なぜ「中高は公立で十分」と言いづらくなったのか…子育てが複雑で難しくなってしまった根本原因
プレジデントオンライン / 2023年3月18日 13時15分
※本稿は、益田裕介『精神科医が教える 親を憎むのをやめる方法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■「親ガチャ」には一定の妥当性がある
社会ではしつけや学校教育は親の義務となります。
ただ近年、その義務は、幼稚園から大学までに限らなくなっています。
いわゆる「意識の高い親」は、子どもが将来どのような職業につくか、そのためにはどのような教育を受けさせるべきかを考えています。
そのため、就職活動や、場合によっては転職まで面倒を見るような親も珍しくありません。
現代においては、もっとも身近な社会人である親のサポートがあるかないかで、子どもの将来が大きく変わります。
そう考えると、近年世を騒がせている「親ガチャ」という概念にも、一定の妥当性があると言えるかもしれません。
親が子どもの社会的成功や自己実現まで考えてサポートできるかが問われる時代なのです。
それを左右するのは、親の知識と経済力です。
要するに、現代の親子問題とは、「格差問題」をはらむものでもあるのです。
■子育ての「密室化」
この問題と密接に結びついているのが、子育ての「密室化」です。
これも、時代が進むほど顕著になっている傾向のようです。
戦前まで、子育ては親だけの問題ではありませんでした。家には祖父母もいましたし、家の外の大人たちも子育てに参加しました。
「子どもは地域全体で育てるもの」という意識が自然に共有されていたのです。
■かつての子育ては今より単純だった
ほんのひと昔前まで、外で知らないおじさんが子どものいたずらをしかる、という場面も見られました。
今は子どもが遊んでいると、うるさいとしかる人もいますが、それは教育的理由というより、自分にとって都合が悪いからという理由がほとんどのようです。
かつての子育てという営みは今よりも単純でした。
乳児や幼児の死亡率がはるかに高かったので、子どもに生存と安全さえ提供すれば、親は十分「合格点」だったのです。
教育にしろ就職にしろ、基本は親の生業を引き継ぐだけなので、さほど高度な知識は求められませんでした。
しかも戦後になると、子育てに関わる人数が加速度的に減っていきました。
核家族化によって子どもの面倒を見るのは両親2人だけになりました。近年はシングルファーザーやシングルマザーも珍しくなくなりました。
「子どもは地域全体で育てるもの」という意識が薄れ、個人すなわち「親の責任」へと変わっていったのです。
![手をつないでいる父と息子](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/d/1200wm/img_bda3d7fb10c58b7ebf62ab84bba05e74408662.jpg)
■子育ての「合格点」が高くなっている
子育てが「密室」化したことで、子どもにとって息苦しい状況が生まれました。
親のほうも大変です。子育てで親がやることが増え、より幅広い責任が求められています。
子育ての「合格点」が昔より高くなっているのです。
社会的にも大学進学率が上がったことで、今や最終学歴は大卒が半ば当たり前のようになっています。
そのうえ、子どもを良い大学に入れたいなら、「中高は公立で十分」とは言ってはいられなくなり、中学受験も激化しています。
現代は親子ともに、シビアな時代になっているのです。
■「子育てに正解がある」は虐待のはじまり
学歴や社会的地位が高くても、必ず「良い親」になるとは限りません。
「良い教育」に一定の正解があるわけではありません。
子育ては迷いと判断の連続です。
子育てのみならず、人生の決断とはすべてそういうものですが、子どものことになると親はさらに悩むものです。
つまり、現代において親に求められる資質とは、「子育てには正解がない」ということを「当然のこと」だととらえる能力でしょう。
逆に、「子育てに正解がある」と思っていると、おかしな方向に向かってしまいます。
「自分の考えが絶対」だと子どもに押し付ける親。
明らかに適性のない進路を子どもに無理強いする親。
そうした親もしばしば見かけます。
その結果、子どもが激しく拒否し、場合によってはうつ病になるほど悩んでいても、それでも親が判断を変えないようであれば、これは虐待です。
いわゆる「教育虐待」と呼ばれる現象です。
![指を突き出すビジネスマン](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/f/1200wm/img_4fa0ab04924e0afd4bc576c7710cf93c358196.jpg)
■「本人の意思を尊重しすぎる」親も問題
逆に、「本人の意思を尊重しすぎる」親も、これはこれで問題です。
まだ義務教育の年齢にもかかわらず、子どもが学校に行かずYouTuberになるのを許す親は、社会を生きる上でどのようなリスクが生じるかを、子どもにしっかり伝えていないのです。
親が偏差値的に優秀であっても、こうしたことは起こります。
こういう問題の背景として、親の発達障害の可能性が考えられます。
親の発達障害的なこだわりが、子どもの教育に向けられたとき、子どもは大きなストレスを背負います。
これは臨床場面で頻繁に見られるケースなのです。
■子育ては「ある程度」で十分
現代の親は求められることが多くて大変です。ただ、大変ではあっても、決して不可能ではありません。
子育てに正解はありません。だから難しいのですが、逆に言えば、ある程度できていれば、それで十分なのです。
親子の会話の時間を持つ。
子どもの好きなこと、得意なことに目を向け、応援する。
世の中のしくみや、これから必要なスキルなどの話をする。
など、社会人としての経験があれば、誰でも知っているようなことでも、子どもにとっては貴重な情報なのです。
![親子](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/e/1200wm/img_0e183871cc4935059570a0a27d360d6b398777.jpg)
■「親は子どもに無条件の愛情を注ぐもの」ではない
親のサポートが十分でも、子育てがうまくいかない場合もあります。
とくに発達障害やグレーゾーンの子どもには、親は非常に困惑させられます。
親にとって一番つらいのは、子どもと気持ちを通わせられないことでしょう。
発達障害の子どもは人と目を合わせなかったり、スキンシップを嫌がったり、場合によっては相手が親であっても無関心だったりします。
この場合、親は厳しい試練にさらされます。
「親は子どもに無条件の愛情を注ぐもの」
そう言われることもありますが、現実にはなかなか難しいことがあるのも否定できません。
親自身もそんな自分を責めてしまい、うつになることも多いです。
親自身に虐待された経験がある、夫婦関係がうまくいっていない、経済的な問題を抱えているなどの場合、子どもに愛情を注ぐのが難しくなります。
![益田裕介『精神科医が教える 親を憎むのをやめる方法』(KADOKAWA)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/6/1200wm/img_a6d0d4ff66d448fe978d39d8868ea3e3204366.jpg)
また、親が発達障害の場合、子どもへの愛情や関心が希薄になることがあります。
「親と子ども、どちらが悪いのか?」という視点で語ることに、あまり意味はありません。
必要なのは「親は子どもに無条件の愛情を注ぐもの」という世の常識に、留保を加えることです。
親に愛されなかったと感じている人(もしくは子どもを愛せないと悩んでいる人)には、とくに重要な視点となります。
「親は子どもを愛して当然」という考え方に、「ただし例外はある」とつけ加えることで、親子関係に一定の客観性がもたらされるでしょう。
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早稲田メンタルクリニック院長
防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニックを開業。精神科診療についてわかりやすく解説するYouTubeチャンネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」を運営。著書に『精神科医が教える 親を憎むのをやめる方法』(KADOKAWA)、『精神科医の本音』(SB新書)、『精神科医がやっている聞き方・話し方』(フォレスト出版)がある。
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(早稲田メンタルクリニック院長 益田 裕介)
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