早慶ダブル合格者はどっちに進学するのか…この数年で急速に「早稲田有利」になっているワケ
プレジデントオンライン / 2023年3月29日 17時15分
※本稿は、小林哲夫『早慶MARCH大激変 「大学序列」の最前線』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
■50年ぶりに志願者10万を割った早稲田大学
大学は4、5年でそう大きく変わるものではない、と言われる。新しい教育制度に変わっても、学部やキャンパスが新しくなっても、その成果は完成年度、つまり新入生が卒業するまでの4年(医学部などは6年)という年月を待たなければ、あるいはそれ以降にならないと、成果が示されないからだ。しかし、新しくなった制度、体制、教育内容に対する評価はできる。
早慶はブランド力がある大学といっていい。しかし、いつまでも安穏としてはいられない。なにも変わらず旧態依然とした体質が続けばどんな大学でも地盤沈下し、受験生からそっぽを向かれてしまう。早慶も例外ではない。18歳人口減少が進むなか、選ばれる大学にならなければならない――そんな危機感を共有している。
いま、早慶はさまざまなテーマに取り組んでいる。最新情報を紹介しよう。
2021年、早稲田大の一般選抜入試志願者数は9万1659人だった。これは大学入試をよく知る関係者には衝撃的なできごとである。早稲田が10万人を割ってしまうのは1972年以来だからだ。2022年には9万3843人と盛り返したが、大台には届かなかった。
志願者減少を象徴する学部がある。「早稲田の政経」だ。
■「数学I・A」を受験の必須科目にして受験生が離れる
毎年、早稲田大の総合パンフレットのトップには政経学部が紹介されている。開学当初からスタートした看板という自負があるからだろう。私立大学文系学部では難易度がもっとも高い。長年、受験生からすればあこがれの存在である「早稲田の政経」の志願者数が、2020年代に入って千人単位で減っている。2020年7811人、21年5669人、22年4872人といった具合だ。おだやかではない。
半世紀近く10万人以上集めた早稲田、そして看板学部に何が起こったのか。人気がなくなったのだろうか。いや、そんなことはない。事情をよく知る者にすれば、まったく逆の見方がなされている。
早稲田大政経学部が志願者数を減らしたのは、2021年から同学部で受験科目に「数学I・A」を必須としたからに尽きる。英国社の3教科型私立文系志望の受験生がどっと離れた。政経学部では、数学を課したことについて、経済学は計量経済やゲーム理論など、政治学でも統計学で数学の知識が必要になるから、という旨を説明している。
数学必須で志願者が減ったが、ブランド力は健在だった。いや、復活したといったほうがいい。
■ダブル合格しても早稲田が選ばれるようになった
大手予備校によれば、早稲田大と慶應義塾大の両方に合格したとき、2000年代、2010年代はほとんどの学部で慶應義塾大を選ぶ受験生が多かった。ところが、2020年代に入って変わった。東進ハイスクールの調査によれば、慶應・法、早稲田・政経にダブル合格した受験生の進学先について、2018年は慶應・法が71.4%だった。しかし、2021年になると早稲田・政経71.4%となり正反対になっている。
![政治経済学部が拠点としている新3号館](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/b/1200wm/img_4b2a23497c3681c65e3f74c162fab3c5406995.jpg)
早稲田人気にはさまざまな要因が考えられる。予備校関係者は、2021年からの数学必須で私大文系型志望者層のかわりに国立大学志望者が受けやすくなり、東京大、一橋大との併願者が増えた。こうした層は金融や商社を多く輩出する慶應より、国家公務員、コンサルタント、金融にも強い早稲田を選んだ、という見方を示す。2022年、政経学部のおもな進路は三菱UFJ銀行14人、PwCコンサルティング14人、アクセンチュア8人、三菱商事6人、国家公務員総合職5人などとなっている。
また、教育改革への評価も早稲田には追い風となったようだ。早稲田は日本語と英語で科目を提供する「ハイブリッド型教育」の導入、留学プログラムの充実など、グローバル化に力を入れていることが、受験生からの高い評価につながっている。慶應のほうが教育改革は早くから取り組んでいたが、最近ではやや新鮮味に欠けると思われているようだ。
■悲願の「早稲田大学医学部」は実現するのか
2022年9月、早稲田大総長に田中愛治さんが再選した。初めて総長選に立候補した2018年、「将来計画書」を発表し、大胆なヴィジョンを打ち出した。
「『世界で輝くWASEDA』を実現するためには、生命医科学の研究・教育を抜本的に拡充する必要があります。新たに医学部を本学が増設することは全国医学部長病院長会議の承認が必要なため、ほぼ不可能と言われています。したがって、実行可能性を見極めつつも、単科医科大学を吸収合併する戦略に絞って考えていく必要があります」
早稲田大医学部の構想はまだ見えてこない。これまで日本医科大、東京女子医科大など見合い相手が取り沙汰された。最近では聖マリアンナ医科大の名前も挙がっている。だが、話は進まない。論文数、研究費がものを言う世界ランキングで慶應に勝つためには医学部が必要となる。大学創立者、大隈重信の存命時代から医学部設置は長年の夢である。
2020年代中にその兆しが見えるか。東京医科歯科大と東京工業大が統合し、東京科学大の誕生は、国から年間数百億円単位の支援を受けられる「国際卓越研究大学」の認定をめざす、という双方の利害の一致によってとんとん拍子に進んだ。早稲田大も資金がほしい。
「東京医科歯科工業大」が、早稲田大医学部設置に向けた追い風になるかもしれない。
■「慶應義塾大歯学部」の設立は決まったが…
世界の大学ランキングにおいて、早慶MARCHのなかでは慶應義塾大がトップを続けている。とはいっても順位は低い。2019年から2021年まで、いずれも601位から800位だった(早稲田大は2021年に、立教大は2020年から801位〜1000位。ほかは1000位以下。「Times Higher Education」各年版)。しかし、慶應義塾大は「国際卓越研究大学」を狙える要素は兼ね備えている。医、看護医療、薬の3学部がそろい、さらに歯学部まで加わろうとしているからだ。
![慶應義塾大学](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/3/1200wm/img_e341590570a8d808219339330a357495409611.jpg)
2023年、慶應義塾大が東京歯科大学と法人合併することが、2020年に双方の大学から発表された。これで、医師、看護師、薬剤師そして歯科医師を養成する医療系総合大学の顔を持てば、研究機関として論文生産、研究費獲得を期待できる。
ところが、予定どおりにはいかない。合併は延期となり、慶應義塾大歯学部はしばらくお預けとなった。その理由について、両校はこう説明する。
「今般の新型コロナウイルスは、これまでの想定を遥かに超えた未曾有ともいえる危機的状況を社会にもたらし、教育・研究・医療を取り巻く環境は大きな変化を余儀なくされ、今後の状況も不透明で不確実なものとなっています。こうした現況下にあって、慶應義塾と東京歯科大学は、当初協議開始の時点で目途としていたスケジュールを見直し、特に目途を設けずに協議を継続することといたしました」(慶應義塾のウェブサイト)
■就職面での「慶應ブランド」はいまだに健在
![小林哲夫『早慶MARCH大激変 「大学序列」の最前線』(朝日新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/b/1200wm/img_6bc4e9dfa6a86d3b8519265ca06c6ad2247888.jpg)
合併交渉の舞台裏でいくつかの障害が発生したことは想像できる。大学は「統合等により双方に不利益が生じないよう、特に学生が最大の受益者であるように、十分に考慮を重ね」るとしているが、こんなに悠長なことを言っていられなくなった。慶應義塾大関係者によれば、東京科学大誕生の衝撃が大きかったようで、慶應義塾大歯学部誕生に向けて交渉を急ぐとみられている。
医療系分野で早慶MARCHのなかで絶対的な存在感を示すが、前述のように2020年代に入ってから、文系学部は早稲田大に人気面で逆転されている。しかし、慶應義塾大のブランド力は揺らぐことはない。就職実績は抜群だ。2022年の慶應義塾大が就職先1位となっている金融、商社には、みずほフィナンシャルグループ51人、三菱UFJ銀行69人、日本郵政28人、伊藤忠商事19人、三菱商事25人などが並ぶ(大学通信調べ)。
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教育ジャーナリスト
1960年生まれ。神奈川県出身。95年から『大学ランキング』編集を担当。著書に『東大合格高校盛衰史』(光文社新書)、『高校紛争 1969―1970』(中公新書)、『中学・高校・大学 最新学校マップ』(河出書房新社)、『学校制服とは何か』(朝日新書)、『神童は大人になってどうなったのか』(太田出版)、『女子学生はどう闘ってきたのか』(サイゾー)、『「旧制第一中学」の面目 全国47高校を秘蔵データで読む』(NHK出版新書)、『早慶MARCH大激変 「大学序列」の最前線』(朝日新書)などがある。
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(教育ジャーナリスト 小林 哲夫)
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