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会長→相談役→社外取締役…「いつになったら島耕作は引退するのか」に作者・弘兼憲史が返した答え

プレジデントオンライン / 2023年3月16日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chayantorn

定年後に充実した人生を送るにはどうすればいいのか。『島耕作』シリーズなどで知られる漫画家・弘兼憲史さんは「私と同じ年齢の島耕作は、75歳で相談役を退任しても隠居せず、社外取締役になった。働きながら適度なストレスを感じ、『たの苦しい』生き方を続けることが重要だろう」という――。(第1回)

※本稿は、弘兼憲史『弘兼流 好きなことだけやる人生。』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。

■まだまだ現役の島耕作

先日、ある取材で、「島耕作は、なぜ隠居ではなく社外取締役になったのですか?」という質問を受けました。2019年から講談社の「週刊モーニング」に連載していた『相談役 島耕作』は、相談役を退任した島耕作がとうとう会社を去るという結末で、2022年2月をもって最終回を迎えました。

1カ月後には新連載を開始するということを誌上で告知していましたから、ありがたいことに、次の肩書はどうなるのかということがいろいろなメディアで取り上げられたのです。タレントの有吉弘行さんが『人間 島耕作』と予想されていたことを後から知り、『シルバー人材 島耕作』や『ボランティア 島耕作』、さらには『ユーチューバー 島耕作』から『終活 島耕作』なんていうものまであったようです。

なかには政治家に転身するのではないかと考えた読者もいたようですが、多くはビジネスから離れて日々の生活の中で、島耕作らしい生き方が描かれるのではないかという予想だったようです。

ところが、3月から始まった新連載は『社外取締役 島耕作』です。山田五郎さんがテレビの番組で、「相談役まで来たのだから、もう仕事はやめて、地域活動とかボランティアをやればいいのに、こういう人はいつまでも働いている。こんな人に社外から来られたらたまりませんよ。団塊世代のよくないところだ」というような猛批判をされたというニュースを見て笑いました。

漫画の中でも奥さんから「まだやるの?」と言われています。

■同じ年齢の作者も体力的な限界を感じていない

75歳になった島耕作は、社会的には後期高齢者になったわけですが、体も頭もクリアですからまだ隠居するには早すぎます。それは、同じ年齢である僕自身がそう感じているわけです。

60代の頃には、日本人男性の平均寿命が80歳くらいで、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」である健康寿命は72歳くらいだから、仕事もゴルフも楽しめるのはそのくらいまでだろうと思っていました。しかし、その72歳を過ぎて75歳になった今、漫画も描き続けていますし、ゴルフだって続けています。好きなことを存分に楽しむ日々を送っているのです。

年齢的なことは個人差が大きいですから、誰にでも共通することではありません。現に同郷の同級生を見てみると、7~8割くらいの人は隠居生活に入っているように思います。でも、島耕作は自由に動けますし頭もまだまだ現役で、長年在籍してきた会社を退任したものの、隠居してのんびり過ごそうというようなことは考えません。

相談役時代に財界で培ってきた知見が豊富ですから、これを無駄にするのは日本の損失だと考える財界人から請われて、ある企業の社外取締役を引き受けました。会社の持続的な発展と技術の向上、ステークホルダー(利害関係者)の利益になることをするのが彼のやりたいことなのです。

■人間は何歳になっても成長できる

僕は常々、働けるうちは働いたほうがいいと発言してきました。それは仕事をすることが刺激となり、人間は何歳になっても成長できるからです。仕事で発生するストレスの先にある達成感や充実感を得ることが幸福感へとつながり、人と接することや考えることを続ければ老化防止にもつながるでしょう。

ビジネスパーソンのグループ
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

さらに、仕事をやめて隠居をすれば国に負担をかけることになりますね。その負担は、本当に支援を必要としている人のために使ったほうがいいはずです。だから、できれば働ける間は働いていたい。そこで、島耕作にはもう少し働いてもらおうと思ったわけです。

僕自身は漫画を描くという仕事が好きだということもあるのですが、自分から「辞めよう」と考えたことはありません。これは幸せなことですね。今、主な連載は2本で、どちらも出版社からやめてもらっては困ると言われているのですから、ありがたいことです。

60歳を過ぎた頃ですから15年近く前のことですけれども、かわぐちかいじさんとどこかの飲み屋で飲んでいて、「俺たち60歳を超えたけど、もう漫画家を辞めてもいいと思ったことはない?」と聞いたことがありました。彼は、「それはあるけれども、10歳も年上の先輩たちがみんな頑張って仕事をしているのに、俺たちが辞めるなんて言ったら怒られるよね」と言ったのです。

■社会から求められているからこそ生涯現役でいられる

当時、藤子・F・不二雄として仕事をされていた藤本弘先生はすでに亡くなられていましたが、安孫子素雄先生は藤子不二雄Ⓐとして漫画を描き続けていましたし、ちばてつや先生や古谷三敏先生も70歳を過ぎて精力的に漫画を描き続けていました。日本の漫画界を牽引してこられた先輩方が現役で頑張っているのですから、「私は今年いっぱいで引退しますなんて、とてもじゃないけど言えないよな」という話をしたことを覚えています。

聞くところによると、藤本先生は、家人が「ご飯ですよ」と仕事部屋に声をかけるといつものように返事があったのに、いつになっても出て来ないので娘さんが見に行くと、机で漫画を描きながらそのまま突っ伏して亡くなっていたといいます。僕はその話を聞いて、これこそ理想の死に方だと思うようになりました。今も、好きな漫画を描くことに没頭して、ペンを握ったまま往生することができたらいいなと思っています。

2021年12月に古谷先生が85歳で亡くなり、2022年4月には安孫子先生が88歳で亡くなりましたが、みなさん生涯現役で、最後まで頑張っておられました。生涯現役でいられるということは、求められているからこそできることですが、誰に求められているのかということを考えると、広くとらえれば「社会」ということになるでしょう。

この本では、幸せな人生を過ごすために、好きなことを続けて社会から必要とされる存在になるにはどうすればいいのか、ということを思いつくままに書き連ねてみました。

■60歳から幸せになれる“4つの条件”

歳を過ぎて、好きなことを続けて「時間」「人」「仕事」「お金」「心・頭・体の健康」に恵まれる生き方をするには何が必要か、「やりがい」に恵まれる生き方をするためには何が大切か、といったことにフォーカスしていきます。誰かに求められているということは、その人の役に立つ存在だということです。この本を読みながら、世の中の役に立つということ、社会に求められることがなぜ幸せにつながるのかということを考えていただきたいと思います。

僕は『弘兼流 やめる! 生き方』(青春出版社刊)の中で、60歳からの幸せな人生の条件として「好きなこと」「得意なこと」「世の中の役に立つこと」「人に迷惑をかけないこと」の4つが揃うものを見つけることが近道であると説きました。

手紙を書く男性
写真=iStock.com/JGalione
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JGalione

この公式に従えば、好きで得意なことをして世の中の役に立てたら幸せな人生ということになりますが、ここに「できれば生涯現役でいられること」を加えてもいいのではないかと思うようになりました。あと、どのくらい仕事を続けていけるのかはわかりません。僕の時計が止まるのは明日かもしれないし、10年後かもしれません。その時が来るまで、僕も先輩方と同じように生涯現役でいたいのです。

■好きなことをやることこそが最高のストレスケア

好きなことをするという行為は、最高のストレスケアになります。僕の場合は漫画を描くという仕事が好きな行為でもありますから、仕事でストレスを感じることはあまりありません。とはいえ、それは自分自身でストレスと思っていないだけの話で、ストレスのない生活などというものはないわけです。

例えば、締め切りに間に合わせなければいけない仕事が目の前にあるとしましょう。多くの人は、もし間に合わなければ信頼を失いますから、頑張って締め切りまでにその仕事を終わらせますよね。この「頑張る」というところがポイントで、熱心な人ほど心や頭や体が疲労してもなんとか終わるまでは頑張ろうとします。心と頭と体は連動しているのですから切り離して考えることはできません。

ストレスの正体は人間の防衛本能らしく、長時間にわたって原稿を見ているだけでも疲労から自分を守ろうとストレスが生まれており、体のいろいろなところでホルモンが分泌されて変化が起こっているといいます。そうやってマイナスの刺激から自分を守ろうとするわけですね。

■達成感を感じるために働きすぎるのは危険

好きなことをしているから自分にとってプラスだと思っていても、知らぬ間にストレスの影響が深くなっていて、ある日、ピンと張った糸が切れるように心が崩壊してしまう。そんな精神疾患が社会問題になり出したのは、「24時間戦えますか。」というコマーシャルが流行った1990年前後あたりだったと思います。

社会的な問題となった反動で、ストレスが辛くて悪いものという概念が広まってしまいました。しかし、ストレスの研究が進むと、人間が幸福な人生を送るためには、ストレスが必要なものでもあるということがわかってきたのです。

自宅で仕事をするために困っている私服日本人男性ビジネスマン
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

24時間は極端な例で、徹夜を推奨するようなことでもありませんが、適度な緊張感やストレスを抱えながら、それを乗り越えて目標を達成することで人間は成長できるということなんですね。ストレスを乗り越えたところにある充実感や達成感が幸福感につながるからです。

ただし、この充実感や達成感が心地よいあまりに、ストレスをストレスと感じないようになって頑張りすぎてしまうことが危険なわけです。

■「たの苦しい」生き方が恵まれた人生を作る

「時間」「人」「仕事」「お金」「心・頭・体」というすべての要素でストレスは発生し、どの程度の刺激がストレスになるのかという「さじ加減」は人それぞれです。理想的なのは「たの苦しい」状態。楽しいだけでなく、苦しいだけでもなく両方がいい「さじ加減」で混ざっていて、簡単ではないけれども充実感や達成感が得られる状態です。

弘兼憲史『弘兼流 好きなことだけやる人生。』(青春新書インテリジェンス)
弘兼憲史『弘兼流 好きなことだけやる人生。』(青春新書インテリジェンス)

生涯現役を推奨したい理由はここにもあります。仕事を離れると身なりも構わなくなって、人との接点も減り、日々の緊張感もなくなりますよね。この状態でストレスを感じない生活に浸ってしまうと先は見えてしまいます。

手を伸ばせば食べ物が常にあって動かない生活では、ボーッとすることが増えて、たとえ心と体の疲労はなくなっても、これは恵まれた状態とはいえないでしょう。人類の歴史を見ても、厳しい環境で生きている人間のほうがいろいろと工夫しますから、気候が少し厳しいところで文化も国家も発展してきましたよね。

仕事と適度なストレスはあったほうが、「心・頭・体」の老化防止にもなって、それは健全な生き方につながります。生涯現役で「たの苦しい」生き方を続けられれば、恵まれた人生だと思うのです。

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弘兼 憲史(ひろかね・けんし)
漫画家
1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)に入社。74年に漫画家デビュー。作品に『人間交差点』『課長 島耕作』『黄昏流星群』など。島耕作シリーズは「モーニング」にて現在『会長 島耕作』として連載中。2007年紫綬褒章を受章。

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(漫画家 弘兼 憲史)

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