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先進国なのに「ライドシェア」が導入されない…橋下徹「30年も日本経済を停滞させた既得権益」という深刻な病

プレジデントオンライン / 2023年3月29日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/blinow61

日本経済が失われた30年と呼ばれる状態に陥ったのはなぜか。元大阪市長の橋下徹さんは「日本では、古い経済主体の既得権益が守られ、新しい経済主体の参入が難しくイノベーションが起こりづらい。典型例が先進国なのに導入されていない『ライドシェア』の問題だ」という――。

※本稿は、橋下徹『日本再起動』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

■日本はなぜ、30年間も停滞したのか

あらためていうまでもないことですが、経済成長の源は企業や個人などの経済主体による活気ある活動にあります。そして財やサービスの「量」だけではなく、「質」を高めることが重要です。

今の時代は、個々人の価値観やニーズが多様化し、前の時代よりも生活レベルが確実に上がっています。そのため多様なニーズに合致し、さらに生活の満足度を上げるような財やサービスを生み出す必要があります。それが「イノベーション」です。

最近インテリたちの間では、「植民地からの収奪を基本とする資本主義は終焉(しゅうえん)を迎えており、先進国はもはや経済的成長を望むことはできない」という論がはびこっているようです。

しかし、これはあくまでも成長を「量」の拡大のみでとらえているもの。「質」を高めることで新たな需要を生み出し、成長していくのがイノベーションの思考です。

イノベーションは、企業や個人が切磋琢磨(せっさたくま)するなかから生み出されます。

企業や個人がイノベーションを起こすにはお金が必要なので、政治行政が大量の税金をそこに投入することは、僕も否定しません。自民党から共産党まで、税金投入はよい政策として強調します。

しかし、お金よりも重要なことは、経済主体である企業や個人が協力したり競ったりして成長できる環境を整えることです。

民間が自由な活動を行うことができ、そして古い経済主体が市場から退場して、新しい経済主体がどんどん入ってくるような環境。この環境があって初めてイノベーションが生じ、経済が成長します。

ところが日本では、経済主体である民間事業主の自由な活動が阻害されることが多い。古い経済主体の既得権益が守られ、新しい経済主体の参入が難しいのです。だから経済が成長しない。それがこの30年の日本経済の停滞の原因です。

■先進国でも「ライドシェア」が導入されない日本の異常さ

たとえば、「ライドシェア」がその典型です。

ライドシェアとは、行政が管理するタクシー免許をもっていなくても、自分の車を利用してドライバーとしてタクシー業に参加できるというもので、配車アプリがドライバーとお客を適時マッチングさせます。

アメリカ企業ウーバー・テクノロジーズの事業が有名ですが、海外の先進国ではライドシェアのシステムが定着しています。先進国で導入されていないのは日本くらいです。

お客とドライバーが相互に評価し合い、アプリにそれが表示される仕組みになっていて、悪い評価のドライバーは選ばれなくなり、悪い評価のお客は乗車拒否に遭う。

悪い経済主体はライドシェアの世界から淘汰(とうた)されていくシステムです。そのため、料金は明朗で、ドライバーのサービスは好評だし、お客が事件を起こすことも少ない。

配車アプリの機能もより使いやすく日々改良が重ねられています。ライドシェアのドライバーは免許制によって台数制限をかけられているわけではないので、乗車可能な車両が街中に数多く走っています。

顧客獲得競争が激しいので、ドライバーは各々、お客を拾えそうな場所を見つけ出し、その周辺で車を走らせます。その結果、お客は乗りたいときにすぐに空車を見つけることができるのです。

海外でライドシェアを使った人は、その便利さを実感しているはずです。そして日本に来てライドシェアが使えないと、その不便を痛感するわけです。

日本でライドシェアが原則認められていないのは、タクシー業界や所管する国土交通省、そしてそれを支援する政治家などが強力に反対しているからです。

■タクシーを拾おうと思っても、全然つからまない理由

最近配車アプリは普及し始めましたが、それはタクシー免許をもつドライバーを対象にしたもので、ライドシェアとはいえません。単なる免許タクシーの配車アプリです。このような現状のタクシー免許制は本当に国民の利便性に貢献しているのでしょうか。

まず、サービスの悪いドライバーが新しいドライバーと入れ替わる力が働かない。一度免許を取得したドライバーの権利は原則、永遠に保障されるので、サービスの悪いドライバーが排除されることはまずありません。

皆さんは、日本のタクシーに乗って気分を害したことはないでしょうか。お客はドライバーがどのレベルなのかを事前に知ることができないため、乗車後に嫌な思いをすることがあります。

さらに、日本のタクシーは免許制によってドライバー・車両の台数が制限され、供給過剰にならないように調整されています。

東京駅前のタクシー乗り場
写真=iStock.com/Rich Legg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rich Legg

ドライバー間に過度な競争が発生して各人の売り上げが下がらないようにしているのです。だから、タクシーを利用したい雨の日や、時間や場所によっては、乗ろうと思っても全然つかまらない。

競争がないため、ドライバーは客がいそうなところを必死に探そうとせず、確実にお客を拾えるターミナル駅のタクシー乗り場で長時間待機していることが多いからです。

先日僕自身も、娘と美術館に行った帰りにタクシーに乗ろうとしましたが、なかなか拾えなかった。不便極まりないと感じたものです。

■既得権がイノベーションを阻んでいる

日本政府がライドシェアを認めないのは、タクシー会社やタクシードライバーの利益を守るためです。

車をもっている人がタクシー免許がなくても気軽に空いた時間でタクシー事業ができるようになると、既存のタクシー会社やタクシードライバーにとっては大打撃です。他方、彼らの利益を守ると国民全体の利便性が損なわれます。

このライドシェアの話は、タクシー利用者の利便性向上の話にとどまるものではないことが重要なのです。これは経済主体がイノベーションを起こすことができるかどうかの重要な分岐点になる話なのです。

というのも、ライドシェアから始まったウーバーなどの事業者が、配車サービスを起点に次々と新たな事業を生み出してきているからです。

空車車両とお客をマッチングするだけでなく、飲食店と消費者を出前で結ぶウーバーイーツが生み出され、コロナ禍の日本でも爆発的な成長を遂げました。

さらに海外の配車アプリ事業者は、ネット金融やネット販売などにも事業領域を広げ、スーパーアプリなるものに発展しています。これこそまさにイノベーションによる経済成長です。

■世の中で巻き起こる賛否両論の議論は2種類

日本では、そもそもライドシェアが認められていないので、それを起点にしたイノベーションや成長は生じていません。既得権益を守りたいという動きはタクシー業界だけではありません。

たとえば、新型コロナウイルス対応について政府は、「かかりつけ医制度を設けたり医療機関に対する指示権を確立したりする」と言いました。しかし、そうした提案に対して医療界は猛反対しました。

ですから、今政治が優先的にやるべきことは、最近議論が始まったWeb3.0(仮想通貨の経済圏)などのちょっとかっこよさそうな問題ではなく、民間の経済主体によってイノベーションが生まれる環境を整えること。

すなわち既得権益をぶっ壊し、新規参入がどんどん促されて経済主体が切磋琢磨できる環境を整えることなのです。

世の中の賛否両論の議論には2種類あります。1つは、学者たちが集まって賛否両論が巻き起こる場合です。これは専門家による机上の議論ですから、命をかけたものではなく、学術的な議論や抽象的な議論に終始します。

もう1つは、自分たちの生活がかかっている人たちが激しく反対する賛否両論の議論。こちらは参加者が命をかけて議論します。Web3.0の話は前者であり、ライドシェアの話などは後者であり、政治家が力を尽くすべきはもちろん後者です。

■「経済安全保障」は実現できるか

国政選挙の前になると、多くの党は「経済成長をめざす」と言います。しかしその方法はというと、国債を発行して金をつくり、特定産業や特定団体にお金を投入するという話ばかり。

それだけでは成長は望めません。本来はライドシェアのような、民間企業の新しい活動を認めていくことが経済成長の原動力なのです。

今、日本では国家として半導体製造の工場をもつことが必要不可欠だという声が強くなっています。この点に関連して岸田政権でも「経済安全保障」という言葉が躍っています。

現在、世界第三位の台湾の半導体メーカーTSMC(台湾積体電路製造)に数千億円の補助金を出して、熊本に工場を誘致する話が進んでいます。

TSMCはそれに応えて2021年10月に日本国内で初めてとなる新工場の建設に着手し、24年の稼働開始をめざす方針を発表しました。

TSMCの半導体工場は、熊本県内にソニーグループと共同で建設され、画像センサー用半導体や車載用半導体などを生産する見通しだと報じられています。

多数のディスプレイ
写真=iStock.com/Bim
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bim

■大阪府はシャープに数百億円の補助金を出してどうなったか

TSMCは、熾烈(しれつ)極まりない国際ビジネスの環境で先頭を走っている企業ですから、工場を稼働するまでの間、そして稼働したあとも、日本でビジネスを行うことが中長期的に有利なのかどうかをシビアに判断していくに違いありません。

日本社会が人材の面でも、雇用の面でも、規制の面でも、とにかくビジネスがやりにくいとなれば、あっという間に去っていくか、日本にとどまるためのさらなる要求をしてくるでしょう。

生き馬の目を抜くがごとくの世界でやっているTSMCが、日本政府の言いなりになって半導体を日本に優先供給し、日本の半導体技術を発展させてくれるなんてことがあり得るのか、僕ははなはだ疑問です。

そもそも半導体の国際ビジネス情勢が将来どうなるかなど、政治家や役人たちが的確に予測することなどできるはずがないのです。

大阪府も、僕の前任知事である太田房江さんが、当時のシャープに対して数百億円の補助金を出して、液晶パネル工場を堺市に誘致したことがあります。そのときは大阪府も大阪の経済界も「大阪湾はパネルベイになる!」と大喜びしました。

ところが国際ビジネス環境は厳しい。パネル産業において、日本、そして大阪府、堺市、ひいてはシャープの国際競争力はあっという間になくなってしまいました。

■国際ビジネスに相応しい環境をつくる

今、TSMCには国際競争力があります。しかし、日本や熊本に競争力がなければ、TSMCの競争力もあっという間に失われます。日本の労働市場は硬直的で、優秀な人材を容易に集められる環境になっていません。

優秀な人材をどんどん集めようと思えば、優秀でない人材にどんどん去っていってもらわなければなりませんが、日本では解雇規制が厳しくてそのような人材の入れ替えは容易にはできません。

優秀な人材を集めるには、解雇規制の緩和による労働市場の流動性が必要不可欠です。解雇された人は行政が支援して、別の企業で活躍できるよう再教育するのもいいでしょう。

現にTSMCが国際競争を勝ち抜いているのは、優秀な人材がどんどん集まってくる人材の流動性が高い企業体だからです。

解雇規制の緩和に徹底して反対しているのは、安泰の地位を与えられた正社員とその正社員で組織される一部の労働組合です。

労働者の40%を占める非正規社員は、たとえ能力があっても実質的に解雇規制の対象外とされ、正社員の雇用を守るために犠牲になっているという現実もあります。正規・非正規の賃金格差と同じく、明らかに不公平です。

橋下徹『日本再起動』(SBクリエイティブ)
橋下徹『日本再起動』(SBクリエイティブ)

労働市場の流動性がない日本に工場をつくって、TSMCは今後も国際競争力を保つことができるのか。また、今般のコロナ禍対応のように法的な根拠があいまいなまま、民間の営業・事業活動を平気で制限する日本で、自由闊達(かったつ)な企業活動を展開できるのでしょうか。

僕は早晩、TSMCが「日本なんかでは、熾烈な国際ビジネス競争を勝ち抜くことはできない!」と怒って日本を去ってしまうのではないかと本気で心配しています。

金を投じて最先端の国際企業を日本に誘致するだけでは失敗します。日本社会を、国際ビジネスをするのに相応しい環境につくり変えていく。

それが日本を前進させるために政治家が力を入れなければならない重要な「改革課題」の1つです。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。北野高校時代はラグビー部に所属し、3年生のとき全国大会(花園)に出場。『実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。最新の著書に『最強の思考法 フェアに考えればあらゆる問題は解決する』(朝日新書)がある。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)

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