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"ミックスルーツのかわいいランナー"と囃し立て…15歳ドルーリー朱瑛里選手をいたずらに消費するバカな大人

プレジデントオンライン / 2023年3月9日 14時15分

表彰式後に区間賞などのトロフィーを掲げる岡山のドルーリー朱瑛里=2023年1月15日、京都市体育館(写真=時事通信フォト)

1月の「都道府県対抗女子駅伝」での大活躍で新ヒロインとなった岡山のドルーリー朱瑛里選手(15)。スポーツライターの酒井政人さんは「メディアの過剰報道や一般人の無断撮影、SNSへの投稿により、成長を妨げている面がある。伸びしろのある若手アスリートを大人は静かに遠くから見守らなければならない」という――。

■軽薄なメディアが将来有望なアスリートを殺すのか

今年1月15日の「都道府県対抗女子駅伝」で新ヒロインが誕生した。岡山のドルーリー朱瑛里(しぇり)だ。津山市立鶴山中学3年生は中学生区間の3区(3km)を9分02秒で走破。17人抜きを演じると、区間記録を8秒塗り替えた。

ドルーリーはカナダ人の父と、日本人の母を持つ。腰高のフォームでスピード感あふれる走りに魅了されたファンは多いだろう。同駅伝大会はNHKで生中継されたこともあり、SNS上で一気に注目度がアップし、“トレンド入り”した。

その2週間後に開催された市町村対抗の「晴れの国 岡山駅伝」にはメディアやファンが殺到。そのため、さらに翌週の「BIWAKOクロカン・第8回全国中学生クロスカントリー大会」にもエントリーしていたが、直前に代理人弁護士を通じて「欠場」を表明すると、以下のコメントを発表した。

<陸上以外のことも大きく報道されて戸惑いました。私は可能な限り普通の生活をしながら陸上を続けていくことを希望しています>

一部の過熱報道や一般人による無断撮影、SNSへの投稿などに不安を抱いたことが理由のようだ。なぜドルーリーはここまで脚光を浴びることになったのだろうか。

日本のメディア、特にスポーツ紙や週刊誌、ワイドショー番組などは熱しやすく冷めやすい体質で、とかく大袈裟な表現でとりあげる傾向がある。注目の選手は部数や視聴率を稼げるということもあり、実力以上に持ち上げる悪い癖があるのだ。

ドルーリーは確かに陸上界に誕生したニューヒロインであり、先輩アスリートの中には「非の打ち所がない、中学生にして完成している」と評価する人もいる。だが、過熱報道が成長の妨げになってしまっては本末転倒だ。そこで、都道府県対抗女子駅伝後の報道の在り方を振り返ってみたい。

■ドルーリーの本当の実力

ドルーリーが陸上界で注目を浴び始めたのは2022年夏の全日本中学校選手権だ。1500m決勝でラスト1周から強烈なスパートを披露。後続を5秒以上も引き離して中学一に輝いた。

現在の中学生の中距離種目でその実力は図抜けている。2022年度に彼女が中学1位となったのは、400m(58秒06)、800m(2分09秒47)、1500m(4分22秒60)、3000m(9分20秒46)の4種目。素晴らしい実績だが、どの記録も中学歴代でみれば10傑には届いていない。現時点では過去に「天才少女」と騒がれた選手の走力には及ばない。

都道府県対抗女子駅伝の走りは圧巻だったが、メディアがここまで取り上げる必要があったとは思えない。ゴボウ抜きをしたといっても、38位から21位と下位から中位への順位変動だ。チーム(岡山)が上位入賞していれば別だが、優勝したのは大阪で、岡山は18位だった。

もっと大きな違和感を覚えたのは、市町村対抗の「晴れの国 岡山」駅伝の報道だ。ドルーリーは3区(3km)を走り、9分40秒をマークして区間賞・区間新記録。全国大会で優勝する実力者なら、この大会のようなローカルレースでダントツの結果を残すのは当然だろう。本来なら地元の人しか関心がない大会だが、ドルーリーを執拗に追いかけたメディアのおかげで全国的なニュースになった。

路上で走っている若いスポーティな見た目の女性。
写真=iStock.com/mbbirdy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mbbirdy

なんだか、オリンピックや世界陸上でメダルを獲得した後のようなフィーバーなのだ。その理由は、メディアにとってドルーリーの「容姿」が読者や視聴者の興味関心を引きそうだと考えたことにある。

■ビジュアル面での注目はアスリートを苦しめる

トリンドル玲奈、藤田ニコル、池田エライザ、滝沢カレン……。近年はミックスルーツの女性タレントが人気を集めている。ドルーリーもこのカテゴリーで脚光を浴びた部分が大きい。

もともとアスリートは競技力だけでなく、ビジュアル面を含めたタレント性も人気のバロメーターになる。例えば、ビーチバレーの浅尾美和、新体操の畠山愛理らは実力だけでなく、容姿で注目された。その絶大な人気は、競技の普及・認知度アップに大きく貢献した。

海辺の橋の上を走るフィットネスウーマンランナー
写真=iStock.com/lzf
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lzf

ただし、今回はドルーリー=中学生という大前提を忘れてはいけない。自分の努力が評価された結果、メディアでとりあげられればうれしいと感じるはずだが、競技とはまったく関係ない部分がクローズアップされるのは迷惑でしかないだろう。

筆者の知人で以前、「美女ランナー」と騒がれた元選手は「なぜここまで注目されるのかわからない」と複雑な心境を語った。本人としては実力以上にチヤホヤされるのはかえって迷惑で、競技に集中できなくなったという。

近年は、有名人であってもその容姿を第三者がイジることがタブーになりつつあるが、同時に褒めるのも控えるべきだという声がある。

誰もがスマホを持つ時代、気軽な気持ちでSNSへ画像や動画を投稿する人は多い。全国大会で活躍した女子中学生ランナーは注目を浴びたことで、多くのファンから“狙われる存在”になったのだ。自分の知らないところで、自分の画像が出回り、大人から容姿についてあれこれ言及されるのはいい気分はしないはずで、恐怖を感じてもおかしくない。

メディアは、あくまで記録に基づき本当に価値のあるパフォーマンスをしっかり評価するという役割を果たさなければならない。さもなければ、ドル―リーのような前途有望な若い選手をつぶしてしまうことになりかねない。

■どのようにして有望アスリートを守るのか?

それでは、どのようにして有望アスリートを守ればいいのか。

オリンピックなどを含めて、規模の大きなスポーツ大会では基本的に全選手が競技終了後、メディア取材が可能な「ミックスゾーン」を通過することになっている。そこで記者が選手に声をかけて、取材がスタートする。なかには記者の声を無視して、素通りしていく選手もいる。体調の問題もあり、取材に応じるかどうかは選手本人に委ねられることになるのだ。

外のジャーナリストとの女性の主要なインタビュー
写真=iStock.com/AleksandarGeorgiev
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AleksandarGeorgiev

過去に日本の陸上界で特別措置がとられたのは高校3年時の4月に男子100mで10秒01をマークした桐生祥秀くらいだろう。夏のインターハイでは桐生のみ日本陸連のスタッフが取材に対応。ミックスゾーンではなく、他の選手とは別のタイミングで取材時間が設けられた。大人の目があったこともあり、競技に関係のない突飛な質問が飛ぶことはなかったと記憶している。

ただ春から高校生になるドルーリーにそこまでの手厚い対応をするのはそぐわないかもしれない。特別措置により余計に目立ってしまう恐れがあるからだ。ミックスゾーンを通るようにしつつも、スタッフが目を光らせて、取材が長くなりそうな場合はうまく切り上げるなどの配慮をするといいのではないか。そして、ドルーリー側はミックスゾーン以外の取材はすべて断るようにすればいい。

規模の大きな大会取材は事前に申請が必要なケースが多い。ミックスゾーンに入れるのは大会側が取材を認めたメディアだけになる。取材できる場所をミックスゾーンに限定することで、競技以外のことを探ろうとするメディアを排除できるはずだ。

とはいえ、ファンなどによる写真や動画の撮影を食い止めるのは簡単ではない。近年、日本陸連はアスリートへの盗撮を問題視し、競技場で取り締まりを強化している。しかし、駅伝など公道を使うロード競技では対処しきれず、事実上、野放し状態になっている。

大会中の写真や動画の肖像権は主催者(社)に属していることが多いものの、個人の私的利用を目的とした場合はOKとしている。ネットやSNSに投稿して不特定多数が見られる状態にするのは肖像権の侵害に当たる可能性が高いとはいえ、厳しく取り締まっている主催者はほとんどない(大会・主催者によって異なる)。

当然、大会以外のプライベートで本人の許可なく、写真を撮るのは肖像権の侵害になる。アスリートが競技に集中できる環境を整備するために、ファンも「肖像権」についての初歩的なルールを守る必要があるだろう。

ドルーリーは高校でも陸上を続ける意向だ。一部メディアや心ないファンの行為で15歳の少女を苦しめたくない。日本の女子中距離界の新星として将来が非常に楽しみな選手だけに、大人たちが温かく遠くから見守ることが大切ではないだろうか。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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