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「何度トライしてもソッポ向かれる」日本のメガバンクの富裕層ビジネスが全然刺さらない3つの残念な理由

プレジデントオンライン / 2023年3月21日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

資産100万ドル(約1.3億円)超の日本人が3年後に479万人に増える。メガバンク各行はそうした富裕層の顧客を射止めようと躍起だ。金融アナリストの高橋克英さんは「30年前のバブル期から似たような取り組みをしていますが、うまくいっていません。スイスの老舗銀行の提携など、今回も智恵を絞っていますが、期待薄の状況です」という――。

長らく続いた金融緩和による保有する株式や不動産価値の高まりで日本にも富裕層が増加している。現在経営危機にあるスイスの大手金融機関クレディスイスの「グローバル・ウェルス・レポート2022」によると、日本の富裕層(100万ドル(※)以上の資産を持つ成人数)は、336.6万人に達している(2021年)。さらに、2026年には42%増の479万人になると予想されており、こうした富裕層をターゲットに、邦銀も資産運用を中心とした富裕層ビジネスを再び強化してきている。

※3月15日時点=約1億3383万2976円

■メガバンクとスイス老舗が提携

2023年2月、みずほFGは、スイスの老舗プライベートバンクのロンバー・オディエ・グループと富裕層ビジネスに関わる包括業務提携を結んだ。ロンバー・オディエの運用商品をみずほの富裕層顧客に提供したり、同社の研修にみずほの行員が参加したりするなど人材交流も行うという。

三井住友信託銀行では、2021年8月に、スイスの大手金融機関UBSとUBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントの営業を開始しており、富裕層向けビジネスを強化している。

その他、三菱UFJ銀行では、WBC(ワールド・ベースボール・クラッシック)の広告でも目にした「MUFGウェルスマネジメント」ブランドのもと、グループの銀行・信託・証券の力を結集し、富裕層向けに事業承継、資産承継、資産運用などをサポートしている。 SMBCグループでも、2020年4月、富裕層向けサービスブランド「SMBC Private Wealth」を立ち上げ一体運用を試みている。

■大手地銀も富裕層ビジネスを強化

メガバンクだけでなく、地銀も負けていない。2023年2月、静岡銀行は、マネックス証券と業務委託契約を締結した。富裕層向けIFA専業会社のマネックスPBとマネックス証券が連携して、静岡銀行の富裕層顧客に資産運用提案などを行うという。

西日本シティ銀行では、2021年11月、「天神ビジネスセンター」に西日本シティTT証券とともに、豪華な富裕層向けのラウンジを設けるなど、富裕層取引の拡大を目指している。

このようにスイスの老舗プライベートバンクと提携したり、グループ内での連携を強化したりして金融商品やサービスを増やし、豪華なラウンジを用意するなど、邦銀による富裕層ビジネスを強化する動きが盛んではある。

筆者は、富裕層向け資産運用アドバイザーや金融コンサルタントの立場で、四半世紀にわたり、数多くの国内外の富裕層と接してきた。

その経験を踏まえて言えば、今回も邦銀の富裕層ビジネスはうまくいかない可能性が高いのではないか。なぜなら、バブル期以降、何度も今回と同じような試みが繰り返されているからだ。新たな提携や組織の立ち上げや金融商品・サービスを揃え、人員を増やすだけで成功する甘い世界ではない。そのことを邦銀は根本的にわかっていない。

最大の敗因となる可能性が高いのは、彼らが肝心の富裕層の特性をよく理解していないことにある。具体的には、①そもそも富裕層は自らを開示しない、②コロコロ変わるは論外、③時間泥棒が大嫌い、という3点だ。

■そもそも富裕層は開示しない

富裕層はそもそも自分の情報を開示しないのは、家族構成や金融資産をベラベラ話しても得することはないと経験上、知っているからだ。昨今の「ルフィ事件」など特殊詐欺事件の影響もある。考えてみれば当たり前ながら、例えば、富裕層がふらりと訪問したルイ・ヴィトンやレクサスといった高級ブランド店舗の担当者に、開口一番、根堀り葉堀り、家族構成や保有資産を聞かれることはない。

ところが、銀行における富裕層との面談の際は違う。営業担当者は、行内研修でそう習ったのか、面前の顧客とマーケットの話題や金融商品の提案よりも、家族構成や資産構成などを聞かなくては、と気をとられてしまい、本末転倒な面談や顧客対応になってしまっている。

面談で質問する人
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

そのような面談で、「家族構成が聞き出せ、親密になれた」と記された営業担当者の日報は、支店長には評価されるかもしれないが、富裕層の心を掴み、取引に繋げることは難しいだろう。

本人確認など銀行としての縛りがあるのは理解できるものの、富裕層はそもそも開示しないので、必然的に、富裕層顧客の金融資産の全体像も把握できないことになる。

このため、例えば、比較的リスクの低い債券から、米国株ファンドへの乗り換えを提案しても、実は、他行では既に日本株ファンドを保有しており、金融資産が株式ばかりでバランスを欠いたものになる、といったミスマッチが起こることになる。

個々の銀行で行われている資産運用提案は、金融資産の全体像を反映しない飛車角落ちの提案になっているケースが多く、富裕層にとっては的外れである可能性が大なのだ。

■コロコロ変わるは論外

富裕層が邦銀との取引を避け、外資系金融機関や大手証券会社、最近はやりのIFA(独立系資産運用アドバイザー)に流れる大きな理由には、担当や組織がコロコロ変わることが挙げられる。富裕層ビジネスを本腰入れてやるのかやらないのか、はっきりしないのだ。

長期・安定・保全取引を主とする富裕層からすれば、コロコロ変わるのは論外だ。いや富裕層でなくても、担当者や方針がコロコロ変わる銀行と取引をしたいとは思わないだろう。

折角、お互いに慣れてきて少しずつ打ち解けてきたのに、転勤や異動により担当者が代わり、また最初から挨拶し説明し、リレーションを構築するのは双方にとって面倒だ。

また、富裕層顧客からすれば、顧客情報の管理は大丈夫だろうか、しっかり引き継ぎがされているのかも心配になる。

今まで邦銀が、富裕層ビジネスを強化するというニュースは何度も目にしてきたが、成功しているという続報を聞いたことがない。こうした過去の動きも含め、邦銀が、富裕層ビジネスを長期的・永続的に行う意志と計画があるのか、富裕層はしかと見定めているのだ。

■時間泥棒が大嫌い

長距離移動にプライベートジェットやヘリコプターを使うように、富裕層にとって時間はお金よりも大切という意識が強い。開示したくないのに、家族構成や資産内容や取引金融機関などを根掘り葉掘り聞かれ、担当者がコロコロ変わるたびに、挨拶を受けたりする時間そのものをもったいない、時間泥棒されたと考える。

腕時計をつけているスーツの男性
写真=iStock.com/Romanno
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Romanno

また、営業担当者の金融知識やマーケット感覚が乏しいケースもままあり、そうなると面談時間が長くなり、話がかみ合わず時間を浪費する。ルールとはいえ、金融商品購入にあたり、ディスクレーマーやマーケットリスクなどの説明が長いことも避けられる理由の一つだ。結果的に、要領を得ておりサクサク話を進める大手証券会社や外資系金融機関の営業担当者やIFAが好まれることになる。

■富裕層ビジネスを捨てる選択も

こうした富裕層の3つの特性を踏まえた上で、邦銀はいっそのこと富裕層ビジネスをやらない選択もある。そもそも、全ての銀行が富裕層ビジネスにおいて収益を上げられるような簡単なマーケットではなく、証券会社などを含め競合他社も多い。そうした競争に勝ち抜くのは並大抵のことではない。

特に、20億円以上の金融資産を持つような超富裕層は、資産運用だけでなく相続・事業承継などにおいても、担当者・商品・サービスに対する要求水準も相応に高い。商品ラインナップ、人材育成、コストの観点から、対応できない場合も多くなる。

プライベートジェット
写真=iStock.com/Pinkypills
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pinkypills

実際のところ、メガバンクや一部の上位地銀を除く多くの銀行では、事実上、こうした富裕層への対応を力不足とコスト見合いで積極的には行っていないケースもある。

■富裕層こそネット証券で自ら取引する

富裕層の特徴として、もう一つ忘れてならないのは、金融リテラシーが非常に高いことだ。実際に、豊富な投資経験があり、株式、不動産、FXなど各々に得意分野や思い入れのある分野がある場合も多い。銀行の担当者よりも金融知識も投資経験も豊富であってもそれは驚きには値しない。

筆者の見立てでは、この先も、①そもそも富裕層は開示しない、②コロコロ変わるは論外、③時間泥棒が大嫌い、という富裕層の特性を理解した上で富裕層ビジネスを構築し対応しない限り、邦銀によるサービスが外資系金融機関や大手証券会社などを押しのけてまで、富裕層の心を掴むことは到底難しいと思われる。もっとも、外資系金融や大手証券なども安泰とはいえない。

結局、富裕層が指名するのは、前述の3つの特性を知り尽くし、24時間365日、顧客からのアクセス対応可能な態勢を整えている、ネット証券(SBI証券や楽天証券、マネックス証券など)という結果になりそうだからだ。

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高橋 克英(たかはし・かつひで)
株式会社マリブジャパン 代表取締役
三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『いまさら始める? 個人不動産投資』、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』など。

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(株式会社マリブジャパン 代表取締役 高橋 克英)

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