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不祥事を起こした慶應は黙認…有名アナを輩出してきた”大学ミスコン”で開催中止が増えているワケ

プレジデントオンライン / 2023年3月30日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mizoula

早慶MARCHなどの私立大学の「大学ミスコン」は、これまで多数のアナウンサーを輩出してきた。だが、ジェンダー平等などの観点から、ミスコンを中止する大学が増えている。教育ジャーナリストの小林哲夫さんは「法政は2019年から、早稲田は20年前から大学ミスコンを中止している。一方、慶應や青山学院などは、大学非公認ながら、大学名を冠したミスコンが依然として行われている」という――。(第2回)

※本稿は、小林哲夫『早慶MARCH大激変 「大学序列」の最前線』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

■早慶MARCHで分かれたミスコン対応

2020年代に入ってコロナ禍でリアルな大学祭が行われないなか、大学ミスコンに対する熱気は下火になったのではと思われがちだが、そんなことはなかった。SNSによる動画配信、投票などで盛り上がっている大学はある。一方、ジェンダー平等、ルッキズム(外見主義)への疑問、性の多様性尊重から旧来型のミスコンをやめたところもある。上智大、東京女子大などだ。

2022年、早慶MARCHで大学ミスコンは行われたのだろうか。つぎのように分かれた。

開催:慶應義塾大、青山学院大、立教大、中央大、明治大
非開催:早稲田大、法政大

具体的にはどういう状況になっているのか。開催校からみてみよう。まず慶應義塾大である。2022年、「ミス慶應コンテスト」「ミス慶應キャンパスコンテスト」の2つが行われた。

「ミス慶應コンテスト」は1970年代から続いており、多くのアナウンサーを送り出してきた。しかし、2016年主催者の広告学研究会が女子学生に対する性暴力事件を起こしてしまう。大学は看過できず広告学研究会に解散命令を出し、同年の「ミス慶應」は中止となった。しかし、翌年には学生有志で再開される。2019年には、2つの団体が慶應ミスコンを企画したが、のちに一団体が取りやめるというゴタゴタがあった。

■ブランド力を持ちすぎてしまった「ミス慶應」

大学はこうした状況をかなり気にしていた。当時、こんな告知を出している。

「『ミス慶應』等を標榜するコンテストについて:近年、学外において、『ミス慶應』あるいはそれに類する名称を掲げたコンテストが開催されていますが、それらを運営する団体は本学の公認学生団体ではなく、コンテスト自体も慶應義塾とは一切関わりがありません。

しかしながら、それらのコンテストには本学の学生も参加しており、一部報道に見られるようなトラブルも発生しています。本学はこうした事態を深く憂慮しており、状況によって今後の対応を検討していきたいと考えます。

塾生諸君へ
この件に限らず、塾生諸君には、さまざまなトラブルに巻き込まれることのないよう十分に注意するよう望みます。何か困ったことがあれば、所属キャンパス学生生活担当窓口に遠慮なく相談してください」(慶應義塾大学ウェブサイト2019年9月30日)

大学としては、これまでミスコンを「一切関わりがありません」という立場から、無視していた。しかし、慶應のミスコンはブランド力を持ちすぎてしまった。大学教育や研究の中身よりも、大学があずかり知らぬ課外イベントのほうが社会的に注目される。おまけに週刊誌、ネットでネタになるような騒ぎを引き起こしてしまう。そのたびに大学へ問い合わせがくる。でも、対応のしようがない。

慶應義塾大はミスコンを無視したいところだが、そうもいかなくなったというのが、この告知から伝わってくる。「憂慮」という言い方には、「トラブル」を防ぐというリスクマネジメントが読みとれる。不祥事を起こさないようにと警鐘を鳴らしたといっていい。

慶應義塾大学
写真=iStock.com/mizoula
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mizoula

■「新しい価値観」を謳っているが具体性がない

2022年に話をもどそう。慶應義塾大のもう1つのミスコン、「ミス慶應キャンパスコンテスト」はこう宣言している。

「今年度から始動しました当ミス慶應キャンパスコンテストは、2018年より開催の始まったミス慶應コンテスト及び、それ以前に慶應広告研究会により行われておりましたミス慶応コンテストとは一切関係のないコンテストであり、運営する団体も全く異なります。

当コンテストは、美の価値観が多様化する昨今において、個々人が持つ様々な美しさを表現し、その先にある夢や目標を実現するためのコンテストとして発足致しました。

従来のミスコンテストで評価されるような一様の基準に留まらない、新しい価値観を提示できるようなコンテストを目標として活動していきますので、既存のコンテストとは性質の異なるものとして皆様にはご認識頂けますと幸いです」(ミス慶應キャンパスコンテストウェブサイト)

大学ミスコンが外見主義という批判を受けていることを意識した開催趣旨だが、慶應というブランドにこだわりを持ちつつも、「新しい価値観」の具体的な中身が見えない。

■2022年から主催者が学生有志に変わった青学

大学で2団体がミスコンを行うことについて、「慶應塾生新聞」はこう伝えた。

「『ミス慶應コンテスト2022』実行委員会は『ミス慶應キャンパスコンテスト』について、『開催についてはSNSにて把握しているが、主催団体その他の情報については全く認知していない』とし、『開催に関する事前の連絡や相談等も一切なかった』と答えた。
ミスコンテストが2つ存在することについては、『4年連続で継続して開催しており、「ミス慶應コンテスト」として世間的にも認知されていると考えている』と答え、コンテストへの影響は否定した」(「慶應塾生新聞」2022年5月1日)

青山学院大のミスコンはこれまで大きなトラブルもなく、有名なアナウンサーを生み出しながら今日まで続けている。だが、2022年から主催者が大学公認サークルから学生有志に変わった。

「青山ミスコンは『青山学院大学学友会広告研究会』より当該コンテンツを独立させる運びとなりました。今年度より、青山学院大学とは無関係の学生団体『ミスミスター青山コンテスト実行委員会』が運営していくこととなります」

慶應義塾大同様、学生が大学の名前を使って勝手にミスコンを開いており、大学祭でのお披露目はない。にもかかわらず、「青山ミスコンは今年で47回目を迎え、数々のアナウンサー、女優、モデル、アーティストが誕生しております」と自慢する。

■派手な宣伝文句を並べる中央大、多様性を意識する立教大

2022年のテーマは「prism」だ。その意味について、主催者はこう説明する。

「プリズムでは様々な色が発生するが、色んな性格の子が、コンテストを通して様々な色を手に入れ、それぞれの道に進んで行って欲しい。異なる経歴をもつ子達ですが、1度同じ舞台に立つ、つまり色んな方向のひかりが1度は集い、また分散していく、その通過点となるものにこのコンテストがなって欲しい。そんな運営としての願いを込めた」

ミス青山をステップに輝いてほしい、と言わんばかりだ。大学生を「子」と表現するところに稚拙感が出ている。

中央大もミスコン主催者は大学公認団体ではない。学生有志のサークル「RP」が運営し、こう訴えている。

「無限の可能性を秘めたファイナリストが目醒め、芽吹き、銘を打つシーンにスポットライトを当て想像を超えるような舞台を創り上げる」

昭和のバブル期と思わせるようなハデな宣伝文句を並べている。

明治大は大学ミスコン運営のサポート会社のウェブサイトで「Meiji Contest」が告知されているが、大学祭などの表舞台には登場していない。

立教大が唯一、大学公認団体、広告研究会の主催となる。「出場者・運営ともに自身の個性や魅力を発揮し、それを発信していくだけでなく、互いにその個性や意見を尊重し、思いやりの心を忘れずに活動して欲しいという思いを込めたコンセプトとなっております」とうたうのは、多様性への尊重を意識してのことだろう。

立教大学のモリス館
立教大学のモリス館(写真=phosphor/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)

■「スーパーフリー事件」をきっかけにミスコンを禁止した早稲田

なお、慶應義塾大、中央大のミスコンはコンテスト正式名称のあとに「supported byリゼクリニック」がつく。リゼクリニックは「全国25院を展開する医療脱毛専門クリニック」(同社ウェブサイト)であり、大学ミスコンの有力なスポンサーの1つだ。

ミスコンのグランプリには賞金20万円、全身医療脱毛30万円相当、ファッション誌『CanCam』の掲載権を与えている。医療脱毛のクリニックとしては学生を利用できると考えたわけだ。一方で、「気持ち悪さを感じる」とミスコンファイナリストを辞退した学生がいる。

ミスコン非開催の大学を見てみよう。

まず早稲田大である。1980年代から、「ミス早稲田」を標榜するコンテストが開催されていた。水着審査を行うことでも知られていた。2003年、早稲田大の学生サークル「スーパーフリー」による集団強姦事件が発覚する。

首謀者が退学処分となった7月1日、大隈講堂では、ミス早稲田キャンパスアイドルコンテストが開催された。同コンテストでは候補者7人が浴衣、水着で登場する。水着のまま「尻相撲」を行い、スーパーフリー首謀者の名前を冠したゲームが行われた。腰に万歩計をつけて体をくねらして、10分間で万歩計の数が多かった候補者が優勝するという趣向だった。性行為を連想させることもあって、学内外で大問題となり批判が殺到する。

大学は「事件を想起させる不適切な企画があった」として、これを機に「早稲田」と名のつくミスコンはいっさい禁止されたと言われている。学生部は取材に応じこう話している。

「きちんとした審査員がいるわけでもなく、容姿で女性を選ぶのは、どんな口実をつけてもダメです」(「朝日新聞」2009年11月16日)

■ミスコンに「ノー」を突きつけた法政大

2019年、法政大がミスコン、ミスターコンに「ノー」を突きつけた。ウェブサイトで大学施設を使ったコンテストを認めないと、次のように宣言したのである。

法政大学市ケ谷キャンパス・ボアソナード・タワー
法政大学市ケ谷キャンパス・ボアソナード・タワー(写真=ペン太/CC-BY-2.5/CC-BY-SA-3.0-migrated/Wikimedia Commons)
「本学では、2016年6月に『ダイバーシティ宣言』を行いましたが、ダイバーシティの基調をなすのは『多様な人格への敬意』にほかなりません。『ミス/ミスターコンテスト』のように主観に基づいて人を順位付けする行為は、『多様な人格への敬意』と相反するものであり、容認できるものではありません。(略)いかなる主催団体においても『ミス/ミスターコンテスト』等のイベントについては、本学施設を利用しての開催は一切容認されないものであることをご承知おきください」(法政大ウェブサイト2019年11月29日)

大学がミスコン、ミスターコン開催の是非について見解を示すのは、きわめてめずらしい。そもそも、コンテストは大学祭などで学生が企画、運営するものであり、基本的に大学側は口を挟んだりしないものである。

■「ダイバーシティ宣言」をもとにミスコンを批判

小林哲夫『早慶MARCH大激変 「大学序列」の最前線』(朝日新書)
小林哲夫『早慶MARCH大激変 「大学序列」の最前線』(朝日新書)

しかし、法政大は違った。「ダイバーシティ宣言」(2016年6月8日)をいわば適用させたのである。

同宣言には、「性別、年齢、国籍、人種、民族、文化、宗教、障がい、性的少数者であることなどを理由とする差別がないことはもとより、これらの相違を個性として尊重する」という一節がある。これに照らし合わせると、ミスコン、ミスターコンは「主観に基づいて人を順位付け」するもので、「相違を個性として尊重する」という理念に反しており看過できない。法政大はこう言いたかった。

当時、法政大総長だった田中優子さん。「ミスコン」について、こう話している。

「そもそも生き物は男と女しかいないわけではない。ダイバーシティ宣言の中にも『LGBT』という言葉が据えられているように、性の多様性は社会の中でもはっきりとしてきたことだ。それなのに、なぜ『ミスとミスター』なのか。また、美醜についての判断は文化によるものである。例えば、戦後の女性雑誌の表紙の多くが白人女性だった。これは人種に基づいた極めて偏った基準で、優生思想だといえる。

容姿だけでない様々な基準での審査は面白いかもしれないが、しょせん人の生きてきた全てを比べることはできない。比べられないことこそがダイバーシティなのであり、それを大切にしなければならない。それなのに、学生のミス・ミスターが選出されると『この人が美しい』というある種の教育を受けることになってしまう。学生たちは、自分の個性に自信を持つことが必要である。個性を理解し自信を持つことで成長できるからだ。

『ミス/ミスターコン』に限らず、ランク付けはいかなる場合でも非常に注意深く対応しなくてはならない」(「法政大學新聞」2020年4月20日号)

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小林 哲夫(こばやし・てつお)
教育ジャーナリスト
1960年生まれ。神奈川県出身。95年から『大学ランキング』編集を担当。著書に『東大合格高校盛衰史』(光文社新書)、『高校紛争 1969―1970』(中公新書)、『中学・高校・大学 最新学校マップ』(河出書房新社)、『学校制服とは何か』(朝日新書)、『神童は大人になってどうなったのか』(太田出版)、『女子学生はどう闘ってきたのか』(サイゾー)、『「旧制第一中学」の面目 全国47高校を秘蔵データで読む』(NHK出版新書)、『早慶MARCH大激変 「大学序列」の最前線』(朝日新書)などがある。

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(教育ジャーナリスト 小林 哲夫)

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