「私たちをダシにお金儲けをしようとしている」気づかないうちに若者から見放される企業がやりがちなこと
プレジデントオンライン / 2023年4月22日 13時15分
※本稿は、長田麻衣『SHIBUYA109式 Z世代マーケティング』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■Z世代を一括りにしてはいけない
10代後半から20代前半の若者たちを「Z世代」として、一括りにして論じられることが多いですが、実際は多くの側面で細分化・多様化しているため、もちろん、完全に一括りにするには無理があります。「Z世代の傾向」とされることの全てが当てはまるZ世代はむしろ稀です。
どの傾向にも濃淡があり、人それぞれ微妙に異なることは、肝に銘じる必要があります。「Z世代だから社会課題に関心が高いだろう」など、「Z世代だから」と決めつけるのは要注意です。妙に過度な期待をすることはもってのほか。彼らにとってもプレッシャーになりますし、提案したビジネスや開発した商品から、心が離れていく原因にもなります。
大切なのは、変に決めつけず、一人ひとりに向き合い続けること。そして、年齢や性別などの固定観念に囚われず、個を見つめる姿勢です。
■データの時代こそ「生の声」に向き合うべき理由
私は、細分化・多様化し、「マス」が生まれない今だからこそ、個人の生の声に徹底的に向き合い、熱量の高さや何気ない行動を観察していくことが重要になっていると感じています。また表面的には多様に見えても、その根底にある思いや考え、行動を起こす源泉には共通点が隠れています。
それを見つけることが、彼らとの良い関係性を構築するためのヒントに繋がります。ビッグデータや定量調査で分かったことが気になってしまっていては、Z世代の心は掴めません。常にリアルは現場にあるのです!
では、どのように彼らに向き合っていくべきなのか。ここからは、実際にSHIBUYA109が行ってきた施策の事例も踏まえながら、若者たちへメッセージを発するときの姿勢や、彼ら向きの企画を立案する際に重要になってくる視点を解説していきます。
■毎月200人のaround20に会う
ここからはZ世代ではなく、SHIBUYA109のターゲットである「around20」(15歳~24歳の若者)という表記が多くなりますが、基本的にはほぼ同じ意味です。
まず、私たちSHIBUYA109 lab.というマーケティングチームが、社内ではどのように位置づけられているかという話をお伝えします。マーケティングという言葉は、広告や販促・プロモーションから、商品企画・市場調査まで非常に定義の幅が広く、企業によってマーケティング部門の役割も異なってきます。SHIBUYA109のマーケティングチームである私たちSHIBUYA109 lab.は、メインの役割を「ターゲットであるaround20(15歳~24歳)への理解を深め、徹底的に可視化すること」と定義しています。この「around20のリアルな視点」を正確に把握し、齟齬(そご)なく共有することが私の仕事になるのですが、その実現方法として行っているのが「毎月200人のaround20に会うこと」です。それだけの人数になると決して楽な作業ではありませんが、定量的なデータだけでは熱量やニュアンスが把握できないため、正確な理解に繋げることが難しいと気づいたことが、この生の声を集める200人インタビューを実践し続ける背景です。
![街中で楽しむ3人の若者たち](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/f/1200wm/img_6f1b18cf2eb5b297b28eb28d018a84e0184936.jpg)
■200人という「量」を確保する理由
毎月200人という量を確保することにこだわっているのにはいくつかの理由があります。
一つの大きな理由は、普通のビジネスパーソンにとっては、10代後半から20代前半の年齢層の人たちと日常的な接点を持つのは容易なことではありません。さらに、生まれ育った時代背景が異なることで、価値観も異なりますし、少数の若者たちの話を聞いただけでは、自分の同世代や、さらに上の世代と比較して、その行動の理由を想像したり、予測することが難しいこともあるためです。
もう一つは、around20のトレンドのサイクルが非常に速いことです。彼らの注目しているトレンドテーマも細分化しているため、高頻度かつ量的なヒアリングが必須でした。
もちろん、企業の方針や事業に合わせて、会う頻度や量は調整する必要がありますが、最も大事なことは、企業としてZ世代との接点を持つことができる環境を構築することだと考えています。
■リサーチを外注しないワケ
特に、「直接に接点を持つ」という点が重要なポイントです。通常、Z世代との接点を持つには、調査会社などの外部パートナー企業への依頼をすることが多いと思います。
もちろんパートナー企業のサポートを得て実現できることも多々あるため、全てを内製化せよと申し上げているわけではありません。しかし、理解する行為そのものは、なるべくアウトソーシングしないことをお勧めします。
インタビュー調査を行い、全ての分析や考察をパートナー企業に任せてしまったり、納品されたレポートを見て、知った気になってしまうことは、避けるべきです。「知った気になっている」という企業の姿勢は、ターゲットにもしっかりと伝わってしまいます。特に「Z世代」という言葉が、ある種のバズワードとなっている今、残念ながらそのようなケースは多く見られるようになった気がしています。
![オフィスの廊下でコーヒーを手に立ち話をする2人の女性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/c/1200wm/img_0c8d07610fc5b9c7649ec7e3ebf7f1fb186131.jpg)
■企業は「私たちをダシにして、お金儲けをしようとしている」
実際に、“Z世代向け”の商品や企画を見ながらZ世代たちと話していると、「私たちをダシにして、お金儲けをしようとしているな」「Z世代向けと謳っているけど、実際、私たちよりももっと下の世代に向けられたものに見える」など、ネガティブなイメージや違和感を持つ様子が見受けられることは少なくありません。
そんなビジネスにしないためには、ターゲットであるZ世代に対して価値提供をする責任者は自分(=企業の実務担当者)であり、彼らを最も理解し、同じ目線を持っているのも自分であるという自負を持って向き合う必要があると思います。
「直接に接点を持つ」ことで、自社にノウハウを蓄積していくことにも繋がりますし、Z世代的な目線で物事を眺められるようになれば、外部のパートナー企業から提案してもらった企画の違和感に気づくこともできるようになります。
■1000人にいつでも意見を聞けるネットワーク
さらには、「いつでも」Z世代の世界にアクセスできる状況を用意しておくことも理想です。私たちSHIBUYA109 lab.では、LINEで約1000人のaround20と直接に繋がっているネットワークを構築しており、調査協力やイベント企画、商品開発などに参加してもらっています。
1000人は消費者パネル調査の対象としては決して多い人数ではありませんが、私たちは直接、彼らと連絡ができる環境を作り、数よりも質を重視して、ネットワークを日々運用しています。
「直接に」「いつでも」繋がることのメリットはまだまだあります。私は、一番大事なことは、信頼し合う関係構築ができることだと考えています。私たちは、彼らとメッセージのやり取りだけでなく、面談などでどんなことに興味があるのかなどを聴取し、一人ひとりの「人となり」を把握・記録しています。
これにより、「K-POPヲタの実態について聞きたいときは、Aさん」「男性美容について聞きたいときは、B君」といったように、具体的なテーマについて聴取したいときに、条件に当てはまる対象者をスムーズにリクルーティングすることも可能になっています。
![若者にインタビューをする男性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/9/1200wm/img_59986603e28bccf342e5679ebac80276225322.jpg)
■Z世代の感覚をインストールする
また、声をかけるタイミングも自社内の検討・調整のみで完結するため、外部の企業に無理なスケジュール進行でお願いすることもありません。ちなみに、商業施設の運営を行っている私たちは、SHIBUYA109館内で声をかけたaround20を中心にネットワークを構築しています。
リアル店舗を持っている企業であれば、店舗内での声かけも有効でしょう。しかし、このような環境があることは稀だと思いますので、まずは自社のSNSアカウントや会員組織からターゲットを抽出して座談会を開いたり、インターン生にお願いして友達を呼んできてもらうなどの施策を始めてみると、新時代のマーケティングへの一歩が踏み出せるかもしれません。
何度も言いますが、大事なことは、まずは直接、会ってみることです。同じ目線で、彼らの感覚をインストールし、彼らの世界に参加していく。彼らと向き合う際には、彼らと同じ目線を自分の中にインストールするように意識することをお勧めします。
■媚び・忖度・持ち上げるのも逆効果
一番重要なのは、around20と会話するときの姿勢です。「未来を担う新世代だ!」と持ち上げてみたり、自分より若い世代だからといって子供扱いすることは絶対に避けるべきです。へりくだってすり寄っていくのでも、高圧的に接するのでもなく、フラットな目線で対面するべきでしょう。
彼らは調和を重んじ、相手に合わせて距離感を調節することが上手です。大人にも分かりやすいように話そうとする一方で、大人側の態度に合わせて本音を話すことを避けたりします。場合によっては、ここまで話してもきっと分かってくれないよな、と判断して、リアルな部分を見せてくれなくなってしまうこともあります。
ですから、無駄なプライドを捨て、彼らの世界をリスペクトしながら、企業の方からZ世代の世界に参加していく姿勢を見せることが重要となります。
■同じ目線になるためのちょっとした工夫
彼らと同じ目線になるには、聴取する内容や方法についても工夫が必要です。通常、企業のマーケティングにおいて、インタビューや調査をする際、自社製品やサービスに関する内容を聴取します。しかし、その商品やサービスについて、消費者が日常的に意識していることはほとんどありません(概して、これはZ世代だけではありませんが)。特にその商品やサービスの優先度が低い方にカテゴライズされていた場合は、いくら聴取しても、価格の安さなどの言及に留まってしまい、あまり参考になる意見は聞き出せません。
私たちSHIBUYA109は商業施設の運営がメインの事業となりますが、年間の調査の中で商業施設の使い方についてインタビューすることはほとんどありません。むしろ、ヲタ活やファッション、美容や学校生活など、彼らの関心が高いことやお金や時間を使っていること、あるいは生活に直接に関わっていることを中心に聴取しています。
■109に来るために渋谷に来るわけではない
その理由を簡潔に言うと、みんな商業施設に対しては、あまり興味がないからです。もちろんSHIBUYA109が大好きで、SHIBUYA109に遊びに来るために渋谷に来る、と言ってくれる人もいます。しかし残念ながら、そのような若者ばかりではありません。むしろ渋谷に来る目的は、SNSで話題の路地裏にあるカフェを訪れるためだったり、全く別にあるのです。
![渋谷109の入口](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/9/1200wm/img_896db915cbc9a46b57bb27bfc6301458255805.jpg)
その日のメインの用事が終わった後、友達とふらふらと渋谷を巡り、買い物などを楽しむ流れの一環で、SHIBUYA109が浮上してくるだけにすぎません。しかし、そのときでさえ、「SHIBUYA109に行こう!」と話し合って決めることはありません。
彼らは、友達と回るルートが大体いつも決まっています。そのルートの中にSHIBUYA109が入っている場合に限り、フラッと立ち寄っているわけです。SHIBUYA109だけの話ではありませんが、都会の商業施設は、彼らにとって目的の場所になることはほとんどないのです。あくまでも選択肢の一つです。したがって、彼らのお決まりのルートの中に、SHIBUYA109をいかに入れてもらえるかがカギなのです。
■SHIBUYA109がアパレル店舗の比率を下げた
Z世代が、「この商業施設で◯◯がしたい!」と考えながら渋谷の街を歩くことはほとんどありません。企業サイドは前提として、自分たちの商品やサービスはターゲットの若者たちの生活の中心には存在していないことを常に念頭に置いておかねばなりません。
しかしこれは、ハッキリ意識していないと、意外と至難のワザかもしれません。だからこそ、商業施設に関することよりも、わざわざ出向いて行くカフェの魅力や、ヲタ活の楽しみ方、そしてSNSに投稿する写真や動画の撮り方やそのこだわりについてを中心に聞いています。そこで発見された行動原理を応用し、SHIBUYA109の館内の企画に落とし込んでいるというわけです。
例えば、10年ほど前のSHIBUYA109の店舗は、アパレル関連の店舗がほとんどを占めていましたが、彼らの声を聞いて明らかになった消費行動(アパレルよりお金を落としているのは、コスメや食、エンタメであるという実態)を基にテナント構成を変更しました。端的に言えばアパレル比率を下げ、そこに、これまでSHIBUYA109にはなかった要素の店舗を追加したのです。
■館内に「映え壁」を設置した理由
![長田麻衣『SHIBUYA109式 Z世代マーケティング』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/0/1200wm/img_a081b354daa3655c8693d7d561150f6f89739.jpg)
さらに、SHIBUYA109の館内の各フロアの非常階段には、“映え壁”があります。これは買い物を楽しむだけでなく、友達と自撮りをしたり、動画を撮ったり、「推し活」関連の写真を撮ることを想定して設置されています。買い物以外の時間の過ごし方を創出することで、来館の目的となる選択肢を増やそうと意図したことは言うまでもありません。
around20が、お金や時間を使う価値があると感じているモノやコトには、必ずビジネスのヒントが隠れています。彼らの熱量が注ぎ込まれている対象とその理由を深く探っていくと、必ず自社製品・サービスと掛け合わせられるフックが見つけられるはずです。
重要なのは、自社都合の話を聞くのではなく、360度の方向からaround20を観察し、理解すること。そして、自社製品とaround20の距離を埋めてくれる価値観や消費の実態を把握することです。
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株式会社SHIBUYA109エンタテイメント SHIBUYA109 lab.所長
総合マーケティング会社にて、主に化粧品・食品・玩具メーカーの商品開発・ブランディング・ターゲット設定のための調査やPRサポートを経て、2017年に株式会社SHIBUYA109エンタテイメントに入社。SHIBUYA109マーケティング担当としてマーケティング部の立ち上げを行い、2018年5月に若者研究機関「SHIBUYA109 lab.」を設立。現在は毎月200人のaround20(15歳~24歳の男女)と接する毎日を過ごしている。繊研新聞連載「シブヤ109ラボ所長の#これ知ってないとやばみ」、宣伝会議等でのセミナー登壇、TBS「ひるおび」コメンテーター、その他メディア寄稿多数。
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(株式会社SHIBUYA109エンタテイメント SHIBUYA109 lab.所長 長田 麻衣)
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