東京都の禁煙ルール誕生の知られざる背景…橋下徹が語る「小池百合子知事が選挙に強い納得の理由」
プレジデントオンライン / 2023年4月1日 10時15分
※本稿は、橋下徹『日本再起動』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■有権者の将来利益を重視で「見えない票」を狙え
自民党と異なる「色」「道」を出すにあたって野党が重視すべきことは、いったい何でしょうか。僕は「有権者の現在利益」よりも「有権者の将来利益」を重んじることだと思っています。
たとえば「子育て世代を大事にする政策」と「高齢者を大事にする政策」を天秤にかけたときに、今まさに高齢者である有権者の票を失うリスクを冒してでも、日本の将来を担う子供たちを育てている人たちを大事にする政策を押し出せるか。
子育て世代を支えるために、高齢者には多少の負担を強いることになる政策の必要性を訴えることができるか。
ここで、現在利益を求める高齢者からの激しい批判を受けながらも、将来利益の実現に挑戦する野党であること、またそれに挑戦する姿を有権者に見せられる野党であることが、支持を限りなく拡大できるかどうかの分水嶺です。
現代の多くの有権者は、政治家の美辞麗句に乗せられるほど愚かではありません。いくら
「次世代のために」などと言葉を並べてみても、そこに本気で挑戦する心意気や具体的な政策が見て取れなければ、有権者はついてきません。
他方、与党の主な支持層は、現在利益の受け手である業界団体や高齢者、要するに既得権益層です。その点にはあまり賛同できないけれども、野党の挑戦する姿勢がまったく伝わってこないので、消去法的に与党に投票している――そういう若い世代の有権者も多いはずです。
したがって野党は、本気で日本の将来を考え、有権者の将来利益を重視する姿を見せなければなりません。これが、今の野党に欠けている点ではないかと残念に思います。
■労働組合という組織の力に完全依存すべきではない
では、二大政党制を念頭に置いたとき、与野党2つの政党の「色」や各政党が示す日本の「道」の違いを決定づけるものは何でしょうか。端的にいって支持層の違いです。
当たり前のことですが、政党や議員は選挙で有権者の支持を得られなければ勝てません。ですから野党が自民党に勝つためには、自民党とは違う支持層をつかまなくてはならないのです。
自民党は議員が地域を細かく歩き回り、有権者の支持を固めていきますが、その際に、自治会、PTAなど地域の有力者とのコネクションを最大限活用し、さらにあらゆる企業や業界団体とのコネクションも活用します。
このように、自民党は地域団体、業界団体の組織力に頼っているので、野党はこういう組織力に頼らない政党であるべきです。
この点、野党の立憲民主党や国民民主党は「連合」という労働組合の集合組織を頼りにしていますが、連合は現在、組織率が低下し、組合メンバーは投票先について組合の指示に必ず従う風潮ではないうえ、正規雇用者を中心に組織化されたものなので、労働者の4割を占める非正規雇用者はほぼ加入していません。
こんな状況では、野党は、労働組合という組織の力に完全に依存すべきではありません。
■ネットやデジタル活用の票獲得が求められる理由
労働組合を排除する必要はありませんが、その代弁者のイメージを強く出してしまえば、組合に入っていない人たちの支持を強力に引きつけることができなくなります。今の立憲民主党、国民民主党の弱点です。
両党は連合とのつき合いが古いので、これまでと同じようなつき合い方をしているのでしょうが、それでは、組合員よりも圧倒的に数が多い、組合に入っていない無党派の人たちの支持を失うリスクがあることに気づいていない。
組合の意見をきちんと聞き、政策で一致するところは協力すればいいのですが、それ以上に組合から指示を受けているような印象を世間に発すべきではありません。
![メガホンで群衆に語りかける男性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/c/1200wm/img_fc06c1aa9631487c980fc2fe65965bf9254218.jpg)
自民党が組織を中心とした層に支えられているのであれば、野党は非正規雇用者も含めた労働者全体や、個人事業主・フリーランスなど、特定の組織・団体に属していない有権者をメインの支持層にすべきです。
そうすると、自民党ほど業界団体、地域団体などの組織力を使えないので票を集めるのは大変ですが、これからの時代はインターネットを駆使して組織・団体力を上回る力で人のつながりをつくっていける時代です。
自民党が従来通り団体の組織力を活用するなら、野党は団体の組織力に頼らず、地道な地元活動に加えてネットやデジタルなどの新しい方法で票を獲得していくことを模索すべきなのです。
■小池百合子知事はなぜ強いのか
これまで述べてきたように政党や政治家がつくり出す政策・制度は、保守やリベラルなどの抽象的なイデオロギーにはほとんど左右されず、現実的には支持層に左右されています。
政党が政権を取り、政治家が政治家であり続けられるのは、選挙に勝つことが絶対条件であり、選挙に勝つためには支持層から支持を取りつけるしかありませんから。
政党や政治家が自分の政治的信条にこだわり続けることで政策が生まれているわけではありません。
自民党は票田として頼りにしている業界団体から圧力を受けることによって、業界を守る規制・税制をつくることになります。どうしてもそこから抜けきれません。
たとえば、たばこ規制(禁煙ルール)も結局は、たばこ業界や飲食店業界からの圧力で厳しい規制(禁煙ルール)に乗り出せません。
ところが、そのような業界団体の力に頼らず、その代わりにそこからの圧力も気にしなくてもいい小池百合子都知事は、東京都で厳しいたばこ規制条例を制定することができました。これが支持層の違いによる政策の違いです。
特定の業界団体・組織に目配りする政党か、それとも特定の業界団体・組織に配慮せず、一般の有権者や将来世代を意識する政党か。
自民党に対峙(たいじ)する野党になるためには後者であるべきで、特定団体・組織からの圧力に負けない政策・税制をガンガン展開していくことを自民党との決定的な違いにするべきなのです。
そうすることで自民党も負けじと努力する。このように与野党が切磋琢磨(せっさたくま)することで日本を前進させることが、本来の二大政党制の狙いです。
■支持されなければ「仕方ない」の覚悟が支持につながる
歴代の自民党政権もTPPの締結や農業改革では業界団体とせめぎ合いをやりましたが、それでも農協票を頼りにしている以上、農協が徹底的に反対するような突き抜けた改革は困難です。
そうした既得権益層に配慮しない政策や姿勢を野党が打ち出すことが、自民党との違いを明確に示すことになります。
そうすれば、既得権益層の「見える票」は取れなくても、既得権益層ではない人たちの世間に眠っている「見えない票」を取ることはできます。
しかも、世論調査の結果からすれば、有権者の大半を占めるのは既得権益層ではない人たち、無党派層の人たちです。既得権益層は政治活動を必死に行い、何しろ見えやすいので世間において圧倒的多数と錯覚しがちですが、実際はそうではありません。
ですから今の野党には、既得権益のない人たちのための政策を打ち出せば、必ずや、その人たちがついてきてくれると信じて、自民党の支持層とは別の人たちの支持を集めることに本気で取り組むことが必要です。
それで国民の大多数に支持されなければ、もうしょうがない。潔く野党政治家をやめるのみ。このように覚悟を決めた人の言葉には、自ずと魂が宿ります。語れば語るほど迫力を帯び、有権者の心に響き、確実な支持につながるというわけです。
■医療報酬にメスを入れる
現政権の問題点や至らぬ点を追及して政権交代をめざすというのは、野党政治家ならば誰もが考えていることでしょう。しかし、野党政治家の仕事はそれだけではありません。
たとえば、日本という国は現役世代に割かれる税金の割合が先進国中、最下位レベルです。
そこで現役世代の可処分所得を増やすべく現役世代に大量に税金を投入し、税配分の適正化をはかる。
また資産のある人の社会保険料の負担を増やす、年金給付額を減らす(資産額によってはゼロにする)。長寿社会となって元気な高齢者が増えたことから、年金支給開始年齢を引き上げる。
![電卓の上に聴診器](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/e/1200wm/img_4ea8b077b60e2f8e6ab39af6b04c26d5272088.jpg)
さらには、近年、増大しつづけている医療費の仕組みにもメスを入れ、保険のメカニズムを導入する。若く病気にかからず保険をあまり使わない人の保険料は下げ、1年間まったく保険を使わなかった場合には金一封を出す。
今、政権与党は、強力に票を集めることのできる日本医師会に配慮し、開業医の診療報酬を高くしていますが、それを難易度の高い医療行為に対して多くの額を出し、簡易な医療行為に対しては額を下げるようにする。
![橋下徹『日本再起動』(SBクリエイティブ)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/b/1200wm/img_6b5be6ef9d6e471c81d7b1499f62873d236887.jpg)
このように、数十年後の日本が国民にとってより暮らしやすい国であるよう、今からいろんな布石を打っていくというのも、野党が果たすべき役割なのです。自分が政治家でいる間の政権交代をめざすだけでは、あまりにも目先の利益にとらわれた政治姿勢です。
もちろん、今、挙げたような提案をしたら激しい反発にあうでしょう。しかしそれらにもめげずに信念のこもった主張を続ける政治家の姿に、有権者は、強い共感を覚えるのです。
こんなふうに、野党政治家が熱意と覚悟と迫力をもって、自民党が指し示す道とは違う新しい道、日本が本当に歩むべき道を確信的に示せたとき、初めて、既得権益層ではない多くの有権者から強固な支持を得ることができるのです。
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元大阪市長・元大阪府知事
1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。北野高校時代はラグビー部に所属し、3年生のとき全国大会(花園)に出場。『実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。最新の著書に『最強の思考法 フェアに考えればあらゆる問題は解決する』(朝日新書)がある。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)
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