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「僕のような人間は、結果を出せなければすぐ干される」日本最高の騎手・川田将雅がそれでもオレ流を貫くワケ

プレジデントオンライン / 2023年3月24日 11時15分

第27回NHKマイルカップ(GI)を制した川田将雅騎乗のダノンスコーピオン=2022年5月8日、東京競馬場 - 写真=時事通信フォト

職場に自分を嫌う人がいるとき、どう対応すればいいか。JRAジョッキーの川田将雅さんは「大切なのは、好かれることよりも必要とされることだ。求められる技術と結果を提供できれば、嫌われていても仕事はくる」という――。

※本稿は、川田将雅『頂への挑戦 負け続けた末につかんだ「勝者」の思考法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■「こうやりなさい」と教えられることが嫌いだった

僕は昔から、誰かに「こうやりなさい」と言われたり、「だからこうなっていくんだよ」と教えられたりすることが、どうしても好きになれませんでした。

だとすれば、自分で上手くなる道を探していくしかありません。

自分の目で見て、自分の頭で考えて、自分の中で消化していく──。それを繰り返してきました。競馬学校時代なら津村(明秀)、デビューしてからは先輩である安藤(勝己)さん、彼らが馬に乗る姿を観察し続けました。

もちろん、手の長さも足の長さも、人はそれぞれ違います。もっと言えば、関節の可動域も違いますから、誰かとまったく同じ動きはできません。

そこで、自分のこの体で、彼らの動きを再現するにはどうすればいいんだろうと想像します。両者を俯瞰(ふかん)で捉え、深く深く想像するのです。

そして、自分の体に落とし込み、実践する──。

ちなみに僕は、頭の中でイメージできないことを、自分の体に落とし込むことはできません。それも含めての想像であり、想像力ですよね。

■確たる正解がわからない世界で変化を恐れてはいけない

アプローチが違っても、結果が同じであれば、それも1つの答え。決して誰かに教えを請うことを否定するつもりはありませんが、洞察力を研ぎ澄まし、想像力を働かせて、自分で自分なりの答えを見つけていくのも、僕にとっては楽しい作業なのだと思います。

振り返ったとき、この馬乗りとしての考え方の変化が僕にとって大きな転換期だったわけですが、人によっては、今までのやり方を大きく変えるとき、どうしてもリスクにとらわれて一歩を踏み出せないケースもあると思います。

でも、技術にしろ思考にしろ、自分が変化することに対する怯えは僕には一切ありません。

なぜなら、確たる正解がわからない世界だからです。

もしかしたら、どの競技も同じなのかもしれませんが、長い長い歴史を持つ競馬界も、確たる答えがわからないままここまで歩んできた世界なのです。

そうであれば、よりよいものを求め続け、模索し続けていくのが僕らの仕事。実際、毎週どころか毎レース、あらゆる試行錯誤を繰り返しています。

どんな立場になろうと、常に変化を求めていくのは当たり前であり、むしろ変化していかなければなりません。

これから先もずっと、僕は変化を恐れないジョッキーでありたいと思っています。

■何か1つを大きく変えるのではなく、少しずつ自分を新しくしていく

「お前が乗ると馬が壊れる。うちの馬は、そういうふうには作ってないねん」

松田先生(松田博資厩舎(きゅうしゃ)・調教師)のその言葉をきっかけに、それまでとは違う発想を得た僕は、馬に対してもレースに対しても、徐々に新しいアプローチを試みるようになりました。

何か1つを取り出して、そこだけを大きくガラッと変えたわけではありません。パートナーである馬に対し、「何を考えているのかな」と気持ちを探ることから始まり、細かいコンタクトの取り方や動かし方、レースの組み立てに至るまで、少しずつ新しい自分を積み上げていきました。

本当に日々の積み重ねの結果なので、どのくらいの期間でシフトチェンジできたのか、明確な期間はわかりません。

でも、気づいたときには、松田厩舎のほぼすべての馬を任せてもらえるようになっていました。

「将雅でええか」ということだったのか、はたまた「将雅がいい」と思ってくれたのか、松田先生のお気持ちはわかりません。

なにしろ、「お前に任せる」などといった直接的な言葉は、一度ももらったことがないからです。

■大事なのは好かれることではなく必要とされること

でも、「うちの馬には乗せん」から始まって、結果としてすべての馬を任せてくれたということは、先生が求める“松田博資厩舎の乗り方”をある程度のレベルでクリアし、その結果、信頼を得ることができたのだろうと僕は思っています。

これは、僕にとって紛れもない成功体験です。

松田先生に求めてもらうにはどうしたらいいのだろうと必死に考え、自分なりに答えを見つけ、それを実践し、最後には先生から誰よりも求めてもらえる騎手になれたのですから。

僕らジョッキーの仕事というのは、騎乗依頼をもらう、つまり必要とされないと成り立ちません。

競馬場を走る馬の脚
写真=iStock.com/quentinjlang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/quentinjlang

当然、必要とされなくなれば、淘汰(とうた)されていく運命にあります。だからこそ、必要とされ続けることが何より大事で、そのためには、求められる技術と結果を提供し続けなければなりません。

逆に言えば、それらを高いレベルで提供し続ければ、どれだけ人間的に僕のことが嫌いでも、依頼せざるを得なくなるでしょう。

■敵は多いけれど、そんなことはどうでもいい

もちろん、僕だって嫌われたいわけではありません。依頼する側とされる側、つまり、技術を求める側と提供する側は、それくらいシビアな関係ということです。

とはいえ、僕という人間には敵が多いのも確かです。競馬界にも、僕のことが嫌いな人間はたくさんいるでしょう。でも、それでいいと思っています。

僕自身、世の中すべての人と仲よくしたいとか、いい人だと思われたいとは一度も思ったことがありません。また人生を通して、万人に好かれることなんて、これっぽっちも求めてきませんでした。

どんなにいいことをしたって、それをよく思わない人間はいるし、どんなに好かれるための行動を取ったところで、それを嫌う人間は絶対にいます。

好かれようと頑張ったのに嫌われたとしたら、傷つくのは嫌われたくないと頑張った自分でしょう。

だから、みんなに好かれることが重要だとは捉えていないし、もっと言えば、そんなことはどうでもいいと思っています。

僕のことが嫌いだという人間が現れたら、「俺もだよ」で終わりです(笑)。

■結果が出せなければすぐ干される…それも当たり前

こんな僕のような人間は、結果を出せなくなれば、あっという間に干されます。それは間違いないでしょう。

川田将雅『頂への挑戦 負け続けた末につかんだ「勝者」の思考法』(KADOKAWA)
川田将雅『頂への挑戦 負け続けた末につかんだ「勝者」の思考法』(KADOKAWA)

でも、そうなることに対しても、まったく怖さはありません。

なぜなら、それが当然だと思うからです。

技術が錆びついて結果を出せなくなれば、必要とされなくなります。体が衰えて結果を出せなくなったとしても然りです。そうなったら淘汰されるべき。結果を出せない人は、求めてもらえない世界です。

子供の頃から大人たちの顔色ばかり窺って生きてきましたが、だからといって、僕は自分の人生を生きていないわけではありません。

むしろ、そうだからこそ、わがままに生きられるよう、自分の力で自分の居場所を作り、必死に立ち回ってきたつもりです。その目的はただ1つ。

ありのままの自分で生きていきたいから──。

■自分を偽らなくても求められる存在になりたかった

たとえば、もっと周囲の人にペコペコすれば、もっと簡単にトップを獲れていたかもしれません。

それがわかっていても、僕にはできなかった──。

僕が目指したのは、“自分を偽らなくても求められるジョッキー”であり、実際に今、僕を必要としてくれる人は僕なりにたくさんいます。これだけ勝たせてもらえているのが何よりの証拠です。

僕は僕で、その人たちのために頑張りたいと素直に思えます。

そして僕のままで頂に登り、歳を重ねて振り返ったときに、自分に対して誇れる人生でありたいと思っています。

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川田 将雅(かわだ・ゆうが)
騎手
1985年生まれ。2004年にデビュー。08年に皐月賞をキャプテントゥーレで勝利してGIジョッキーの仲間入り。12年にはジェンティルドンナでオークスを制す。13、14、19、20、21年に最高勝率騎手、16年に特別模範騎手賞を受賞。同年にマカヒキで日本ダービーを制覇。22年は最多勝利・最高勝率・最多賞金獲得の三冠を実現し、史上4人目となる「騎手大賞」を獲得。9年ぶりの「JRA生え抜きリーディングジョッキー」となった。

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(騎手 川田 将雅)

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