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「風邪は人にうつすと治る」世界中で意味不明な格言が次々に生まれてしまう脳科学的理由

プレジデントオンライン / 2023年3月17日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ljubaphoto

なぜ根拠のない事柄に、因果関係を求めてしまうのか。脳科学者の西剛志さんは「脳は不安定さからくる恐怖を追いやるため、AとBの因果関係を見つけ出して安心しようとする」という――。

※本稿は、西剛志『あなたの世界をガラリと変える 認知バイアスの教科書』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

■脳は理由があるとフレーズを受け入れやすい

「黒猫が前を横切ったら、不吉なことが起きる」
「誰かが噂をしていると、くしゃみが出る」
「四つ葉のクローバーを見たら、幸運が訪れる」
「風邪は人にうつすと治る」

実際にはなんの因果関係もない出来事をつなぎ合わせた格言は、日本だけでなく、世界各地に数え切れないほど伝わっています。

なぜ、わたしたちは本来関係のない事柄の結びつきに対して、なんとなく「あるかも……」と感じてしまうのでしょうか。

そこには「前後即因果の誤謬(Post hoc ergo propter hoc)」と呼ばれる認知バイアスがかかわっています(※1)

これは、「Aが発生したことによって、Bが起きた」と発生した出来事に対して、勝手に因果関係をつくり出す認知バイアスです。

『あなたの世界をガラリと変える 認知バイアスの教科書』より
『あなたの世界をガラリと変える 認知バイアスの教科書』より

たとえば、自転車で転んでケガをしてしまい、ショックを受けたとします。

これまで自転車で転んだことなんかなかったのに、転んでしまった。どうしてだろう?そういえば、転ぶ前に黒猫が前を横切った。昔から黒猫が前を横切ると、不吉なことが起きるって言うから、それでかな……。

本来、自転車で転んだことと黒猫は無関係です。ところが、2つの出来事を結びつけて納得させようとします。

どうしてこうした認知バイアスがあるかというと、わたしたちの脳はコントロールできない状況に対して恐怖を感じるからです。

なぜ、それが起きたかわからない。どうやって納得すればいいのかわからない。そんな不安定さからくる恐怖を追いやるため、AとBの因果関係を見つけ出して安心しようとするのです。

加えて、本書の「自動性」の解説でも触れたように、わたしたちの脳には理由があるとフレーズを受け入れやすいという性質があります。

世界各地に「黒猫が前を横切ったら、不吉なことが起きる」的な、意味が通じるようで通じない格言やことわざがあるのは、こうした認知バイアスの働きによるものかもしれません。

そして、理不尽なクレームを言う人も「前後即因果の誤謬」の影響を受けているのです。

■恐れている相手の長所を20個書き出してみる

・マンションの隣人から「あなたが引っ越してきてから、うちの家電が壊れるようになった」と文句を言われた

・上司が験(げん)を担(かつ)ぐ人で「キミの日ごろの行ないが悪いから、今回の契約はうまくいかなかったんだ」と非難してくる

・パートナーが「前に似た薬を飲んで症状がひどくなったから……」と過去の体験に囚われて、新しい薬を飲んでくれない

言われる側からすると、「あなたの言うAとBには、なんの因果関係もないですよ」と思ってしまいますが、世の中にはこうした理不尽なことを言う人たちが一定数います。

実際、以前、わたしの講演会に参加された幼稚園の園長先生は、園の理事長からこんな言葉をぶつけられ、悩んでいました。

「キミのそのオドオドした態度を見ると、どうしても怒らずにいられなくなるんだ」

会うたびに言われるので、もう幼稚園をやめたいくらいだということでした。

しかし、ここで大切なのは、世の中には本当に理不尽なことを言ってくる人と、そうでない人の2種類の人がいるということです。そのどちらかを確かめるために、わたしは彼にこう質問してみました。

「理事長先生のよいところ、長所はどんなところですか? まずはそれを20個書き出してみてください」

■言われたことを実際よりも大きくマイナスに感じる

すると「えっ、なんでそんなことが必要なのですか?」と言われましたが、「やってみればわかるので、とにかく書き出してみてください」と伝えました。

最初は「全然ない」と言っていた彼ですが、「子どもには思いやりがある」「教育に熱心」「面倒見がいい」「責任感がある」「スピーチがうまい」「保護者には定評がある」「人脈が広い」「旅行に連れていってくれた」など、1つ2つと書き出していくとどんどん出てきて、最終的に20個まで書き出せました。

すると、不思議なことが起こりました。あれだけ怖かった理事長への気もちが変わっていることに気づいたのです。

これまでストレスしか感じませんでしたが、よい面を知ると意外と教育者としてはよい部分もたくさんあったのだなと思えてきたそうです。

そして、理不尽なことを言われていると思っていたことも、厳しい言葉は彼にもっとよくなってほしいと思う気もちの裏返しだったことに気づきました。

つまり、「注目バイアス」の効果で、一度気になると理事長の悪い部分ばかりが目に入ってしまい、言われたことを実際よりも大きくマイナスに感じてしまっていたのです。

■相手の言葉の真意を理解できる人は、どんな分野でもうまくいく

しかし、よい点を改めて理解できると、一気に愛着と感謝の気もちが湧いてきました。

翌日理事長に会ったとき「これまですみませんでした。わたしがもっとしっかりしていれば、理事長もそんなことを言わなくて済んだのに、これからはみんなのためにがんばります!」と伝えたそうです。

西剛志『あなたの世界をガラリと変える 認知バイアスの教科書』(SBクリエイティブ)
西剛志『あなたの世界をガラリと変える 認知バイアスの教科書』(SBクリエイティブ)

すると、理事長は「君はいつか気づくと思っていたから強く言っていたけど、その言葉を聞けて本当にうれしい。ありがとう」と言ってくれたそうです。

それ以来、理事長との関係は格段によくなり、頻繁にコミュニケーションもできるようになりました。そして、何より仕事に対して生きがいを感じられるようになり、幼稚園もこれまで以上に活気にあふれるようになったそうです。

もちろん、自分には非がなく、相手が理不尽なだけのときもありますが、どちらなのかを確認したいときは、ぜひ一度、相手のよい点を見るようにしてみてください。

自分の状態が変わると、相手の言葉のとらえ方が変わることがあります。

どんなことを言われても、客観的に相手の言葉の真意を理解できる人は、どんな分野でもうまくいくでしょう。

※1 前後即因果の誤謬 Damer, T. Edward (13 January 2012).“Attacking faulty reasoning: a practical guide to fallacy-free arguments (7th ed.)” Boston, MA: Wadsworth, Cengage Learning

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西 剛志(にし・たけゆき)
脳科学者
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。T&Rセルフイメージデザイン代表。LCA教育研究所顧問。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。博士号を取得後、知的財産研究所を経て、特許庁入庁。大学院非常勤講師を兼任しながら、遺伝子や脳内物質など脳科学分野で最先端の仕事を手がける。2008年に企業や個人のパフォーマンスアップを支援する会社を設立。著作に『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』(アスコム)などがある。

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(脳科学者 西 剛志)

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