていました。風俗嬢っぽいことを風俗嬢として普通にツイートしてればいい。それでお金もらえるならまったく苦じゃないのでみんなやるんです」「これはスカウトが風俗嬢に運営させているアカウントです」といくつかプロフィール画面を見せてもらったが、どう見ても風俗嬢の個人アカウントにしか見えない。実際にツイートしているのは風俗嬢本人なのだから当たり前だ。

やりすぎると怪しまれるので“いい感じに”ホストで豪遊する写真や稼いだ札束の写真など、稼いでいることをアピールするツイートを交ぜていく。某前澤氏のように金配りキャンペーンまでしているアカウントもある。するとフォロワーの風俗嬢たちから、「どこの店に行けばそんなに稼げるんですか?」とDMが来るというわけだ。

「どこの店かはちょっと言えませんが、私のスカウトさんならいい店を紹介してくれますよ」と返せば、あとはスカウトの思い通りである。むしろ、そのDMの返信すらスカウトが行っていることもある。

■整形している風俗嬢に運営を依頼することも

アユはTwitter経由でスカウトの案件が成立しても、バックはもらえなかったというが風俗嬢への成功報酬が発生しているアカウントもあるだろう。

さらに風俗求人のツイートを思い出したようにリツイートする。貼られたURLかLINEの友だち登録をするとスカウトに繋がる。しかし「風俗求人のリツイートが多すぎるアカウントは下手くそ。ナチュラルではないと思います」とアユは言う。自分から風俗求人をリツイートしてしまうのではなく、風俗嬢からDMが舞い込んでくるように仕向けないといけないのだ。

より戦略的なスカウトは、アカウントごとに性格を持たせているという。アユがアカウントの例を挙げてくれた。

・ホストに大金をつぎ込んでいるアカウント
・整形に金をつぎ込んでいるアカウント
・バンドマンを追っかけて貢いでいるアカウント
・ヒモの彼氏を養ってあげているアカウント
・男や整形には目もくれず、ただひたすらソープで愚直に稼ぎまくるアカウント

「整形に金をつぎ込んでいるアカウント」は、本当に整形に大金を使っている風俗嬢に運営してもらっている。「とうとう整形したよ~!」と、手術の内容がわかる写真をアップしていれば、まさかスカウトのアカウントだとは思わないだろう。「ただひたすらソープで愚直に稼ぎまくるアカウント」は玄人感があって個人的にはもっとも好きだ。なんだか応援したい気持ちになり、日々見守ってしまう。

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國友 公司(くにとも・こうじ)
ライター
1992年生まれ。筑波大学芸術専門学群在学中よりライター活動を始める。キナ臭いアルバイトと東南アジアでの沈没に時間を費やし7年間かけて大学を卒業。編集者を志すも就職活動をわずか3社で放り投げ、そのままフリーライターに。元ヤクザ、覚せい剤中毒者、殺人犯、生活保護受給者など、訳アリな人々との現地での交流を綴った著書『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)が、2018年の単行本刊行以来、文庫版も合わせて6万部を超えるロングセラーとなっている。そのほかの著書に『ルポ歌舞伎町』(彩図社)がある。

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(ライター 國友 公司)

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