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なぜGYAO!は終了するのか…「テレビの見逃し配信」がウリでは絶対に生き残れなかった理由

プレジデントオンライン / 2023年3月11日 13時15分

写真=「GYAO!」公式サイトより

■同じ見逃し配信の「TVer」は人気なのに…

動画配信サービス市場が風雲急を告げている。

国内勢大手の「U-NEXT(ユーネクスト)」と「Paravi(パラビ)」を運営する「プレミアム・プラットフォーム・ジャパン(PPJ)」が3月31日に経営統合し、7月をめどにサービスを統合することになった。

U-NEXTの公式サイトによると、統合すれば有料会員数370万人超、売上高800億円強、配信コンテンツ35万本以上という、国内勢の動画配信サービスでは最大規模のプラットフォームになる。

NTTドコモも、現行の「dTV」を4月12日に新サービス「Lemino(レミノ)」に移行し、従来の2倍近くとなる約18万本の作品(ドラマ、映画、スポーツ、音楽など)を月額990円で提供すると発表した。

また、民放各局が共同運営する番組配信サービス「TVer(ティーバー)」(2015年スタート)は、23年1月の月間訪問者数が2708万UB(ユニークブラウザー数、会員数は非公表)と過去最高を更新したと発表した。昨年から各局の同時配信が始まったこともあり、右肩上がりの成長を続けている。

一方、国内のネット業界を牽引する「Zホールディングス(ZHD)」(川邊健太郎社長)は、傘下の動画配信サービスの老舗「GYAO!(ギャオ)」を「将来性が見込めない」として3月末に店じまいすることを決定した。

同じ傘下の「LINE」のライブ配信サービス「LINE LIVE」と「LINE LIVE-VIEWING」も3月末でサービスを終了することを決めた。

統合するU-NEXTとParavi、新サービスに移行するdTV、成長を続けるTVer、サービスが終了するGYAO!と、明暗がはっきり分かれる形となった。

■優位に立つ海外勢、国内勢の統廃合は避けられない

動画配信サービスにとどまらず、動画ビジネス全体をみると、国内の市場は活況が続いている。

無料サービスでは、グーグル傘下の「YouTube(ユーチューブ)」が圧倒的なシェアを誇り、メタ(旧フェイスブック)傘下の写真・動画共有サービス「Instagram(インスタグラム)」や中国発の動画投稿サービス「TikTok(ティックトック)」が急速に台頭している。

サブスク(定額制)を中心とする有料サービスでは、「Amazon Prime Video(アマゾンプライムビデオ)」や「Netflix(ネットフリックス)」「Disney+(ディズニープラス)」が膨大な会員を集めている。

いずれも、豊富な資金力をバックにする“黒船組”だ。

苦戦を強いられる国内勢だが、“黒船組”に立ち向かうためには、合従連衡やサービスの統廃合による立て直しは不可避で、悠長に構えているわけにはいかず、年明けとともににわかに動き出したと言える。

■LINEと経営統合してもGYAO!は儲からない…

そんな中で、正念場に立たされているのがGYAO!を傘下に持つZHDだ。

「ヤフー」を源流にした持ち株会社として、19年10月の設立から3年半。21年3月には国内最大のSNS利用者をもつLINEと経営統合したが、2年も経たないうちに、傘下のヤフーおよびLINEと23年度中に合併すると発表した。

LINEと経営統合したものの、のっけからLINEの利用者情報が中国企業に閲覧される状態だったデータ管理不備問題が発覚し、つまずいた。このため、利用者の信頼回復に精力を奪われ、当初見込まれた相乗効果を十分に発揮できず、目立った成果を上げられずにいた。

当初の狙いだったヤフーとLINEの利用者IDの連携による顧客基盤の拡大はままならず、スマートフォン決済サービスの「PayPay」と「LINE Pay」のような重複するサービスの整理もほとんど手がついていない。

親会社のソフトバンクが、主力事業の携帯電話料金の大幅値下げで収益力が低下する中、ZHDが手がける非通信部門の拡大が期待されていただけに、ZHDの不振は痛手だった。

ZHDにとって目算が狂ったのは、収益面で主力のネット広告が大きく落ち込んだことだ。22年10~12月期の広告事業の売上高は前年同期比で1.2%のマイナスに転落してしまった。13.2%増だった前年同期に比べると、激減ぶりがわかる。

■YouTubeと同い年の老舗プラットフォーム

ネット広告の中で、とくに伸びているのは動画広告で、サイバーエージェントなどの調べによると、22年の市場規模は5601億円と、前年に比べ33%も増えた。このうち、スマホ向けが4621億円と8割超を占め、TikTokなどショート動画向けの広告需要が旺盛だったという。

ところが、動画事業の中核だったGYAO!の撤退に象徴されるように、ZHDの動画系サービスは低迷。増大する動画広告の需要を受け切れなかったようだ。

「GYAO!」公式サイトより、サービス終了のお知らせ
写真=「GYAO!」公式サイトより

GYAO!の歴史は古い。

創業は05年。有線で音楽配信を手がける「USEN(現USEN-NEXT HOLDINGS)が設立した「GyaO(ギャオ)」に始まる。「完全無料パソコンテレビ」がキャッチフレーズだった。

ちなみに、世界の動画ビジネスを牽引するYouTubeがサービスを始めたのも、同じ05年。世界最大の映像配信事業者であるネットフリックスのスタートは2年後の07年だ。

創業当時は、通信回線がまだ貧弱で、動画の視聴環境は決して快適とは言えなかった。このため、先進的な取り組みだったにもかかわらず、ビジネス面では苦戦が続いた。

09年には、USENの手を離れてヤフーの子会社となり、川邊健太郎氏がトップに就き、11年度にようやく単年度黒字を達成した。現在の社名GYAOに変わったのは、大幅増資でテコ入れを図った14年だ。

■なぜGYAO!は淘汰されることになったのか

それから10年。動画ビジネス市場は、大きく変容した。

GYAO!の媒体資料によると、22年4月の月間訪問者数は1280万UB、22年3月の月間再生回数は3億2000万ST(ストリーム数)を数え、有力な動画配信サービスとなっている。

最新の会員数(有料・無料いずれも)を公表していないが、日経新聞の報道によると、データ分析会社・ヴァリューズ(東京・港)の調査では、GYAO!の利用者数は382万人(22年12月、17年12月比で2.5倍)で、412万人(6.3倍)のネットフリックス、997万人(3倍)のアマゾンプライムビデオに大きく離されている。

そんなGYAO!のウリは、民放各局の「見逃し配信」だったのだが、民放各局が15年に自前の番組プラットフォームTVerを立ち上げ、ネット配信に注力するようになって、優位性が崩れてしまった。

「TVer」公式サイトより
写真=「TVer」公式サイトより

さらに、16年には、サイバーエージェントやテレビ朝日が運営するネットテレビ「ABEMA」が開局。22年になると、サッカーワールドカップの全試合を無料配信するという強力な独自コンテンツを送り出し、一挙に存在感を高めた。

オリジナルのコンテンツを次々に供給する“黒船組”の壁は厚く、進境著しい新興の国内勢から追い立てられて、独自色を出せないGYAO!の生き残りはますます厳しくなっていた。

パソコンサービスの成功に安住してスマホへの対応が遅れた親会社のヤフーに引きずられて、スマホへの取り組みが遅れたのも響いたようだ。

■「コンテンツが同じプラットフォームは2つもいらない」

そんなZHDが、GYAO!の終了を明らかにした直後の1月末、積年のライバルだったTVerと包括的な業務提携で基本合意したと発表した。

広告分析ソリューションの共同開発、販促における共同広告商品の開発、ZHDグループとTVerのサービスの複合企画の実施など、今後、具体策を検討していくという。

都内で開かれたイベントで、ヤフーの小澤隆生社長は「同じコンテンツを提供するプラットフォームは2つもいらない」と、GYAO!撤退に至る心境を語った。

民放の番組は、民放が運営するTVerで配信するのが本筋で、民放から預かった借り物のコンテンツを提供するGYAO!のビジネスモデルが早晩行き詰まるのは明らかだった。

そこには、“黒船組”と国内勢に挟まれて、もがくZHDの苦悩ぶりをみるようだった。

そして、GYAO!は、多くのユーザーを抱えているにもかかわらず、18年の歴史に幕を閉じることになったのである。

■スマホ特化型のショート動画に集約

ZHDが、GYAO!に代えて、動画サービスの開発資源を集約すると宣言したのが、スマホ向けに特化した縦型ショート動画共有サービス「LINE VOOM」だ。新たな挑戦である。

この分野では、TikTokが、数年前から10代や20代のユーザーを中心に人気を集め、またたく間に世界中に普及した。

その特徴は、スマホの縦長画面を生かして、手に持ったままフル画面で視聴できる縦型動画の形態にある。

FacebookやYouTubeなどSNSアプリのアイコンが並んだスマホの画面
写真=iStock.com/stnazkul
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/stnazkul

また、YouTubeなどに比べて動画が短尺のため、短い時間で気軽に利用できるのも大きい。

さらに、動画を作成してすぐに投稿できる仕掛けも広く受け入れられた。AIを活用して、利用者の好みに合わせて動画を提供するレコメンド(おすすめ)機能も秀逸とされる。

ただ、TikTokは、利用者情報の取り扱いをめぐって物議を醸し、米国や欧州各国は、中国政府が利用者の情報を不当に入手する恐れがあるとして、安全保障上の観点から警鐘を鳴らし続けている。

■「LINE版TikTok」は成功できるのか

川邊社長は「新しい動画サービスは、日本の個人情報保護法に則して、個人情報を利活用するので、安心して使ってほしい」と強調。「安全」と「安心」を訴えれば勝負できると踏んでいるようにみえる。

だが、同様の動画サービスは、インスタグラムなどでも広く提供されており、9000万ユーザーを抱えるLINEでも、割って入るのは容易ではない。利用者を引き付ける魅力的な仕掛けを用意できるかどうかは未知数だ。

動画ビジネスは、これからもさまざまなサービスが登場するとみられるだけに、熾烈(しれつ)なサバイバル戦が続きそうだ。

ZHDは、今後のネット事業の中核となるとみられる動画戦略の抜本的転換に踏み切ったが、展開の早いネット業界では、一つのつまずきが企業自体の存廃に関わる事態に発展するケースは少なくない。

ZHDの選択が結果を出せるかどうか。ZHDの行く末は、国内のネット業界に大きな影響を与えるに違いない。

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水野 泰志(みずの・やすし)
メディア激動研究所 代表
1955年生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。中日新聞社に入社し、東京新聞(中日新聞社東京本社)で、政治部、経済部、編集委員を通じ、主に政治、メディア、情報通信を担当。2005年愛知万博で万博協会情報通信部門総編集長。現在、一般社団法人メディア激動研究所代表。日本大学大学院新聞学研究科でウェブジャーナリズム論の講師。著書に『「ニュース」は生き残るか』(早稲田大学メディア文化研究所編、共著)など。

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(メディア激動研究所 代表 水野 泰志)

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