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東京五輪の大赤字も同じ構造…「税金ならいくら使ってもいい」で50年前の計画を進める新幹線延伸という罪

プレジデントオンライン / 2023年3月16日 15時15分

第64代内閣総理大臣、田中角栄氏(写真=首相官邸公式サイト/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

国家プロジェクトとして開催された東京オリンピック・パラリンピックには、総額で3兆6845億円の税金が投じられた。立候補時には7340億円だったのに、なぜここまで膨れあがったのか。『覇王の轍』(小学館)で、日本の鉄道行政が抱える問題を取り上げた作家の相場英雄さんは「現在進んでいる新幹線延伸計画も同じ構造にある。日本は一度はじまったら止まらない国なのだ」という――。(後編/全2回)

■50年前の「日本列島改造論」はいまだに生きている

(前編から続く)

――『覇王の轍』は、日本各地の新幹線延伸計画の背景には、いまだに田中角栄の“日本列島改造論”が生きていると言及されていますね。

田中角栄は1972年に発表した日本列島改造論で首都圏と地方の格差解消を目指し、全国に9000キロにわたる新幹線鉄道網の建設を計画しました。

実は、ぼくが生まれてはじめて見た政治家が田中角栄だったんです。

ぼくは角さんのお膝元だった新潟県三条市で生まれ育ちました。確かあれは、昭和46年の参院選です。候補者の応援演説にきた角さんを見た。ヘリコプターで地元の競馬場に降り立った角さんは、まだローターがまわっているのにもかかわらずマイクも使わずに「よお!」とあいさつした。その声がよく通るんですよ。

まだ子どもでしたが「このおじさんはすげえな」と思ったのを覚えています。いまになって振り返るとぼくは日本列島改造論の恩恵を受けていた。新潟県に高速道路は真っ先にできたし、中学時代には上越新幹線が通りましたから。

■新幹線開通でむしろ過疎化は加速する

とはいえ田中角栄はすでに歴史になっていると考えていました。

政治記者をテーマにした『トップリーグ』という小説の取材ではそれまで口が堅かった関係者たちが「もう歴史になったから」と日本列島改造論や田中角栄について、ざっくばらんに語ってくれたんです。

でも今回取材してみると田中角栄の日本列島改造論は歴史どころか、いまだに生きていた。

東海道新幹線や山陽新幹線はドル箱で常に満席ですが、北海道新幹線などは空気を運んでいると揶揄されるほどガラガラで利用者がいません。それなのに、どうして日本全国を新幹線で結ぶのか。それは、50年前に計画された日本列島改造論に従って、延伸工事が行われているからです。

――人口減少など社会状況が変化しているにもかかわらず、50年前の計画に沿って事業が行われている事実に驚かされます。

本当にそうなんですよ。JRは新幹線の駅ができると町が栄えると喧伝していますが、現実には過疎化が進んでシャッター通りになる町がほとんどです。新幹線が開通すると若者が都会に出て行きやすくなる。

新幹線から話はそれますが、ぼくが毎年遊びに行く沖縄の伊良部島でも似たような現象が起きています。2015年に伊良部島と宮古島をつなぐ伊良部大橋が架かった途端に過疎に拍車がかかった。若者がみんな地元を離れて、宮古島に行ってしまうからです。

■「余った予算は国庫に戻す」という発想はない

――新幹線の延伸計画に疑問を呈する声はないのですか?

取材した限り、関係者からそうした話はでてきませんでした。その理由は、利権の恩恵にあずかる組織の保身です。あらかじめ決まった計画や組織の方針に対して、異議を唱えることができる雰囲気ではないのでしょう。

通信社時代、官庁を取材していて、こんな例え話を聞いた経験があります。

防衛省で年度末に予算が余ったとします。予算を使い切るためだけに、官僚がカバンをひとつ持って自衛隊機で青森の三沢基地に行き、何もせずに帰ってくるというんです。ぼくが「余った予算は国庫に戻せばいいのではないか」と聞くと「そんなことしたら、来年度の予算が削られてしまうじゃないか」という答えが返ってきました。

新幹線の延伸計画が50年も見直されずに進んでいる根底にも同じ発想があるはずです。

すでに新幹線建設の予算がある。新幹線の駅を誘致できれば、政治家も選挙区での評価が上がる。地元の建設業者にも金が落ちる……。複雑な利権構造ができあがっているから、計画を見直そうという人は現れない。

相場英雄さん
撮影=藤岡雅樹
相場英雄さん - 撮影=藤岡雅樹

■「一度動き出したら止まらない国」を象徴している

見直しについて例に挙げるとすれば、東日本大震災の被災地です。

3・11では鉄道も被災しました。いま気仙沼市と大船渡市を結ぶ大船渡線を復旧する代わりにバスを走らせています。鉄道を復旧させたとしても採算が見込めないから、公共のインフラを維持するためによりコストがかからないバスを運行している。

なぜそれが新幹線でできないのか。いまのままでは近い将来に赤字が膨らんで立ちゆかなくなる。その現実に直面して、ようやく50年前から続く無謀な計画に多くの人が気づくはず。新幹線の延伸計画は、日本は動き出したら止まらない国という象徴なのかもしれません。

――一昨年の東京オリンピックも、あれだけ反対の声が上がったのに結局は開催されました。

開催したけれど赤字になった。そのツケを払うのは都民です。

まさに新幹線も同じ構造です。これから北海道新幹線が札幌まで延びたときに東京や仙台から札幌まで新幹線で行く人がどれくらいいるのか疑問です。だって、格安チケットで飛行機に乗った方が、安いし、早いわけですから。

■無関心でいることのブーメランは返ってくる

――今回の『覇王の轍』では、鉄道行政の闇や硬直化した組織のありように切り込みました。『震える牛』では食品偽装、『ガラパゴス』では派遣労働、『アンダークラス』では外国人労働者など、相場さんは社会問題を題材にした小説を発表してきましたが、共通するテーマはあるのですか?

どうでしょうか……。ぼく自身も鉄道に関心がなかったので気に留めていませんでしたが、調べれば調べるほど、一体誰のための延伸計画なのだろうと感じました。これまで話したように新幹線という巨大インフラのコストをいずれは国民が負担する日がくるという危機感をたくさんの人に共有してもらえれば、と『覇王の轍』を執筆しました。

そう考えると社会をめぐる様々な問題に目を向けずに無関心でいるとやがてブーメランとなって自分たちに返ってくるよ、という警鐘を込めて小説を書いている気がします。そこがぼくの小説に通底するメッセージなのかもしれません。

■50年前の計画をそのまま続けていてはダメ

例えば先日ドラマ化された『ガラパゴス』では非正規雇用について書きました。

単行本を刊行した2016年当時、すでに正規雇用のタガが外れてしまっていた。規制緩和の結果、いまや非正規雇用が4割に迫っている。つまり国民の4割が低賃金労働を強いられているわけです。加えていまは、ヒドいインフレでしょう。給料が増えないのに物価だけはどんどん上がっていく。

相場英雄『覇王の轍』(小学館)
相場英雄『覇王の轍』(小学館)

ぼくも家事をするので食料品の値上がりは日々実感しています。予想外の円安も生活苦に拍車をかけている。ぼく自身も数年前から機会があるたび日本は貧しくなったと繰り返し語ってきました。でも正直に言えば、ここまでのスピードでヒドくなるとは想像もしていなかった。

――日本列島改造論が発表された50年前には現在の状況は想像できなかったでしょうね。

そう思います。50年間で日本は大きく変わりました。少子高齢化が進んで、国全体が貧しくなった。同時に移動手段が多様化して新幹線ばかりに頼る必要がなくなった。日本は変化しているのに、50年前の計画をそのまま進めるような社会でいいのか、たくさんの人に考えるきっかけにしてもらいたかったのです。

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相場 英雄(あいば・ひでお)
小説家
1967年、新潟県生まれ。1989年に時事通信社に入社。2005年『デフォルト 債務不履行』で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞しデビュー。2012年BSE問題を題材にした『震える牛』が話題となりドラマ化され、ベストセラーに。その他の著書に『覇王の轍』(小学館)などがある。

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(小説家 相場 英雄 聞き手・構成=ノンフィクションライター・山川徹)

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