ややこしい上司の意図をつかみ、やる気のない部下を鼓舞する日々…そんな人が評価を得るための秘策
プレジデントオンライン / 2023年5月8日 10時15分
※本稿は、岡本祥治『LIFE WORK DESIGN』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■現実になりつつある「未来の働き方」
これからの世界の働き方は、「企業依存型」から「個人としての働き方」へ、大きく変わっていきます。「『これが自分のスキル!』という武器(ポータブルスキル)を持てば、企業に依存せずに、自由なフリーエージェントとして生きていける!」。そんな時代の移行期に、私たちは生きているのです。
ビジネス大国アメリカではドライなリストラや、雇い止めも頻繁に行われますが、その根底には次のような考え方があります。
それはすなわち、スキルとは「企業」に紐づくものではなく、「個人」に紐づくものであるということです。
人々はA社、B社、C社を渡り歩く中で、自らのスキルを磨き、進化・強化させていくという共通の認識を、彼らは持っているのです。こうした「未来の働き方」が、いよいよ日本でも静かに浸透し始めています。
■「ポータブルスキル」で、人生を豊かに旅していく
ではこの、「ポータブルスキル」をより細かく定義すると、どういうことになるでしょうか。それは、「社内外問わずどこでも活かせる汎用かつ万能スキル」です(厚生労働省の定義では「職種の専門性以外に、業種や職種が変わっても持ち運びができる職務遂行上のスキル」とされています)。
従来の日本では、弁護士や会計士など一部の専門家を除き、一般的なホワイトカラー層の「スキル」は会社と紐づけられ、その企業でのみ実践可能なものでした。しかしいまや、スキルは「持ち運び可能」なものだということに社会全体が気づき始め、個人の転職や副業、フリーランス化の際、「外部でも応用できる」と考えられるようになってきたのです。
例えば、イラストレーターやカメラマンなどは、自らの作品をポートフォリオとして整理して、それを新規顧客開拓の際に提示することで仕事を得てきました。それと同様のことが、今後ホワイトカラーのビジネス業界でも繰り広げられていくということです。
■業界共通の「仕事のやり方」
象徴的なのは履歴書です。これまでは企業名や部署名、肩書ばかりを羅列するものでしたが、これからは「会社でどういうミッションを担っていたのか」「どのようなプロジェクトを企画・推進したか」など、あなた個人としての会社との関わり方、貢献の仕方が重視されるようになっていくはずです。
一口で「仕事」といっても、製造やサービス、飲食や広告、物流や小売りなど様々なジャンルがありますが、業界を超えて共通する「仕事のやり方」というものも存在しますよね。
厚生労働省の「ポータブルスキル見える化ツール(職業能力診断ツール)」では、「ポータブルスキル」が分かりやすく整理されています。
■2つの「ポータブルスキル」
「ポータブルスキル」には主に2つの分野の能力が存在します。1つめはダイレクトに「仕事の仕方」について、2つ目は仕事に従事する人々をまとめ上げる「人との関わり方」についてです。
まず、「仕事の仕方」については5つの要素とされています。
取り組むべき課題やテーマを設定するために行う情報収集やその分析の仕方
●課題の設定
事業、商品、組織、仕事の進め方などの取り組むべき課題の設定の仕方
●計画の立案
担当業務や課題を遂行するための具体的な計画の立て方
●課題の遂行
スケジュール管理や各種調整、業務を進めるうえでの障害の排除や高いプレッシャーの乗り越え方
●状況への対応
予期せぬ状況への対応や責任の取り方
自分の毎日を振り返って、「あるある」と大きくうなずかれた人は、すでに立派な「ポータブルスキル」を持っているということです。
続いて「人との関わり方」については、4つの要素とされています。
経営層・上司・関係部署に対する納得感の高いコミュニケーションや支持の獲得の仕方
●社外対応
顧客・社外パートナー等に対する納得感の高いコミュニケーションや利害調整・合意形成の仕方
●上司対応
上司への報告や課題に対する改善に関する意見の述べ方
●部下マネジメント
メンバーの動機付けや育成、持ち味を活かした業務の割り当ての仕方
仕事は1人ではできません。経営層、各部門長、部署内メンバーや部下に加え、プロジェクトワークとなればプロジェクトマネージャーや部門を超えたチームメンバーとも仕事をします。またクライアント企業、アウトソーサーなど外部のステークホルダー各社や監督官庁とのやり取りも日々行っているのではないでしょうか。
こうした多様な「人との関わり方」を遂行する力は、どこにでも活かせる汎用かつ万能スキル、「ポータブルスキル」なのです。
一見、「え、こんなの毎日やっているよ?」というような日常業務ともいえるでしょう。
■仕事力は「スキル」×「経験」
もちろんこれ以外にも、経理や広報、プログラミングやITスキル、プロジェクト管理などの立派な名前がつく「スキル」の研鑽が望ましいのは自明ですが、そうした「これ!」といったスキルが現在なかったとしても、「自分にはポータブルスキルがない」と思い込む必要はないのです。
ややこしい上司の意図をつかみ、理解し、モチベーションがダダ下がりの部下を鼓舞し、悩みを聞いて伴走すること、自分たちが直面する真の課題は何なのかを知り、情報を集め分析すること、課題を経営層に訴え、人的・マネー資本を獲得し、説得力のある資料を作成すること……、こうした一つ一つの能力は地味ながらも、他社でも十分通用する「ポータブルスキル」となります。
仕事力は、持てるスキルと経験の掛け合わせです。複数の「できること」を掛け合わせてこそ、他者にはない自分だけの強みを持つことができるのです。転職や副業・兼業を重ねていけば、あなたの“履歴”には新たなスキルや分野が書き込まれていくでしょう。
次のステップや新たなステージに到達するための、自分だけの大切なチケット。それが「ポータブルスキル」です。
■スキルはあなたの人生を豊かにする
このチケットは、20代から始まり、30代、40代で新たな項目が書き加えられ、50代、60代、70代と内容がさらに深まっていく大切な人生の旅の同伴者です。ご自身が歩いてきた履歴、歩みの証拠です。
このチケットを確認することで、新しい企業、仕事の依頼主はあなたの経験、スキル、知識を読み解いていきます。どうかその時に、書き込める内容が、たった1社だけ、1つの肩書だけという寂しい事態には陥りませんように。豊かに、幅広く、社会に貢献してきた軌跡がうかがえるように、あなただけの「ポータブルスキル」を磨いていってほしいのです。
例えば、もしあなたが通勤列車の定期1枚しか持っていなければ、思い立ってすぐに旅することはできません。山登りも、船に乗って大海原に乗り出すこともできません。毎日毎日、決められた通勤ルートを往復するだけの日々。それが「1社でのみ働く」ことのイメージです。堅実ではありますが、果たして、楽しい旅(人生)と言えるでしょうか?
■場所・時間に左右されない「柔軟な働き方」
たしかにかつては、「60歳まで働き、ほどほどに余生を楽しんだら、ピンピンコロリで人生をおしまいにする……」が理想的な人生とみなされてきました。そうしたシンプルな人生ならば、「通勤列車の定期1枚」でも十分対応できたかもしれません。
でも、現代を生きる私たちは、定年後に、第二の社会人生活を始めることになります。新型コロナウイルスの感染拡大以降、地球規模でステイホームや自宅でのリモートワークが一気に進みました。これまで長時間労働、長時間通勤、職場の人間関係で疲れ果ててきた日本人にとっては特に、生活の大変革だったはずです。
「これまで毎日、通勤地獄を味わってきたけど、家でも仕事はできるじゃないか」
「通勤にかけてきた膨大な時間が、リモートワークになった瞬間、自由時間になった」
「職場の複雑な人間関係に悩まされず、シェアオフィスで集中できるようになった」
いろいろな発見があったでしょう。これまでの仕事一辺倒の生活を振り返り、QOL(QualityOfLife)の向上が頭をよぎった人も多かったはずです。
「こういうふうに、夕食を家族で囲めるのはいいな」
「在宅でオンラインなら、子どもの送り迎えや夕食の支度も随分楽になる」
「コロナ以降も、出勤する必要はないのではないか」
場所や時間に左右されない柔軟な働き方が、「幸せな人生100年」につながっていく実感は、そんな皆さんも感じ始めているはずです。そんな幸せな人生を手に入れるために必要なチケットこそが、「ポータブルスキル」なのです。
■「組織に入ってくるのは、働いたことのない若手」だけ
これまで日本の産業は、長らく新卒一括採用・終身雇用制度を守り続けてきました。組織に外部から入ってくるのは、常に「働いたことのない新人若手」であり、ミドル層もシニア層も、自社のことしか知らない人間ばかり。そんな集団が、世間をアッと言わせるようなイノベーションを起こせるかといえば、難しいのは当然です。
私自身は、必ずしもこれらの働き方自体が悪とは思いません。日本は職人を多く育んできた国です。若い頃に親方の下につき、コツコツと生涯をかけて経験と知識を積み重ねる。そこに職業的な美意識を持つ国民性もあるのでしょう。企業側も、被雇用者と長く付き合い、社員の家族も大切にする独特な企業文化を育んできました。
一方で、そうした働き方は、近年の経済や産業構造にマッチしなくなってきています。ビジネスモデルや商品、社会の価値観が非常に速いスピードで置き換わる時代に、「新卒一括採用」「終身雇用制度」を貫いていては、新しい付加価値やビジネスを生み出すことが難しいからです。
■自分のスキルが輝く場所はどこかにある
でも、これは非常にもったいない話です。本来、優秀なはずの日本人が、たった1つの会社で職業人生を全うすることで、知識やスキルを墓場まで持って行ってしまうからです。個人の観点から見ても、産業界全体から見ても、これはとても大きな損失です。これこそ「人材の流動性」が生まれないことの、最大の弊害と言えるでしょう。
一人のビジネスパーソンが仕事を通じて得る知識やノウハウは、いわば原石のようなものです。もしかしたらその“石”は、その会社では常識的なもので、まったく代わり映えしない最低限のスペックに見えるかもしれません。でも、視点を変えれば、その石は磨けば光る“宝石”になるかもしれないのです。
今いる場所では、自分の能力は単なる“石”に過ぎないけれど、働く場所を変えれば、それは“宝石”になるかもしれない。だからこそ、人は企業や業界、土地を移動していかなくてはならないのです。
自分の“石”を必要としている人々はどこにいるのか。どこに行けば、この“石”はさらに磨かれ、輝き始めるのか。自分の持つ「万能チケット」が、どこにでも通用するものになるためには、どうすればいいのか。だからこそ私は皆さんに「副業」「兼業」「転職」をお勧めしているのです。
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みらいワークス代表取締役社長
1976年生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)株式会社に入社。金融、通信業界などのプロジェクトに参画した後、ベンチャー企業の経営企画部門へ転職。海外・日本47都道府県などの旅を通じて「日本を元気にしたい」という想いを強め、2007年に起業、2012年に株式会社みらいワークスを設立。働き方改革やフリーランス需要の拡大とともに急成長し、2017年に東証マザーズへの上場を果たす。現在は、独立プロフェッショナルのためのビジネスマッチングサービス『フリーコンサルタント.jp』、転職支援サービス『プロフェッショナルキャリア』、都市部人材と地方企業をマッチングする副業プラットフォーム『Skill Shift』、地方創生に関する転職マッチング・プラットフォーム『Glocal Mission Jobs』などを運営するほか、45歳以降のセカンドキャリア構築を支援する『HRソリューション』、企業・自治体のオープンイノベーションを支援する『イノベーション・サポート』といったソリューションを展開するなど、事業を通じて「『人生100年時代』を生き抜く為の社会インフラ創造」「東京一極集中の是正」「人材流動性の向上」といった社会課題の解決に取り組む。
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(みらいワークス代表取締役社長 岡本 祥治)
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