長距離ドライブでは「大人用オムツ」を履く…和田秀樹が「外出を我慢するよりオムツを使え」と力説するワケ
プレジデントオンライン / 2023年3月14日 10時15分
※本稿は、和田秀樹『90歳の幸福論』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
■日本の高齢者は他人に頼らなさすぎる
日本人は、「他人に迷惑をかけてはいけない」という信条を、非常に強く持つ民族だと思います。特に、年齢を重ねるほど、その傾向は強くなるように感じます。
「自分のような年寄りが派手なことをして、人に笑われてはいけない」「ケガや病気をして、家族や周囲に迷惑をかけてはいけない」という思いが強すぎるがゆえに、自分の行動をセーブしてしまいます。
ただ、私はこの「他人に迷惑をかけてはいけない」という思想を捨て、上手に他人や文明の利器に頼ることこそが、幸福な90代を過ごす大切なポイントだと感じています。
急に足腰が悪くなる。意欲がなくなる。眠れなくなる。認知機能がおぼつかなくなる……など、高齢者の人生には様々な障害が現れます。その障害は人によって全く違うし、現れる頻度も違います。
■老化をネガティブにとらえ、さらに老いる悪循環
大切なのは、新たに現れた障害を乗り越えるための手段を探すことです。「もう年寄りだから」と諦めてはいけません。
便利な道具を使ったり、誰かに手伝ってもらったりすることで、老化における障害を上手に乗り越えられる人こそが、老化にうまく対応できる人だと私は思います。
長年、数多くの高齢の患者さんを診てきた身からすると、その障害を上手に乗り越えられる人ほど、いくつになっても元気で意欲的ですし、重い要介護状態にもなりにくい。日々やりたいことを楽しんでいるし、家族や友人とも良好な関係を築いているように思います。
逆に、老化にうまく対応できず、老いることをネガティブにとらえてしまうと、どんどん気力も落ちていきます。毎日のように自分の体の不満を並べたり、周囲の人の愚痴を言ったり。そんな日々を送っていては、行動する意欲はもちろん、身体的、認知的な機能も落ちてしまいます。
また、この状態になると、心がかたくなになってしまうのか、他人のアドバイスや福祉サービスなどもあまり受け入れなくなり、ますます行動しづらくなります。行動しなければ、老化も早まってしまい、「この年齢なのに、もうこんなに老け込んでしまったのか」と思うような方もなかにはいらっしゃいます。
どちらのほうが幸せそうかといえば、積極的に老化で起こる障害に対処して、意欲的に動いている人のほうが楽しそうに見えますし、自分自身もそんな高齢者になりたいと思います。
■便利な道具で行動のハードルを下げよう
幸せな高齢者になるためには、「意欲を持って行動すること」。
それが本書における最大のテーマです。
ただ、「意欲を持って行動すること」の大きな障害となるのが「面倒くさい」「厄介」という気持ちです。機能が衰えた状態を放置していると、行動も制限されてしまいます。
だからこそ、いつでも自分が心理的、身体的負担がなく行動できる環境を整えるために、あらゆる手段に頼って行動のハードルを下げておくことが大切なのです。
世の中には、高齢者にとって便利な道具がたくさんあります。
![補聴器と老眼鏡](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/3/1200wm/img_f305a5386d9ef6d8c3d5f0abbfc84645432909.jpg)
老眼鏡や補聴器などはその最たるものでしょう。以前は、「年寄りくさくて嫌だ」と拒む人も多かったのですが、最近は性能がよく、見た目もオシャレなものが増えています。
誰にでも老化現象は平等に訪れます。老化現象が起こって、日常生活になんらかの支障をきたすのであれば、対策を立てればいいだけです。
■私が大人用のオムツを使い始めた事情
私自身が最近、真剣に導入を考えているのがオムツです。
私は2年ほど前に心不全を患ったため、現在、心臓への負担を減らすために利尿剤を飲んでいます。そのため、トイレに行く回数が増えた上、以前ほど尿意をコントロールできなくなりました。
日常生活の中ではトイレの回数が多くてもさほど困ることはありませんが、車の運転をしているときに尿意に襲われるとつい焦ってしまいます。高速道路などに一度入ってしまうと、なかなかトイレは見つからないので、「いまこのタイミングに尿意が訪れたらどうしようか」とヒヤヒヤの連続です。
時には運転に集中できないほどの尿意に襲われることがあり、「危ないな」と感じることもあります。
そこで、対策方法として思いついたのが、大人用のオムツを活用することです。実際、長距離のドライブのときは使っています。
最初は、「オムツをするなんていかにも年寄りになったみたいで嫌だ」と思っていたのですが、いざ最初の抵抗感さえ飛び越えてしまえば、あとは快適に過ごせるものです。
■おもらしへの抵抗感>オムツへの抵抗感
大人がオムツをするのは、寝たきりになったときという印象が強いせいか、自分からオムツをつけることに抵抗感を抱く人も多いでしょう。
ただ、「漏らしてしまうかもしれない……」と緊張しながら日々を過ごすよりは、こうした高齢者向けの便利な道具を導入することで、心理的に安心を確保するほうが暮らしやすいと私は思います。実際、私と同じように頻繁に尿意に悩まされている患者さんが、オムツをつけるようになったことで、「精神的に楽になった」とおっしゃることが多いです。
特に、日本人は清潔に対する意識が高いので、おもらしをすることに強い抵抗感があります。それゆえ、高齢者がおもらししてしまった場合、周囲も過敏に反応しますし、本人も強い羞恥心(しゅうちしん)を感じて、「失敗してしまった……」と落ち込んでしまいます。それがきっかけになって、人前に出ることをやめてしまう人もいます。
「オムツなんて使いたくない」という心の枷(かせ)をはずして導入してみると、「あれ、意外と便利だな」と気が付くはずです。
■「もっと楽にできる方法」で老化を乗り越える
また、大人用のオムツというと、大きなオムツを想像される方が多いかもしれませんが、最近はショーツのように下着とあまり変わらない「リハビリパンツ」と呼ばれるようなオムツもあります。
超高齢社会ゆえに、便利な道具はどんどん増えています。世の中にある様々な便利な道具を利用するだけで、自分の体に起こった老化現象を乗り越えることができるのです。
オムツ、補聴器、老眼鏡などといった文明の利器をぜひ存分に使って、意欲の障害となるものをどんどん取り除いていきましょう。
何か自分にとって面倒なことが発生したら、もっと楽にできる方法はないかと考える癖を身につけてください。何かのツールに頼ったり、お金がかかったり、誰かの介護の手を借りるとしても、意欲を持ってやりたいことを実行するのが幸せな90代になるための秘訣(ひけつ)です。
■「耳が遠くなった」は放置してはいけない
衰えたにもかかわらず、「放置しておくとまずい機能」もいくつか存在します。
たとえば、2017年に開催された国際アルツハイマー病会議での発表によれば、認知症になりやすいリスク要因の1位は難聴でした。このデータによると、認知症患者の9%が、難聴の影響で認知症を発症したと考えられています。
つまり、耳が遠くなってしまったときに、「耳が遠いけど、まぁいいか」と言ってそのまま対策を取らないと、認知症が進みやすくなってしまうのです。
おそらくですが補聴器を使わないと、耳から情報が入らずに脳へ刺激が伝わらなくなり、認知症になりやすくなるのだと思います。ですから、「補聴器はかっこ悪いから使いたくない」といって難聴を放置すると、気付けば認知症リスクまで高めてしまうのです。
![和田秀樹『90歳の幸福論』(扶桑社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/f/1200wm/img_3fb2ad815750ae62cce8e6d75f2fbb72178267.jpg)
他人との会話や映画や音楽などのメディアも楽しめなくなる上、認知症になってしまっては、残りの人生がもったいない。ここは、ぜひ心のハードルを下げて、ちょっとでも耳が遠くなったら、補聴器を導入することを、迷わず検討してほしいと思います。
余談ですが、そのほかに放置しておくと認知症を招く意外な病気が、歯周病です。歯周病菌が認知症の要因となる脳内物質のアミロイドβの生育を促進するといわれています。そして、それ以上によく噛んで食べることが認知症の入り口を遠ざけるのでしょう。
歯は健康やQOL(人生の質)に大きく関連するパーツだからこそ、そのケアはぜひ念入りに行ってほしいところです。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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