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「同じリストラ報道も真逆な反応」アマゾン、ツイッター…米国は株価が上昇し、日本はダダ下がる理由

プレジデントオンライン / 2023年3月14日 14時15分

米国では景気悪化によりひと月で失業率が10%も増えることがある。日本はせいぜい0.1~0.2%の変化だ。なぜ、これほど違うのか。経営コンサルタントの小宮一慶さんは「米国では社員を解雇させやすい環境ですが、日本ではよほどの事情がない限り解雇は認められません。それは働く側の安心材料ですが、他社でも通用する能力を身に付けようとする気持ちに乏しく、それがこの30年日本が低迷している大きな理由にもなっている」という――。

■堅調な雇用が続く米国経済

米国ではインフレは収まりつつあるものの、現状4.5~4.75%の政策金利を中央銀行であるFRB(米連邦準備制度理事会)は3月21、22日に行われるFOMC(連邦公開市場委員会)で、シリコンバレー銀行の破綻という不確定要素はあるものの、さらに0.25%程度利上げすることが予想されています。

その大きな理由は雇用の状況が良いことです。図表1をご覧いただきたいのですが、米国のインフレ率は、コロナが蔓延し始めた2020年5月は0.1%まで下落していました。同じ年の1月にはFRBが目標とする2%前後の、ある意味良好な状態でした。物価は「経済の体温計」とも言えるもので、過熱しすぎてもいけませんし、かといって低すぎてもいけないのです。米国では、その物価上昇の目標を長い間2%に設定しています。

ところが、ウイズコロナでの経済政策が進み経済が回復するとともに、米国のインフレ率は急速に上昇し、また、そこにウクライナ情勢などによる資源高などが重なって2022年6月には9.1%をつけました。

その後は、資源価格の落ち着きなどもあり、徐々に低下し、2023年1月では6.4%となっています。ピークからは順調に低下してきましたがここにきて低下速度が鈍くなっています。

これは、先にも述べたように、雇用の調子が良いからです。言い方を変えると、資源高などによる「コストプッシュ」のインフレから、雇用増、需要増による「ディマンドプル」のインフレへとシフトしているということです。

3月10日に発表された直近2月の雇用情勢を見ると、失業率は3.6%と1月よりは0.2%上昇したものの、世界中のエコノミストたちが注目する、「非農業部門の雇用増減数」は、31万1000人と20万人強の市場予想を大幅に上回りました。1月の50万4000人には及びませんでしたが、雇用の状況はかなり良いと言えます。

そのこともあり、需要の強さはしばらく続くと考えられ、そのためにインフレ率もFRBが目標とする2%にはなかなか近づかないとの予想から、先にも述べたように、シリコンバレー銀行破綻という不確定要素が加わったものの、今月21日、22日のFOMCでは、0.25%程度の利上げが行われるのではないかと言われています。

■ダイナミックな変化ができる米国経済

ここまで雇用の数字を中心に短期的な米国経済の状況を述べましたが、別の視点で見ると、雇用の数字からは米国経済には変化に即応するダイナミックさがあることが分かります。変化がゆっくりな日本と比べるとそれは明らかです。

先ほど、2020年の米国の消費者物価が年初には2%台だったのが、5月には0.1%まで低下したことを述べましたが、ちょうど同じ頃、雇用には激震が走っていたのです。

【図表】米国と日本の失業率

図表2は、その頃の米国の失業率と非農業部門の雇用の増減数、そして日本の失業率を載せてあります。これを見ると、日米の違いは明らかです。

少し詳しく見ていきましょう。まず、米国の失業率ですが、コロナが世界的に蔓延し始めた2020年1月の失業率は3.6%でした。2月は3.5%とやや低下しました。米国では3%台の失業率は、ほぼ完全雇用の状態だと言われています。「3%も失業者がいるのになぜ完全雇用?」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、これは失業率(完全失業率)の定義からくるものです。失業率の定義は、「働く意思のある人のうちで働いていない人の割合」を言います。例えば、完全に引退してしまった人は、この定義上は、失業率を計算する上での分子、分母ともに入らないわけです。

逆に言えば、働きたいけれども職がない人のみならず、転職待ちをしている人も失業率の数字に入ります。米国は日本よりも雇用の流動性が高いので、転職待ちの人も多く、その人たちが失業率にカウントされるのです。

ですから、米国で3%台の失業率というのは、ほぼ完全雇用の状態と見ていいのです。ちなみに、日本では2%台ならば、ほぼ完全雇用と言えます。

2020年は2月までの失業率の数字は抑えられていたので、当時のトランプ大統領は新型コロナウイルスが米国経済に与えている影響はそれほどでもなく、そのためコロナについてかなり甘く見ていたということも想像できます。

それが、3月になると失業率が4.4%まで上がります。同時期の日本の数字は、2月が2.4%、3月が2.5%ですから0.1%の上昇です。米国では、ひと月で失業率が0.9%上昇したのです。

ひと月で0.9%上昇ということは、日本の数字に慣れている私には結構大きなショックでしたが、翌4月の米国の失業率が発表された時には単なるショックではすまず、驚愕しました。最初は、統計の発表者が数字を間違ったと思ったほどです。なんと、14.7%です。ひと月で10%以上も上昇したのです。働いている人の10人にひとりがわずかひと月の間に職を失ったのです。同時期の日本の失業率の変化はわずか0.1%です。

非農業部門の雇用の増減数もひどく、4月ひと月でなんと2051万人の雇用が失われたのです。米国では、経済が巡航スピードの状態では、年に約200万人前後の雇用が創出されますが、この時はコロナの影響で、ひと月で2000万人を超える雇用が失われたのです。米国の人口は約3億3300万人ですが、それを前提にしても驚くべき数字です。まさに雇用の状況を見ると「コロナショック」が起こったわけです。

■企業の立ち直りを早める米国の政策

今ここで見たように、米国では景気が悪化するとひと月で10%も失業率が増えるということが起こります。日本では、せいぜい0.1か0.2%程度の変化です。

こういう違いがなぜ起こるのかと言えば、それは解雇についての法制上の違いです。どちらが良い悪いということではなく、米国では比較的簡単に人を解雇(レイオフ:一時帰休)させることが可能なのに対し、日本では解雇はよほどの事情がない限り認められません。

米国では、解雇された人たちに対し失業給付が政府から支給されます。通常は賃金の6割程度ですが、2020年のコロナショックの時には、トランプ政権の大統領選挙への思惑もあり、ほぼ100%支給されました。他方、日本の場合には、皆さんも覚えておられると思いますが、雇用調整助成金などが「企業に」配られます。

言い方を換えれば、米国では余剰となった人員を企業が抱えるのではなく企業外に出し、それに対し政府が保障するのですが、日本では企業で抱えたままにして、企業に対し政府が助成するやり方です。欧州でも日本に似た方式がとられます。

先ほども述べたように、これはどちらが良いという問題ではなく、そういう方針、やり方なのです。日本の場合、長年、終身雇用を前提とした雇用に対する考え方などがベースにあるからです。

違う視点から見れば、米国では企業がしんどくなりかけた時には、とにかく企業の負担を小さくし、戦略のフリーハンド(自由度)を高めることができると言えます。日本の場合には機動力がやはりその点落ちます。社内に余剰に抱えた人員をどうするか、場合によっては他産業の他社に出向させるといったことにもかなりのエネルギーを使わざるを得ません。

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写真=iStock.com/Paperkites
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Paperkites

最近米国では、フェイスブックやアマゾン、ツイッターなどの大規模な解雇が話題となりましたが、米国企業の場合には、解雇を公表すると、今後の業績回復が期待できるということで株価が上がることもあります。

一方、日本の場合には、よほどしんどくならない限り解雇は行わないので、解雇は業績の悪さを露呈するということにもなりかねません。この解雇されにくい労働環境は社員側からすると安心感がありますが、企業経営上はなかなか厳しいものがあります。ただし、今のように景気が回復基調にあるときには、経験のある従業員をすぐに使えるというメリットはあります。

他方、米国の場合には解雇されるリスクが高いため、従業員は他社でも通用する能力を磨こうとする傾向が強まります。一方、日本では、解雇が難しい上に、終身雇用の慣行が残っているために、他社でも通用する能力を身に付けようとするインセンティブは米国より落ちると言えるでしょう。

低金利や補助金などで日本では企業が甘やかされてきたことで、ゾンビ企業の延命が大きな問題となっています。ゾンビ企業はじめ従業員が他社で通用する能力を持たないことも、この30年日本が低迷している大きな理由ではないでしょうか。

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小宮 一慶(こみや・かずよし)
小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。

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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)

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