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「今日食べたいもの」も腸が決めている…最新研究でわかった"腸と脳"の深すぎる関係性

プレジデントオンライン / 2023年3月28日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/inkoly

腸と脳にはどんな関係があるのか。京都府立医科大学大学院の内藤裕二教授は「腸と脳は大きく関係しており、精神状態の安定にも関わっている。最新の研究では、食べたいものは脳だけではなく腸内細菌の影響を受けていると指摘されており、腸と脳は独特の進化を遂げた可能性がある」という――。

※本稿は、内藤裕二『すごい腸とざんねんな脳』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。

■「幸せホルモン」は腸で作られている

幸福度に関する調査では、その人がどのような考え方を抱いているかということが重要視されます。しかし、その考え方に腸が影響を与えているとしたら、あなたはどのように思いますか?

腸で作られるさまざまな神経伝達物質の中で代表なものがセロトニンです。この神経伝達物質は、脳の中でリラックス、安心感、幸福感などをもたらし、別名「幸せホルモン」とも呼ばれています。セロトニンの役割は「他の神経伝達物質の調整」です。

脳には、喜びや快楽を感じさせる「ドパミン」や恐怖や驚きを感じたときに分泌される「ノルアドレナリン」、興奮や運動に働く「アセチルコリン」などの神経伝達物質が存在し、それぞれが適量ずつ働くことで体のバランスを保っています。

その神経伝達物質の量をコントロールしながら心を落ち着かせ、精神を安定させるのがセロトニンの働きです。ドパミンやノルアドレナリンなど、私たちの心の安定ややる気に関係している神経伝達物質は他にもいろいろとありますが、このうちセロトニンの濃度の影響が9割を占めていることが知られています。つまり、セロトニンの濃度が低ければ、心の安定が保てなくなったり、やる気がうまく出なくなったりするのです。

■腸内環境の悪化はメンタルの不調にも関係している

体内にあるセロトニンの分布の割合は、約90%が腸、約8%が血液中、そして脳内に存在するのはわずか約2%。この約2%の脳のセロトニンのモトが腸から吸収されます(図表1)。

【図表】セロトニンの9割は腸に存在している
出所=『すごい腸とざんねんな脳』

食事から摂取した必須アミノ酸(主にはトリプトファン)から、腸内細菌のはたらきでセロトニンのモトがつくられます。それが脳に届くとセロトニンとなり、リラックスや幸福感などの感情を発生させます。腸内環境が良いと十分な量のモトが脳へ送られるため、セロトニンが増えて精神状態が安定する一方、腸内環境が悪いとセロトニンが足りずにイライラや不安感の原因になります。

トリプトファンを摂取できる食べ物は、豆腐、納豆、みそ、しょうゆなどの大豆製品、チーズ、ヨーグルト、牛乳などの乳製品、米などの穀類です。これらを積極的に摂取することも大事です。また、明日からすぐに実践したいのが、起床後すぐに朝日を浴びること。太陽の光が網膜に入るとそれがスイッチとなりセロトニンの分泌(ぶんぴつ)がスタートします。

目の網膜(もうまく)が光を感じることでセロトニン分泌が活性化されるので、窓の近くや外に出て10〜30分ほど、しっかりと太陽の光を浴びましょう。光の強さは2500〜3000ルクス以上が望ましいため、500ルクス程度しかない室内の電灯では効果がないようです。

■運動はセロトニンの量を増やす効果的な方法

セロトニンには、体を活動モードにして心のバランスを整える効果もあります。太陽の光を浴びるとなんとなく気分がいいのは、セロトニンのそんな性質と働きが関係していたからです。体内時計を正すのにも役に立っています。さらに、運動はセロトニンの量を増やすもっとも簡単で効果的な方法です。

息が少し切れるくらいの軽いウォーキングを30分するだけでも、セロトニンの分泌量を増やすことができます。朝ごはんをリズムよくかんで食べる、吐く息を意識して深呼吸をするなどでも効果的です。ぬるめのお湯につかったり、ストレッチをしたりとリラックスする時間も設けてみてください。セロトニンを増やすだけでなく、自律神経を整える効果も期待できます。

■「今日食べたいもの」も腸が決めているという最新研究

今日は「脂のこってりしたものが食べたいな」とか、「あっさりした食事がしたい」という考えは、自分の意思で行っていると思っている人も多いでしょう。しかし、それは間違いかもしれません。なぜなら腸が決めているという研究結果があるからです。

人の消化管には1000種以上の腸内細菌が生息しており、腸内細菌は人が摂取した食べ物からエネルギーを得て生きています。また、人間に共生している腸内細菌はエネルギーを与えてもらうのと引き換えに、消化を助けたり、悪玉の腸内細菌を退治したりしてホスト(人)の体調を整えてくれていることも知られています。

腸内細菌でいっぱいの腸内のイメージ
写真=iStock.com/ChrisChrisW
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ChrisChrisW

普段は腸内細菌の存在を意識することはありませんが、人間と腸内細菌は持ちつ持たれつの関係を保っているというわけです。このように、人にとってありがたい存在の腸内細菌ですが、人の体調を管理してくれているだけでも人の食べ物の選択をも管理している可能性を、カリフォルニア大学のマーレイ教授らの研究グループが指摘しています(*1)

それによると、腸内細菌は猛烈な生存競争をしており、細菌同士の生存競争の過程で人の食べ物に対する欲求にも影響を与えているとのこと。具体的には、腸内細菌は他の種の腸内細菌との生存競争に勝つために、自分がより成長できる栄養素を摂取するよう人間に働きかけたり、逆にライバル種の腸内細菌が欲する栄養素を抑制するよう働きかけたりと、「綱引き」を行っているとしています。

(*1)Alcock J, Maley CC, Aktipis CA. Is eating behavior manipulated by the gastrointestinal microbiota? Evolutionary pressures and potential mechanisms. Bioessays. 2014;36(10):940-9.

■腸内細菌が食欲を操っている可能性が指摘された

この綱引きでは、腸内細菌は宿主の味覚を感じる味覚受容体を変化させて特定の食品をよりおいしく感じさせたり、空腹を誘発するホルモンを出したり、食べ物の摂取を抑制するように迷走神経を操作したりするとのことです。さらに、腸内細菌は他の種の腸内細菌との生存競争に打ち勝つために、宿主の健康増進よりも自らの種の繁栄に有利になるように働きかけることさえあると指摘しています。

つまり、高脂質の食事を餌にしている細菌が、あなたの食欲を操ることすらあるのです。

私たちが何を食べるかによって胃腸の中の腸内細菌の状態が変化することがわかっています。どの腸内細菌が多いか少ないかによって、活性化される遺伝子や吸収される栄養素が変わってくることも判明しています。無菌のマウスでは食べた脂肪の吸収が悪くなるようです。

さらに、食べ物と腸内細菌の関係は一方通行ではなく、「食べ物に細菌が影響される」だけでなく、「細菌の状態によって食べたいものが変わる」のですが、これまで、実際のところどのようにして腸内細菌が私たちの食べるものに影響を及ぼしいるのかはわかっていませんでした。

マウスの胃に直接エサを注入して摂食行動が味覚の影響を受けないようにした実験により、内臓が脳と連携して何を食べるかを決定するメカニズムの詳細が明らかになりました。

■足りない栄養素を補おうと腸が働きかけている

研究チームはキイロショウジョウバエの食習慣を研究することで、特定の種類の腸内細菌叢が宿主に足りない栄養素を検知し、どのくらいの量の栄養素を摂取すべきかを測定するということを発見しました(*2)

チームは、まずグループ1のハエに必須アミノ酸をすべて含んだショ糖の溶液を与え、グループ2のハエにはいくつかの必須アミノ酸を取り除いた餌を与えました。必須アミノ酸はタンパク質の合成に必要な物質なのですが、体内で作り出すことができないので、体外から取り入れるしかないものです。そして3つ目のグループのハエには、どの必須アミノ酸が腸内細菌によって検知されているのかを明らかにすべく、一つずつ必須アミノ酸を取り除いた餌を与えました。

それぞれの餌を与えられたハエは、72時間後、プロテインを豊富に含んだイーストと通常のショ糖溶液が餌として与えられました。すると、必須アミノ酸を欠いた食事を行った2つのグループのハエは、足りない栄養素を補うべくイーストを強く求めるようになっていました。

しかし、その後、研究者らがラクトバチルス・プランタルム、ラブレ菌、アセトバクター・ポモラム、コメンサリバクター・インテスティニ、エンテロコッカス・フェカリスという5種類の腸内細菌をそれらのハエの消化器官内で増加させると、必須アミノ酸を制限した餌を行っても、ハエはイーストを求めないようになったそうです。

この時、特定のバクテリアを取り除いたハエの必須アミノ酸レベルは低いままで、ハエやバクテリアが自分で足りない必須アミノ酸を作り出したということはありません。にも関わらず、「必須アミノ酸がなくても問題ない」と消化器官の細菌が宿主の脳に伝えているかのような働きが生まれていたわけです。

(*2)Leitão-Gonçalves R, Carvalho-Santos Z, Francisco AP, Fioreze GT, Anjos M, Baltazar C, et al. Commensal bacteria and essential amino acids control food choice behavior and reproduction. PLoS Biol. 2017;15(4):e2000862.

■腸内細菌と脳は独特の進化を遂げていた

5種類の細菌のうち影響力が大きいのはラブレ菌とアセトバクターで、この2つの細菌の量を増やされたハエはタンパク質への渇望が抑えられ、糖をより強く求めたそうです。通常であればアミノ酸の欠乏は細胞の成長や再生が阻害され、ゆえに生殖能力も落ちるのですが、この細菌を増やされたハエは、機能を回復させたとのことです。

内藤裕二『すごい腸とざんねんな脳』(総合法令出版)
内藤裕二『すごい腸とざんねんな脳』(総合法令出版)

続いて、研究チームは、アミノ酸の一種であるものの必須アミノ酸ではないチロシンを生成するのに必要な酵素をハエの体内から取り除きました。これによって、ハエは必須アミノ酸のようにチロシンを食べ物から取り入れる必要があるのですが、体内のラブレ菌とアセトバクターを増やしても、ハエが食べ物からチロシンを求めることを抑制することはできませんでしたつまり、ハエの腸内細菌叢は必須アミノ酸の摂取だけを検出できるようになっていたわけです。

今回の研究によって、宿主である生物と体内の細菌の間に独特の進化があることが示されるとともに、腸内の細菌が宿主の脳に情報を送っていることを強く示す事象が確認されたことになります。細菌は「宿主が何を食べているか」によって食事を左右し、また宿主が社会的であったほうが繁殖範囲を広げていけるので、「必須アミノ酸しか検知しない」といったシステムには、細菌が進化するにあたっての理由が何かあるのかもしれません。

(京都府立医科大学 大学院医学研究科 生体免疫栄養学教授 内藤 裕二)

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