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子育てを手伝ったことしかない年配政治家たちはまったく知らない…小児科医が語る「育休の現実」

プレジデントオンライン / 2023年3月14日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maruco

1月末、岸田首相が参議院本会議で育休中のリスキリングを推奨したとされ、大炎上した。小児科医の森戸やすみさんは「女性の場合は妊娠経過が順調で出産にも大きな問題がなく、産後は体が順調に回復し、産後うつにもならず、たまたま我が子の健康・発達に問題がなく、周囲のサポートが得られる状況があって初めてリスキリングが可能になるでしょう」という――。

■参議院本会議の答弁の流れはどうだったか

2023年1月27日の参議院本会議で、岸田文雄首相が代表質問に対して「育児中などさまざまな状況にあっても、主体的に学び直しに取り組む方々をしっかりと後押しします」とリスキリングを推奨した結果、「炎上」しました。「育休は休暇ではないんだから、学び直しをする時間なんかない」「現実の育児を知らないから、そんなことを言っているのだ」という意見があふれ、それがニュースにもなったのです。

最近よく見かけるようになった、この「リスキリング」という言葉ですが、2022年10月に岸田首相が所信表明演説で「リスキリングに5年間で総額1兆円を投じる」と話したときには、あまり話題になりませんでした。SNSでは「リスをどうにかするのかと思った」という投稿を見かけましたが、「リ」は再び、「スキル」は技術という意味なので、再び技術を磨くという意味です。

1月27日の参議院本会議の答弁をきちんと確認すると、代表質問で自民党の大家敏志参議院議員が「この間(産休・育休中)にリスキリングによって、一定のスキルを身に付けたり、学位を取ったりする方々を支援できれば、子育てしながらもキャリアの停滞を最小限にしたり、逆にキャリアアップが可能になることも考えられる」ので「大胆なこども政策を検討する中で、たとえば、リスキリングと産休・育休を結び付けて、支援を行う企業に対して、国が支援を行うなど」はどうかと総理の考えを聞きました。その返答として、総理が冒頭の発言をした結果、炎上したのです。

■自分で子育てをしたとは思えない年配政治家

これだけを見ると、どちらかというとおかしいのは「大胆なこども政策」と「産休・育休中のリスキリング」を結び付けた大家参議院議員で、総理の回答は子育て中でも、子育て中でなくても「誰もがリスキリングできるよう支援する」という主旨でしょうから、妥当ではないかと思いました。

ただ、その後、1月30日に岸田首相は「私自身も3人の子どもの親。子育てが経済的、時間的、精神的に大変だということを目の当たりにしたし、経験もした。発言で申し上げたのは、ライフステージのあらゆる場面で学び直しに取り組もうとするとき、本人が希望した場合に後押しできる環境整備を強化するのが大事だという趣旨で申し上げた」と釈明。しかし、実際には総理は東京にいることが多く、夫人が地元で子育てされたそうで、さらに批判が加熱。火に油を注ぐ結果になりました。多くの男性議員は、政策や発言を見ても、子育て経験があるようには思えません。

首相に対して「3人のお子さんの育児をしたとおっしゃいますが、単身赴任から帰ったときだけ手伝うのは育児ではないでしょう。一人で育児に追われる女性も少なくないんですよ」と伝えたくなる気持ちはわかります。育児の負担は、まだ女性に偏っていることが多いのです。

■産休・育休中のリスキリングはなかなか難しい

もちろん「ちゃんと育児をしていたら、リスキリングに割く時間なんかないはず」ではないし、「子育てしながら学ぶ人は、子供に対して手を抜いている」というわけではありません。国が力を入れる以前から、産休・育休中に学び直しをしたり、資格を取得した女性・男性はいたし、今もいるでしょう。

でも、特に女性の場合は妊娠経過が順調で体調がよく、出産にも大きな問題がなく、産後は体が順調に回復し、産後うつにもならなくて……といった数々の条件をクリアできた場合に限られます。また女性でも男性でも、たまたま我が子の健康・発達に問題がなく、周囲のサポートが得られるといった状況があって初めてリスキリングが可能になるでしょう。それでも子育ては手間がかかりますから、この時期のリスキリングには本人の大変な努力が必要になります。

産休は、出産のために必要な休業制度です。育休は、育児に時間も手間もかかるからこその休業制度であって、単なる休暇ではありません。赤ちゃんは1日に何度も母乳や育児用ミルクを飲み、おむつ替えも必要で、よく泣きます。ずっといい子に寝ていてくれることは、きわめてまれです。

自宅で仕事をする父親と赤ちゃん
写真=iStock.com/kohei_hara
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara

■「育休」に「育業」という愛称がついた理由

2022年6月、東京都が育休に「育業」という愛称を設けました。育児休業は、育休という短縮の仕方だと「育児休暇」だと思われたり、「仕事を休む期間」と捉えられがちです。でも、本当の育休は「子どもを育てる期間」。小池都知事は「業」には「仕事」や「努力して成し遂げること」という意味があり、「育児という未来を担う子どもを育てる大切で尊い仕事」にぴったりだと説明していました。当事者や周囲の育休に対するマインドセットを変えようとしているんですね。

「育業」の呼称は、サイボウズ社長の青野慶久氏、ワーク・ライフバランス社長の小室淑恵氏、元衆議院議員の金子恵美氏らが選考委員となり、小池百合子都知事と共に公募の中から決めたとのことです。その選考委員会は9人のうち5人が女性で、男性ばかりの内閣よりも、東京都のほうが子育て支援についてリアルな提案ができそうな感じがします。

今回、岸田首相や内閣が批判を受けたのは、これまで自民党が「3世代同居」「3年抱っこし放題」「子連れ出勤」などの効果のない少子化対策を掲げてきたからでしょう。さらに、2月21日には木原官房副長官が、子ども予算は出生率が上がれば倍増すると話しました。少子化対策のために子ども予算を増やすという話ではなかったのでしょうか。22日には岸田首相が現在GDP2%の子ども予算を倍増すると述べた件を修正しています。「本当はやる気がないのを隠さない」という意味での異次元の少子化対策です。

■おかしな民間の資格ビジネスには要注意

一方、現状では出産・育児によって、キャリアを中断せざるを得ない女性は多く、また男性も育休を取った後に職場で冷遇されたり、退職に追い込まれたりという話をニュース番組やネットの記事で見かけます。育休取得者が不利にならないような法の整備も必要ですが、他方で自分と家族を守るために新たなスキルを身に付ける、資格を取るということも大事でしょう。

また、せっかく頑張ってリスキリングするなら、国家資格、語学など本当にスキルアップにつながるものを選ぶようにしてください。わざわざこのように書くのは、子育て中の人を狙うおかしな民間資格がたくさんあるからです。

例えば、次のようなものです。○○ソムリエ、○○マイスター、○○療法士、セラピスト、インストラクター、カウンセラー、アドバイザー、コーディネーター、鑑定士、デザイナー……。それはどこが認定しているか、その資格を取ると収入が上がるかどうか必ず確認してください。資格を認定する側だけがもうかる「資格ビジネス」というものがあるのです。そういった資格は、高いお金をかけて取っても、仕事にならず、さらに集客セミナーを受けさせられることもあります。「短時間で取れる」「通信講座を受講するだけ」「試験不要」といったキャッチコピーに惑わされないようにしましょう。

コワーキングスペースで学ぶ女性
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

■何歳でも育児中でも挑戦できる仕組みが必要

先日、NHKのクローズアップ現代では、沖縄県糸満市の成人女性を対象としたリスキリング制度を取り上げていました。非正規雇用で子供と過ごす時間が少なかった女性が、市が行うリスキリング講座を無料で受け、今ではシステムエンジニアとして活躍しているという話でした。他にもドイツで単純労働をずっと行ってきた男性が、リスキリングによって工作機械を扱う職に就くという事例も紹介されていました。

本当に将来につながるリスキリングとは、こういうことですね。収入やスキルが上がる資格を取るために学ぶ、そのために自治体などが行う無償の講座を受けるなど、低コストで実際に役に立つものを選ぶことが大事です。

一方、岸田首相や自民党、政治家のみなさんは、もっと子育て経験者や子育て中の人たちの意見を取り入れ、また受け入れる事業者側のことも知った上で有効な政策を実行していただきたいものです。「育業中でもこのようにしたらリスキリングできます」という情報をもらえたり、助成制度ができたりするといいですね。

もちろん、誰もがリスキリングをするべきとは思いませんし、希望者だけでいいと思います。また特に子育て中のリスキリングは、前述のように条件が整って初めて可能になることだからです。だからこそ、何歳からでもリスキリングできる仕組みづくり、また育児中でもリスキリングできるような環境づくりを、国や自治体が支援してくれたらと思います。

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森戸 やすみ(もりと・やすみ)
小児科専門医
1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。

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(小児科専門医 森戸 やすみ)

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