81%の市議会は「パソコン持ち込み」がNG…地方議員が一般企業で通用しない人材ばかりになる根本原因
プレジデントオンライン / 2023年3月14日 18時15分
■「無投票どころか、定員割れもあり得る」
2023年は市町村や都道府県などで首長や議会の選挙が行われる「統一地方選挙」の年である。選挙と言えば、首長や議員になりたい多くの候補者から議員定数の人数だけを選ぶために行うのだが、このところ全国各地で異変が起きている。候補者が定員を超えずに「無投票」で当選者が決まるケースが相次いでいるのだ。
大分県南東部にある津久見市。江戸時代から続く石灰石鉱山の町も、そんな自治体のひとつだ。ご多分に漏れず人口減少が続き、今や1万5896人となった。
「今回も無投票になるのだろうか」。市民は顔を合わせると、そう小声で話す。4月23日に予定される市議会議員選挙に立候補者が集まるのかが懸念されているのだ。
というのも前々回の2015年と前回の2019年は定員14に対して立候補者14人と、2回連続で無投票になった。今回は、その定員を12に減らしたのだが、それでも懸念は消えない。「無投票どころか、定員割れもあり得ます。市議会議員のなり手がいないのです」と地元の有力者はつぶやく。
■「おいしいポスト」の時代は終わった
2022年以降だけでも、奥州市、宇城市、常陸大宮市、知立市、美濃加茂市、瑞浪市などの市議会議員選挙が無投票となった。町村の議会になるとさらに多い。
かつては、「無投票」と言えば、事前の候補者調整や、特定の有力者しか立候補できない暗黙の了解があるケースがほとんどだった。時には立候補調整に金銭授受が発覚、事件化することすらあった。議員は地域の名士たちが代々就く「家業」で、世間相場からすれば高い議員報酬のほか、公共事業に関する利権もある「おいしいポスト」だったのだ。
ところが、昨今の「無投票」の多くはまったく事情が違う。報酬は下がり、公共事業も激減して利権も消える中で、「うまみのないポスト」になったこともあるが、報酬の割には苦労の絶えない仕事になったという面も大きい。
というのも、自治体は今、山積する問題に直面している。少子化による人口減少で税収が減少、財政が悪化して老朽化した公共設備の更新もままならない。一方で高齢化に伴って福祉関連の予算は増える一方だ。かつてのように、議会が増える予算を分配すれば良い時代は議員も気楽だったが、足らない予算を分配しなければならない時代になって議員も苦しい立場に立たされるようになった。特に規模の小さい市町村の場合、議員はまったく魅力のない職業になりつつある。
■全国815市の平均報酬額は42万3000円
例えば、全国市議会議長会が2022年8月にまとめた「市議会議員報酬に関する調査結果(令和3年12月31日現在)」によると、全国に815ある「市」の議員報酬の平均額は42万3000円。このほかに期末手当や政務調査費などが支給される。一見、高給取りのようにも見えるが、国会議員と違って秘書や事務員を雇えば自腹である。選挙のビラや印刷物などにも多額の費用がかかる。議員報酬も5万人未満の287の市だと平均は33万4000円。中には北海道夕張市のように月額18万円で、期末手当を合わせても年間461万円というところもある。
地方議会の議員の多くは兼業である。農家や建設業などが多いが、「最近は本業に力を入れたいので議員を辞めるという若手が増えた」と別の過疎地域の議会関係者は言う。
同じ全国市議会議長会がまとめた「市議会活動に関する実態調査(令和3年中)」によると、多くが年に4回の定例議会を開いており、年間平均の88.8日の会期が設定されている。最低、年間の4分の1は議会に拘束されるわけだ。しかも、議会は日中に開かれるのが一般的なので、本業に大きく支障をきたすことになる。そのため「専業」で議員をやっている人も少なくない。
■「政治は男の役目」という認識が強い
しかし、専業となれば、それなりの報酬がなければ生活が成り立たないし、議員としての体面も保てない。「議員報酬をもっと引き上げるべきだ」という声もあるが、財政が厳しさを増す中で、議員報酬の引き上げに賛成する住民は少ない。
2022年12月末。内閣府の地方制度調査会が答申をまとめ、岸田文雄首相に提出した。「多様な人材が参画し住民に開かれた地方議会の実現に向けた対応方策に関する答申」と題したもので、「女性議員が少ない議会や議員の平均年齢が高い議会において無投票当選となる割合が高い傾向」にあるとして、女性や若手など多様な人材が議会活動に参画する必要性を強調している。
地方では今でも、高齢者層を中心に、政治は「男の役目」だという認識が強いところが多く、女性議員へのセクハラ行為やセクハラ発言もしばしばニュースに取り上げられるなど、各地で問題が表面化している。そうした「意識」や「環境」を変えて、女性の立候補を促進すべきだとしている。
■「家業」化した専業議員が牛耳っている
多様な人材の参画を求める具体策としては、「夜間・休日等の議会開催」や「通年会期制の活用による柔軟な会議日程の設定」などを掲げている。
もっとも前述の「実態調査」によると、2021年中に「休日議会」が開催されたのは山形県上山市や東京都国分寺市などの7議会7回だけ、夜間議会は大阪府大東市の1回だけだった。
欧州の地方議会では、本業を持った市民が議員となり夜間に議会を開催している例が多くある。コミュニティーに直結した問題を解決する議会には「専業」の議員ではなく住民自身が携わるべきだという考えも広く浸透している。そうしたフルタイムで働いている人が議員を兼務しようと思えば、議会の開会は休日や夜間ということになる。
そうした考え方は日本でもかなり前から紹介され、必要性が叫ばれているもの、「家業」化した専業議員が議会を牛耳っていることもあり、議会改革はほとんど進んでいないのが実情だ。
■「パソコン持ち込み可」の市議会は19%
答申ではまた、企業に雇用されているビジネスパーソンなどが立候補するのが難しい現状を変えることが必要だとして、「就業規則において、立候補に伴う休暇制度を設けることや、議員との副業・兼業を可能とすること等について、各企業に要請していくことを検討すべきである」としている。
新型コロナウイルスの蔓延以降、世間ではオンライン会議が一般化しているが、議会にオンライン会議を導入しようという動きはほとんどない。小学校高学年にはタブレット端末が全員分支給されている一方で、市議会でタブレット端末を導入しているのは815市のうち423市で52%に満たない。本会議場に全員がパソコンを持ち込むことが原則になっている市はわずか13。本会議場へのパソコン持ち込みを認めている市議会は155と19%に過ぎない。
![ずらっと並ぶノートパソコン](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/1/1200wm/img_41d65c49c97a0bfdad97105afd6a58da313959.jpg)
そんな状況だから、議会へのオンラインでの出席などはほとんど実現していない。答申でも「議会へのオンラインによる出席」についても触れられているが、リアルで出席しないと出席とは認められないとする意見などと併記する書き方に終始していて、明確にオンライン会議を認めるようには求めていない。
■役所幹部の定年後のポストになりつつある
このままだと地方議会はどうなっていくのか。
定年退職した高齢者が議員に立候補する傾向がますます強まるという見方もある。定年後の年金受給者ならば、少ない議員報酬でも十分にやっていけるというわけだ。
一方で、有権者も高齢化する中で、議員が高齢者ばかりになれば、若者や女性向けの政策や予算配分が軽視され、なおさら若者や女性が自治体から離れていくことになりかねない。
さらには、「役所幹部の定年後のポストになりつつあります」という声もある。役所の幹部ならば市の政策などに精通しているため、何の障害もなく議員が務まるというのだ。だが、そうなれば、ますます市議会が市民目線から離れていくことになりかねない。
このままでは、民主主義の根幹であるはずの地方自治が、根底から崩れていくことになりかねない。
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経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。
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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)
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