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東大野球部員のアンケートでわかった…限られた時間でも勉強とスポーツを両立できる「753の法則」とは

プレジデントオンライン / 2023年3月17日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ljupco

受験勉強のためには、部活は辞めたほうがいいのか。東京大学野球部元監督の浜田一志さんは「部活を辞めても9割の受験生の成績は上がらない。むしろ部活を続けたほうが勉強とのメリハリがつき、結果が出やすい」という――。

※本稿は、浜田一志『東大野球部式 文と武を両立させる育て方』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

■文武両道は「目的」ではなく「手段」

わが子を「文武両道の子どもに育てたい」と考える親御さんは多いようです。

知力と体力をバランスよく育て、社会人としての礼儀や振る舞い、他者とのコミュニケーション力も身につけてほしいという思いからでしょう。

もちろん、反対に、親御さんの教育方針で、

「文武両道ではなく、何か一芸に秀でたスペシャリストになってほしい」
「子どもの個性を活かして成長してもらいたい」

とお考えの方もいらっしゃるでしょう。

ただし、その一芸に出会うことも文武両道の経験によって、より早く、より適切に見つけられるだろうとも思います。

「文武両道」を私なりに定義し、言い換えると「多様性の中で努力を続けること」と、講演などで皆さんにお伝えしています。

また、文武両道は目的ではなく、手段である、ともお伝えしています。

子どもの教育で、最も大切なことは、お子さんならではの「Identity(アイデンティティ):同一性」を得ることです。

アイデンティティというと少々ややこしいので、「得意技を見つけよう」と言い換えて伝えています。

幼いときは足が速いでもいいですし、電車に詳しいなど、まず得意なことをひとつ見つけることで可能性が広がっていき、それがひいては勉強の「得意科目」にもつながっていきます。

■文武両道だからこそ得られるもの

子どもたちが勉強や部活をしている理由は何かというと、東大に入りたい、プロ野球選手になりたい、お医者さんになりたいというような夢や目標を目指してのことですが、つまるところは、「Identity(アイデンティティ):同一性」を得るためです。

「Identity(アイデンティティ):同一性」を、もう一段噛み砕いて伝えるならば、「自分という存在を理解し、人生をどう生きたいかをつかんでいる感覚」を見つけて、得るためとも言えます。

正直、プロスポーツは狭き門です。プロ選手を目指して部活に励んでも、その希望は叶わないかもしれません。しかし、運動を続ける過程でもしかすると、筋肉や身体のつくりに興味が湧くかもしれません。すると、その道を追求していくと、スポーツドクターという別の目標が見えてきます。

このように文武両道だから、子どもたちの将来につながる「目的」を手に入れることができるのです。繰り返しになりますが、文武両道は目的ではなく、あくまで手段です。

親子一緒にあれこれ試してみながら、わが子の可能性や夢中になれるもの、一番向いているもの、いつか親離れして自分の人生を生き、メシを食っていけるための武器を見つける最良の道として、「文武両道」を“活用”してみてください。

■文武両道を極めれば就職先も「逆指名」

東大野球部の選手たちは、甲子園常連校の選手に比べて野球に関しては実力が劣るので、その点では「てっぺん」でも「一番」ではないかもしれません。

しかし、こと「野球×勉強」の両立にかけては、東京大学が国内でもっとも学力水準が高い大学であるだけに、「文武両道のてっぺんに立つ者たち」です。

決して、野球エリートでないにも関わらず、努力と知恵でプロ野球選手になった者もいれば、大学野球の経験を活かし、その後各界で活躍している者もいます。

なにも男子選手ばかりではありません。東大野球部では、マネジャーやアナリストとして活躍する女性部員たちがたくさんいます。彼女たちも「文武両道」の体現者です。

実際、彼女・彼たちの就職活動は、どこに入れるかというより、どこに入るかという、“逆指名”をして就職先を選ぶような状況でした。

■「小6レベルの学力」さえあれば東大合格は狙える

高校入学時点で、偏差値30、40台から東大合格、東大野球部に入部した選手たちはたくさんいます。ただし、それには、ある共通点があります。

「小学校6年生レベルの学力」が、あるかどうか――。

ここがスタートラインになります。逆に、それがあれば、高校入学時点からでも、東大合格がねらえます。

「小学校6年生レベルの学力(基礎力)」とは、具体的に、次の4つです。

それぞれ詳しく見ていきましょう。

基礎力①人の話をよく聞き、お手本を真似できる(しつけ)

親や先生、先輩たちのアドバイスに、素直に耳を傾けられることです。これは、ご家庭でも養われるものでもあります。親御さんの中には、周囲の話を聞けない方がいたりしますが、それだと問題です。子どもたちは親の背中を見て育つものです。

ここでも部活の利点があり、監督や先輩たちから有無を言わさず、同じ練習を繰り返し指示されたところ、自然とできるようになった、というような成功体験を得る機会があります。伸びる子たちの共通点は素直に話を聞けて、先輩たちを真似る力です。こうした子は逆転合格の芽があります。

■親子の会話で読解力を育む

基礎力②読解力が小6レベルをクリアしている(国語)

読解力とは「やさしい言葉に言い換えられる能力」です。

数学や英語、社会科目をはじめ、文章題を解く際には読解力が必要ですし、すべての勉強の基礎となります。

読解力は本を読むことで高められますが、読書が苦手という子もいます。そこでできるのが、親子での「会話」です。会話によって語彙力と人生経験を身につけることができるので、できるだけ家族一緒に食卓を囲むなどして、「今日一日どんな仕事をしたか」「こんなことが起きた」という会話のキャッチボールをしてみてください。親御さんたちの様子も伝えられるいい機会です。

YouTubeなどでは情報を受けるだけで発信することがないので、相手の話を理解しようとする緊張感が生まれません。だから、会話が有効なのです。「これって、どう思う?」というやりとりを通して、お子さんの読解力を育んでください。

基礎力③割合の感覚が身についている(算数)

割合の感覚とは、たとえば「半分」「2分の1」「50%」「5割」「0.5」が同じ意味かわかるか、次に「2分の1」と「5分の3」のどちらが多いかがわかるかといった感覚です。

一例を挙げると、「600円を1対2で分けるとしたら、まず3等分にして1個、2個と分けると考える」「漢字を10個書くのに、1分かかるとして、1000個書くなら何分かかるか」というのが、すっと理解できる子と、できない子がいます。

この感覚を養うには、幼い頃から日常的にパーセンテージ(%)や割合などで考える習慣を増やすことでしょう。親子で買い物をするときなどに会話に組み込んでみるのも方法です。

その点、野球好きの子なら「○○選手の打率は3割で、○○選手は2割5分か」や「○○投手の投球だと、ストレートが全体の60%もあるんだ」と自然に興味を持って覚えてくれるはずです。

■ルールを見破る力=類推力がある

基礎力④類推する力がある(算数)

類推する力とは、たとえば、1カ月ごとに2万円貯金していくと1年後に24万円になるだろうという法則性を推論する力です。言い換えると「ルールを見破る力」です。

ルールとは公式のこと。ここでは「nカ月目の貯金は、2×n」という公式が見つかります。これがルールを見破る力=類推力です。

類推する力があれば、あらゆることを1から10まで記憶することなく、知識を臨機応変に活用できるようになります。

これら4つの力について、何をもって身についているかとするのは、自分が問題を解けるかだけでなく、人に教えられるレベルに到達しているかで判断してください。

兄弟や姉妹のいるご家族なら、その子が下の子に説明できているか、一人っ子の子なら親に説明できるかどうかといった場面で、理解度を測れるでしょう。

■東大合格には最低7000時間の勉強が必要

「小6レベル」という話をお聞きになり、「いくらなんでもレベルが低いのでは?」と、少々意外だったかもしれません。しかし、基礎能力さえあれば、東大を目指せるスタートラインに立てます。東大に合格するには、遺伝的な頭の良さだけが絶対ではないということです。

ここで2つの数値をお伝えします。

ひとつは、東大合格を目指す上で、高校時代にどれだけ総量として勉強に時間を費やしたらよいかという数値です。

東大野球部員らにアンケートを取ったところ、それは「7000~1万時間」でした。

セミナーに出席する医療従事者の手
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

「1年365×24時間×3年間」として、2万6280時間。このうち少なくとも7000時間を、勉強時間に振り分けて努力する必要があるというのが、経験則となります。つまり生活のうち、約3割を勉強に費やすことが最低限必要です。現役時代にこの時間を確保できない場合は、浪人も視野に入るというわけです。質もさることながら、「量」も必要ということです。

さらに単純計算をしてみると、「1年365日×3年で、1095日」。この日数で7000時間を目指すなら、1日当たり約7時間の勉強時間が必要となります。登校日数を約200日とすると、「約200日×7時間×3年で、約4200時間」となるので、家庭かどこかで、約3000時間を自学して埋める計算です。

学校の授業時間も含めるとはいえ、宿題も合わせて日に7時間も机ないし教科書に向かうのは、大人からみても、かなりの体力を要するのが想像つくはずです。さらにそれが受験前となると12時間も勉強することもあります。だからこそ、体力が土台になるのです。

■東大野球部員の「753の法則」

次に、同じく東大野球部員らからアンケートをとったところ、図表1のような法則を見つけました。これを、私は「753(しちごさん)の法則」と呼んで、さまざまな講演で子どもたちや先生方にお伝えしています。

『東大野球部式 文と武を両立させる育て方』より
『東大野球部式 文と武を両立させる育て方』より

1日24時間のうち、睡眠や食事、お風呂の時間などの生理的な時間の9時間を差し引いて、残り15時間をどう使うか――。

東大野球部員たちは、高校時代に、学校の授業と宿題などにやはり7時間、部活(メンテナンスやコンディションづくりなどの準備も含む)に5時間、それ以外のフリーの時間に3時間というような時間配分で、毎日を過ごしたと言います。塾に通っていた子どもたちもいますが、基本は授業と宿題に集中して臨むという時間割を組み立てていました。

時計
写真=iStock.com/matdesign24
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/matdesign24

また、部活引退後に生じる「5時間」で塾に通ったかどうかという調査もしたところ、ほとんどの場合、自宅で家庭学習をしていたとも言います。現役時に自宅でコツコツやる習慣がついていたというのが、その理由でした。

練習試合で半日を要したり、日々の練習で疲れて、毎日同じような時間配分で過ごせたはずはないのですが、平均してこのような時間配分で、東大野球部員は高校生活を過ごしたという点で、参考にしてみてください。

なお、この数値は高校生を対象としたものなので、小中学生のお子さんの場合は、生理的な時間が9時間ではなくて12時間くらいが目安でしょうか。勉強6、部活や習い事に3、フリーの時間が3という配分になるかと思います。

「753の法則」は、大人にも役立ちます。仕事に没頭できるのはせいぜい7時間。だらだらと残業をせずに自己研鑽の時間に費やすようにしたいものです。大人になっても親こそ勉強している姿を見せることが、“背中型マネジメント”となるでしょう。

■部活を辞めてもほとんどの受験生の成績は上がらない

勉強時間を日々の生活から捻出するために、東大を目指さないとしても、「部活なんてしないで、勉強だけしておけばいいのでは?」と、親御さんも子どもたちも思うかもしれません。

「部活動のメリットはわかるけれども、いざ受験を目前にすると本当に両立できるのか?」という不安が頭をもたげることもあるでしょう。

「受験に専念したいから部活を辞めたい/辞めさせたい」。こういう話題は実際によくあります。

しかし、部活を辞めたところで9割の子どもたちの成績は上がりません。

高校3年生時点で部活動を辞めた子と続けた子では、続けた子のほうが東大に合格しているというデータもあります。部活を辞めて時間を確保したからといって、不思議と成績は伸びないものです。

■部活を辞めてもその時間を自由時間に当ててしまう

サンプルとしては少ないかもしれませんが、岐阜県一番の進学校である岐阜高校と、私の母校であり、2023年より校長を務める高知県・土佐高校でヒアリング調査をした結果、勉強のために部活を辞めて、成績が上がった生徒は全体の1割でした。

また東大野球部員140名にアンケートを取ったところ、高校3年生のギリギリまで部活を続け、引退後は時間を勉強に割いた子ほど現役合格しています。つまり、同じ時間があってもどう使うかによります。時間ができても「自由時間」にあてるようでは、望んだ結果は出ないということです。

浜田一志『東大野球部式 文と武を両立させる育て方』(かんき出版)
浜田一志『東大野球部式 文と武を両立させる育て方』(かんき出版)

また、高3の夏の引退前に部活を辞めた子どもたちのうち、成績が伸びた1割の子どもたちの共通点は、偶然にもすべてお医者さんの子女でした。ここから見えることは、途中に辞めたとしても、明確な目的・目標があれば、勉強のモチベーションは保たれて、時間も勉強時間に割り振られるということかもしれません(少ないサンプルですので、想像ですが)。

人はどうしてもサボりがちですから、単純に時間を確保したいという感覚で、部活を辞めたとしても、多くのケースでゲームや遊びで時間を消費してしまうのが、関の山かと思います。

それであるなら、高校3年の夏まで全力で部活に邁進して、引退後にメリハリをつけて受験に臨むことです。毎日練習があると、限られた時間をムダにしないようにと、電車の中で単語帳を開く、時間の使い方も上手になります。こうした経験のほうが社会に出ても活きるでしょう。

何より、3年間(中学時代も含めたらそれ以上)、部活動で努力をした子は、勉強にシフトとするとグンと成績が伸びます。「部活をやり切った」という感覚がやる気のスイッチになるのでしょう。

■モチベーションは成績を上げる

『東大野球部式 文と武を両立させる育て方』より
『東大野球部式 文と武を両立させる育て方』より

図表2は東大野球部員の高校時代の模擬試験の成績推移のグラフです。丸の大きさは模試を受けた人数を表しています。部活をやっているときは模試を受けていない生徒が多いため、丸が全体的に小さくなっています。高3夏から秋にかけて、模試の結果が急激で伸びていることが読み取れるでしょう。

なぜ、急激に伸びるのか? それは、東大に合格したいという強いモチベーションがあるからです。「先輩も逆転合格できたから」「東大ならレギュラーで活躍できるから」「東京六大学でプレーしてみたい」「最高学府にチャレンジしたい」という思いが原動力です。

とはいえ、モチベーションだけでは伸びません。授業を大切にして「基礎」が身についているからです。基礎とは「教科書の太字部分を友達に説明できる力」。問題集が全部できるということではありません。教科書の太字部分とは公式、構文、重要知識。公式でしたら、①どんな場面で役に立つのか、②公式の導き方です。自分が覚えているではなく、教科書を見ながらでも①と②を友達に“説明できる”というところがポイントです。

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浜田 一志(はまだ・かずし)
東京大学野球部元監督
土佐高校時代は甲子園を目指し、野球漬けの日々を過ごす。3年夏の大会引退後、模試E判定から、独自の勉強法で驚異的に成績を伸ばし東大理IIに現役合格。東大では野球部に入部し、4年次は主将として東京六大学野球リーグで活躍。大学院卒業後は、新日鉄(現日本製鐵)に入社する。1994年に独立。東京都内に、文武両道を目指す「部活をやっている子専門の学習塾」としてAi西武学院を開業。10年をかけて開発した教育ソフト『数学ミラクルマスター』は、現在も全国の学習塾・中学校での採用が広がっている。2008年には、母校・東大野球部のスカウティング事務局を立ち上げ、高校球児に東大受験を指南。2013年~2019年まで母校東京大学野球部の監督を務める。2023年4月からは母校土佐高校の校長に就任予定。

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(東京大学野球部元監督 浜田 一志)

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