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「歳をとると記憶力が落ちる」と信じると本当に記憶力が落ちてしまう…人の力を奪う"信念バイアス"の怖さ

プレジデントオンライン / 2023年3月22日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

誤った思い込みをなくすにはどうすればいいか。脳科学者の西剛志さんは「『歳をとると記憶力が落ちる』と思いこむと、本当に記憶力が落ちてしまうことがわかっている。そうした心理状況から解放されるためには、『いま思っていることは、100%絶対に本当なのか』と自身に問いかけるといい」という――。

※本稿は、西剛志『あなたの世界をガラリと変える 認知バイアスの教科書』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

■1つミスしただけで「もう全部ダメだ」と思ってしまう理由

わたしたちは、たった1つのミスによって「もうおしまいだ。やっていられない」と努力してきたことをすべて投げ出してしまう極端な反応を見せてしまうことがあります。

・若手社員が、上司のちょっとした注意で、翌日から職場に顔を見せなくなる
・夜中にスイーツを食べた自分を許せず「もうダメだ!」とヤケ食いする
・プレゼンの当日、機材トラブルでパソコンが使えず、やる気を一気に失ってしまう

こうしたときに働いているのは「全か無かの思考(All-or-nothing thinking)」、別名「スプリッティング(Splitting)」と言われる認知の歪みです(※1)。基本的に「全か無かの思考」は精神的に未熟な10代、20代の時期に強く働きがちな認知バイアスとされています。

ものごとをさまざまな角度から見て考える力が育っていないため、「あの人は好き、この人は嫌い。あの人は味方、この人は敵」という図式で対人関係をとらえてしまったり、「世の中お金がすべて」「ものごとには勝ち負けしかない」と社会を切りとってしまったり、極端な思考になりがちなのです。

ただし、多くの人は人生経験を重ねるうち、柔軟な考え方ができるようになって、「全か無かの思考」の働きがやわらいでいきます。

■たった1回の体験ですべてがそうだと一般化してしまう

ところが、成熟していると考えられる年齢になっても「全か無かの思考」が強く働いてしまう人たちがいるのも事実です。それはなぜなのか? それは「信念バイアス(Beliefbias)」が深くかかわっているからです(※2)

これは簡単に言うと「A=B、B=Cであれば、A=C」と思ってしまう認知バイアス。「三段論法バイアス」とも言われます。たとえば、こんなことを考えてみてください。

「わたし=田舎生まれ」(事実)
「田舎生まれ=出世できない」(信念)
→「わたし=出世できない人間だ」(結果)

ここで考えてもらいたいのは、「田舎生まれ=出世できない」というのは本当なのか? ということです。田舎出身の人が必ず100パーセント、出世できないということは考えられません。

たとえば、「好きな人にふられたから、自分は魅力がない」、「あの人に裏切られたから、もう人は誰も信じない」、「試験でいい点をとれなかったから、わたしはいい大学に合格できない」、たった1回の体験で、わたしたちはすべてがそうだと一般化してしまうことがあります。これが「信念バイアス」です。

そして、この「信念バイアス」はわたしたちの能力さえも変化させてしまうのです。

日本の1歳の女の子の古い写真。
写真=iStock.com/SetsukoN
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SetsukoN

■「信念バイアス」は記憶力やダイエットにまで影響する

これは米国で行なわれた実験ですが、18~22歳の若者と60~74歳の高齢者をそれぞれ64人ずつ集めて、単語のリストを見て覚えてもらいました。

そして2つのグループに分けてこう伝えました。

A:「これは記憶力の試験です。高齢者のほうが成績は悪くなります」
B:「これはただの心理学の試験です」

その結果、Aのグループは、若者の正答率が50パーセント、高齢者が30パーセントとなりました。ところが、Bのグループは、高齢者の正答率が50パーセントになり、若者と同じになったのです(※3)

つまり、「歳をとると記憶力が落ちる」という力を奪う「信念バイアス」をもつと、わたしたちの脳まで影響を受けて、本当に記憶力が落ちてしまうことがわかったのです。

また「信念バイアス」はダイエットにも影響を与えます。これは、ハーバード大学で行なわれた有名な研究です。ホテルのベッドメイキングの従業員に次のように説明しました(※4)

「ホテルのベッドメイキングは、ただの作業ではなく素晴らしいエクササイズ効果があります。1つの部屋を掃除するだけで合計300キロカロリーのカロリー消費があります。

だから、複数の部屋を掃除すると、たった1日の仕事で1日に必要な運動量(200キロカロリー)を簡単に消費してしまうんです」

そして、1カ月後、従業員の体重、体脂肪率、ウエストとヒップの比率、BMIを調べたところ、運動効果を伝えられなかったグループに比べて、なんと見事に体重や体脂肪を含むすべての項目がマイナスに減量してしまったのです。なかにはくびれがくっきりできる人まで出てきたそうです。

■恋愛、自己肯定感…分野別で400以上の「信念バイアス」がある

このようにわたしたちは、気づかないところで、「信念バイアス」の影響を受けています。

わたしも長年ビジネスからお金、ダイエット、恋愛、自己肯定感などあらゆる分野でうまくいく人とそうでない人の「信念バイアス」を研究していますが、お金だけでも少なくとも76パターン、ダイエットでは62パターン、恋愛だけでも88パターンの信念が存在しており、全体で400以上の分野別の「信念バイアス」のパターンを見つけています。

たとえば、自己肯定感が低い人は「成功しないと、自分には価値がない」と信じていたり、お金でうまくいかない人は「お金とは出ていくものだ」と思っていたり、恋愛でうまくいかない人は「つき合うと自由が奪われる」などの「信念バイアス」をもっています。

人はうまくいく分野もあれば、うまくいかない分野もありますが、もし長年うまくいかない分野があるとしたら、それは自分を制限している「信念バイアス」が関係している可能性があります。

同じように、一度のミスで「もう全部オワタ……」と努力を手放すことをくり返していると、だんだんそれが当たり前になってきてしまいます。

■「それは絶対に本当か」と自分に問いかける

もしそんな事態を避けたいのであれば、自分にこう問いかけてみてください。

西剛志『あなたの世界をガラリと変える 認知バイアスの教科書』(SBクリエイティブ)
西剛志『あなたの世界をガラリと変える 認知バイアスの教科書』(SBクリエイティブ)

それは「いま思っていることは、100パーセント絶対に本当なのか?」

すると、必ず、例外が存在することに気づきます。

たとえば、「1つの失敗はまわりからの評価を下げる」と信じていたら、「それは絶対に本当か?」と自分に問いかけます。

すると、「隣の部署のAさんは失敗しても、いつもそこから成長して人から好かれているな」「失敗してもそこから学ぼうとするその姿勢こそが、まわりから評価されるんだな」など、自分でもビックリする答えが出てきたりします。

たとえば、「体力がない人は成功できない」と信じていたら、「それは本当か?」と投げかけます。すると、「松下幸之助さんは体は弱かったけど、あんなに素晴らしい世界的企業をつくった」「体力よりも頭を使ったり、人脈のほうが大事なんだな」など、そこから「信念バイアス」は徐々に崩れ去っていきます。

「信念バイアス」を改善する方法はいろいろありますが、まずは簡単にできる質問からはじめてみてください。

※1 全か無かの思考(スプリッティング) Carser D.“The defense mechanism of splitting: developmental origins, effects on staff, recommendations for nursing care”, J. Psychiatr. Nurs. Ment. Health Serv., 1979, Vol.17 (3), p.21-8/ Gould JR, et.al.“The Splitting Index: construction of a scale measuring the defense mechanism of splitting”, J. Pers. Assess, 1996, Vol.66 (2), p.414-30/Kelly J.D. 4th.“Your Best Life: Managing Negative Thoughts-The Choice is Yours”, Clin. Orthop. Relat. Res. 2019, Vol.477(6), p.1291-93
※2 信念バイアス Evans J.S.B. et.al.“On the conflict between logic and belief in syllogistic reasoning”, Mem. Cogn. 1983, Vol.11, p.295-306/Evans J.S.B., et.al.“Necessity, possibility and belief: a study of syllogistic reasoning”, Q. J. Exp. Psychol. 2001, Vol.54, p.935-58
※3 記憶力は信念バイアスで変化する Thomas, A. K.,& Dubois, S. J.“Reducing the Burden of Stereotype Threat Eliminates Age Differences in Memory Distortion”, Psychological Science, 2011, Vol.22(12), p.1515-17
※4 信念バイアスと減量効果 Crum AJ.& Langer EJ.“Mind-set matters: exercise and the placebo effect”, Psychol Sci. 2007, Vol.18(2), p.165-71

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西 剛志(にし・たけゆき)
脳科学者
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。T&Rセルフイメージデザイン代表。LCA教育研究所顧問。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。博士号を取得後、知的財産研究所を経て、特許庁入庁。大学院非常勤講師を兼任しながら、遺伝子や脳内物質など脳科学分野で最先端の仕事を手がける。2008年に企業や個人のパフォーマンスアップを支援する会社を設立。著作に『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』(アスコム)などがある。

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(脳科学者 西 剛志)

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