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「社員は何人いるんですか?」への回答でわかる…成功する社長と失敗する社長の「言葉づかい」の決定的違い

プレジデントオンライン / 2023年3月30日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AndreyPopov

幸福に人生を過ごすにはどうすればいいのか。経営心理士で公認会計士の藤田耕司さんは「世間の価値観にとらわれてはいけない。『どのような人生を送ることが幸せか』という基準を持つべきだ。それがなければ、100億円を稼ぐ会社の経営者であっても幸せになれない」という――。

■規模が大きい会社の社長は本当に幸せなのか

「○○さんのところは、社員は何人いらっしゃるんですか?」

経営者同士の会話では、こういった質問をされることがよくあります。こう聞かれると、「なるべく社員数を多く言いたい」「規模を大きく言いたい」という気持ちにかられる経営者も少なくありません。

また、経営者交流会で一人ずつ自己紹介をするケースがありますが、その際のコメントを聞いていても、次のようなことを話す方が散見されます。

「最近やっと社員数が100名を超えました。10年後には1000名の会社にしていこうと思います」
「昨年、売り上げが50億円を超えました。今後は100億円を目指したいと思います」

こういったコメントを聞いていると、少しでも規模の大きさをアピールしようとする方が多いと感じます。規模の大きさは経営者のプライドをくすぐるものであり、それだけに規模を拡大したいと願う経営者は多いものです。

この背景には、「規模が大きい会社の社長のほうが、規模が小さい会社の社長より偉い」という世間の価値観が存在しています。ただ、その世間の価値観を自分の価値観と思い込んで経営を進める経営者は少なくありません。

 それにより、自社より小さな会社の社長には優越感を、自社より大きい会社の社長には劣等感を覚え、その優越感、劣等感が規模拡大への動機を強めます。

■今後のビジョンがない経営者たち

私は経営心理士、公認会計士として心理と数字の両面から経営コンサルティングを行っています。その中で、経営者に今後の経営の方向性を確認しています。

「今後はどうしていきたいですか?」

こう質問すると、多くの方は売り上げを伸ばしたいと話されます。

そこで、「売り上げを伸ばしてどうしたいですか?」と質問すると、社員を増やして事業を拡大したいと。ところが、「事業を拡大して何がしたいですか?」と質問すると、明確な答えが返ってこないことが少なくありません。

「何をしたいかは分からない。でも、規模を拡大したい」そう話す経営者は多いです。

■「もう二度と部下は持ちたくない」

数年前、あるIT企業の経営者に今後の目標を聞くと、「売り上げ100億円を目指したい」と話されました。「なぜ100億円なんですか?」と聞くと、「周りの経営者仲間でも100億円を超えている人はあまりいないし、目標としてはちょうどいいかなと」と答えました。

その後、この方は持ち前のWebマーケティングの能力を発揮して売り上げを伸ばし、規模を拡大します。しかし、事業が拡大するにつれ、社内の人間関係が複雑になり、社員の管理に追われるようになりました。

夜のオフィスのデスクで疲れて顔を覆っているビジネスマン
写真=iStock.com/AnVr
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AnVr

この方はITのスキルには長けているものの、対人関係が得意ではなかったため、社内の調整がうまくいかず、統率がとれなくなり、抵抗勢力となる人も出てきました。その結果、ストレスから出社ができない状態になります。しばらくして、その事業を売却されました。

今は別の会社を興し、一人で事業を行っています。そしてこう話されました。「前の会社では社内の人間関係に散々悩まされました。もう二度と部下は持ちたくない。事業は自分一人で広げられる範囲にしたいです」

■経営者としての幸せとは何か

また、ある年配の元経営者の方はこんなことを話されました。

「自分の人生は事業に捧げてきた。売り上げを伸ばし、事業を拡大させ、富も名声も手に入れた。でも、決して幸せとは言えない。むしろ不幸だ。規模が大きくなるほど社員との関係は希薄になっていった。引退して以降、社員との関係もぷっつり切れた。

稼ぐために、やりたくないことも随分やってきた。楽しい人生だったかというと決してそんなことはない。むしろ辛いことの連続だった。それでも会社を大きくしようと我慢してきた。

でも、富も名声も、死んだらあの世に持っていけない。今になってそんなことに気付きましたよ。自分はこれまでいったい何をやっていたんだろうと思う。私はね、一番間違えてはいけないことを間違えてしまったんですよ。人生の時間の使い方をね」

お二方とも、世間的には成功者と呼ばれるような状況を築いた方です。にもかかわらず、「何のために経営をするのか」「経営を通じて何をしたいのか」という本来の自分の価値観を置き去りにして、世間の価値観に基づいて規模を拡大した結果、手に入れた状況を深く後悔されていました。

経営心理士としてこういった経営者のご相談を複数受けてきましたが、その経験から、経営をするうえでは「経営者としての幸せの定義」を明確にすることが重要だと感じています。

■不幸になる経営者の特徴

自分は経営者としてどのような人生を送ることができたら心から幸せだったと言えるのか。これはある意味、経営における最も重要な意思決定基準だと言えます。

この点を明確にし、自らの価値観に沿った経営をしないと、次第に経営に対する意欲は失われ、人生の後悔につながります。

しかし、その意思決定基準を明確にしないまま、世間の価値観を自分の価値観だと思い込み、盲目的に売り上げを追いかけ、事業を拡大しようとする。そういう経営者があまりに多いです。

■「死が目前に迫った状況を考える」

自分の経営者としての幸せの定義を考えると、事業は拡大しないほうがいい場合もあります。その一方で、事業の拡大こそが経営者としての幸せだというのであれば、さらに事業を拡大したほうがよいでしょう。

経営者としての幸せの定義を明確にすることは簡単なことではありませんが、まず必要なのが、「世間の価値観=自分の価値観」という思い込みを解消することです。規模が大きい会社の社長のほうが偉いという世間の価値観と自分の価値観は別物であると考えることで、その思い込みは少しずつ解消されていきます。

また、その思い込みを解消する方法として、「死の間際を想う」という方法があります。死が目前に迫り、人生を振り返った時、経営者としてどのような人生を送れたら心から幸せだったと言えるのかを考えるのです。

スティーブ・ジョブズ氏(写真=Tom Coates/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)
スティーブ・ジョブズ氏(写真=Tom Coates/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

Appleの創業者で、2011年に亡くなったスティーブ・ジョブズ氏はこんな言葉を遺しています。

「自分がもうすぐ死ぬという事実は、大きな決断の手助けをしてくれる人生で最高のツールだ。外部からの期待、プライド、恥や失敗への怖れなど、ほとんど全てのものは死と向き合うと消え去る。そして、本当に大切なものだけを残してくれるんだ」

人は死が目前に迫ると、他者との比較やそこから生じる優越感や劣等感などはどうでもよくなり、残された時間を本当に必要なことのために使おうとします。その時間の使い方に、自分本来の価値観が表れます。

健康であるうちからこういった時間の使い方ができれば、死の間際に人生を振り返った時、心から幸せだったと言える確率は大きく高まるでしょう。

■「世間の価値観=自分の価値観」ではない

世間の価値観にとらわれて、それを疑いもせずに事業を拡大しようとする経営者が多いだけに、私は経営者にはこういった視点から経営を進める方法を指導しています。すると、経営方針ががらっと変わる方も少なくありません。そして、とても感謝してくださいます。なかには涙を流される方もいます。

ユダヤの教えに次のような言葉があります。「自分が自分のために自分の人生を生きていないのであれば、いったい誰が自分のために生きてくれるのだろうか」

成功者と呼ばれているが決して幸せではない。そういった経営者にならないよう、自身の経営者としての幸せの定義を明確にしていただき、重要な意思決定をする際はその内容を十分考慮していただければと思います。

そのためにも、「世間の価値観=自分の価値観」という思い込みの解消から始めてみてください。それによって、「○○さんのところは、社員は何人いらっしゃるんですか?」と聞かれた時の反応も変わるでしょう。

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藤田 耕司(ふじた・こうじ)
経営心理士、公認会計士
1978年徳島県生まれ。早稲田大学商学部卒業。2004年、有限責任監査法人トーマツに入社。2011年に同社を退社。2012年、藤田公認会計士税理士事務所(現FSG税理士事務所)を創設。2013年、経営と心理と会計のコンサルティングを行うFSGマネジメント株式会社を設立、代表取締役に就任。2015年、一般社団法人日本経営心理士協会を設立し、代表理事に就任。著書に『リーダーのための経営心理学』(日本経済新聞出版社)、『経営参謀としての士業戦略』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。

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(経営心理士、公認会計士 藤田 耕司)

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