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生涯賃金が上がるとは限らない…高い初任給に引かれて入社を決めた新卒を待ち受ける「言ってはいけない現実」

プレジデントオンライン / 2023年3月26日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

大手企業を中心に基本給を引き上げるとの報道が続いている。政府の要請で進む“賃上げ”の流れは労働者にとってバラ色か。近著『29歳の教科書』が話題のクロスリバー代表・越川慎司さんは「基本給の引き上げをアピールする企業が、社員の生涯賃金の総額を上げると断言しているわけではない点には注意が必要です」という──。(第2回/全5回)

■新卒の初任給引き上げの動きが続く

大手金融機関の三井住友銀行は、2023年4月に入行する新卒の初任給を一律5万円引き上げる方針であることが報じられました。初任給の引き上げは16年ぶりだそうです。

初任給の引き上げについては、昨年あたりから広く話題に上るようになってきました。大手メーカーの日立製作所や東芝でも大卒初任給の1万円引き上げを決定し、バンダイでは初任給を30%引き上げることが報じられています。

一般財団法人労務行政研究所によると、東証プライム上場企業の165社のうち、2022年4月に入社した新卒社員の初任給を引き上げた企業は4割を超え、過去10年間で最高だったそうです。この流れは続いています。

■外的要因に要請された結果の初任給アップ

コロナ対策や円安などが起点となって、世界的に急なインフレが訪れました。

インフレによる生活費の高騰に対して、政府はガソリン補助や低所得者世帯支援などを講じていますが、家計への負担は抑えきれない状況です。

岸田文雄首相は、経済団体や労働組合と連携を強化して、労働者の賃上げを目指しています。

また、労働市場での人手不足で人材獲得競争が激化する中で、各企業も新卒の初任給を上げざるを得ない状況です。

■生涯賃金が上がるわけではない…

しかし、初任給を引き上げている企業が、生涯賃金の総額を上げると断言しているわけではありません。この点には注意が必要です。

インフレで苦しんでいるのは日本企業も同じです。とくに内需に頼る企業はインフレによって原材料費等が上がり、業績が悪化しています。賃金の値上げと業績が連動していなければ、生涯賃金を上げられません。

実際、初任給の高さをアピールする企業の中には、「諸手当」を含めた金額で提示されているケースもあります。

クロスリバーが679社を調べたところ、78%の企業が公開する初任給は「基本給」のみでした。平均で5万円ほどの住宅手当や残業代などの「諸手当」は含まれていませんでした。

ところが、高額とされる25万円以上の初任給を採用情報に記載する企業では、初任給に「諸手当」を含めているケースが散見されますので注意が必要です。

■「初任給の高さ」は「入社後の給与の上昇」を保証しない

また、初任給の引き上げの裏で、年功序列賃金をやめて「役職給」の制度を導入している企業があります。

勤続年数や年齢に応じて給与が右肩上がりで増えていくのではなく、職務や役割によって給与を決め、減給となる可能性があるのが「役職給」です。

初任給の高さに釣られて入社した後に、給与の上昇が保証されているわけではないことを知って驚く新人が続出しています。

■高額初任給の外資系企業

一般的に、外資系企業は国内企業よりも高い初任給を提示することが多いといえます。

一部の大手外資系企業は、競争力のある初任給を提示することで優秀な人材を引き付けようとします。とくに金融、コンサルティング、ITなどの業界では、初任給が高い傾向があります。

また、外資企業は、特定のスキルや経験を持つ人材に対して、高い初任給を提示することがあります。たとえば、英語力が高い人や専門的な知識や技術を持つ人は、より高い初任給が支払われる可能性があります。

■外資は職種や役職によって大きく異なる

しかし、外資だからといって必ずしも初任給が高いわけではありません。職種や役職によっても初任給が異なります。

たとえば、エンジニアやデータサイエンティストなどの技術職や、戦略コンサルタントなどの専門職は、比較的高い初任給が設定されます。逆に言うと、こうした特定の職種以外に就くと、同じ会社であっても初任給が低くなることがあります。

初任給の高さを期待して外資系コンサルティングファームに入社したAさんは、希望とは異なるリサーチ部門に配属されました。国内コンサルティング企業に入社した大学同期と比べると初任給が低かったそうです。

Can you speak English?
写真=iStock.com/Ildo Frazao
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ildo Frazao

■英語ができれば仕事ができるわけではない…

また、英語力を武器にして外資に入ることはできます。

欧米系の外資企業では、上司や同僚、本社メンバーとコミュニケーションを取るには英語は必要です。英語が話せる人を優先して採用するのは理にかなっています。

しかし、英語が話せることと仕事で成果を残すことは必ずしも一致しません。

海外の大学を卒業して、初任給の高い外資企業に入社しても、そのあとの熾烈(しれつ)な競争においては英語が役立たないことも多々あります。

■外資系日本法人の「現実」

大手外資企業の日本法人に入社すると、英語力を発揮するシーンが限られます。

日本法人に所属するメンバーの多くは日本人で、社内コミュニケーションの主体は日本語です。また日本法人は、本社から見ると営業拠点と見なされることが多く、日本人の顧客と対応して営業成果を上げることを期待されます。

日本語しか話さない日本の顧客と対応する際には英語力は生かせません。

外資企業の本社にとっては、ローカル言語である「日本語を話せる人」を雇って、日本の顧客に営業してほしいわけです。英語が話せても、営業成績が悪ければ会社に居づらくなります。そもそも入社したばかりでは、英語を使って営業すること自体が少ないものです。

■外資でも「英語ができない人」が成績で表彰される

私が11年以上所属したマイクロソフトも同じです。

日本マイクロソフトは営業拠点であり、日本市場での売り上げファーストです。マイクロソフトを卒業したのは6年以上前のことになりますが、日本法人に在籍していて英語を使いこなしていた人は半分以下でした。

そもそも英語を必要としない営業担当が半分以上です。実際、好成績を残して社長表彰をもらう社員の多くは、英語力がさほど高くなかったように思います(私も含めて)。

日本法人に所属して日本の顧客に対して日本語で営業して成績を残した人が評価されているのです。

マイクロソフトからアップルやグーグル、アマゾンに転職した同僚も多くいました。いわゆるGAFAに転職してキャリアアップした人の中で、明らかに英語力が高かったといえる人は、私が在籍中に見た限りでは全体の半分程度でしょう。

■入社4~5年で結果第一主義に

外資企業は、ジョブ型雇用となり、「職務責任=ジョブ」が明確です。上司と約束した目標(コミットメント)を達成するかどうかで評価されます。

新卒から3年目ぐらいまでは育成枠として温かく見守られます。スキルを磨いたり、経験を積んだりするのは個人の裁量に任されることが多いといえます。

しかし、4~5年目以降ともなると、年齢に関係なく、結果第一の世界となります。ジョブ型雇用では、チーム内の先輩と比較評価されることも多々あります。

チームワークと人事管理
写真=iStock.com/tadamichi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tadamichi

■転職組に年収で抜かれるのが「当たり前」

こうして勝負の社会に飛び込んだ20代後半の外資社員には、すぐに意外なライバルが登場します。同年代の転職組です。新卒で国内企業や他の外資に入社した同年代の人たちが、転職してくるのです。

実際、外資企業では転職組のほうが多く、ポテンシャルではなく、実績を残してきた若手社員を採用します。新卒で入社した企業で若手ながらも実績をしっかり残していれば、社内からも社外からも評価されて“引く手あまた”です。

実績ある即戦力人材を獲得すべく、企業は高額な報酬で採用します。獲得競争の結果、新卒組よりも転職組のほうが高額の年収になることも多々あります。

■ジョブ型雇用の現実を知らない人が多い

私は3社の外資企業に在籍し、採用する立場でもありましたが、20代後半以降は新卒より中途採用のほうが、年収が高くなることが多かったといえます。

越川慎司『29歳の教科書』(プレジデント社)
越川慎司『29歳の教科書』(プレジデント社)

限られた新卒時の就職活動の期間で、希望の会社から内定をもらうことを目指してしまうのは仕方ありません。しかし、もう少し長い視点でキャリアを見つめることができれば、初任給は単なる選択要素の1つでしかないことがわかります。

日本企業でもジョブ型雇用を採用するトレンドが続いています。しかし、高い成果を出した人には高い報酬が与えられるというジョブ型雇用の「当たり前」に、20代後半になってから気づく人が多いというのが実情です。

初任給の高さと働き方の自由度を求めて外資に入社したとしても、そこでは自己学習して成果を出していかないと容易に同期に差をつけられ、後輩にも追い抜かれてしまうのです。

■広大なオープンワールドへ

昔のようにキャリアの階段をひたすら上っていく時代は終わりました。

自分の意志でスキルを磨き続け、実績と経験を積み重ねていかないと、社内外で声をかけてもらうことはできません。

私は29歳で外資に初めて転職し、多くのことを学びました。その後、30代・40代で転職と起業を経験して、着実に経験を積み重ね、個人ではなくチームで協働することの大切さを実感しています。

現在51歳の私が、「29歳の自分」にアドバイスできるとしたら、こう伝えます。

“一次的な給与の高さに目を奪われることなく、「自己学習を継続できる場所はどこか」「自分の能力をどこで発揮すべきか」を、広大なオープンワールドで考えながら動きなさい”

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越川 慎司(こしかわ・しんじ)
株式会社クロスリバー代表
元マイクロソフト役員。国内および外資系通信会社に勤務し、2005年に米マイクロソフト本社に入社。2017年にクロスリバーを設立し、メンバー全員が週休3日・完全リモートワーク・複業を実践、800社以上の働き方改革の実行支援やオンライン研修を提供。オンライン講座は約6万人が受講し、満足度は98%を超える。著書に『AI分析でわかったトップ5%リーダーの習慣』、『AI分析でわかったトップ5%社員の習慣』(共にディスカヴァー・トゥエンティワン)、近著に『29歳の教科書』(プレジデント社)がある。

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(株式会社クロスリバー代表 越川 慎司)

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