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日本製EVが世界一になるチャンスはまだある…「過去20年間で最も厳しい状況」の日産に注目が集まる理由

プレジデントオンライン / 2023年3月20日 9時15分

オンライン説明会で決算について説明する日産自動車のアシュワニ・グプタ最高執行責任者=2023年2月9日 - 写真=時事通信フォト

■格付け会社はEV事業の「選択と集中」に着目

3月7日、有力信用格付け業者のS&Pグローバル・レーティングは、日産自動車の過去3年間の収益性や販売台数の低迷を理由に、同社の信用格付けを“トリプルBマイナス(BBB-)”の投資適格級から、“ダブルBプラス(BB+)”の非投資適格級(ジャンク級)へ1段階引き下げた。

S&Pは、長引く供給網(サプライチェーン)混乱、コストの増加、世界的な景気減速や金利上昇で、今後1~2年間は世界の自動車関連企業を取り巻く環境は厳しい状況が続くと予想している。S&Pは、当面、日産の自動車事業の業績の回復は難しくなったと判断したとみられる。今回の格付け引き下げは、日産の資金調達コストにも悪影響が及ぶことが懸念される。

ただ、S&Pは日産の事業構造改革の成果に着目し、信用格付け見通しは安定的とした。S&Pは、日産のEV関連事業への選択と集中がさらに加速するかに着目しているようだ。今後、日産は内外企業との連携を強化し、電動化など最先端技術の研究開発、実用化を急ぐ必要があるだろう。そうした取り組みが実際の効果を上げるか否かによって、同社の今後の業績にはかなり大きな影響が出るだろう。

■過去20年間で最も厳しい状況

S&Pの発表によると、過去20年間で日産は最も厳しい状況に直面している。2022年3月期まで3年連続で赤字を計上し、その状態から完全に脱却することは難しいとS&Pは判断している。

2022年度第3四半期、日産の小売販売台数は前年同期から6.9%減少した。世界最大の自動車販売市場である中国では、ゼロコロナ政策の長期化、不動産市況の悪化などを背景に個人の消費が落ち込み、日産の販売台数は減少した。米国でも、日産の販売台数は減少した。

供給制約の解消に時間がかかっていることや、インフレ鎮静化のための金融引き締めによる個人消費の緩やかな鈍化などの影響は大きい。日産のカルロス・ゴーン社長時代に、生産・販売など事業運営体制が強化された新興国地域では、中国向けの輸出の伸び悩みが鮮明となり、個人消費の盛り上がり方は弱まっている。

S&Pは、日産が世界経済全体の環境変化に対応できるかにも懸念を強めているとみられる。車載用の半導体など世界の自動車サプライチェーンの混乱は、2023年も続くと予想している。また、年後半にかけて欧米市場で自動車の販売台数は徐々に減少し、販売価格に下押し圧力もかかると予想している。その見通しに基づき、S&Pは、日産の収益に一段と強い下押し圧力がかかり、収益率は競合他社を下回る状況が想定された以上に長引くと判断した。

■“100年に一度”の変革に対応できるのか

収益力のさらなる低下に伴い、EVなど先端分野での日産の設備投資能力は低下するだろう。近年、世界の自動車産業界では、“CASE(自動車のネットとの接続可能性、自動運転、シェアリングや電動化)”に向けた研究開発や設備投資が増えた。自動車の生産は、すり合わせ技術を核としたものから、デジタル家電のようなユニット組み立て型に急速にシフトしている。

米テスラや中国のBYDは急速に成長を遂げ、新規参入も増えた。さらには脱炭素に対応した調達、生産体制の強化、車載用バッテリーメーカーとの連携強化など、“100年に一度”と呼ばれるほどの変革は激化している。収益低迷が長引き、設備投資が遅れる結果として、日産がそうした環境の変化に対応することは一段と難しくなると判断し、S&Pは日産の信用格付けを非投資適格級に引き下げた。

■信用力の見通しは“安定的”と判断した背景

S&Pは日産の信用力の見通しは“安定的”と判断した。想定された以上に業績回復は遅れそうだが、同社の返済能力が急速に低下するリスクは、現時点では抑制されているとの見方だ。

その背景としてS&Pは、日産の事業構造改革への取り組みの効果が徐々に表れてきたことを挙げている。新興国事業の縮小、ブランドの削減などによる固定費の圧縮だ。それによって従来に比べ、日産は厳しい中ではあるが収益を捻出しやすくはなった。

また、S&Pは日産が競争力ある新型車を投入し始めたことも評価した。この点は、中長期的な日産の事業展開にかなり重要な影響を持つ。2010年、日産はEVの“リーフ”を投入した。2010年にはテスラがわが国への進出を発表した年でもあった。ある意味、世界のEVシフトが幕を開ける段階で、日産は量産型のEVを投入していた。

ただ、リーフの次のモデル投入に時間がかかった。要因の一つとして、ゴーン時代の日産は、電動車の開発加速よりも、新興国事業の強化を優先した。2014年、日産はボリュームゾーンとして需要増加期待が高まる新興国の市場開拓のために“ダットサン”ブランドを導入した。低価格帯の量販車の生産体制を強化した。

■日産が挽回を狙う機会はまだある

しかし、その戦略は十分な成果につながらなかった。経済成長に伴って中国などの新興国では、トヨタの“レクサス”のような高価格帯の商品への需要が高まった。また、2015年には独フォルクスワーゲンのディーゼルエンジン不正問題が発覚した。それを一つのきっかけに、世界的にハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)、さらにはEVなど電動車へのシフトが急加速した。そうした変化に日産は出遅れてしまった。

カナダ・ダートマスのディーラーに並ぶ日産車
写真=iStock.com/shaunl
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shaunl

ゴーンが去って以降、日産は電動化技術という強みの強化の重要性を再認識したといえる。日産が“アリア”、“サクラ”と新しいEVを投入し、稼ぎ頭となる商品の育成に取り組み始めたことはそれを示唆する。S&Pが信用力の見通しを安定的とした背景の一つとして、事業環境の厳しさが高まってはいるものの、経営陣の戦略次第では日産がEV分野で挽回を狙う機会はあるとの見方がある。

■EV事業の数値目標を引き上げた危機感

今後、日産は研究開発体制を強化し、最新の電動化技術の実用を急ぐことが求められる。2月27日、日産が長期の事業戦略をさらに強化すると発表したのは、そうした危機感の表れだろう。

2030年度、ニッサンとインフィニティの両ブランド全体での電動車割合を、従来の50%から55%に引き上げられた。その中で、2026年度に欧州での電動車の販売比率を75%から98%に引き上げようとしている。わが国での電動車比率も引き上げた。

中国に関しては2024年に中国市場に特化したEVを投入し、米国に関しては2030年度までに販売の40%を電動車にする方針を維持した。全体として、主要先進国での電動化の加速が重視されている。ということは、日産は低価格帯の量販車よりも、中・高価格帯のセグメントでEVブランドを強化し、収益力の回復を急ごうとしている。

成長戦略として中長期的に需要の増加が期待される分野での事業運営体制を強化することは適切だ。ただ、成果を上げることは容易なことではない。特に、欧州市場ではフォルクスワーゲンなどが急速に電動車の生産体制を強化している。中国のEVメーカーは共産党政権の支援を取り付けつつ、価格競争力を高めている。

■迅速な電動化技術の実用化が求められる

その中で日産がシェア拡大を目指すために、他社との連携を強化することも必要になるだろう。それはリスクの分散と、EV関連技術の開発と実装の加速を支えるはずだ。今後、ルノーとの協業強化に加え、日産はわが国自動車関連企業との関係強化も積極的に検討することになるだろう。

現在、わが国自動車関連の部品、それを支える工作機械、素材、パワー半導体や一部のマイコンなどの分野で、わが国企業は一定の競争力を持つ。そうした要素技術の新しい結合を目指すことは、より航続距離の長いEVの開発や、脱炭素に対応した自動車のエコシステム確立に寄与する可能性が高い。

日産が内外企業との連携強化を進められないと、世界全体で進むEVシフトに対応することは追加的に難しくなり、同社の信用力は追加的に低下する恐れも増す。わが国経済にとって日産をはじめ自動車産業に依存する部分が大きいだけに、同社の迅速な電動化技術の実用化が求められる。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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