「沖縄県人を侮辱している」朝ドラ「ちむどんどん」史上最低レベルの視聴率に県民が挙げた"戦犯"の名前【2022下半期BEST5】
プレジデントオンライン / 2023年3月25日 18時15分
■胸がどんどん(ワクワク)しない「ちむどんどん」
「もはや放送事故」
「貴重な受信料の無駄使い」
「ドラマのタイトルが“胸がどんどん(ワクワク)する”という意味なのに、全くどんどんしない」
NHK朝の連続テレビ小説(朝ドラ、以下同)の「ちむどんどん」が、ネット上などで散々な評価を受けている。
視聴率はなかなか改善の兆しが見えず、朝ドラ史上最低に迫る勢い(※)。この朝ドラを見てモヤモヤした後に、ツイッターの「ちむどんどん反省会」の投稿を読んでスカッとするという、視聴者のねじれ現象も発生中だ。
※現在の「ちむどんどん」世帯平均視聴率は14~16%台で推移(ビデオリサーチ調べ/関東地区/以下同)。
ヒロイン比嘉(ひが)暢子(のぶこ)を演じる黒島結菜を筆頭に、仲間由紀恵、大森南朋、上白石萌歌、川口春奈、宮沢氷魚など出演俳優陣には厚みと新味があり、脚本家は人気の朝ドラ「マッサン」を描いた羽原大介と不安材料は見当たらない。
なのに、どうしてこんなに面白くないのか? ドラマの舞台である沖縄県民の声を交えながら検証したい。
■“安室”と“ちゅらさん”で沖縄の地位は上がったのに
朝ドラを見ていない人のために、ストーリーの概要を簡単に解説しよう。
沖縄北部のやんばる地域で生まれた、主人公の比嘉暢子。父を早くに亡くし、4人の子供を女手一つで育てる母を支え、幼い頃から家族の食事作りを担当。「世界中のおいしいものを食べたい、作りたい」という夢をかなえるために、沖縄が本土に返還された1972年5月15日に上京して、人気イタリア料理店で料理人見習いとして雇われる。暢子の成長と恋愛、食への思いを描いたストーリーだ。
![シーサーとハイビスカス](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/3/1200wm/img_63d17683c01ccb69078ea0ff35723116474075.jpg)
現在、“やんばる”地域に近い島嶼地域に住む30代のA子さんはこう話す。
「本土復帰50周年というタイミングで放送される朝ドラだから、最初の頃の沖縄県民は結構期待していました。“した”とすでに過去形なんですけど(苦笑)。今は、“ながら見”で、たまにきちんと見る程度です」
歴代の朝ドラウオッチャーでもあるA子さんは続ける。
「安室奈美恵さんの活躍、朝ドラ『ちゅらさん』(2001年度上半期に放送)の成功のおかげで、沖縄の存在は日本中に認知されたし、県民の地位も上がったと思うんです。それまでウチナンチュ(沖縄人)は、ヤマトンチュ(本土の人間)からどこか下に見られていました。『ちむどんどん』が描く沖縄の人間像は、その下に見られる時代に舞い戻っているようで、不快な部分もあります」
■沖縄の人間を典型的な“型”に嵌めた不快さ
2018年に引退した歌手の安室奈美恵は沖縄が生んだ稀代の歌姫である。沖縄出身のスターやアスリートはたくさんいるが、もっとも輝かしい功績を残したのは彼女だろう。日本でありながら、日本でない沖縄の国内での立ち位置というのは、戦前、戦中、そして現在でも非常にセンシティブだ。そんな沖縄の地位の向上に寄与した安室の評価は、沖縄ではとてつもなく高い。
母子家庭出身で、自身も離婚してひとり親となったA子さんはドラマ愛があるゆえの苦言を呈する。
「安室さんも母子家庭で育ち、とても貧しい生活を送っていたのに、あそこまで成功できて本当に尊敬しています。現在の沖縄でも実際に貧困とか、シングルマザーの家庭が多いとか、男が働かないとか解決されていない問題が山のようにありますが、今回の朝ドラではそこを面白おかしく切り取っているような印象で……。沖縄の人間を型にハメたらハメっぱなし。その先の展開がないのが残念だし、今のところ希望が見えないんです」
まるで「朝ドラ史上最低のつまらなさ」と言わんばかりだが、いったい何が原因なのか。筆者が沖縄県民とともに選考した“戦犯”キャラを紹介しよう。
■働かない男“にいにい”の荒唐無稽ぶりは、病気レベル
ウチナンチュの男の典型(と思われる)なのが、主人公・暢子の兄(長男)の賢秀(竜星涼)、通称“にいにい”なのだが、これがありえないほどのごくつぶし。妹3人が母を手伝っているのに、何もせずに日がな一日ゴロゴロしているだけ。何もしないだけならまだしも、とんでもないことをしでかす男だ。
例えば、本土復帰前にドル紙幣を円に交換する際「高いレートで儲けさせてやる」という詐欺にまんまとだまされ、家中のお金を渡してしまったり、同じ詐欺師から紅茶豆腐(70年代にはやった紅茶キノコのパロディー)を大量に押し付けられたり、きれいなセールスパーソンから下心ありありで商品を買うが、彼女には婚約者がいて美人局に遭っている状態になったり……にいにいのおバカエピソードは枚挙にいとまがない。
こうしたおバカキャラはしばしば朝ドラに登場し、それに視聴者も引き寄せられるのだが、今回は“沖縄あるある”を並べられて県民が小バカにされているように感じてしまったのかもしれない。
![2012年8月12日、真昼の炎天下、那覇市の通りをゆく和太鼓奏者](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/9/1200wm/img_e9a3cf9a0e3145c3912af5b0071a19b6481312.jpg)
■聖母のようにほほ笑みを絶やさない優子
テレビ情報誌の編集者として働く沖縄出身50代女性のB子さんが解説する。
「でも、にいにいをそんなふうに育ててしまった母親の優子(仲間由紀恵)にも責任があります。優子は非常に愛情深い優しい女性なのですが、とにかく男の子に甘い。にいにいがドル紙幣の交換詐欺に遭った時も、自ら親戚に借金をしてお金をかき集めている。本当ならば『そんなウマい話はあり得ない!』と叱り飛ばして息子をいさめるのが母の役目でしょう。しかしこの母にしてこの子あり。貧しさは環境や時代のせいだけではなく、親の無知と浅はかさが招いているのかも、という見方もできます」
優子は子供たちが小さい頃からどこか危なかっしい部分があった。
非力ながらも土木工事に従事して体を壊したのは、子供たちの運動靴や体操着を購入するためだが、にいにいが誤って飼っていた豚の前に置きっぱなしにしたため、靴も体操着もズタボロに。それでもにいにいに向かって聖母のようにほほ笑みを絶やさない優子……。視聴者は怒りを通り越して、もはや彼女の精神構造を心配してしまうレベルだったのだ。
「女親というのは、たいがい息子には甘いもの。彼が何歳になってもかわいくて仕方がないのはわかります。でも、優子の度を越した甘さや優しさは子供を増長させ、見ている人間をイライラさせるだけです。沖縄の人間はおっとり優しい人が多いとは思いますが、にいにいと同様共感ができずイラーっとさせるキャラ設定は、ある意味ウチナンチュへの侮辱ですよ(苦笑)。これでは朝から見たくなくなる」(前出B子さん)
後日放送のエピソードで、優子の桁外れの優しさは、第二次世界大戦の沖縄戦で家族を亡くしたトラウマがあったからだと判明した。しかし、それを差し引いても甘すぎる。
![沖縄に咲くハイビスカス](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/2/1200wm/img_42aef7090d841b57b36f315c5b23a2d4446072.jpg)
■インテリ和彦の優柔不断・傲慢ぶり
違和感のある役柄はまだほかにもいる。にいにいほど“おバカ”ではなく、むしろ知的レベルが高いと思わせるのが、暢子の幼なじみの和彦(宮沢氷魚)。この人も戦犯かもしれない。
とにかく視聴者をイラつかせることこの上ない。インテリぶりから起因する優柔不断さや傲慢ぶりがそれに拍車をかけている。
ちなみにドラマのキャラ設定が視聴者の共感を得られないのは前述のとおりだが、シチュエーションも唐突すぎてこれまた共感できない。
例えば、暢子と約10年ぶりに東京で再会した和彦は新聞記者になっていた。暢子が働いていたイタリア料理店のオーナーが、その新聞社の記者と懇意にしていたので「暢子は常識がなさすぎて店では使えない。だから、あなたの新聞社でボーヤ(下働き)として鍛えてくれ」と記者に頼み込む。そして新聞社の記者となっていた和彦と再会するというわけだ。
しかし、だ。暢子に常識がないのは前からわかっていたことであり、なぜ今さらそれをオーナーが言い出すのか、しかも人手不足の料理店からわざわざボーヤに出す意味もわからない。
つまりは和彦と再会させるためのドラマ演出上の苦肉の策。この類いの無理やりなシチュエーションが、ドラマのあちこちに散りばめられている。
話を戻そう。
■和彦の戦犯確定エピソードは2つ
和彦の戦犯確定の2つ目エピソードは、遺骨収集をするご老人に向かい「今のお気持ちをお聞かせください」と詰め寄る取材マナーのかけらもないシーン。しかも、ご老人は事前に取材を拒否していたのだ。
「メディアとして権威が失墜した現在ならいざ知らず、70年代のメジャーな新聞社なら、確かにこうした無礼な手法はやりかねないかもしれません。大新聞社が取材をやってあげているという上から目線な態度は、かなりリアルかも。ただ、視聴者の印象は悪い」とB子さん。
もしかしたら、この老人が、ドラマの流れと、沖縄で生まれ育ったキャラクターたちを変えるゲームチェンジャー的な役割を果たすのかもと思いたい。
なぜなら、本土復帰前後の沖縄のあり方を丁寧に描写するシーンがほとんどないからだ。あるとすれば、やんばる地域特有の共同売店が舞台として頻出すること、車が左側通行になったこと、にいにいがドル紙幣交換詐欺に遭ったこと、それ以外は、当時の首相・佐藤栄作が国会で復帰を記念して「万歳!」と叫んでいる資料映像が挿入されているぐらい。今のままでは、何のために朝ドラは沖縄を舞台にしたのか、はなはだ疑問である。と書いているうちに、放送回は進み、沖縄戦の悲惨さを伝えるシーンが徐々に盛り込まれてきた。
■「ちゅらさん」の二番煎じと呪縛。黒歴史にされた『純と愛』
さて、前出A子さんが大好きだったという「ちゅらさん」は、女優・国仲涼子の出世作で、朝ドラ史上初めて沖縄を舞台として描かれた。視聴率こそ最高ではなかったものの、続編が次々と作られ、2022年も再放送された。
「ちゅら」「おばぁ、おじぃ」「三線(さんしん)」「サーターアンダーギー」など、沖縄の独自の方言や文化が、周知されるようになったきっかけといってもいい。
![2017年、1万人のエイサー隊](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/7/1200wm/img_97a04bc16b8b29f2dc32ccd83b930360460309.jpg)
八重山諸島の小浜島から那覇に移り住んだ一家の大黒柱の父は、いつでも三線弾きながら歌う陽気な男、住所不定無職のごく潰し長男、ヤマトンチュの男子と恋をし、夢に向かって東京で修業する主人公などと、話のベースはとても似ている。荒唐無稽なキャラ設定としてはどっちもどっち。
むしろ、「ちゅらさん」の主人公は、長男の兄が手を染めた怪しい商売に自ら肩入れするなど、暢子よりもクレイジーぶりが際立っている。しかし、どうしてここまで評価が分かれたのか?
「『ちゅらさん』の兄はどうしようもないけれど、ちゃんと心を入れ替えて家族に寄り添っていました。でも、にいにいには改心の気持ちがなくいつまでも甘ったれな長男坊から成長しない。ちゅらさんの登場人物も最後には立派に自立します。しかしなんと言っても“おばぁ”の存在が大きいですね。演じた平良とみさんは、リアルなおばぁといった感じで、彼女が発する言葉一つひとつが心に染み入りました」(A子さん)
「ちゅらさん」をまねたものの、視聴者が共感するストーリーやキャラクター、おばぁのようなリアルかつ強烈な演者を揃えることができなかったということか。
何かにつけ、デキがよかった「ちゅらさん」と比較されるのは、製作陣もつらいだろう。
「沖縄が舞台の朝ドラには『純と愛』(2012年度下半期に放送、夏菜・風間俊介主演)もあります。朝ドラにしては珍しく、ちょっと暗くて救いのない話で最後もバッドエンド。よく言えば“攻めた”ドラマで、私は嫌いではなかったのですが、視聴率が低く結果につながらなかった。『純と愛』の悪夢を封じるために、陽気な王道路線に戻したのかなとも思います」(B子さん)
■最後の戦犯は、やはり主人公・暢子
残念ながら、主人公・暢子もA級戦犯と言わざるをえない。前述したように、朝ドラとは、自由奔放ではちゃめちゃな主人公が、夢に向かって成長する姿に変わっていくのが醍醐味だ。他人に対しての思いやりや礼儀や夢をかなえるための強い気持ち、大人の女性としての人間的な魅力など、これらの美質を半年間の間にぎゅっと凝縮することが大前提。それでこそ朝ドラヒロインだが、今のままの暢子では、朝ドラヒロイン失格と言わざるをえない。
例えば、母と再婚の噂がある知人に向かって、日頃の感謝の意も示さず「再婚するつもりがあるのか?」と詰め寄る。名文化人も集うイタリア料理店でイタリアの勉強を全くしない。さらに和彦のことが内心では好きなはずなのに彼の気持ちをあっさり拒否する(しかし後に翻意して結ばれる)。
その迷走ぶりに視聴者が「暢子はいったいどうしたいの?」と謎は深まるばかりだ。
![ソーキそば](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/d/1200wm/img_0de71dd75ff73bd542886af8cc3f8508435177.jpg)
■暢子、にいにい、和彦の成長につながる「まっとうな人々」
ここまで作品のネガティブな面を述べてきたが、もちろん、どんな作品(現状では)にも、キラリと光る部分はある。
戦犯キャラのアクが強すぎてかき消されそうになったが、秀逸なキャラクターはたくさんいるのだ。ところが、前出・戦犯3人の前であえなく討ち死に、あるいは遠くに行ってしまったかのようだ。
いい味を出していたと筆者が思うのは、
・人見知りで病弱な比嘉家の末っ子・歌子の才能を見いだし導く音楽教師
・和彦の気持ちを酌み取ってパリに旅立った婚約者
・暢子の姉・良子に恋い焦がれていたのに男らしく身を引いたボンボン
至極まっとうな人々で、視聴者にも受け入れられた感がある。彼ら彼女たちの思いが、ヒロイン暢子と彼女を取り巻く人物たちの成長に今後どこかでつながらないかと期待するばかりである。
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ファッション系出版社、教育系出版事業会社の編集者を経て、フリーに。以降、国内外の旅、地方活性と起業などを中心に雑誌やウェブで執筆。生涯をかけて追いたいテーマは「あらゆる宗教の建築物」「エリザベス女王」。編集・ライターの傍ら、気まぐれ営業のスナックも開催し、人々の声に耳を傾けている。
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(フリーランスライター・エディター 東野 りか)
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