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AIが書いた記事がアクセス1位に輝く…そんな時代に決定的に重要になる人間の必須スキル

プレジデントオンライン / 2023年4月9日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ArtemisDiana

OpenAIが2022年11月に公開した人工知能チャットボット「ChatGPT」が話題だ。機械学習機能を備え、あらゆる質問に答えられるようになったAIがあれば、人間はもはや不要の存在か。『超「超」勉強法』を刊行した野口悠紀雄さんは「実際に試して確信しましたが、AI時代に人間が不要になることはありません。むしろ、人間が生み出す“良い質問”が決定的に重要になります」という──。(第3回/全7回)

※本稿は、野口悠紀雄『超「超」勉強法』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■AI時代には勉強する必要はなくなるか

AI(人工知能)の力で、検索がますます容易になり、かつ強力になっています。

スマートフォンに向かって質問するだけで、答えを出してくれます。また、セマンティック検索が可能になりつつあります。これは、ユーザーの質問が曖昧(あいまい)であっても、検索意図を検索エンジンが推測し、ユーザーが求めている検索結果を提供する技術です。

最近では図形認識の精度が上がってきたため、スマートフォンで撮った画像があれば、それで検索することもできるようになりました。これによって、例えば、花の名を知ることができます。

こうした技術は、今後もますます進歩するでしょう。そして、ますます詳細な情報を、ますます大量に提供してくれるでしょう。

これは、有能な物識りをいつも連れて歩いているようなものです。これによって、われわれの世界認識は大いに広がるでしょう。

■「良い質問」が決定的に重要になる

AIに聞けば何でも教えてくれるのであれば、人間が勉強して知識を得る必要はなくなるようにも思えます。では、「人間は知識を持っていなくてよい」「知識を得るために勉強する必要はない」ということになるのでしょうか?

決してそうではありません。

その第1の理由は、「何を質問するか?」こそが重要だからです。つまらない質問しかできなければ、つまらない答えしか返ってきません(これを、「愚問愚答」といいます)。AIは、質問に対して答えるだけで、「どんな質問をしたらよいのか?」は教えてくれません。

アメリカの教室で適切な質問をすると、教授から「良い質問だ」という答えが返ってきます。「良い質問」をするのは、質問者が高い能力を持っている証拠なのです。そして、その能力は、勉強によって得られたものです。

勉強しない人は、能力を高めることができず、したがって、いかに高度なAIに対しても、つまらない質問しかできません。「宝の持ち腐れ」とはこのことです。「猫に小判」といってもよいでしょう。「豚に真珠」ともいえます。

AI時代においては、「良い質問」が決定的に重要になるのです。

■知識が増えれば創造が容易になる

AI時代において勉強が必要な第2の理由は、知識の蓄積が創造にとって不可欠であることです。

人間が新しいアイディアを発想するためには、頭の中に蓄積してある内部情報との照合が必要です。内部情報をたくさん持っている人ほど、たくさんの発想ができます。そして、内部情報を蓄積するには勉強が必要です。

AIによって知識を得るのが容易になれば、知識を獲得して新しいものを創造するのが容易になるのです。人々が多くの知識を獲得し蓄積することによって、創造が進むことが期待されます。

■AIが作った文章がランキング1位に

AIは文章を書けます。スポーツの試合や株式市況の報道などでは、すでに実用化されています。

数年前に、AIで文章を書くサービスを提供するサイトが登場し、個人でも使えるようになりました。さっそくテストしてみたのですが、そのときには、まるで使いものになりませんでした。「これなら、もの書きの仕事がAIに奪われる心配はない」と、安心しました。

ところが、2020年7月、アメリカの有名なニュースサイトHacker Newsに何本かの記事が寄稿され、それらの中には、アクセスランキングで1位になったものもありました。そして、記事の作成者であるカリフォルニア大学の学生が、記事はすべてAIが作成したものだと、自身のブログで告白したのです。

彼がAIに与えた指示は、記事のタイトルだけで、本文はすべてGPT-3というAIが作成しました。GPT-3は、イーロン・マスクらが設立したOpenAI社が開発した文章生成AIモデルです。

■小説は書けるだろうが、試験なら不合格

GPT-3を用いた日本語のソフトも、しばらく前から利用可能になっています。

いくつかのキーワードを与えると(あるいは、元となる文章を与えると)、新しい文章を作成してくれるサービスが、ウェブにいくつか提供されています。著作権は利用者にあるので、書いた文章をウェブなどで公開することも可能です。

文学賞に応募することもできます。日本経済新聞社が主催する文学賞「星新一賞」は、応募資格で「人間以外(人工知能等)の応募作品も受け付けます」としています。

2022年に発表された第9回の応募総数は2603編。そのうち、AIを利用して作られた作品が114編ありました。そして、同賞で初めて、AIを使って執筆された小説が入選しました。

このようなニュースを読むと、私も、のんびりとしてはいられません。そこで、ウェブにある新しいサービスをいくつか試してみました。

確かに、文章を出力してはくれます。しかし、支離滅裂で、使えそうなものにはなりませんでした。関連のある単語を含む文章が出てくるのですが、文章間の関連が理解できず、読めば読むほど、頭が混乱します。

チャットGPT人工知能アプリのアイコン
写真=iStock.com/stockcam
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/stockcam

■ChatGPTの可能性

GPT-3に、チャットの受け答えなどに関する追加の調整を行なって作られたのが、「ChatGPT」という言語モデル。文章で質問すれば、文章で答えます。小説のプロット作成、英会話の相手やプログラムコードの作成なども行なえるとされます。

大きな反響を呼び、サービス開始からわずか2カ月後の2023年1月に、ユーザー数が1億人に達しました。

登録すれば誰でも利用できるのでさっそく試したのですが、成績は芳しくありません。「公的年金のマクロ経済スライドとは何か?」と質問したところ、デタラメな答えしか返ってきません。「不満足な答え」というより、「まったくの誤り」です。試験なら零点で、不合格です。

ChatGPTはアメリカの医師免許試験(USMLE)やMBAのウォートン・スクールの最終試験に合格したという話があるのですが、日本語での成績は、まったくの期待はずれです。

■論文作成ソフトが登場

現在のAI文章作成サービスは、もの書きの脅威にはなっていません。ただし、それは、現在の話です。AIの進歩は早いので、これからどうなるかは分かりません。

実際、AIを用いた専門家用の新しいツールが、いくつか作られています。

Manuscript Writerは、研究データを登録しておくと、論文の序文を作成します。データや研究ノートから、その人の研究テーマや研究手法を推測し、先行研究を関連ワードから特定します。それらのうち、公開されている文献の内容をまとめてくれます。

先行研究の要約はかなり機械的な作業なので、AIに向いているといえるでしょう。これによって、論文を作成するために必要な時間を大幅に短縮することができるといわれます。

ただし、論文の本体は、研究者自身が書かねばなりません。

■問題を捉えることが必要

AIの能力が将来向上するとしても、それが人間が文章を書く作業を全面的に代替するとは考えられません。

AIが行なっているのは、「さまざまなキーワードのあらゆる組み合わせを試みて、そこから意味ある内容を引き出してくる」ということです。しかし、人間が文章を書く行為は、これとは本質的に異なるものです。

論文では、問題発見が最も重要です。そして、その問題について考察を進めて結論を導くために、どんなデータを使って、どのような分析をしたらよいかを決めることが必要です。

これらに成功すれば、8割方成功です。

■論文作成の最も重要な作業は、人間にしかできない

では、何が重要な問題なのか? それは、アクセスランキングのトップにある記事のテーマではありません。それらは、多くの人が関心を持っているというだけのことです。

論文作成の最も重要な作業は、人間にしかできないと思われます。スポーツや株式欄の記事には、こうした要素がありません。これらは、データを与えれば定型的に書けます。また、小説の場合は、奇想天外な展開をしてもよい。こうした分野では、AIが書く文章が今後増えていくでしょう。

しかし、論述文で奇想天外な展開をされたら困ります。事実に反することを事実であるように書いたり、論者の評価と違う評価をされたりしても困ります。これらは、執筆者本人がコントロールしなければならないものです。ですから、人間が関与せずに論述文ができあがるとは考えられません。

「これこれの問題について、人々をあっと言わせる論文を書いてくれ」と指示するだけで、あとは寝ながら待っていればよいというわけにはいかないのです。

人工知能技術のイメージ
写真=iStock.com/ipopba
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ipopba

■音楽や画像では、AIが創作を始めた

音楽や画像ではどうでしょうか? AIを用いた音楽制作プラットフォームは、いくつも作られています。

ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)は、iOS向けのAI作曲支援アプリ、Flow Machines Mobileの提供を開始しました。「J-POP」「ジャズ/フュージョン」などと楽曲のジャンルを指定すると、4小節もしくは8小節のメロディをAIが自動生成します。この他にも数多くのアプリが利用可能です。

画像については、2022年の夏に大きな展開がありました。AIを活用して画像を作るサービスがつぎつぎと登場したのです。文字列を打ち込むだけで、きわめて高いクオリティーの画像が表示されます。

MidjourneyとStable Diffusionなどの画像作成AIが公開されました。Stable Diffusionはオープンソース化されていて、営利、非営利を問わず、使用が許可されています。

8月に開催された第150回アメリカ・コロラド州の美術コンテストのデジタルアート部門で、Midjourneyを使って作られた作品が1位になりました。作品を提出したのは、ジェイソン・アレン氏。ゲーム会社の経営者・ゲームデザイナーであり、アーティストではありません。芸術コンペに応募するのも初めてでした。作品制作に要した時間は、80時間程度でした。

AIが大量に画像を生成してくれるので、制作コストが下がります。デジタルアーツのクリエイターにとっては、大問題です。

■人間の関与は不可欠、ただしその内容が変わる

ただし、デジタルアーツの分野でも、人間の関与は不可欠です。重要なのは、「どのような絵がほしいのか」という指示文(「呪文」と呼ばれる)だからです。それによって成果物の出来映えが決まります。

実際、同じAIサービスを使っても、1位になった作品もあるし、選外になったものもあります。それらは、偶然の要素で決まったのでなく、人間の指示で決まったのでしょう。

つまり、必要とされる仕事の内容が、これまでとは違ってくるのです。デジタルアーツのクリエイターたちは、いまそれを強烈に意識し始めているに違いありません。論述文の場合には、人間の指示がとくに重要です。その重要性は、音楽や絵画に比べて遙かに高いのです。

そうではあっても、仕事の性格は変わってきます。文章の場合も、ITとインターネットの進展によって、作業に必要とされる技能も作業の内容も、すでに大きく変わっています。情報技術の進歩で、知的作業の内容が変わるのは、当然のことです。こうした変化は、今後もさらに続くでしょう。

■生成系AIの応用で検索エンジンに革命

紹介したChatGPTや画像作成サービスは、「生成系AI」(ジェネレイティブAI)と呼ばれます。これは、データを基に、テキストや写真、動画、コード、データ、3D画像などの新しいコンテンツを数秒で生成するAIアルゴリズムのことです。

野口悠紀雄『超「超」勉強法』(プレジデント社)
野口悠紀雄『超「超」勉強法』(プレジデント社)

対話型生成系AIは、検索に大きな影響を与えます。

マイクロソフトは、2023年2月22日、この技術を組み込んだ検索エンジン「ビング(Bing)」を公開しました。ChatGPTは、私の質問に対して誤った答えを出しましたが、Bingは同じ問いに正しく答えました。しかも、対話をすることで、知りたいことをさらに深めていくことができます。

検索エンジンに大きな革命が起こりつつあると実感します。グーグルはこれに対抗して、チャットボット「バード(Bard)」を公開するとしました。

これからの社会では「良い質問」が決定的に重要になります。対話型検索エンジンが利用できるようになったので、質問の重要性がさらに増します。

進化した検索エンジンは、私の仕事を奪ってしまう「敵」ではなく、仕事を手助けしてくれる「味方」であると感じます。

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野口 悠紀雄(のぐち・ゆきお)
一橋大学名誉教授
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問を歴任。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書に『「超」整理法』『「超」文章法』(ともに中公新書)、『財政危機の構造』(東洋経済新報社)、『バブルの経済学』(日本経済新聞社)、『日本が先進国から脱落する日』(プレジデント社)ほか多数。

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(一橋大学名誉教授 野口 悠紀雄)

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