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自分は価値のない人間だと感じる…発達障害の親に育てられた「子どもカサンドラ」の過酷な人生

プレジデントオンライン / 2023年3月31日 9時15分

親が発達障害の傾向を持つ場合、家族にはしばしば問題が起こる(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Imgorthand

親が発達障害だった場合、その子どもの人生は過酷になりやすい。精神科医の益田裕介さんは「発達障害の親のもとで育った子は『カサンドラ症候群』になりやすく、複雑性PTSDを発症しやすいことがわかっている。ひとりで悩まずに、精神科や心療内科を早めに受診してほしい」という――。(第3回)

※本稿は、益田裕介『精神科医が教える 親を憎むのをやめる方法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■発達障害とはそもそも何か

発達障害とは、先天的な脳の機能発達の偏りによって、コミュニケーションや対人関係など、日常生活に困難が生じる状態です。

発達障害には、いくつかの種類があります。

自閉スペクトラム症(ASD):コミュニケーションが苦手、相手の気持ちを考えられない、こだわりが強い、過集中、感覚過敏、など
注意欠如多動症(ADHD):不注意、忘れ物が多い、衝動性が高い、じっとしていられない、など
限局性学習症(LD):他のことはできるのに文章を読むのが苦手、文字が書けない、計算ができない、など

ASDとADHDは、しばしば同時に現れます。

人の気持ちを読むのが苦手というASD的傾向のある人が、忘れ物癖や衝動性といったADHD傾向も持っているケースもよくあります。

■「親が発達障害」で家庭に問題が起こる

親が発達障害の傾向を持つ場合、家族にはしばしば問題が起こります。

ASD受動型の親は、家庭や家族への関心が薄いことが多いようです。

ネグレクト(育児放棄)をする親にはASD受動型がよく見られます。

■発達障害の親をもつと子どもはつらい思いをする

このタイプの親をもつと、子どもは親から共感を得られず、非常につらい思いをします。

また、こうした親のもとでは、子どもは愛情に飢えます。

一方、ASDの積極奇異型は人の話を聞かない傾向があります。

このタイプの親はしばしば「ワンマンな暴君」になりがちです。

■子どもを精神的な「ヤングケアラー」に仕立てる

親が発達障害の家庭では、ほかにもさまざまな問題が起こります。

親が片付けできないので、家の中が雑然としている。
料理ができないか、非常に時間がかかる。
親が朝起きられないため、弁当をつくってもらえない。

など、家事でもトラブルの連続です。

父親がASDの場合、母親が寂しさを募らせ、子どもに依存するケースがあります。

子どもを自らのカウンセラー役に見立てて、愚痴や悩み事を話していることもあります。

これはある意味、子どもを精神的な「ヤングケアラー」に仕立てているのです。

母と娘
写真=iStock.com/shapecharge
母親が寂しさを募らせ、子どもに依存するケースも(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/shapecharge

また、親が発達障害の場合、夫婦間のコミュニケーションにつまづき、関係が悪化するケースも多くみられます。

発達障害の親が不倫に走るケースも多いです。

■親という「役割意識」が乏しい

発達障害の親に共通して見られる特徴として、「自分は夫/妻である」「父親/母親である」という「役割意識」が乏しいことがあげられます。

発達障害の親に見られる、ある種の未熟さは、人間を理解する力の乏しさとイコールです。

彼らは人に騙されやすく、子どもの嘘を真に受けることもあります。

■「カサンドラ症候群」とは何か

「カサンドラ症候群」とは、発達障害者のそばにいる人が、コミュニケーションに悩んで、心身の不調をきたすことを指します。

ちなみにこれは正式な医学用語ではありません。あえて診断名をつけるなら、適応障害が妥当なところでしょう。

カサンドラ症候群には、気分の落ち込み、無気力、言葉数が少なくなる、自分は価値のない人間だと感じる、などの症状が知られています。不眠や食欲不振といった身体症状が出ることもあります。

先ほど述べた、寂しさを埋めるために子どもに依存してカウンセラー代わりにする母親は、まさにカサンドラ症候群に典型的な状態です。

■「子どもカサンドラ」のつらさは周囲に理解されない

カサンドラ症候群になるのは大人だけではありません。親が発達障害の場合、その子どもがカサンドラ症候群に苦しむことがあります。

子ども時代に精神科を受診せず、大人になってから受診し、ようやくカサンドラ症候群だと判明するケースも珍しくありません。

「母とは会話もスキンシップもない」
「父に東大進学を強制されて夜通し勉強させられる」

といった悩みをカサンドラ症候群の子どもは抱えています。

しかし、なかなか周囲には理解されないようです。

暗闇の中で勉強している小学生
写真=iStock.com/selimaksan
「父に東大進学を強制されて夜通し勉強させられる」(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/selimaksan

発達障害は傍目には見えにくいものです。

周囲は発達障害の親のことを「教育熱心なお父さん」などと思いがちです。発達障害の親を持つ子どもが、その被害にあっていても、周囲からのサポートを得られず、放置されるケースが多いのです。

その場合、子どもは「みんな親に我慢しているのに、自分は甘えている」などと、自分にこそ原因があるかのように考えてしまうのです。

■「子どもカサンドラ」の人生は過酷

そんな「子どもカサンドラ」の人生は苛酷です。

「誰にも理解してもらえない」という思いが強く、成人後も対人関係に不安定さを抱えます。それが原因で、さらにつらい経験をするという悪循環を繰り返すことも多いのです。

精神科や心療内科を受診し、原因が親の発達障害にあると気づくことで、治癒に向かうケースもあります。

■複雑性PTSDになりやすい

「子どもカサンドラ」は、複雑性PTSDになりやすいことが知られています。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは、戦争や大災害など、生死に関わる強烈な体験のあとに、フラッシュバックなどの症状が現れるというものです。

もともとベトナム戦争から帰還した兵士に、数多く見られた精神疾患です。

益田裕介『精神科医が教える 親を憎むのをやめる方法』(KADOKAWA)
益田裕介『精神科医が教える 親を憎むのをやめる方法』(KADOKAWA)

一方、戦争や大災害のような強烈な体験だけでなく、家庭における長期間の虐待なども、PTSDによく似た症状を引き起こすことがわかってきました。これを普通のPTSDと区別して「複雑性PTSD」と呼んでいます。

PTSDに特有の症状はフラッシュバックです。

「心的外傷」をもたらした戦争や大災害などの強烈な体験を、自分の意志とは無関係にふと思い出して苦しんだり、フラッシュバックを引き起こすような場所を避けたりします。

一方、複雑性PTSDでは、フラッシュバックに加えて、感情の調整や対人関係の困難などの症状がみられます。

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益田 裕介(ますだ・ゆうすけ)
早稲田メンタルクリニック院長
防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニックを開業。精神科診療についてわかりやすく解説するYouTubeチャンネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」を運営。著書に『精神科医が教える 親を憎むのをやめる方法』(KADOKAWA)、『精神科医の本音』(SB新書)、『精神科医がやっている聞き方・話し方』(フォレスト出版)がある。

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(早稲田メンタルクリニック院長 益田 裕介)

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