世界200カ国のうち最下位の200位…韓国の出生率が日本以上の危機的状況にある理由
プレジデントオンライン / 2023年3月21日 12時15分
■子育て支援を拡充しても子供は増えない
民間の会社で事業計画を立てる際に、何十年も投資しているわりに一向に成果を出さないプロジェクトがあれば、撤退するか計画の見直しを図るのが当然です。間違っても「成果が全然出てないな。ようし! このまま継続だ。しかも予算は倍増だ」とはなりません。そんな社長がいたら経営者失格です。
政府の少子化対策とは、まさにこのダメなプロジェクトをだらだらと続けているようなもので、中身の話よりも「どこから予算を持ってくるか」ばかりに終始しています。
民間の会社と政府とは違うという意見もあるかもしれませんが、政府の支出は元はといえば国民の税金であり、無駄に使ってほしくはないものです。
岸田文雄首相の「異次元の少子化対策」の発言以来、一貫して政府が唱えていることは、「子育て支援の拡充」のみで、基本的にこれらは出生増に寄与しないことは、当連載でも何度も申し上げていることです(〈いま増税するなんて狂気の沙汰である…政府は「若者が結婚しない本当の理由」を分かっていない〉参照)。子育て支援を否定するものではなく、それはそれでやるべきことですが、こと出生数を増やす効果がないことは、これまでの統計を見れば明らかです。
■社会保障が充実している北欧は出生率が高いが…
一時期、家族関係社会支出のGDP比倍増の話も世間を賑わせました。「日本の出生率が上がらないのは、フランスや北欧などと比べて、この比率が低過ぎるからだ」というものです。家族関係社会支出とは、公的な社会保障給付の支出額のうち家族関連に含まれるもので、具体的には、児童手当、ひとり親手当、出産・育児休暇手当、保育支援に相当します。
最新の2019年のOECD統計より、対象38カ国の比較をすれば、以下の通りです。
多い順にいえば、スウェーデン3.42%(1位)、デンマーク3.31%(4位)、ノルウェー3.19%(6位)、フィンランド2.89%(8位)、フランス2.71%(10位)に対し、日本は1.73%(28位)と低いことは事実です。ちなみに、出生率世界最下位の韓国は1.37%(32位)です。
こう見ると、やはり出生率が低いのは、この予算が足りないからだと思ってしまいがちですが、残念ながら、この比率を上げれば出生率が上がるという因果はありません。
それをわかりやすく相関図にしたものが図表1になります。2010年から2019年までの10年間の増減にて比較してみましょう。
■予算を増やした日韓は出生率が下がっている
大きく①予算増かつ出生増、②予算増だが出生減、③予算減だが出生増、④予算減かつ出生減――という4象限に分けられますが、①は38カ国中たった4カ国のみ。一方で、多いのは、②の15カ国。つまり「予算は増やしたものの、出生率はかえって下がった」国が約4割を占めています。日本や韓国もここに含まれます。ここの予算を増大したところで、それが直接的に出生増にはつながらないというのはそういうことです。
![【図表1】家族関係社会支出GDP比と出生率増減(2000-2019年比較)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/b/1200wm/img_2bb5ab7280b89751007a3073e8a6817d203583.jpg)
OECD諸国全体で見れば、その55%が予算を増やしましたが、出生率が増えた国はわずか26%に過ぎません。
むしろ「見習うべき」といわれているフランス、デンマーク、フィンランドなどは④のグループに属します。つまり、10年前と比較すれば予算も出生も減っています。しかし、これは予算減のせいで出生率が減ったわけではなく、この予算の増減とは関係なく出生率が減るというステージに入っていることを意味します。相関図内にて青色バブルで示したものは、OECD平均より予算の多い国々ですが、ご覧の通り、予算の多い国々のほとんどが出生減です。
■先進諸国全体で「少母化」が進んでいる
出生数が減る理由は、家族関連予算の問題ではありません。まず、医療や公衆衛生の発達により乳児死亡率が減り、生まれた子の死亡数が減れば、その分だけ母親は新たな出産をしなくなります。逆にいえば、出生数が多い国というのは、それだけ赤ちゃんが死んでしまう国であることを意味します。先進諸国の出生率が軒並み2.0以下になるのはその結果です。
加えて、出産対象年齢の女性の絶対人口の減少があります。出生率が右肩下がりになるということは、今の子供の数が減るというだけではなく、20~30年後に出産する女性の人口も減るということです。日本では本来90年代後半に起きるはずの第3次ベビーブームが起きなかった時点で、今後出生数が増えることはないと決定されたようなものです。
私が、「少子化ではなく少母化」であると繰り返し述べているのは出産対象年齢の女性人口の減少によるものですが、この「少母化」は日本に限らず、出生率が下がっている先進諸国全体に共通します。
「少母化」は一世代前の出生数の減少を起点としますが、それでも生まれてきた少ない子供たちが結婚やパートナーを得て出産する流れになれば、まだその減少幅は小さい。しかし、未婚化や婚姻数減少と重なると低出生状態は加速します。
■日本以上に深刻な韓国、中国の現実
それを実証したのが韓国と中国です。韓国は、0.78(2022年速報)という出生率世界最下位を記録し、中国もまた出生率が2021年時点で1.16(国連WPPより)と日本を下回りましたが、その大きな要因は両国の婚姻数の激減です。
日本、韓国、中国とで婚姻数の推移を比較してみましょう(図表2)。
韓国の婚姻率(人口千対)は、1993年まで9.0もありました。それが、2021年には3.8と半分以下にまで下がっています。日本で婚姻率が9.0以上だったのは、第2次ベビーブーム直後の1974年です。2021年の日本の婚姻率も4.1にまで下がっていますが、日本が約50年を要した下げ幅を韓国は約30年で到達してしまったことになります。
さらに深刻なのが中国です。中国は2013年の婚姻率9.9から、2021年5.4にまで急降下しました。わずか10年弱で半減というスピードです。この急激な婚姻減が、韓国と中国の出生率の急減の直接的な原因といっても過言ではありません。
![【図表2】日本・韓国・中国 婚姻率推移](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/2/1200wm/img_e2fcc83956a3a34786fb617c961936f8124008.jpg)
■結婚が作られず、壊されまくっている
婚姻数が激減している一方で、韓国と中国に顕著なのが離婚の激増です。3国の特殊離婚率の推移(図表3)を見れば一目瞭然ですが、2020年の韓国の離婚率は52%、中国は53%です。「3組に1組は離婚」という日本より圧倒的に多い「2組に1組が離婚」しているわけです。しかも、推移では、日本は2000年代から35%程度で一定ですが、韓国は2016年から、中国は2013年から急増しています。
![【図表3】日本・韓国・中国 離婚率推移](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/2/1200wm/img_523306cc1b3ad3499a176d6153e19d31120900.jpg)
結婚が作られず、壊されまくっている。韓国と中国で起きているのは、まさに拙著のタイトル通りの「結婚滅亡」であり、こんな状態で出生数が増えるはずがないのです。
日本以上の厳しい競争を余儀なくされている韓国と中国の若者は、それがために恵まれた家の子とそうでない子の格差が広がり、競争に勝った者だけが結婚も出産も家も手に入れられるという、さながら「勝者総取り」が起きています。
韓国では2011年、若者が、恋愛・結婚・出産を放棄する「三放世代」という言葉が生まれましたが、今やその3つだけではなく、就職もマイホームも夢も人間関係すらも放棄し、すべてを諦めるという意味の「N放世代」といわれています。中国においても、「寝そべり族」という言葉が話題になりました。若者の一部が競争社会を忌避し、住宅購入、結婚、出産を諦めることを指します。
■「コロナで婚姻が減った」報道のウソ
日本も対岸の火事ではありません。
内閣府が全国の13歳~29歳男女を対象として実施した令和元年「子供・若者の意識に関する調査」において、「自分が40歳になったとき」に「結婚している」と回答したのは58%、「出世している」は38%、「お金持ちになっている」は35%に過ぎません。「分不相応な望みなど持つまい。頑張ったところで、どうせ無理だし、無駄なことはしても仕方ないから」と若者に思わせてしまう社会というのはやはり何かおかしいのではないでしょうか。
コロナ禍の3年間、若者は、外出も友達との交流も制限され、大学生はキャンパスにすら行くことを禁止されました。新たな人との出会いとなる飲食業などのバイト機会も奪われ、それは、交友機会や恋愛機会を喪失したようなものです。
![ベッドの上でスマホを使用する女性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/3/1200wm/img_a3dc0fff2a2393211fed9f186416a05069831.jpg)
コロナで婚姻が減ったという報道もありますが、それは違う。コロナ禍の3年間で結婚したカップルというのは、少なくともコロナ禍前の2019年以前にすでに交際していたからです。それは、出生動向基本調査による「結婚した夫婦の平均交際期間」が4年以上であることからも判断できます。
■必要なのは一過性のバラマキではない
コロナによって結婚式を延期・中止した例はあるにせよ、コロナによって結婚が減ったのではなく、コロナがあろうとなかろうと婚姻数は減少したはずなのです。むしろ、この3年間、若者に対して行った「出会いの機会」を奪った政府の「恋愛ロックダウン」の影響は、2024年以降に婚姻数の激減という形で表出するでしょう。
韓国や中国の今の「結婚滅亡」の姿は明日の日本の姿かもしれません。
少子化対策に本気で向き合うのであれば、婚姻減という本質的な問題から目を背けてはならないと思います。少なくとも「結婚したいのにできない」という不本意未婚の若者が5割近くもいるという現実は直視すべきだし、結婚できないという経済的問題も透明化してはならない。
少子化対策という名の下で今出されていることは、いうなれば選挙対策でしかない。必要なのは一過性のバラマキではありません。多くの若者が若者のうちに人生を諦めてしまうような社会であってはならないでしょう。
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コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会―「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち―増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』(ディスカヴァー携書)など。韓国、台湾などでも翻訳本が出版されている。新著に荒川和久・中野信子『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)
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