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「もったいない」の一語に尽きる…参院懲罰委員長・鈴木宗男が「ガーシー議員除名」で主張したいこと

プレジデントオンライン / 2023年3月15日 15時15分

参院懲罰委員会の理事懇談会に臨む鈴木宗男委員長(右)=2023年3月8日、東京・永田町の参院議員会館 - 写真=時事通信フォト

3月15日、参議院本会議でガーシー参院議員の除名が正式に決定した。懲罰委員会委員長の鈴木宗男参院議員は「国会の権威を軽んじ、決められたルールを破ったのだから、処分は仕方ない。一方、現在の政治に行き詰まりを感じ、ガーシー氏なら変えてくれるはずだと真面目に期待した有権者もたくさんいたはずだ。国会議員は、そうした気持ちを重く受け止める必要がある」という――。

■国会の威厳を軽んじ、決められたルールを破った

政治家女子48党のガーシー(東谷義和氏・51)参議院議員は、3月8日の本会議を欠席しました。予定されていた「議場での陳謝」は、実行されませんでした。帰国して出席すると明言しておきながら、直前になって逃亡したわけです。

私個人としては、出てくるだろうと予想していましたから、意外でした。ガーシー氏は議員であるからこそ、話題性があるわけです。除名されて一般人になってしまえば相手にされませんから、地位にしがみつくだろうと思っていたんです。

私が委員長を務める参院懲罰委員会は、尾辻秀久議長から付託を受けて14日に委員会を開き、最も重い処分である「除名」とすることを決めました。15日の本会議で3分の2以上の賛成を受け、ガーシー議員の除名が正式に決定しました。憲法58条の、

両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、又、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

という定めに従ったのです。国会の権威を軽んじ、決められたルールを破ったのですから、除名は致し方ありませんね。

■「登院しないという公約で当選した」は通用しない

「ガーシー議員は、国会に登院しないという公約を掲げて当選し、それを実行しただけでしょう。何が悪いのか」と言う人がいます。そこには、大きな勘違いがあります。

選挙に当選したあと、掲げた公約を実現するには、どうしたらいいか。まず国会に出るしかありません。これは、国会議員として基本の基。なぜなら国会法の第5条に、次の通り定められているからです。

議員は、召集詔書に指定された期日に、各議院に集会しなければならない。

参議院規則第1条にも、こうあります。

議員は、召集詔書に指定された期日の午前十時に参議院に集会しなければならない。

国民から選ばれた国会議員は、国会に出る義務がある。これが現在のルールです。公約を実現するには、そのルールを変える手順を踏まなければいけません。「登院はしない。これからは国会もオンラインでいいではないか」と訴えたいなら、まず登院して、現在の法律を変更するという手段を取る以外にないのです。

既存のルールに反する公約を掲げることは、自由です。その公約を支持して28万7000人が投票してくれたと言うならば、その得票に応える意味でも、ルールを変える努力をしなければ筋が通りませんね。現行の法律を変える手順を踏まずにただ欠席を続けるのは、身勝手なルール破りに過ぎません。

■「帰国すれば拘束される」は個人の問題

これは民主主義の基本ですよ。民主主義を守らないガーシー議員は、投票した有権者の負託を裏切り、国民に対して背信行為を働いたのです。

ガーシー議員は帰国を拒む理由として、複数の著名人に対する常習的脅迫、名誉毀損(きそん)、威力業務妨害などの疑いで警察が捜査を進めていて、帰国すれば不当に拘束される恐れがあることを挙げています。それは彼が、個人で向き合わなくてはいけない問題。国会議員として果たすべき義務とは、いささかも関わりのない話です。

国会議員の懲罰には、軽い順から、公開議場における戒告、公開議場における陳謝、一定期問の登院停止、除名の4段階があります。私が委員長を務める懲罰委員会は2月21日に、2番目に重い「議場での陳謝」を科すことを全会一致で決めました。

翌日の参議院本会議で、委員長である私から懲罰委員会の審議の経過と結果を報告しました。続いて採決が行われ、ガーシー議員に対して国会法第122条第2号による「公開議場(本会議)における陳謝」の懲罰を科すべきと決定されたのです。

■陳謝より重い処分は「除名」しかない

「陳謝」というのは、自分で考えた言葉で謝るのではありません。参議院規則第241条によって懲罰委員会が起草した文章を、その通りに読み上げる決まりです。文章は極めて厳しく、本人にとっては屈辱的とも言える内容です。勝手に変更したり削除したり、自分の言葉を付け加えたりすれば、再び懲罰の対象となります。

ガーシー議員に課された陳謝の文章は、次の通りでした。

私は、参議院議員として、国会に登院し、審議に参画すべき立場であるにもかかわらず、議院運営委員会理事会の了解を得ないまま海外に滞在し、国会法第5条及び参議院規則第1条に違反して召集に応じず、議長から招状を受け取った日から7日が経過したにもかかわらず、故なく本会議に出席しなかったことにより、院内の秩序を乱し、本院の信用を失墜させたことは誠に申し訳なく、深く自責の念に堪えません。ここに謹んで陳謝いたします。

国会はガーシー議員に、反省を表明するチャンスを与えました。本人が一度は約束した通りに「議場での陳謝」が実行されれば、一件落着となるはずでした。せっかくの配慮をあだにした行為は、誠に残念でなりません。国会に出てこない以上、「登院停止」にしても実効性がありませんね。陳謝より重い処分は、「除名」しかなかったのです。

■質問主意書では義務を果たしていることにはならない

この間、慎重に手続きを踏んできたことは、懲罰委員会の委員長として胸を張ることができます。ガーシー議員はネットで好き勝手に発言し、委員長である私に対しても誹謗(ひぼう)中傷をしていましたが、そのような言葉の遊びはいちいち相手にしません。同じ土俵に上がったら同じレベルだと思われます。

ガーシー議員は「陳謝の動画」なるものを参議院に提出することで、その場しのぎを図りました。その中で、「陳謝の文章」を読み上げたとのことですが、議院運営委員会は受理せずに突き返しました。当然の判断でしょう。

その「陳謝の動画」の中で、「受け取った歳費はすべてNHK党に渡す」「帰国して国会で議員たる仕事をするまでは、一円も受け取る気はありません」と述べたそうですから、「議員たる仕事」をしていない自覚はあるようですね。

今年2月になって、突然6本の質問主意書を出しましたが、ポーズにすぎません。質問主意書を出すのは国会議員の権利の行使であって、義務を果たしたことにはならないからです。

曇天の国会議事堂
写真=iStock.com/kanzilyou
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kanzilyou

■合計6000万円が税金から支出された

参議院事務局によると、ガーシー議員にはこれまでに計1833万7590円が支給されました。給料に当たる歳費が925万8361円。昨年12月に出た期末手当が188万5681円。調査研究広報滞在費(旧・文書通信交通滞在費)が719万3548円です。

15日に除名が決まりましたが、3月分の歳費と調査研究広報滞在費は日割り計算されるので、さらに110万9999円が支給されます。

ガーシー議員自身が手にしたお金のほかに、必要経費があります。所属政党に支払われる議員一人当たりの立法事務費が、毎月65万円。政党助成金が、半年で約2200万円。公設秘書3人分の給料が、同じく約1200万円。

合計すればおよそ6000万円が、彼一人に関して税金から支出された計算になります。働かない議員のために何故こんな大金を出すのかという国民感情は、とても自然だと思いますね。

さらに、この問題に費やされた国会の時間と議員の労力を考え合わせると、もったいないの一語に尽きます。時間を費やして審議すべき国内外の問題は、山積しているからです。

■28万人の有権者の気持ちを受け止めたい

今回の問題は、有権者にもよく考えてもらう必要があると、私は考えます。

「議場での陳謝」を決めた最初の懲罰委員会において、一部の政党からは「即刻、除名すべし」という強い意見が出されました。しかし、わざわざ投票所へ足を運んで彼の名前を書いた有権者のことを考えれば、丁寧な手続きを取るべきだという結論でまとまり、各党一致したのが「議場での陳謝」という処分でした。

28万人あまりの有権者には、それぞれの思いがあったはずです。仮に面白半分や冷やかし気分の人がいたとしても、なぜこんな人に投票したのかととがめることはできません。それも有権者の権利であり、多様な価値観を認めるのが民主主義だからです。

立候補することもまた、国民の権利です。インターネットの世の中になって、流されるように有名人が出てくる時代になりました。今後の選挙にも、さまざまな候補者が出馬することでしょう。私は日本人のバランス感覚を信じていますが、今回の問題を機に、どんな人物を議員に選ぶべきなのか、改めて考えていただきたいと思います。

一方、現在の政治に行き詰まりを感じ、ガーシー氏なら変えてくれるはずだと真面目に期待した有権者もたくさんいたに違いありません。政治に関わるわれわれ国会議員は、その気持ちを重く受け止めなければいけませんね。

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鈴木 宗男(すずき・むねお)
参議院議員/新党大地代表
1948年、北海道足寄町生まれ。拓殖大学政経学部卒業。1983年、衆議院議員に初当選(以後8選)。北海道・沖縄開発庁長官、内閣官房副長官、衆議院外務委員長などを歴任。2002年、斡旋収賄などの疑惑で逮捕。起訴事実を全面的に否認し、衆議院議員としては戦後最長の437日間にわたり勾留される。2003年に保釈。2005年の衆議院選挙で新党大地を旗揚げし、国政に復帰。2010年、最高裁が上告を棄却し、収監。2019年の参議院選挙で9年ぶりに国政に復帰。北方領土問題の解決をライフワークとしており、プーチン大統領が就任後、最初に会った外国の政治家である。

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(参議院議員/新党大地代表 鈴木 宗男 聞き手・構成=石井謙一郎)

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