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むしろ「DH大谷翔平」がリスクになる…WBCで日本代表が優勝するとは思えないこれだけの理由

プレジデントオンライン / 2023年3月8日 18時15分

2023年1月6日、ワールド・ベースボール・クラシック大会に向けた記者会見で握手するロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手(左)と野球日本代表の栗山英樹監督 - 写真=AFP/時事通信フォト

3月8日に野球の国際大会WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)が開幕する。スポーツライターの広尾晃さんは「日本代表には複数の弱点があり、過去最高のレベルとなる今大会で優勝するのはかなり難しいのではないか」という――。

■ベストメンバー=「WBC優勝」にはならない

第5回WBCは、開幕前から連日、メディアで大きなニュースとして取り上げられている。前景気は上々だ。

今年の日本代表、侍ジャパンは「史上最強」といわれている。ダルビッシュ有(パドレス)、大谷翔平(エンゼルス)とMLBでもトップクラスのメジャーリーガーが参戦しているうえに、令和初の三冠王の村上宗隆(ヤクルト)、同じく令和初のパーフェクト投手の佐々木朗希(ロッテ)、2年連続沢村賞の山本由伸(オリックス)、パの本塁打王の山川穂高(西武)と、投打で屈指の実績がある選手が参戦しているからだ。

これまではさまざまな事情で、参加できないトップ選手がいたが、MLBでも期待株のラーズ・ヌートバー(カーディナルス)も参加。今、日本でそろえることができるベストメンバーになったといえるだろう。2017年以来、6年ぶりのWBCは「満を持して、世界一奪還」と、チームもファンも思うのは当然だとは思う。

しかしながら筆者は全く楽観していない。これまでの大会とチームの陣容が違うのは、日本だけではないからだ。

■メジャーリーグのスーパースターが参戦

最大のポイントは「MLBがWBCへの選手参加のハードルを下げたこと」だ。前回大会までもスター選手が何人かは参加していたが、特に投手は肩肘の故障を恐れてなかなか参加を認めなかった。

MLBのトップクラスの投手は、日本円で複数年計100億円前後の超大型契約を結んでいる。いわば球団の資産だ。その資産が、ペナントレースとは関係のない国際大会でケガすることがあっては困る、とオーナーたちは考えていたのだ。

しかし6年間のブランクを経た今年は、マイク・トラウトなどMLBを代表するスター選手がWBC出場に意欲を見せ、経営者もコロナ禍で観客数が激減する中、新たな市場開拓へ向けて前向きになったのだ。

だから日本にダルビッシュ有、大谷翔平の参加が許されたように、アメリカにはMVP3回のマイク・トラウト(エンゼルス)、昨年ナ・リーグMVPのポール・ゴールドシュミット(カーディナルス)、15勝投手のローガン・ウェブ、ワールドシリーズで優勝したアストロズのクローザーのライアン・プレスリーなど投打の一線級が参加する。

■各国で「ダルビッシュ、大谷」級の大物が参戦

それ以上に評価が高いのが、ドミニカ共和国だ。昨年ナ・リーグのサイヤング賞投手のサンディ・アルカンタラ(マーリンズ)、一線級先発のクリスチャン・ハビエル(アストロズ)、オールスター6回選出の名内野手マニー・マチャド、昨年新人王のフリオ・ロドリゲス(マリナーズ)などが出場予定だ。

ベネズエラやプエルトリコからも精鋭が出場する。つまり日本だけでなく、アメリカやMLBに有力選手を輩出している国では、「ダルビッシュ、大谷級」の大物が参加している。

つまり今回は各国ともこれまでとは異なる「本気モード」なのだ。

MLB首位打者3回の「小さな大打者」ホセ・アルトゥーベはベネズエラ代表として出場予定
MLB首位打者3回の「小さな大打者」ホセ・アルトゥーベはベネズエラ代表として出場予定(写真=Jeffrey Hayes/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

■1次リーグ突破は楽勝とはいえない

しかし、こうしたアメリカ大陸の強力なライバルに相まみえるアメリカ、フロリダでの決勝ラウンドに進出する以前の問題として、日本代表にはいくつかの不安要素がある。

日本代表はWBC第1回、第2回大会あわせて韓国と合計8試合も戦ったが、初戦では苦戦した。ただ、相手のデータが蓄積するとともにしのぎ勝つようになった。

【図表】WBCにおける日韓戦の結果

こうした粘り強さは日本の強みではあるが、逆に言えば「未知の相手に弱い」ということにもなる。いけいけどんどんで挑んでくる初顔には苦戦する可能性もある。

さらにWBC独自のルールが侍ジャパンを苦しめそうだ。

縫い目が高くて不ぞろいのWBC公認球には、松井裕樹、宮城大弥らが適応に苦しんでいる。

今大会では、MLBと同様「ワンポイントリリーフ」(1人の打者のみ抑えることを目的として起用する救援投手)が禁止されている。中継ぎ投手が登板した際は、3人の打者と対戦するか、チェンジになるまで投げなければならない。NPBにはないルールで、たとえ打たれてもすぐに交代できないので、救援投手が立ち往生する事態もあろう。

延長11回以降で実施される「タイブレーク」にも不慣れだ。メジャーでは採用済みだが、NPB選手はほとんど経験していない。

■DHで大谷翔平を起用するリスク

陣容でいえば、大谷翔平が「DH」に座り続けることで、守備が得意とはいえない選手が守り続けることもリスクといえる。左翼を守る予定のレッドソックスの吉田正尚の肩は不安材料だ。山川穂高も本来ならDH兼用で使いたいところだ。

さらに、中堅手の本職がいないことも気になる。鈴木誠也(カブス)の代わりに召集された牧原大成は昨年中堅を64試合守っているが、ユーティリティーで、本職ではない。

「接戦」になって、このあたりの「弱み」が露呈する可能性は否定できない。ゆえに、東京ドームで行われる1次ラウンドといえども、決して楽な道のりではないのだ。

■1次ラウンド最大の山場は3月10日

1次ラウンド「プールB」は、日本、中国、韓国、チェコ共和国、オーストラリアの5カ国。このうち2カ国が準々決勝に進出する。

プールA,Bともに上位2チームが勝ちぬけ
画像=WBC公式HPより

中国は、2019年に再開された国内リーグの選手が中心。中軸は昨年までソフトバンクでプレーした真砂勇介が座るが、日本とは相当な実力差がある。

筆者は鹿児島で社会人と対戦した中国代表を見たが、ブルペンでは「動画はとらないでほしい」と言われた。投手陣には最速160km/h近い剛速球を投げる秘密兵器のアラン・カーター(エンゼルスマイナー)がいるのだ。

日本戦にぶつけてくるだろうが、データの無い投手に攻めあぐむかもしれない。打者はストライクをどんどん振ってくる。その積極性は侮れない。

韓国の顔ぶれはベテラン中心で、新鮮味がない。現役メジャーリーガーは、内野手トミー・エドマン(カーディナルス)、金河成(キム・ハソン、パドレス)の2人だけだ。ただ韓国球界最大のスター、外野手の李政厚(イ・ジョンフ、キウム)は、日本に来てからも好調で阪神、オリックスから3安打を放った。

韓国は日本戦になると、実力以上に奮戦する。

WBCでの対日本戦成績は通算4勝4敗。過去の傾向を見てもローテーションを無視してエース級、特に日本が比較的苦手とする左腕投手をぶつけてくるだろう。何が何でも出塁とばかりに食らいつく打者も手ごわい。

■チェコの中心選手は、現役消防士

チェコは国内リーグ中心。投手兼内野手のマーティン・シュナイダーは、普段は消防士。「日曜野球」のような牧歌的なチームだが、ヨーロッパ予選で強豪スペインを破っての進出。

19歳のミハル・コバラ、アメリカの大学でプレーするダニエル・パディサクと最速150km/hの投手もいる。初出場だから無欲無心でぶつかってくる。2月に入って、アスレチックスなどで活躍し、現在FAのエリック・ソガードの参加が発表された。人気のあったユーティリティー選手だ。

■「勝って当たり前」というプレッシャー

筆者は東京府中市でキャンプを張るオーストラリア代表チームと社会人の練習試合を見た。相変わらず楽しそうに野球をして走者が出ても進めずに併殺の山を築いていた。おおらかな野球ではある。

しかし、オーストラリアは前回大会の第1ラウンドで、先発の菅野智之(巨人)からデ・サンミゲルが2回に先制本塁打を打ち、日本に冷や汗をかかせたことを忘れてはいけない。

侍ジャパンは直前の強化試合でも、重いプレッシャーを感じながらプレーしている印象があった。第1ラウンドは実力だけで見れば「勝ち抜け当確」だが、試合は水物だ。先制を許し追いかける展開になれば、凡退を繰り返し相手に金星を与える恐れもあるだろう。

■準々決勝で最も当たりたくない相手

これに続く準々決勝ラウンドは、台湾で行われる「プールA」の上位2カ国との対戦。主催国台湾、オランダ、キューバが有望とされる。

A組最強はキューバと目される。オランダと、地の利のある台湾がこれに次ぐ。

キューバは長くアマチュア野球世界一を誇ったが、選手のアメリカ亡命が相次いだために、代表の戦力は低下した。しかし今大会ではジョアン・モンカダ、ルイス・ロバート(ともにホワイトソックス)と亡命したメジャーリーガーも招聘(しょうへい)。歴史的な雪解けといわれている。

キューバのアリーナ
写真=iStock.com/BethWolff43
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BethWolff43

また、昨年までソフトバンクの中軸打者だったジュリスベル・グラシアル、アルフレド・デスパイネもいる。

投手陣は、去年のNPBセーブ王ライデル・マルティネス、最優秀中継ぎ投手ジャリエル・ロドリゲス(ともに中日)、ソフトバンクのリリーフエース、リバン・モイネロとセ・パ両リーグを代表する救援投手が参加している。

準々決勝はA組1位とB組2位、A組2位とB組1位が当たる。日本はできればB組を1位通過してキューバ以外と対戦したいところだ。

韓国同様、台湾は日本戦には、眦(まなじり)を決して向かってくるだろう。台湾の主力は西武の野手・呉念庭(ウー・ネンティン)、楽天の投手・宋家豪(ソン・チャーホウ)、日本ハムの野手・王柏融(ワン・ボーロン)とNPB選手。勝手知ったる強みもある。日本は2013年第3回大会では、台湾相手に苦戦し延長10回の挙げ句、なんとか4-3で下した。

オランダもヤクルト時代にNPBのシーズン本塁打記録60本を記録し、一昨年までソフトバンクにいたウラディミール・バレンティンが中軸、パドレスでダルビッシュの同僚で、オールスターに3度出場したザンダー・ボガーツもいるなど打線は強力だ。

■ベスト4の可能性は50%

決勝ラウンドの舞台であるアメリカ、ローンデポ・パークので待ち受けるのは、順当に行けば、「プールC」のアメリカと「プールD」のドミニカ共和国だろう。

準々決勝から負けたら即終了のノックアウトステージ
画像=WBC公式HPより

両国ともにMLBトップ選手の選出比率がかつてなく高い。過去2大会、日本はMLB選手主体のプエルトリコ、アメリカに決勝ラウンドで敗退している。「世界一奪還」というが、そびえる頂は果てしなく険しいのだ。

日本のマスコミは日本がアメリカの決勝ラウンドまで進んで栄光をつかむストーリーを描いているが、準々決勝以降は負けたら終わりのノックアウト方式だ。

筆者は、プールA通過の可能性は80%と思うが、決勝ラウンドに進めるかどうかは五分五分、さらにその先は極めて厳しいと思う。

あまりに悲観的に思われるかもしれないが、それだけ厳しいからこそ、挑戦のしがいもあるというものだ。日本にアメリカから野球が到来して151年目、総決算のつもりで戦ってほしい。

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広尾 晃(ひろお・こう)
スポーツライター
1959年、大阪府生まれ。広告制作会社、旅行雑誌編集長などを経てフリーライターに。著書に『巨人軍の巨人 馬場正平』、『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』(共にイースト・プレス)などがある。

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(スポーツライター 広尾 晃)

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