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ガーシーより悪質でもクビにはならない…「年収4500万円の特権」にしがみつく国会議員という既得権益

プレジデントオンライン / 2023年3月16日 11時15分

参院本会議で除名処分後、外されたガーシー(本名・東谷義和)議員の氏名標=2023年3月15日午前、国会内 - 写真=時事通信フォト

■国会の権威を貶めたガーシー氏への罰

「ガーシー」こと東谷義和氏が、国会議員として72年ぶりとなる「除名処分」になった。

理由は報道されているように、「トルコから帰国して登院する」という約束を破ったからだが、本質的なところでは、「国会の権威を貶めた」ということに尽きる。それは今回の処分を決めた参院懲罰委員会の鈴木宗男懲罰委員長の発言からも明らかだ。

「約束が実行されなかったことは極めて残念だし、遺憾であります。同時に政治不信を招く最たるものとなりますので、ここは院の権威を守るうえでもですね、しっかりと対応していかなければいけない」(テレ朝news 3月8日)

これをわれわれ一般庶民の言葉に翻訳すれば、「これ以上ナメられないようにガツンとやっちゃいますね」ということだ。ガーシー氏のようにルールに従わない人間を調子に乗らせてしまうと、議会の権威も地に堕ちて、「どうせ誰に投票しても一緒でしょ」という国民の政治不信に拍車がかかってしまうので、ここらでビシッと政治から追放しておこう、というわけだ。

気持ちはよくわかる。実際、ネットやSNSでも「当然だ。遅すぎたくらいだ」と処分を支持する声が多い。ただ、もし本当に政治不信を招きたくないのならば、ガーシー氏の議員資格剝奪は逆効果だ。むしろ、無党派層、特に若い有権者たちが今回の処分にシラけて、政治不信に拍車がかかってしまうだろう。

■「変化」を望んだ民意を握り潰すことになる

なぜそんなことが言えるのかというと理由は主に2つある。まずひとつ目は、議会の権威を守れだ何だと偉そうなことを言っておきながらも、「民意」というものを思いのほか軽く扱っているからだ。

ガーシー氏のことを快く思っていない人からすれば「そもそもなんであんなのが当選したんだ」と腹を立てているだろうが、実はガーシー氏は「国会に出席しません」という公約を掲げて、約28万7000票というかなりの支持を得て当選している。

もちろん、ふざけて入れた人もたくさんいるだろう。が、「既存の政治」に何も期待できないということで、「変化」を望んで票を投じた人もたくさんいる。ガーシー氏の議員生命を奪うということは、これだけの民意を握り潰すことだ。「議会の権威を守る」にしても、もうちょっと慎重になるべきだ。

■ガーシー氏の歳費より議論すべきカネの問題

例えば、「登院停止」などの懲罰をキープしたまま、ガーシー氏の言い分に耳を傾けてもいいのではないか。まがりなりにも「国会に出席しません」という公約を掲げていたわけだし、なぜ約29万人もの有権者がそれを支持したのかということを検証しつつ、リモートでの出席など新しい議会のルールについての議論を始めたっていい。

「いや、ガーシーに支払われる議員歳費が税金の無駄になる」とか言う人もいるが、ガーシー氏はこれまでの歳費には手をつけていないと説明しており、全額返還もしくは寄付の意向を示している。

そもそも、そんな宙ぶらりんのカネを問題視するヒマがあるなら、何年も塩漬けされている年間1200万円の文書通信交通滞在費(現在は調査研究広報滞在費)についての議論をすべきだ。

■他の国会議員はルールを破ってもクビにならない

という話をすると、「国会議員がルールを守るのは当たり前だ、それができない人間をクビにして何がおかしい!」と怒りでどうにかなってしまう人もたくさんいらっしゃるだろうが、無党派層、特に若い人たちが「日本の政治、終わってんな」とシラけるのをまさしくそこなのだ。

ガーシー氏がルールを守らないということでクビになるのなら、他の国会議員もルールを守らなければクビになっていなくてはおかしい。が、そういうルール破り議員が除名になったことはない。

口利きの見返りで現金を受け取っても、未成年相手にパパ活をして飲酒をさせても、大臣やら政務官という役職を辞任するだけで議員の資格を奪われることはなく、年間で議員歳費と調査研究広報滞在費を合わせた約3400万に、政党交付金や立法事務費を乗っけた約4500万円がチャリンチャリンと懐に入ってきている。

この「ダブルスタンダード」は一体なんなのだ、と政治に関心のない人は素直に疑問に思うはずだ。だが、いくら考えても納得のいく答えは出ない。そうなると、選挙にいくのがバカバカしくなる。これこそが、ガーシー氏の処分によって、政治不信に拍車がかかる2番目の理由だ。

■未成年でも社会的制裁を受けるのが「日本の常識」

ご存じのように、日本の政治家は定期的に「政治とカネ」の問題が浮上をする。政治資金収支報告書をちょこちょこと誤魔化して、修正したんでごめんなさい、なんてやっている。また、パワハラやセクハラなどのスキャンダル、さらには行政を歪めるなどの疑惑もちょこちょこ飛び出る。

そういう「ルール破り」をした国会議員に対して、マスコミは「議員辞職せよ」「ルールを破ったのだから責任を取れ」とワーワー騒ぐが、それが実行されることはほとんどない。

ガーシー氏に対しては「さっさと除名処分だろ」と叫んでいるような人たちも、なぜかそこまで怒らない。むしろ、自民党の議員だからとか、野党にハメられたとか、ああだこうだといろいろな理屈をこねて「ルール破り」を必死で庇う。やっていることは同じ「ルール破り」なのに、自分が支持している政党や政治家の場合は、「嘘だ」「デタラメだ」「捏造(ねつぞう)だ」と擁護してウヤムヤにするくせに、ガーシー氏のルール破りには驚くほど不寛容なのだ。

国会議員の不祥事と似たようなことを一般人がやれば、全方向からフルボッコで叩かれて、社会的制裁を受けるだろう。スシローで醤油さしをペロペロした少年も顔と名前を晒されて、学校を退学に追い込まれた。未成年でさえみんなに迷惑をかければ、人生を棒に振らなくてはいけない、というのが「日本の常識」であるにもかかわらず、なぜ政治家だけは多少のルール破りが許されるのか。

国会議事堂
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

■「民意」を言い訳に特権階級にしがみついている

ひとつの理由としては、「有権者から信託を受けた選ばれた特権階級」だからだ。

それを象徴するのが、「不逮捕特権」だ。国会議員には議会の会期中には逮捕されない。一般人にはあり得ない特権だが、これも「民意」を代弁する立場という建前があるからだ。

だから、不祥事を起こした国会議員はこのロジックを逆手に取って、議員辞職を頑なに拒む。自分を当選させてくれたのは、後援会やらの支援者たちのおかげなので、自分1人で勝手に進退を決められないと言って、「国会議員として職務を全うするのが、私の責任の取り方」などとワケのわからないことを言って、議員の立場にしがみつくのだ。

だが、今回のガーシー氏の場合、そういう議論はほとんどされていない。ガーシー氏に票を投じた約29万人の民意は「悪ふざけ」「あれに投票した人間の気が知れない」などの言葉であっさりと握り潰されている。これは国会という場所がわれわれ国民に対して「選挙なんて意味がないよ」と言っているに等しいのだ。

こんなことをやって、政治不信に拍車がかからないわけがないのだ。

■ガーシー氏が退場した後、日本の政治はどうなるか

では、そこで気になるのは、ガーシー氏の除名処分によって、日本の政治はどう変わっていくかだろう。今回の一件で、「選挙くらいでは日本の政治は何も変わらない」ということがより明らかになったので、これから投票率はガクンと下がる。

そして、そういうふうに社会が無力感に包まれた時というのは、「強いリーダーシップ」や「極端な政策を掲げるトリックスター」が誕生しやすい。わかりやすいのは、イタリアだ。

実はかの国は、日本とよく似ていて、ヨーロッパの中でも世襲政治家が多いことで知られている。なので、日本と同様に、政治不信が長年問題となっていた。だから、ガーシー氏のような型破りな人物に既存の政治を壊してほしいという「民意」がたびたび高まる。わかりやすいのは、ポルノ女優から政治家になったチチョリーナさんだろう。

多様な人々の投票する手元
写真=iStock.com/smartboy10
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/smartboy10

■過去最低の投票率で極右政党が躍進したイタリア

さて、そんなイタリア、いよいよ政治不信がのっぴきならないところまできて昨年9月の総選挙では、ついに日本のように投票率の低さが問題になってきた。

「今回の選挙の投票率は4年前の73%に対し64%にとどまり、歴史的に投票率が高いイタリアでは記録的な低さとなった」(ロイター 22年9月26日)

では、そこでどんな政党が支持されたのかというと、極右の「イタリアの同胞」だ。ここを率いるジョルジャ・メローニ氏が首相になった。彼女は女性でありながらも、ジェンダー平等を唱えないゴリゴリの保守で、対立政党からは「独裁者ムッソリーニの信奉者」「同性愛者の敵」「反移民の差別主義者」(日本経済新聞 22年10月24日)と批判されている。

よその国のことなどどうでもいいと思うかもしれない。が、日本とよく似た世襲政治国家で、同じく政治不信が深刻な先進国で、投票率過去最低になったら「第2次大戦以降初めて極右政党が第1党になった」というのは注目すべき現象だ。

■「既存の政治を変えたい」は達成されるかもしれない

日本もガーシー氏を追放したことで、「選挙で当選しても、政治家仲間に嫌われると議員資格はあっさり剥奪される」という前例ができた。政治の不正や腐敗より、「議会のルールを破る」ということのほうが遥かに罪が重いと立法府が宣言して、国民もそれを受け入れたのである。

ということは、どんどん国家統制を強めてほしいという世論が盛り上がる可能性もある。そして、政治にそれほど興味のない人々、若者たちはどんどん投票に行かなくなるので、極端なイデオロギーを持つ高齢者がより発言権を増していく。

それが極左か極右かはわからないが、「民主主義などどうでもいいや」という社会ムードが強まっていくのは間違いないだろう。

そのような意味では長期的に見ると、ガーシー氏に票を投じた人たちの願いは達成される。ガーシー氏のおかげで、政治不信に拍車がかかって、既存の政治体制はガラガラと崩壊する。

それが国民にとって幸せになることなのかどうかはわからない。ただ、それくらいめちゃくちゃな事態にならない限り、もはやこの国の政治家は、自分たちで何かを変えることはできないのではないか。

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窪田 順生(くぼた・まさき)
ノンフィクションライター
1974年生。テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者等を経て現職。報道対策アドバイザーとしても活動。数多くの広報コンサルティングや取材対応トレーニングを行っている。著書に『スピンドクター“モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)、『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)など。

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(ノンフィクションライター 窪田 順生)

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