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電気料金は今からさらに4割高になる恐れがある…経済産業省も認めている「絶望的なエネルギー不足」の末路

プレジデントオンライン / 2023年3月28日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yusuke Ide

これから電気料金はどうなるのか。元経済産業省官僚で作家の宇佐美典也さんは「しばらくはLNGの争奪戦が起き価格が高騰する。電気料金は今から30~40%は上がる恐れがある」という――。

※本稿は、宇佐美典也『電力危機』(星海社新書)の第4章「電力の未来はどうなるのか」の一部を再編集したものです。

■東日本の電力不足は2030年まで確実に続く

東京エリアの需給逼迫時の電力システムの問題としては、以下の4点が挙げられる。

①低すぎるベースロード電源比率

ベースロード電源:発電コストが低廉で昼夜を問わず安定的に稼働できる電源。原子力、水力、地熱など。石炭火力も含まれるが最近はミドル電源に近い運用がされるようになっている。

②(昼でも)低いVRE電源比率

VRE電源:自然条件によって出力が変動する再生可能エネルギー電源。太陽光、風力など。

③電力貯蔵システムへの過剰依存

④他地域への常時供給依存

これらの全てが2030年までのスパンで解決する可能性はほぼないし、ましてやこの2~3年で解決する可能性はほぼゼロである。

■原発再稼働でようやく現状維持

特に「①低すぎるベースロード電源比率」の問題は深刻で、現在目処が立っている柏崎刈羽原発や東海原発の再稼働が進んだところでベースロード電源の比率はそれほど上がらず、また火力発電の廃止のペースを考えると供給力の積み増しの効果も限定的である。

原発の再稼働によってようやく東京エリアの電力システムの安定性は現状維持ができる程度で、依然として問題解決には至らない。東京エリアの電力システムが上手くいかなければ隣接する東北エリアも必然的に巻き込まれ、電力不足は東日本単位とならざるを得ない。

仮に東京エリアの電力システムの問題が軽減されるとしたら、これから数年で急速に太陽光発電と電力貯蔵システムとして大型蓄電池の導入が進み、なおかつ、中部や東北という隣接地域の電力システムが健全化して他地域からの供給が増える、というようなストーリーが考えられるが、現状そのような動きは確認できず、それほど物事は都合よく進まないだろう。

特に蓄電池については、系統でVRE電源発の電力をピークシフトするために使うには未だコストが高すぎる。

■数年は夏と冬に節電が強いられる

そのため「少なくともこれから数年は需要が増える冬や夏は電力が不足する」という前提で生活を考える必要がある。

他方で電力不足の生活の影響については、現状のレベルで止まるなら大きな問題ではないというのもまた事実である。なぜかというと「我々の緊急時の節電ノウハウが上がってきている」からだ。

本当に電力不足の危機に陥るのは年間でせいぜい数週間から数カ月で、これくらいの期間の不便ならば良くも悪くも我慢や工夫で乗り切れてしまうということがデータで見えてきている。

電力需給に関しては一般に電力の予備率が10%を切ると停電への黄色信号が点ともり普段使わない発電所が稼働し始める。そして予備率が8%を切ると本格的な対策が始まる。

具体的には、

・前日に予備率8%を切る見込みとなると「電力の需給ひっ迫」と認識され、企業レベルでの節電が本格化する
・それでも前日時点で予備率5%を切る見通しになると、政府から「需給ひっ迫注意報」が発令され、翌日に向けての家庭レベルでの節電が要求されるようになり、
・さらに前日時点で予備率が3%を切る見通しになると「需給ひっ迫警報」が発令される
・ここまでしてもどうにもならずに当日に予備率が1%を下回ると、実需給の2時間程度前から「計画停電の実施」が発表され、政府から強制的に電力の使用が制限される。

という流れで停電対策が実施されていくことになる。

目安としては、

・予備率5%を切る見込みになったら生活レベルでの節電を意識をせざるを得なくなり、
・予備率3%を切る見込みになったら、部分的に強制的な停電が始まる覚悟が必要というところであろう。

電気パイロンとライン美しい空と地平線上の夕日。
写真=iStock.com/Yelantsevv
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yelantsevv

■普段から電気を使いすぎ

ただ我々の生活における節電ポテンシャルは案外大きく、2022年6月30日の場合は、前日の予測時点で予備率は3.1%とかなりの危険水準だったのだが、当日の実績は節電の効果の積み重ねで予備率9.3%まで抑えられた。

もちろん時間帯によってはかなり綱渡りの電力供給体制となったわけであるが、ただ結果だけを見れば節電の余地が豊富で、節電要請がかなり効果を上げることになった。

これは一過性のものではなく、電力需給が厳しいと見られていた7月を通してもそのまま乗り切ることができた。我々は普段結構電気を遠慮なく、過剰なくらいに使っているのである。

そういう意味では繰り返しになるが、電力不足と言っても現状のレベルで止まるならば、“それ自体は”大きな問題ではないと言えると思う。

もちろん、太陽光発電の不調が長期化したり、ウクライナ戦争の影響で今以上に燃料調達が順調にいかなくなったり、といった追加の事態が起きれば節電ではどうにも対応できなくなるので、供給力の積み増しがあった方が望ましいことは間違いない。

■問題解決にかかる年数は

ただ現実を見ると、今後10年単位では火力発電は新設よりも廃止が超過する見込みで、東日本で稼働が見込める原子力発電も限定的である。つまり発電能力の大幅な積み増しは短期的には期待できない。

そういうわけで東日本に住む我々はこれから少なくとも2~3年、長ければ10年は電力不足という現象と付き合う覚悟が必要だろう。

本を読む女性
写真=iStock.com/freemixer
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/freemixer

この現状は東日本大震災以降の10年強の積み重ねで生まれたもので、これを解決するのに10年くらいはかかるのである。

いずれにせよ複合的な要因でこれから数年は東京エリアでは夏冬の電力事情がかなり厳しくなることはほぼ確実で、これに対する有効な対策は節電以外にないのが現状だ。

ただ繰り返しになるが、この電力不足に伴う節電自体が我々の生活に深刻な影響を与えるようなことはないだろう。問題は他のところにある。

■国際的に日本の電気代は高い? 安い?

さて前項で「電力不足そのものは大きな問題ではない」と述べたが、一方で足下で起きている「電力料金の高騰」という現象は大きな問題である。

目下日本では電力料金が上昇中で、2022年11月時点の消費者物価指数を見ると2021年から我が国の電力料金は20%程度上がっている。これだけでも生活が苦しいのは間違いないが、現状国際的に比較したとき、日本は必ずしも電力料金が高いとは言えない。

代表的に足下の2022年末の大口の電力料金を日独米で比較するとだいたい、

・日本:22.58円/kWh
・ドイツ:0.175€/kWh(≒24.7円/kWh)
・アメリカ:0.861$/kWh(≒11.4円/kWh)

と日本はアメリカに比べれば高く、ドイツに比べると少し低いという水準である。

ただドイツの場合は8月には0.469€/kWh(≒66.1円/kWh)まで上昇しており、非常に変動が激しくなっている。

このような値動きは言うまでもなくウクライナ戦争後の天然ガスの市況の影響によるものである。欧州はLNGの調達におけるスポット市場からの割合が高いので、天然ガスの市況に連動する形で価格が乱高下した形だ。

■LNG争奪戦が沈静化することはない

日本はLNGに関しては長期契約での調達が多いので、このような市況の変動による影響はこれまで最小限にとどめられてきた。一方このような日欧の苦しみをよそに、シェール革命で天然ガスの自給を実現したアメリカの電力料金は無風状態である。羨ましい。

今後に関してだが、ヨーロッパにおける天然ガス調達のパイプラインからLNGへのシフト、中国―インドの需要増、温暖化対策を見据えた上流投資の不足と、構造面においても需要面においても供給面においても、LNGの争奪戦が激化することが見込まれている。

当然値上がりも見込めるわけで、このような情勢で産ガス国が今まで通りの長期契約の更新に応じる可能性は低く、日本も徐々にこうしたスポット市場の乱高下の影響を受けていくことにならざるを得ない。

■経産省が出した絶望的な予測

そして経済産業省はこの点かなり絶望的な予測を提示している。元々LNGの今後の需給については当面厳しい見込みが示されていた。(資源エネルギー庁石油・天然ガス課「化石燃料を巡る国際情勢等を踏まえた新たな石油・天然ガス政策の方向性について」)

世界におけるLNGの供給余力について、ロシアがこれまで通りの供給を続けた場合でも2023年~2026年には若干不足することが予測されていた。これが仮にロシアが供給をゼロにした場合は、2028年までLNGの供給力が大幅に不足する見込みとなっている。

実際にはロシアもLNGの供給を続けるため、ここまで極端なことにはならないだろうが、それでも影響は出ざるを得ず、しばらくは市場におけるLNG価格の高騰が予想される。

その中で徐々に電力会社の長期契約が終了していくので、火力発電への依存が大きい東日本は、これから電力料金のさらなる高騰を覚悟せざるを得なくなってくるだろう。

こうしたLNG価格の高騰は燃料費調整制度を通じて電力料金に影響してくるわけだが、電力料金が上がるもう1つの要因として卸売市場の高騰がある。

このメカニズムに関しては、kWhの入札が弾切れすると供給曲線が垂直に立ち上がり、一気に値段が高騰する構造になっている。

このような事態を起こさないためには、どういう手を使ってでも国内の老朽火力発電所を維持してなんとか供給力を保っていくしかないが、そうすると高コストな火力発電所から高値で電力を購入して延命させなければならない。するといずれにしろ電力料金は上がる、という結論になる。八方塞がりである。

■30~40%程度電力料金が上がる

実際どの水準まで上がるのかを正確に言い当てることは難しいのだが、2022年のドイツの大口の平均電力料金が30円/kWh弱程度だったので、日本としても今の水準からさらに30~40%程度電力料金が上がることは十分に覚悟せざるを得ないかと思う。家庭では40円/kWhの大台に乗る可能性もある。

宇佐美典也『電力危機』(星海社新書)
宇佐美典也『電力危機』(星海社新書)

これは賃金が上がっていない日本では大きな社会問題になるだろう。特に年金世帯や生活保護世帯にとっては致命的な生活への打撃になりかねず、政治的に大きな課題となることが見込まれる。

ただここでも、実際我々が取れる対策は省エネ、節電ということに限られる。

日々の生活の中で、

・高効率エアコンや、LED電球といった省エネ製品の買い換え
・エアコンよりも省エネになる電気毛布(ひざかけ)や電気カーペットやこたつの利用
・給湯器利用の控え
・カーテンや窓の見直しによる断熱の工夫

といった細かな工夫をする他、一軒家であれば屋根に太陽光パネルを設置するなどの対策を採っていくしかないだろう。時代は厳しい。

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宇佐美 典也(うさみ・のりや)
作家、制度アナリスト
1981年東京都生まれ。東京大学経済学部卒業後、経済産業省に入省。2012年に退職。現在は太陽光発電などの再生可能エネルギーについてのコンサルティングとともに、著述活動やメディア出演を行っている。著書に『30歳キャリア官僚が最後にどうしても伝えたいこと』(ダイヤモンド社)など。

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(作家、制度アナリスト 宇佐美 典也)

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