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"生きる神様"大川隆法氏が死没…「幸福の科学」が禅譲失敗・空中分解で"50万人信者"にこれから起こること

プレジデントオンライン / 2023年3月6日 18時15分

幸福の科学東京正心館(写真=ハピペディア/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)

■“教祖”が没し、組織や50万人信者はどうなるのか

宗教法人「幸福の科学」の総裁、大川隆法氏が亡くなり、宗教界に衝撃が走っている。幸福の科学は世界各地におよそ1万もの支部、拠点を構え、国内には50万人程度(公称数は1100万人)の信者がいるといわれる。巨大新宗教のカリスマ教祖亡き後、組織はどうなるのか。戦後勃興した新宗教は、高齢化や二世問題などを抱え、その多くが厳しい組織運営を迫られている。大川氏の死去をきっかけにして、新宗教の勢力図が塗り替えられる可能性もありそうだ。

徳島県出身の大川氏は24歳で神の啓示を受け、自身が救世主「エル・カンターレ(地球の至高神)」であることを表明。勤務していた大手総合商社を退社すると、1986年に幸福の科学を設立した。

同教団の最大の特徴は、既存の宗教に依って立っていないところにある。例えば創価学会、立正佼成会、霊友会などは伝統仏教から派生した。1995年に地下鉄サリン事件をおこしたオウム真理教も仏教が根源にある。また、社会問題になっている旧統一教会やエホバの証人などはキリスト教をベースにし、大本やワールドメイトなどは神道からの派生型宗教である。

そうした多くの新宗教と比較すれば、幸福の科学は独自性が強い。幸福の科学はキリスト教やユダヤ教、イスラム教、日本神道の神々、あるいは仏教の諸仏を同一視している。そうした神々・諸仏などの信仰の対象をひとまとめにしたうえで、大川氏はエル・カンターレこそが救済の中心にいる、と定義した。

現在、わが国における新宗教教団は350ほど。人口の1割程度が、新宗教の信者であるとみられている。一部、反社会的な集団「カルト」が潜伏し、人権侵害や不法行為が指摘されている。宗教法人の認可を得ずに、サークルやセミナーと称して勧誘活動を続けるカルト集団も少なくない。

日本には、江戸時代からの檀家制度があり、「ムラ」や「イエ」の宗教が根強く残る。同時に、地域の神社の氏子であったりする。キリスト教は明治以降、布教を試みるものの、現在でも人口の1%程度に留まっているのは「ムラ・イエの宗教=仏教と神道」を切り崩すことができなかった証左といえる。

キリスト教は勢力拡大に失敗したのに、新宗教が勢力を伸ばせたのは、どういうことか。

それは、核家族化の広がりや、ときどきの精神世界ブームに乗じて、凄まじい布教力を推し進めていったからに他ならない。戦後はムラとイエから離れて都会で暮らす若者や、菩提寺をもたない次男以降の家族をターゲットにして、多くの新宗教が勃興した。それを牽引したのが、戦後の精神世界ブームであった。

精神世界ブームをざっと振り返ろう。大きく分けて4回の波があった。

■精神世界ブームで「幸福の科学」など新宗教が勃興した

1次ブームは、1970年代である。当時、「ノストラダムスの大予言」やUFOブームなどが沸き上がっていた。1979年にはオカルト雑誌「ムー」が創刊され、社会現象になった。テーブルを複数の知人で囲んで硬貨を動かしていく一種の降霊ゲーム「こっくりさん」が学校で流行ったのも、この頃である。

第2次ブームは1980年代から90年代初頭にかけて。テレビが成熟期を迎え、多くのバラエティ番組が登場した。そこで、主婦層や若年層を目当てにして、高視聴率を狙えるオカルト番組が人気を博した。丹波哲郎や宜保愛子ら「霊能者」が連日、ゴールデン番組に登場し、空前の精神世界ブームが巻き起こった。

第1・2次精神世界ブームを背景にして、多くの「新・新宗教」が登場した。長野県佐久市の農家から出た高橋信次氏が1969年に設立したGLAは、大教団へと成長。さらに、GLAの影響を受けたとされる大川隆法氏が、幸福の科学を設立した。

オウム真理教が勃興したのもこの頃。深見東州氏率いるワールドメイトの設立(1984年)も、この時期に重なる。ワールドメイトは近年、地下鉄広告や新聞広告を使ったユニークな宣伝活動が注目を集めている。こうした新・新宗教は神秘体験を求める、多くの若者に支持されていく。

いずれも、強烈な個性をもった教祖が、ぐいぐいと教団を引っ張っていくスタイルが特徴である。

しかし、1995年3月に起きた地下鉄サリン事件以降、一連のオウム真理教の犯罪が発覚。一転して、精神世界への警戒感が増していく。オウム事件は、その後の新宗教の活動に多大なるマイナスの影響を与えた。

たとえば、大規模集会が開催しにくくなったのだ。幸福の科学の源泉は、強いカリスマ性を持った大川氏が登壇する大規模集会にあったといえる。だが、オウム事件後はピタリと大規模集会が開かれなくなる。会場側が宗教団体を警戒し、貸し出さなくなったのが背景にあると考えられる。

幸福の科学は1995年までは東京ドームでの大規模集会を重ねていたが、同年の「エル・カンターレ祭」を最後にぴたりと開催されなくなった。他の新宗教も集会を自粛するムードが続いた。同時に社会の精神世界への関心も薄れていく。

2017年8月、東京ドームでひらかれた講演会
撮影=鵜飼秀徳
2017年8月、東京ドームでひらかれた講演会 - 撮影=鵜飼秀徳

再び精神世界ブーム(第3次)が訪れるのが、約10年後の2005年頃。テレビ番組「オーラの泉」が人気を博し、細木数子氏、美輪明宏氏、江原啓之氏らがブームを牽引した。幸福の科学は著名人の霊を降ろして大川氏らが語り下ろす「霊言」が有名だが、この第3次精神世界ブームあたりから、より積極的に霊言が行われていく。

2011年3月の東日本大震災は多大なる犠牲を出したが、結果的に人々の「死」にたいする関心を高めることに寄与した。東日本大震災後、被災地を中心に再び、新宗教が活動を活発化させていく。

この頃になれば、オウム事件からすでに20年が経過。事件を知らない若者が、新たな精神世界を希求し始めた。一時は絶滅していた「ヨガ」が、「健康ブーム」を背景にして復活。さらに近年はIT関連企業の経営者らが「マインドフルネス」を取り入れたことなどで、「オウムの悪夢」は払拭され、第4次精神世界ブームが到来した。

■禅譲失敗・空中分解する可能性もある

そうした中で再び、大川隆法氏が登壇する大集会が東京ドームで再開したのが2017年8月のことだった。当時、筆者も現場取材した。この講演会は、幸福の科学の出家信者で女優の清水富美加氏(千眼美子氏)のお披露目も兼ねていた。

大川氏の熱の入った演説と、信者5万人を埋める会場の熱気は凄まじいものがあった。約45分にわたる大川氏の演説は最初、静かに始まり、最後は絶叫調で締め括るのが特徴。会場はスタンディングオベーションで、感極まって泣いている信者もいた。同教団の信仰の力の大きさは、まだまだ健在であることを思い知った。

しかし、それもカリスマ教祖が健在であってこそ。幸福の科学は近年、後継者と目されていた長男宏洋氏らが教団を離脱。大川氏の元妻も教団から追放され、離婚するなど家庭内でのゴタゴタが続いていた。宗教教団にとって、内輪の混乱は組織を分断させ、求心力を失わせてしまうのが常だ。

今のところ、大川氏ほどのカリスマ性をもった指導者が同教団には見当たらないのも、同教団の今後の不安材料である。

新宗教全体に目を転じれば、取り巻く環境は既存宗教以上に厳しい。近年、新宗教が急激に信者数を減らしている。「諸教」にカテゴライズされている新宗教の場合、1995年の調査では1111万人いたのが、2022年には711万人にまで激減している(文化庁調べ)。戦後の新宗教設立ラッシュ時代に入信した信者が、高齢・死亡期に入っているのだ。そして、次代に継承できずにいる。

幸福の科学も然り。たとえば幸福の科学の政治団体「幸福実現党」の得票数は、教団の組織力のバロメーターだが、近年は低迷を続けている。2009年の総選挙では比例区の合計得票数は約46万票だったが、2017年では約29万票程度。得票率も衆参両選挙ともに、1%を大きく割り込むケースが増えている。

旧統一教会問題から端を発した「宗教二世問題」も、幸福の科学にとってはネガティブ要素。今後の教団運営に、少なからず影響していくと考えられる。

筆者が今後注目するのは、大川氏の葬儀がどのような形態・規模で行われるか。その流れで故大川氏を神格化させつつ、いかに後継者を選んでいくか。禅譲が失敗すれば、教団は空中分解することも十分、考えられる。「教祖急死」の混乱を収める組織力が、いまの幸福の科学にあるか、どうか。

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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)近著に『仏教の大東亜戦争』(文春新書)、『お寺の日本地図 名刹古刹でめぐる47都道府県』(文春新書)。浄土宗正覚寺住職、大正大学招聘教授、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。

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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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