「愛子さまのお相手報道」はあまりに無責任…"旧皇族男性とのご結婚"の実現可能性を検証する
プレジデントオンライン / 2023年3月18日 12時15分
■根拠もないのに印象操作をする週刊誌報道
このところ、愛子さまに関する週刊誌報道が相次いでいる。11ある旧宮家のひとつである賀陽家の2人の息子、とくに次男が愛子様の結婚相手候補として浮上し、すでに出会いの場が設けられたかもしれないというのである。
お相手候補浮上の愛子さまの恋との接点 友人限定SNSにアップした「推し活」と「ネックレス」(3月3日 NEWSポストセブン)
愛子さまと“新たな交流”が始まった二人の兄弟とは 「旧宮家」の好青年の素顔(3月8日デイリー新潮)
急浮上した愛子さまの“婿候補兄弟”男系論者は絶賛も父親と天皇陛下の関係に不安要素(2月1日 女性自身)
この3つの記事はそれぞれ、ロマンス仕立て、賀陽さんの皇族復帰推し、旧宮家への嫌悪と色合いが違う。だが、共通しているのは、陛下がどう考えておられるのか、ここ3年間ほぼ外出もされていない愛子さまにどうしてこんな話が浮上したのか、根拠を何も示さずに、大きな動きがあったがごとく印象操作をしていることだ。
皇室の結婚は国家的な問題であり、さまざまな可能性や状況を報道したり、論じたりするのは当然だが、不確かな事実をあたかも話が具体的に進んでいるように報じて目を引こうとするのは禁じ手だと思う。過去の皇室の縁談が、そういう報道のために進めにくくなってきた歴史もある。
■賀陽家には10年以上前から注目していた
いま話題となっているのは、天皇陛下の学習院時代の学友で、いっとき、宮内庁に勤務し、その後、外務省に勤務している賀陽正憲氏の2人の息子である。長男は、愛子さまより4歳、次男は2歳年上である。長男は学習院高等部から早稲田大学政経学部、次男は同じく工学部に進んでいる。
内親王方と旧皇族の男子が結婚するとしたら、この2人しかいないという話は、私が10年以上前から発言しており、政治家、皇室研究者、ジャーナリストにも事あるごとに説明してきたし、安倍元首相にも首相在任中に詳しく説明したことがある。
■皇室が近親結婚に神経質になる理由
どうして、私がこの話を言い出したかといえば、小泉内閣の皇室典範改正議論のときにさかのぼる。そのころ、篠沢秀夫さん(学習院大学教授・仏文学者)などが、盛んに眞子さま、佳子さま、愛子さまと旧皇族男子を結婚させたらよいという提案をしていた。
私はそれに対して、皇室は近親結婚には否定的なので可能性は低いと反論していた。皇室では、近親結婚の弊害にはかなり神経質であり、大正天皇から今上陛下に至るまでのお妃選びでも、血統的に近い女性は避けられてきた。皇族や元女性皇族でお子様が生まれておられる率が平均より低いのは、過去に近い血縁の結婚が多かったことと関係があると危惧されているからだ。
そうすると、旧宮家のうち北白川、朝香、竹田、東久邇は明治天皇の子孫であり、東久邇家はさらに昭和天皇の子孫、久邇家は香淳皇后の実家であるから、皇位継承候補としては好都合だが、内親王さま方との縁組みの可能性は小さい。
■11宮家のうち、可能性があるのは賀陽家だけ
ほかの宮家で、内親王である眞子・佳子・愛子さまと適齢の男の子がいるのは賀陽家だけだった。
![【図表】旧宮家系11家](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/6/1200wm/img_e6cc81c073989df08156508731fceb27304261.jpg)
しかし、2人の少年と幼い内親王さま方を将来の結婚相手として想定する議論はどちらにとっても気の毒だから、やめたほうがよいと申し上げていた(佳子さまは兄弟の兄の1歳年上だから、こちらも可能性はある)。
当時は「この縁組みが実現したら……」と期待を持った人もいたが、私の説明で当てにしてはいけないという趣旨を納得された。また、もし実現したとしても、現在の皇室典範で皇位継承者と定められている悠仁さまの後が続かなかった場合に、子孫が継承候補者になるという話でしかないことがコンセンサスだった。
元NHK記者の岩田明子さんが文藝春秋に連載している手記に、安倍元首相が一昨年あたりに愛子さまと旧皇族男子との縁談をまとめたいと張り切っていたという記述がある。このときに、安倍氏の念頭にあったのが賀陽兄弟であるのは間違いないが、その後、具体的に動きがあったという話は承知していない。
■縁組みが実現すると、愛子さまや相手の身分はどうなる
安倍首相退陣後の皇位継承論議のなかで、つねにこうした特定の個人を前提とした縁組みも、可能性としては念頭に置かれていた。なぜならば、現実に可能性が皆無なら、制度について議論してもしかたないから当然である。
現在の皇位継承問題議論の出発点となるのは、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議(座長・清家篤前慶応義塾長)が、菅義偉内閣のもとで設立され、岸田内閣になってから、2021年12月22日に出した報告書である。
ここでは、悠仁さまへの継承を前提にしつつ、①内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持すること、②皇族と旧宮家の男子との養子縁組を可能とすること、それができないなら③皇統に属する男系の男子を法律により直接皇族とすることを可能性として挙げている。
それを賀陽氏にあてはめると、佳子さまや愛子さまは結婚されても、皇族であり続け、一方、賀陽氏はどこかの皇族の養子になれば夫婦そろって皇族となることも可能である。そして2人が男児に恵まれた場合、天皇直系の男系男子として皇位継承権を持つことになる。
しかし、佳子さまはともかく、愛子さまはこの3年間、新型コロナ感染拡大を考慮して大学に通学さえされていない。今年4月の新学期からは通学される予定だが、まずは、学生生活を楽しんでいただき、そのうえで、結婚相手探しとなるのだろう。
■数多くの縁談が報道によって潰されてきた
そんな状況下で、「お見合いまがい」の出会いの場を持たれたとは考えにくいし、逆にいうと、たとえ、そういうご縁の可能性があったとしてもこういう報道があると進めにくくなる。
過去にも、上皇陛下の時は旧宮家の北白川肇子さん、天皇陛下の時は久邇晃子さんが結婚相手として決定的な有力候補だといわんばかりの報道がされたことがある。しかし、そういう近親者との結婚は考慮の外だったとみられ、煙もないところに火事を見いだすような報道だったようだ。
また、民間の女性でも、会いもしないのに「有力候補として浮上」などと書かれて、実際にお会いする前に潰された話も多い。
私が、賀陽氏のような男性が存在することを報道するのはかまわないが、具体的に会ったとか話が進んでいるとか、確実なニュースソースもないのに書くのはいかがなものかと思う理由はそこである。
■話題の「賀陽家の2人兄弟」の系譜
というわけで、現実に話が進んでいるとは考えにくいことを前提にしつつ、賀陽家の2人についてもう少し詳しく紹介しておく。
11宮家はすべて、幕末に活躍した伏見宮邦家親王の子孫である。伏見宮家を継いだのが、第11王子の貞愛親王だったのは、母が正室だったからだ。その庶兄の筆頭は、山階宮家だが本家は消滅し、戦前に侯爵・伯爵になった系統が継続しているのみである。山階宮に次ぐのは久邇宮家で、これも三男の邦彦王が継いで兄の邦憲王は賀陽宮家を興した。
恒憲王の長男である邦寿氏に子がなく、弟の治憲氏が家督を継いだ。外交官でブラジル大使を務められ、そのあと、台湾との窓口である交流協会のトップをされている頃、私は通商産業省で台湾・中国問題の担当課長だったからよくお目にかかったが、たいへん立派で有能な方だった。
しかし、治憲氏にも子がなく、弟で第一勧銀に勤務されていた章憲氏の子息である正憲氏が家督を継いでいる。この正憲氏は陛下の同級生であり、息子が2人いて、それが話題の兄弟である。
![二重橋](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/e/1200wm/img_0e9e4f5db39ef1a890e651ce164062a5412269.jpg)
■出会いの機会を増やす中で「ご縁があれば」であるべき
ただ、少しひっかかるのは、賀陽氏が勤務していた宮内庁を辞めて外務省に転属した経緯である。正憲氏はメーカーや大手信託銀行への勤務を経て、宮内庁に転職。儀式、雅楽・洋楽、鴨場接待などを担当する式部職を務め、その後、外務省に出向した。デンマークの大使館に勤務したことはあるが、長く儀典関係の職員として地味に仕事をしてきた。
キャリア外交官でなくいわゆるノンキャリア扱いとはいえ、大使になることは可能だったがそういう気配も無く、そろそろ退官のはずである。
女性自身は、宮内庁を去った経緯について、侍従になることを期待されていたところ、同級生が侍従ではやりにくいと陛下が仰って避けたと書いているが、子細は不明である。ほかの報道でもさまざまな理由が臆測されているが、いずれも推測の域を出ない。
こうした経緯を考えると、賀陽家の息子が愛子さまのお相手となるには乗り越えるべき障壁があるのかもしれない。いずれにせよ、結婚については当事者のご意向が最優先されるものであるし、今回のような週刊誌の臆測記事が良縁の可能性を潰すようなことは決してあってはならないのだ。
私は賀陽兄弟なども含めて、愛子さまが社交生活を通じて、多くの男性と知り合う機会を持たれ、その中で適切なお相手を見つけられる機会が増えるようにすべきであると思う。
眞子さんのように、そういう機会が少ない中、同じ大学でたまたま知り合った相手と結婚されるのも考えものだが、ほとんど異性との交流もないまま、前近代的に、いきなり結婚相手が取り沙汰されるのも両極端でよろしくないだろう。
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徳島文理大学教授、評論家
1951年、滋賀県生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省(現経済産業省)入省。フランスの国立行政学院(ENA)留学。北西アジア課長(中国・韓国・インド担当)、大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任後、現在、徳島文理大学教授、国士舘大学大学院客員教授を務め、作家、評論家としてテレビなどでも活躍中。著著に『令和太閤記 寧々の戦国日記』(ワニブックス、八幡衣代と共著)、『日本史が面白くなる47都道府県県庁所在地誕生の謎』(光文社知恵の森文庫)、『日本の総理大臣大全』(プレジデント社)、『日本の政治「解体新書」 世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書)など。
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(徳島文理大学教授、評論家 八幡 和郎)
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