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元国税専門官が証言…「自宅訪問する時間帯」と「家の中で必ず足を運ぶ場所」と「目を光らせるモノ」

プレジデントオンライン / 2023年3月15日 11時15分

出典=東京国税局の機構

相続税調査をする税務署の職員は富裕層宅に出向いた際、どのように仕事をするのか。元東京国税局の国税専門官でフリーライターの小林義崇さんは「午前中は相続人の方から聞きとり調査をして、お昼の休憩を挟んで、午後からは「現物確認」をするのが基本的な流れ。この現物確認がとても重要な作業です」という――。

※本稿は、小林義崇『元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

■富裕層が税務署員に必ず「折り返しの電話を」と言うワケ

「電話を折り返してください」

都内の税務署に若手職員として勤務していた私は、相続税について相談したいという女性から、たびたび電話を受けていました。その女性は、いつも名前と電話番号を私に告げるや否や折り返しを求めて電話を切るのです。

最初に相談を受けて話を聞いたとき、ざっと計算しただけで、その女性は数億円単位の財産を相続しており、確実に相続税の申告が必要であることがわかりました。

そのことを説明してから、たびたび電話で疑問点を尋ねてくるようになったのですが、そのたびに折り返しの電話を求めてきたわけです。

ある日、その女性との長電話を終えた私は、近くの席にいた50代のベテランの先輩に、「億単位の財産を相続しても、電話代が惜しいんですかね」と、ついこぼしてしまいました。

するとその先輩は、「コバちゃん、わかってないね。そういう奥さんがいたから、億単位の財産が貯まったんだよ」と笑い飛ばしたのです。まだ新人だった私にはピンときませんでしたが、数十年にわたって相続税調査を経験した先輩にとって、お金持ちの人が折り返し電話を求めることは、けっして不思議なことではなかったのです。

相続税調査をはじめて経験したときも、富裕層の質素な生活ぶりにたびたび驚かされました。当時の私にとって、富裕層の生活など“未知の世界”です。私が育ったのは福岡県北九州市の市営団地が建ち並ぶエリアで、周囲にお金持ちはいませんでした。

私にとってお金持ちのイメージといえば、漫画やアニメで見た『おぼっちゃまくん』の世界観です。

家には執事やお手伝いさんがいて、欲しいものはなんでも買ってもらえる。そんな自分とは別世界の人々だとしか想像できなかったのです。

はじめての相続税調査で富裕層の自宅を訪問するまでは、「億万長者だから、きっと派手な生活をしているだろう」と、不謹慎ながら豪勢な生活ぶりに触れることにワクワクしていたのですが、実際に調査に入ると、その期待はあっさりと裏切られました。

拍子抜けするほど、普通の暮らしぶりだったのです。相続税調査は、基本的に公務員の勤務時間内の朝10時頃から夕方の4時頃まで行われます。訪問先からは迷惑がられることが多いのですが、仕事なので仕方ありません。

■相続税調査…自宅訪問してからの“段取り”

午前中は相続人の方から聞きとり調査をして、お昼の休憩を挟んで、午後からは「現物確認」をするのが基本的な流れです。

現物確認というのは、相続税申告に関する資料などを確認する作業のことです。具体的には、預金通帳や土地の権利書などに目を通して、申告内容に漏れがないかをチェックします。そして、最後にあらためて質問をするなどして、その日の調査は終了します。

私は上司から指導されて、「現物確認のときは資料をもってきてもらうのではなく、資料の置き場所に案内してもらう」ということを徹底していました。

バインダーに整理された資料
写真=iStock.com/nirat
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nirat

というのも、資料をもってきてもらうと、資料の一部を隠されるおそれがあるからです。そのため、あえて資料の置き場所まで案内してもらいつつ、部屋のなかに怪しいものがないかどうかもつぶさにチェックするのです。さらには、その部屋に案内されている途中、ほかの部屋もさりげなく見て、骨董品や金庫などの財産がないか、目を光らせます。

このような経験を通じて感じたのが、富裕層の家には、あまりモノがなく整然としているということでした。

広い家が多いものの、高級家具や骨董品がたくさん並んでいるわけではありません。普通の家よりも、むしろスッキリした印象なのです。

富裕層に対する質素な印象は、その後、何度となく相続税調査をしてからも、大きく変わることはありませんでした。

結局、東京国税局の職員を退職するまでの13年の間に、何台もの高級車やプール、プライベートジェットといった、いわゆる“お金持ちアイテム”を目にすることは一度もありませんでした。

国税職員が調査相手の暮らしぶりに目を向けるのは、遺産の金額を推測するヒントになるからです。

たとえば「被相続人が死亡する3年前に、不動産を売って1億円を手にした」という情報を得ていたとしましょう。すると、国税職員はその1億円が死亡日にどれくらい残ったかを推測するために、生活費などをヒントにします。

だからといって、いきなり「毎月の生活費の支出を教えてください」といっても警戒されますから、亡くなった被相続人の通帳を見せてもらったり、趣味を聞いたりしながら、生前のお金の使い方を推し量ろうとするのです。

小林義崇『元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者』(ダイヤモンド社)
小林義崇『元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者』(ダイヤモンド社)

話を聞いて豪華な生活をしていることがわかれば、「生前に財産を使い切ったのだな」「これ以上調べても相続税の申告漏れ財産はなさそうだ」と納得するのですが、そのようなケースは稀(まれ)です。

むしろ、年金や不動産賃貸などによる収入以内に生活費を抑えて、亡くなる直前まで資産を増やし続けていたケースが少なくありませんでした。

「お金を稼ぐ」ことが富裕層の条件と思われがちですが、「お金を守る」ということにも力を入れなければ、富裕層として生涯を終えることは不可能です。電話代のような細かい費用であっても、徹底して支出を避ける意識こそが、富裕層の第一条件なのかもしれません。

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小林 義崇(こばやし・よしたか)
フリーライター
国税局の国税専門官、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所に勤務。2017年、金融関係のフリーライターに転身。著書に『すみません、金利ってなんですか?』(サンマーク出版)、『あんな経費まで! 領収書のズルい落とし方がわかる本』(宝島社)などがある。

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(フリーライター 小林 義崇)

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