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なぜ着けなくてもいいのに着けるのか…大学生が「自宅でのリモート授業」でもマスクを着用するワケ

プレジデントオンライン / 2023年3月16日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ridvan_celik

「マスク着用」の習慣は、人間関係をどう変えたのか。立命館大学の宮口幸治教授は「私の授業では、リモート授業でもマスクを着用する学生が珍しくなかった。学生に限らず、多くの日本人はもう、マスクをはずしたくないのかもしれない」という――。

※本稿は、宮口幸治『素顔をあえて見せない日本人』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。

■リモート授業なのにマスクを外さない学生

私は勤務先の大学のゼミを、状況に応じてオンラインで実施することがあります。新年度のゼミを開く際に、私は学生たちと面談をしましたが、その時もオンラインミーティングツールのZOOMを使いました。不思議な現象が起こったのは、ゼミが始まってからです。

学生の何人かは、自宅からネットにつないで、ゼミに参加します。私との1対1の面談では、お互い顔が見えるようにマスクをはずしていました。ところがゼミが始まると、画面の向こう側の景色が少し変わります。一部の学生は、自宅にいるにもかかわらず、マスクを着けているのです。

同じ部屋に誰かがいるのであれば、感染対策をしているのだなとわかるのですが、その部屋にいるのは学生一人だけです。私は学生たちに、マスクを「着けてください」とも「はずしてください」とも言っていません。気にしているつもりもなかったのですが、「この学生はマスクを着けている」といったことは事実として目に留まります。

コロナ前は、風邪でもないのに対面でマスクをするのは相手に失礼かもしれないと、感じるのが普通でしたので、違和感というほどではないのですが、「あ、マスクをしていることも彼らには普通なんだ」という驚きを私は感じました。一方の学生たちは、すでにマスク生活に順応しているのか、マスクを着けることにはあまり違和感もないようです。ゼミの最初のうちは、数人がマスクを着けているだけです。

もっと驚いたのが、それを見た自宅参加の別の学生が、途中からマスクを着け始めたのです。

■着けなくてもいいのに着けるのはなぜか

基本、ゼミではカメラをオンにしてディスカッションを行いますので、参加者全員の顔が画面に映し出されます。マスクを着けても着けなくてもいいなら、「着けたい」ということかもしれません。各自の周囲にはおそらく他に人はなく、感染リスクがないのに、なぜ学生たちはマスクを着けるのか。私には不思議でした。

自分が知らないだけで、自宅でのマスクの着用が奨励されている? 家族の仕事の事情などで感染管理が厳しく、自宅でもマスクを着けている? 顔を見られるのが恥ずかしいから? みんなが着けているから、自分も着けたほうがいいかなと思った?

ゼミの時間は、学生との会話に集中しているので気にならないのですが、ゼミが終わり、自分もマスクを着けたりはずしたりする中で、オンラインゼミでもマスクを着けている学生たちの行動が、ますます不思議に思えてきたのです。そして、外に出ていろいろな人を見ているうちに、こう思うようになりました。

「もしかして、うちの学生だけじゃなくて、多くの日本人はもう、マスクをはずしたくないのでは?」

マスクと女性
写真=iStock.com/itakayuki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/itakayuki

■マスクをしていたほうが魅力的な顔に見える

さて、学生がマスクを着け続けることに時代の変化を感じるところもありますが、実はコロナ前から「だてマスク」という言葉があり、インフルエンザや花粉症の流行とは関係なく、マスクを着ける若者は少なからずいました。

心理学的な観点からすると、それは「人に見られたくない」「人と話したくない」といったように、外部とのコミュニケーションからなるべく距離をとりたい心理から生まれるようです。確かに、誰しもそういうことはあるでしょう。マスクで顔が覆われていると、外部から守られている安心感があるという話は、何となく理解できるところです。そしてこのだてマスクには、もう一つ大きな効果があります。それは、マスク美人、マスクイケメンに見られやすいということです。

マスクをした人を見ている側の人間は、マスクで隠れている部分を減点法ではなく、理想を想像して加点法で評価するからなのだそうですが、それを裏付けるような実験が読売新聞で紹介されていました(*1)。実験をしたのは、関西国際大学の心理学部の男子学生4人です。彼らは、何人かの男女の顔の下半分を隠した画像を作り、元画像と比べてどちらが魅力的に見えるか、36人の学生に評価してもらいました。その結果、下半分を隠していたほうが魅力的に感じられるという結果を得たのです。

(*1)読売新聞オンライン「【マスクと顔】<上> 隠した方が魅力的? 顔を『盛る』SNS世代と好相性」

■多くの人がマスクを外したときに“ギャップ”を感じる

ゼミの講師を務めた富田瑛智さんが読売新聞に答えた説明によると、「人間は脳で『節約的な想像の仕方』をする。それが影響している」とのこと。つまり見えない部分を想像する際に、顔の歪みや肌の荒れを排除して、整った顔で想像するので美人やイケメンに見えやすいのだということです。今の時代はルッキズム(外見至上主義)という外見による差別をなくそうという動きが顕著ですが、やはり自他の外見が気になるのは生物としての脳の働きでもあるようです。

では、マスクをはずした時のギャップについて、いったいどれだけの人たちが気づき、意識しているのでしょうか。コスメ商品の販売などを手掛ける福美人という会社が、2021年6月に、全国の20代・30代男女1070人を対象に行った調査によると、「異性がマスクをはずした時の印象に“ギャップ”を感じたことはありますか?」という質問に対して、「よくある」または「たまにある」と答えた人は、男女ともに6割を超えていました(*2)

そのギャップの中身を見ていくと、笑顔が素敵だったというポジティブなものから、「マスク美人が多い」「マスクしているとイケメン。はずすと残念」といったものまで、さまざまです。マスクを着けたりはずしたりするだけで、自分が知らないところで期待されたりがっかりされたりしているかもしれないと考えると、それはそれでちょっとしたストレスですが、その場限りの対面であればマスク美人やマスクイケメンに見られるのは嬉しいことでしょう。

しかし、新しく友達や仕事仲間になった人と初対面の時からマスクを着けた状態で接している場合、マスクをはずす時のハードルを上げてしまう側面もあります。

マスク効果により、相手が自分の顔を見た時に、理想の顔を想像してしまう。そのギャップにみんなが気づき始めているために、自分の素顔を見せづらい心理が働いてしまうケースも、これからは増えそうです。

(*2)PR TIMES「【実はあなたも見られている⁉】男女別 異性がマスクを外した時のギャップを調査!マスクを外した顔でつい見てしまう部分とは…?」

■彼氏の前でマスクを外したことがない女子中学生

関西地方には、『探偵!ナイトスクープ』(ABCテレビ)という人気番組があります。毎回探偵役の出演者が、視聴者からの依頼に応えていくというものですが、2022年9月の放送で「マスクを絶対に外さない中1の娘」という、マスクに関連するテーマがあったので紹介します。

依頼者は40歳の女性です。中学1年生の娘が、マスクを絶対にはずさない。どのくらいの徹底ぶりかというと、中学に入学してから、家以外では一度もはずさないというのです。唯一昼ごはんの時はマスクをはずすものの、それも食事を口に運ぶ瞬間だけで、すぐに元通りマスクを着けるのだとか。ただ、これだけでは番組になりません。

この女子中学生には、付き合って2カ月の彼氏がいます。その彼氏の前でも、一度もマスクをはずしたことがないというのです。彼女は、マスクをはずして素顔を見せることで、彼氏にがっかりされるのではないかと心配していました。まさにマスクのギャップを恐れている状態です。そして彼女は、彼氏がマスクをはずした顔を見たこともありません。お互い、素顔を知らない同士だったのです。

ここで探偵が動きます。二人にマスクを取ってみようと提案。マスクをはずした二人に、果たしてどんな結末が訪れるのか。ここから先はネタバレになってしまうため伏せますが、私も「いったいどうなるんだ」と思いながら見入ってしまいました。

マスクを空中に投げる
写真=iStock.com/Lepro
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Lepro

■10代の7割が「マスクを外さなくても付き合える」と回答

この番組を見た人の中には、「素顔を見たことがない同士で交際するってあるものなの?」と驚いた方も多かったと思います。

宮口幸治『素顔をあえて見せない日本人』(ビジネス社)
宮口幸治『素顔をあえて見せない日本人』(ビジネス社)

人間、見た目だけではないと言うものの、交際する異性の素顔を見ないままの交際は、なかなか考えにくいものです。しかし、若者世代は違うようです。『サタデープラス』(TBS系)という情報番組で、興味深い調査が行われていました。マスクを取った相手の顔を見ずに付き合うのはありかなしか、番組が10代の男女を対象に調査したところ、なんと10代の71%は、マスクをはずした顔を見なくても付き合えるという結果でした。

素顔が見えないからこそ、中身が重視される。そして中身をきっかけに男女の交際がスタートする。そんな時代が始まろうとしています。素顔を見ない期間が長ければ長いほど、いつか顔を見せる時のハードルは高くなりますが、それを乗り越えられるかどうか、カップルの正念場と言えるかもしれません。そこで別れるカップルもいるでしょう。しかし素顔を見せるという壁を乗り越えた時に、二人の絆はより深まるのかもしれません。

■「外見よりも内面」という価値観に変化しつつある

外見から入って、交際しながら中身を評価するか。中身から入って、交際しながら外見を評価するか。プロセスが逆になることで、人々の恋愛模様も変わっていきそうです。かつて日本でもサングラスがイケメンアイテムの一つとして流行りました。「かっこいいと思ったのに、はずしたらがっかり」などと女性が言っているのを聞いたものです。時代によってイケメンアイテムは変わります。

ただ、外見が理想とちょっとずれていても好意が続くかどうかがその人の内面や性格の相性にかかっていることは、いつの時代も変わらないと思います。外見をよく見せておけるうちに、内面をしっかり相手に伝えておくというのも、これからの恋愛テクニックかもしれません。

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宮口 幸治(みやぐち・こうじ)
児童精神科医/立命館大学大学院 人間科学研究科 教授
立命館大学教授、(一社)日本COG-TR学会代表理事。京都大学工学部を卒業し建設コンサルタント会社に勤務後、神戸大学医学部を卒業。児童精神科医として精神科病院や医療少年院に勤務、2016年より現職。困っている子どもたちの支援を行う「日本COG-TR学会」を主宰。著書『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)はベストセラーに。コミック版ではシナリオライターとして第6回さいとう・たかを賞を受賞。医学博士、臨床心理士。

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(児童精神科医/立命館大学大学院 人間科学研究科 教授 宮口 幸治)

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