幹部のツイッター削除、発言撤回の背景に何があったか…佐藤優が見た共産党内の"危機感と動揺"
プレジデントオンライン / 2023年3月15日 14時15分
※本稿は、佐藤優『日本共産党の100年』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
■日本共産党対策委員会長 田村智子議員のツイート
野党共闘の波紋が広がり続けている。2021年12月6日、毎日新聞のコラム「風知草」は日本共産党の野党共闘の総括について疑問符をつけた。これに対し「しんぶん赤旗」は反論した。立憲民主党などに強い影響力を持つ連合は、野党共闘について批判的な総括を行った。こうした中、田村智子・日本共産党政策委員長によるツイートが話題になった。朝日新聞が「『共産が政権に関わったら…』国民に広がった不安、党内で自省の議論」との見出しで次のように伝えている。
(中略)
田村氏は自身のツイッターで、共産が「政権に関わる存在」になったときに「全く異なる不安になるのでは」と分析。政権交代を軸にした選挙戦での訴えが「国民の中に広がる不安をつかんだものではなかった」などと省みる投稿をした(朝日新聞デジタル、2021年12月10日)
![日本共産党所属の田村智子参議院議員(1期・2016年7月2日撮影)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/7/1200wm/img_77cf3cdb5d2baca6c42178f1d70eb2a7510768.jpg)
■ツイートの削除は田村氏の判断なのだろうか
田村氏といえば、安倍晋三元首相の「桜を見る会」問題の国会での追及で広くその名を知られるようになった人物だ。
その上で、「今回の衆院選は完全な与党宣言はしていないが、政権を支える立ち位置を示した。そうなると受け取る側も違うということに、選挙が終わってから気づいた」。野党共闘の原点になった安全保障関連法の強行についても、「6年たつなかで国民の感情も同じ状況ではない。私たちの訴えは今日の国際情勢や自公の動きのもとでちゃんと知らせていかないと国民との合意になっていかない」と今後の課題として挙げた(同前)
こうした田村氏の総選挙に対する見解は、同年11月27、28日に開かれた第四回中央委員会総会(四中総)での志位委員長の発言には見られないものだ。その後、田村氏の投稿は自身の判断で削除されたという。本当に田村氏の判断で削除されたのだろうか。
私が訝(いぶか)しく思うのには理由がある。
■『戦後革命論争史』を自己批判した上田氏と不破氏
1956年から57年にかけて、日本共産党の上田耕一郎氏(後に日本共産党副委員長)と弟の不破哲三氏(前日本共産党中央委員会議長)による『戦後革命論争史』(上下巻、大月書店)が刊行された。この本は日本共産党内部での綱領をめぐる議論や闘争方針についての疑義などが率直に記される理論水準の高い内容だ。
ところが、刊行から30年近くたった1983年、2人は『戦後革命論争史』について自己批判を行った。この本は党内から激しい批判を受け、64年に絶版にしていたものだ。これほど時間が経過していたことに加え、当時すでに党最高幹部だった「不破委員長」と「上田副委員長」がそろって自己批判したことにこの党の性質が表れていると思う。
■「党内の議論を外に持ち出すな」という共産党の規律
不破氏の自己批判書は「民主集中制の原則問題をめぐって――党史の教訓と私の反省」というタイトルで、上田氏のそれは「『戦後革命論争史』についての反省――「六十年史」に照らして」というものだ。自己批判文はいずれも同年の「前衛」8月号に掲載された。
最大の問題は、「党内問題を党外にもちだし、党外の出版物で『五〇年問題』や党の綱領問題を論じるという自由主義、分散主義、分派主義の典型的な誤りを犯した」ことだという。論考の内容よりも形式、すなわち民主集中制(党中央が決めたことに従え)の原則とそれに基づく党の統一的規律を軽んじたことが問題視された。言い換えれば“党内の議論を外に持ち出すな”ということだ。
今回の田村氏のツイッター投稿も党内の議論を外部に持ち出したことになるのではないか。ツイートを削除した田村氏はこの件で党から自己批判を迫られたのか。21年の衆院選で日本共産党が議席を減らしたことについて共産党は、外に向けては激しいデマ攻撃にさらされたことが要因だと説明し、党内に向けては「政治対決の弁証法」すなわち、“勝った負けた”の闘争を通じて党が発展を遂げると説明している。
![スマートフォンでテキストメッセージを打っている女性の手元](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/c/1200wm/img_2cf22658fadde9a653337ac31716c0f3236808.jpg)
■1日で発言を翻した田村氏
また、田村氏は、2022年3月にウクライナに日本政府が自衛隊の防弾チョッキを提供する方針を決めたことについても興味深い発言をした。3月4日、田村氏は記者会見で「人道支援としてできることは、すべてやるべきだ。この場で反対と表明するようなことは考えてない」と述べた。しかし、翌5日になって「賛成できない」と反対する立場を表明した。
![佐藤優『日本共産党の100年』(朝日新聞出版)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/4/1200wm/img_54d6c12201cb568304b73f623211462a127924.jpg)
〈5日の会見は緊急で開かれ、田村氏は「私の発言が不正確だった。発言を訂正し、党としての見解を述べたい」と説明。「ウクライナへの支援は非軍事の支援に全力を挙げるべきだ」と語った〉(朝日新聞デジタル、2022年3月5日)
田村氏のような共産党幹部が1日で発言を180度翻すような事態は珍しい。兵器に関し、防衛的兵器と攻撃的兵器の境界線を明確に引くことはできない。戦闘地域への武器供与というような重要問題に関しても共産党内で見解の違いがあることを田村氏の発言は浮き彫りにした。
田村氏のツイートや記者会見での発言の訂正は党創立100年を控え、デマ攻撃や対決の弁証法では片づけられない危機感と動揺が党内に生まれていることを示唆している。
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作家・元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『獄中記』(岩波書店)、『交渉術』(文藝春秋)など著書多数。
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(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優)
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