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あなたは「日本中にある電信柱の数」を答えられるか…初対面の人に「地頭がいい」と思わせられる答え方

プレジデントオンライン / 2023年3月9日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gyro

「日本全国にある電信柱の数はどれぐらいですか?」と聞かれたとき、どう答えればいいのか。徳岡晃一郎、房広治『リスキリング超入門 DXより重要なビジネスパーソンの「戦略的学び直し」』(KADOKAWA)より一部を紹介しよう――。(第3回)

■人は言い伝えや過去の事実に影響されやすい

データサイエンスマインドとはデータをしっかり見て必要な分析ツールを使い、常識や認知バイアスにとらわれずに物事を判断していく姿勢です。本書ではサイエンスをベースに論理的な考え方をしていくマインドとしましょう。

そこで基本になるのが、まずデータで確かめるという習慣です。接した情報を数字で確かめる癖をつけてください。データの裏付けを取らないままに情報を鵜呑(うの)みにすると、認知バイアスに引きずられて誤った恐怖感を抱くかもしれません。

たとえば自動車事故と飛行機事故での死亡確率を考えたとき、なんとなく飛行機の方が危なそうに感じられます。しかし、統計の処理の仕方にもよりますが、ある期間の延べ移動距離に対する死者の比率を比較すると実際は逆だと言われています。前提や環境が全く違うにもかかわらず、言い伝えや過去の衝撃的な事実が、私たちの認知に影響してしまうことはよくあるのです。

またメディアもそれに引きずられる傾向がありますし、いい加減な発言をしている評論家や専門家や政治家にも騙(だま)されてしまいます。

■SNSが思考の偏りに拍車をかけている

「暴力的なゲームが影響して少年犯罪が増えている」「活字離れで読書をする人が減っている」「最近はキレる高齢者の比率が高まっている」など、わかりやすいが間違っている例としてよく挙げられます。

また「アリゾナ効果」といった一見もっともらしいが実は誤りというのもあります。アリゾナとはアメリカのアリゾナ州のことであり、有名なグランドキャニオンや砂漠が広がる乾燥した暖かい州ですが、その州では結核で死亡する人の数が非常に多くなっているのです。結核患者にとっては良い気侯のはずのアリゾナ州の結核死亡者数が他のもっと寒い州より多く、その統計だけを見ると「結核死亡者は乾換した暖かい地域に多い」といった結論を出しかねません。

これはもちろん間違いで、結核患者にとって気侯のよいアリゾナゆえに、結核療養所などが多く、死亡者も多くなっているだけです。サイエンスマインドとはこのように一見もっともらしいことを疑う心なのです。

最近ではSNSの利用が進んだ結果、「フィルターバブル」(レコメンデーションされるニュースや記事ばかり見ていて発想が固まってしまう)や「エコーチェンバー現象」(同じような考えの人同士が固まってSNSで共感しあうことで他のグループの意見を受け付けなかったり攻撃したりする)なども起きてきて、社会の分断に拍車をかけています。

■センセーショナルな見出しや数字で判断しない

これらもやはり事実を広くみてきちんと把握しない習慣によるものといえます。数字を確かめることで、事実をきちんと認識し、惑わされないことは、ネット社会でありかつ瞬時に判断が求められるスピード社会であるがゆえになおさら重要になっています。

同様に、統計学的な考え方も重要です。世の中にはいろいろな調査が出回っていますが、母集団や指標の取り方1つで異なる結果になる、という認識が必要です。

就職率や失業率、食料自給率、貧困率などを調べてみると、通常想定する定義とは違うことが多々あります。センセーショナルな見出しや数字だけで判断せず、定義にさかのぼる癖が大切です。また、調査結果の全体の総括だけではなく、個別の項目に目を向ける必要もあるでしょう。

例えば、スイスの国際経営開発研究所(IMD)では世界デジタル競争力ランキングを発表しており、その中で日本のランキングが低下していることが指摘されています。「日本は29位に低下」という情報だけでがっかりしたり諦めたりするのではなく、どのような分野でどのような評価手法が採用されているのかを調べてみると、具体的に何が弱いのかを掘り下げ、対策を考えることができます。

ちなみにこのIMDのランキングでは、デジタル技術の活用を知識、技術、未来への備えの3点から評価し、その下に9つのサブセクターと54の小項目が設けられています。エクササイズとして、実際の一次データを一度自分自身の目で確かめてください。

■プログラミングしない人でもAIの知識は必要

AIについても毛嫌いせずに学びましょう。これは、プログラミングのスキルを習得してください、と提案しているわけではありません。AIとは何か、どのように動くのか、といった基本的な理解を身につけるということです。AIの本質や機能を理解した上でなければ、AIを活用して何を実現したいのかという発想は生まれてきません。

このような分野に親しむこともデータサイエンスマインドを育むことにつながるでしょう。その意味では真剣にAIの勉強をする(または諦めて放棄してしまう)のではなく、仕組みを知ってどう活用するかを考えるのも立派なサイエンスマインドです。野口竜司氏の著書である『文系AI人材になる』(東洋経済新報社)は、プログラミングまでは薦めていませんが、活用方法を知ってアイデアを出していく勇気が生まれるのでおすすめです。

食わず嫌いせずに数字やデータに親しむこと、「本当かな?」と考えて根拠を探すことがデータサイエンスマインドの基本です。

「本当かな?」と思う癖は日々のニュースで鍛えられます。

■どうすれば論理思考を身につけられるのか

たとえば、「博士号を取得しても就職先がなくて日本の知識力や技術力の将来が危ぶまれる」という記事があったとき。確かにその通りだと思いますが、そこで「そうだそうだ」で終わってしまうのではなく、「でも成功した人もいるのでは? その人たちとの違いは? 博士課程以外に日本の知識力や技術力を鍛える方策は?」などと考えを広げてみてはどうでしょうか?

また「欧米は進んでいる」と対比される場合が多いですが、「欧米での課題はないのだろうか?」と疑問を持つことも事実を調べるきっかけになります。

論理思考(ロジカルシンキング)の手法としては、ピラミッドストラクチャー、MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive:漏れなくダブりなく)、フレームワーク思考の3つが代表的なものです。

いずれも論理分析的にものごとを区分けして考えていく筋道を示します。まずはこのような手法に親しみ、自分が何かの計画を立てる際に当てはめてみましょう。

批判的思考(クリティカルシンキング)も重要です。

何かの情報に接した時に、前提は何か、隠れている事実はないのかを批判的に考えていくことです。当たり前だと考えられるようなことでも、「なぜこの人はこういう発言をしているのだろう」「なぜこの制度は変わらないのだろう」と一度立ち止まって考える癖をつけてください。

■例題1:貴重なクロマグロを保全するためには?

論理思考や批判的思考を鍛えるのにもニュースが使えます。1つのやり方をご紹介しましょう。例えば次のような記事があったとします。読者のあなたはこの記事に対して、どんな質問を投げられますか?

質問とは、定義はなにか? どのように問題全体を把握し、どの部分の話をしているのか? 出ている数字以外はどうなっているのか? 対策はそれだけか? などの論理思考の3つの切り口を通して質問を作るのです。

「マグロのなかでも最高級のクロマグロは近年、太平洋でずっと減り続けている。この貴重な資源を守る国際機関の小委員会が、3歳以下の未成魚の漁獲量を来年は15%以上減らすことで合意した」

●質問例
・他の魚も同じようではないのか? マグロ以外は考えなくていいのか?
・近年とは? どのような変化が何年の間に起きているのか? その理由は?
・国際機関の小委員会の構成国は? どういう力関係や利害関係か?
・なぜ3歳以下の未成魚だけか? そもそも3歳以下とはどうやって測るのか?
・来年、15%以上減らすだけでいいのか? その根拠は? 今後は?

論理思考のエクササイズとして、フェルミ推定を実践するのも面白いでしょう。フェルミ推定とは、一見すると分からなさそう、調べられなさそうなことを論理的に推定してざっくりした答えを引き出そうとするものです。

マグロ
写真=iStock.com/urf
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/urf

■例題2:日本全国にある電信柱の数をどう試算する?

代表的なフェルミ推定の問いには、「日本全国にある電信柱の数は?」「全国で1年間に使用されるトイレットペーパーの数は?」といったものがよく挙げられます。グーグルが採用試験でつかったことで有名になりましたが、昨今では日本でも学生の就職活動の選考に取り入れられるようになっています。

では、フェルミ推定を使って「日本全国の電信柱の数」の答えをどのように論理的に導き出せるでしょうか。論理の筋道をご紹介しましょう。東京と大阪の間の距離は400~500kmぐらいと見積もれたとします。

そうすると東京から新潟の距離は300kmぐらいでしょうか。東京・大阪の距離から縦の長さ、東京・新潟の距離から横の長さを推定し、日本の全体の面積を長方形と見立てます。さて一方で、自分の住んでいる地域には自宅の周りを見渡すと100平方メートル当たりで何本ぐらいの電柱がありそうか考えます。さらに都会と田舎では面積当たりの数も当然違うでしょうから、田舎の100平方メートル当たりの本数をエイヤッと推定。

ざっくり日本全体に占める都会と田舎の比率、これもエイヤッと推定。ここまでくれば、もう計算できますね……このように推定を重ねていくと一見、難しくて分からなそうな問いにでも答えがおぼろげに見えてきます。

■正解の倍から半分の間にはまっていればOK

突き詰めて精緻(せいち)化した数字を出すこともサイエンス的には重要ですが、まったく予想もつかないことでも諦めずに、知的ファイティングスピリットを持って自分の頭で考えるという姿勢も大切になります。このようなフェルミ推定のエクササイズはサイエンスの地頭を鍛えていく訓練になり、やってみると大変楽しいです。

徳岡晃一郎、房広治『リスキリング超入門 DXより重要なビジネスパーソンの「戦略的学び直し」』(KADOKAWA)
徳岡晃一郎、房広治『リスキリング超入門 DXより重要なビジネスパーソンの「戦略的学び直し」』(KADOKAWA)

『地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」』(東洋経済新報社)や『「具体⇄抽象」トレーニング 思考力が飛躍的にアップする29問』(PHPビジネス新書)の著者でこの分野の第一人者であるコンサルタントの細谷功氏は、フェルミ推定は論理思考が重要であって、答えは気にしなくていい。正解の倍から半分の間にはまっていればいいので、諦めずにとにかく論理的に迫っていくことが大切だと指摘しています。

房はビジネスでまさにこのフェルミ推定を実践しました。「お金が完全にデジタル化された将来、世界中のすべての人がデジタル通貨を利用し、現物の紙幣やコインが存在しなくなります。その際、あらゆる通貨を個別に識別するために通し番号が必要になりますが、その通し番号はいくつ必要になるでしょうか」。これは房が実際に考えて自分なりの答えを導き出した問いです。みなさんならどのように考えて、どのような答えを引き出しますか?

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徳岡 晃一郎(とくおか・こういちろう)
「ライフシフト」CEO/多摩大学大学院教授・学長特別補佐
1957年生まれ。日産自動車で人事部門、オックスフォード大学留学、欧州日産などを経て、人事、企業変革、リーダーシップ開発などのコンサルティング・研修に従事。2006年より多摩大学大学院教授を兼務し研究科長などを歴任。17年にライフシフト社を創業しライフシフト大学を開校。『未来を構想し、現実を変えていく イノベーターシップ』(東洋経済新報社)、『人事異動』(新潮社)、『ミドルの対話型勉強法』(ダイヤモンド社)、『しがらみ経営』(共著、日本経済新聞出版社)など著書多数。

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房 広治(ふさ・こうじ)
「GVE」CEO/アストン大学サイバーセキュリティイノベーションセンター教授
1959年生まれ。英系インベストメントバンクS.G.Warburg社の元M&Aバンカー。インベストメントバンキング部門において97年に日本でナンバーワン。クレディ・スイスの立て直しにヘッドハンティングされ、2003年まで、DLJディレクトSFG証券(現楽天証券)の取締役。設立6年目の会社GVEは日本のユニコーン企業。現在、オックスフォード大学特別戦略アドバイザー(小児学部)も務めている。

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(「ライフシフト」CEO/多摩大学大学院教授・学長特別補佐 徳岡 晃一郎、「GVE」CEO/アストン大学サイバーセキュリティイノベーションセンター教授 房 広治)

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