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「23歳で父親に5000万円の借金を背負わされた」本当は結婚したくなかった私が結婚した理由

プレジデントオンライン / 2023年3月31日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yuruphoto

毒親から自由になるにはどうすればいいか。フェミニストの田嶋陽子さんは「親から離れたいから、とりあえず結婚したいという人は昔から多い。その根本にあるのは、戸籍制度だと私は思う。戸籍なんて今や日本と台湾にしかない。時代との認識のズレは否めないと思う」という――。(第2回/全3回)

※本稿は、アルテイシア・田嶋陽子『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか⁉』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■親から逃げるには結婚しかなかった

【アルテイシア(以下、アル)】ヨーロッパみたいに事実婚も法律婚も同じ権利があるなら、私は事実婚を選んでました。

私が法律婚を選んだ一番の理由は、毒親と戸籍上も離れたかったからです。独身時代は「もしいま救急車で運ばれたら親に連絡がいってしまう、延命処置とか治療の方針とかあいつらに決められるなんて死んでもイヤだ」と思ってました。本当は結婚したくないけど、親と折り合いが悪くて、親の支配や干渉から逃げるためには結婚するしかないのか……と悩む女性も多いです。

【田嶋】昔からそういう人は多い。親から離れたいから、なんでもいいからとりあえず結婚したいって。

その根本にあるのは、戸籍制度だと私は思う。戸籍なんてものは、今や日本と台湾にしかないんだよ。この制度は、台湾と同様、日本の植民地だった韓国にもあったけど、両性の平等を定めた憲法に反するとの理由から2007年に廃止されて、戸主中心から個人中心になった。戸籍制度は選択的夫婦別姓にも大きく関係すること。時代との認識のズレは否めないと思う。

【アル】家父長制の中で父親が母親をいじめて、母親が娘をいじめて……って家の中で弱い立場の人が抑圧されますよね。緊急連絡先とか手術の同意書にサインするとか、親族じゃなく友達でオッケーにしてほしい。

【田嶋】ほんとに、そう。私も近所の知り合いでいいと思う(笑)。

■家父長制社会では育児や介護が女性に押し付けられる

【アル】家父長制社会は何もかも家族中心で「家族で助け合え」という価値観が根強くてクソですよね。そこで発生する育児や介護といったケア労働をさせられるのは、いまだに多くの場合が女性です。そうやって女に押しつければ、国は何もしなくてすむから。

【田嶋】本当だよ。家族中心なのがよくないね、女性の自由を奪う仕組みだから。結局、その家父長制の仕組みで犠牲になるのは女性なんだよ。

【アル】私も「家族は助け合うべき」という家族の絆教のせいで、父親に搾取され続けました。『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』に書きましたけど、父親に5000万の借金を背負わされて。

【田嶋】そうだったんですか。昔はそうやって、父親は借金を返すためだったり食いつなぐために娘を売ったものですけど――。それは本当にお気の毒でした。

■話し合ってわかりあえる親ならそもそも苦労していない

【アル】本当にお気の毒なんです。23歳の娘を脅して借金の保証人にするなんて、おまえの先祖は鬼か? って思います。まあ私の先祖でもあるけど。親に連絡先も住所も教えず、住民票にも閲覧制限をかけるとか、毒親から逃げる方法はあります。でも結婚して親の籍から抜けても、法的に親子の縁は切れないんですよね。

【田嶋】早く戸籍なんてものなくさないといけないね。

【アル】ただ法的に縁は切れなくても、私みたいに保証人になりさえしなければ、親の借金は相続放棄の手続きができるし、親の介護や扶養だって断ることはできる。

【田嶋】そうそう、「NO」を伝える力は大事。子どもが調べてその結果を使って明確に意思表示することで、親も嫌われるようなことは控えようって気持ちになることもあるし。

【アル】なるべく距離を置いて、相手のペースに巻き込まれないようにするとか。相手の人間性は変えられなくても、こちらが接し方を変えることで、関係性は変えられることもある。まあ何やっても変わらない毒親は多いですけど。

世間は「親子だから話し合えばわかりあえる」なんて言うけど、話し合ってわかりあえる親ならそもそも苦しんでないんですよ。私は断絶していた親子が許し合って和解する系のお涙頂戴コンテンツを「毒親ポルノ」と呼んでます。どんなにひどい親でも、子どもは「親を愛せない自分はひどい人間じゃないか」と罪悪感に苦しむんです。

【田嶋】「育ててもらった恩があるのに、親不孝者」と世間や周りからも責められるしね。私が子どもの頃は、子どもの人権なんてもっと考えてなかった。「毒親」なんて言葉もなかったし。

■書くことで救われた

【アル】今は毒親に関する本や資料がたくさんありますよね。毒親育ちのコミュニティやカウンセリングもあるし、使えるものはどんどん使っていくのがおすすめです。

あと、私自身は書くことで救われました。

【田嶋】それは私も同じ。私の頃は相談に乗ってくれる人もいなければ、カウンセラーもいなかったから、自分で処理しなきゃいけなかった。自分が書いた本の一冊一冊が私を解放してくれるプロセスになったというわけ。

【アル】まさにセルフカウンセリングですね。

【田嶋】そう。10冊くらい書いてやっと整理できたって感じかな。2作目の『愛という名の支配』で自分の立つ位置が決まったというか、あの本の存在は大きいね。でもタイトルを「愛という名の支配」と「小さく小さく女になあれ」と迷いましたね。

【アル】「愛という名の支配」という言葉は「本当にそれな!」って思いました。

■「目立つな」「偉くなるな」「わきまえていろ」と育てられる

【田嶋】「小さく小さく女になあれ」はまさに男らしさ・女らしさの話でね。さんざん迷って「愛という名の支配」にしたの。

【アル】「小さく小さく女になあれ」は、子どもの頃から田嶋先生が言い聞かされてきた呪いの言葉ですよね。

【田嶋】当時の女はみんな「小さく小さく女になあれ」式の教育をうけて、私はそれを真面目に聞いちゃったから結構大変だった。

【アル】女は男より目立つな、偉くなるな、わきまえていろ、と育てられる。先生が30年前にそれを書いてくださったから、私たちは「同じ苦しみを経験して乗り越えてきた先輩がいる」と勇気づけられたんです。後輩たちの行く道を照らしてくださり、ありがとうございます(合掌)。

【田嶋】でも今の若い人が読むとまた違う感じでしょ?

【アル】20代の女の子も『愛という名の支配』を読んで「めっちゃわかる!」と膝パーカッションしてましたよ。この本が書かれたのは1992年ですが、日本はその頃から男女平等があまり進んでないので、今読んでも共感の嵐なんだと思います。

ミニチュアの木製のはしごと人
写真=iStock.com/hyejin kang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hyejin kang

■なぜ「男嫌い」にならなかったのか

【アル】先生は「自分は男嫌いではない」とおっしゃってるじゃないですか。フェミニストとして最前線で闘ってきて、男社会で男からあれだけ叩かれてきたのに、なぜ男嫌いにならなかったんですか?

【田嶋】男の人も表面的な付き合いだと色々なことをやってくるんだけど、ちゃんと深く付き合うと人間なんだよ。

【アル】こいつも結構良いところあるな、みたいな?

【田嶋】良いところだけじゃなくて、弱さも強さも、人間として深く付き合うと見えてくる。泣きたいときは涙を見せるし、甘えてくるときもある。ごく普通の人間の姿が見えるのね。

でも同居して生活を共にしたりすると「男」を出してくる。人間から男になっちゃったときは「この野郎!」って思うんだけど(笑)。

【アル】たしかに、男の鎧を脱げない男は多いですよね。弱さを見せちゃいけないと思って、自分で自分を苦しくしてる。

【田嶋】でも恋人ぐらい深い関係になると、男の人もさらけ出すことがあるでしょう。そういうときに「やっぱり一人の人間だな、愛しいな」って思うの。

【アル】おお……人類愛ですね!

【田嶋】そんなにデカいもんじゃないけど(笑)。男も鎧を脱げば一人のか弱い人間だけど、頑張って生きてるんだなと思える。あなただってパートナーのそういうところを見てるから16年も一緒にいるんじゃない?

【アル】夫は全然かっこつけない人なので、最初から全裸でした。だから私も「女らしさ」の鎧を脱げたんですよ。

ただ、私を含めて多くの女性は男性に傷つけられてますよね。子どもの頃から痴漢に遭って、セクハラやモラハラやDVなどの被害に遭って、そのトラウマから男性に嫌悪感や恐怖心を抱くのは自然な反応だと思います。だって犬に噛まれて大ケガしたら、犬が怖くなって当然ですよね。

■傷つけられて、男性を信用できなくなるのは当たり前

【田嶋】差別は構造だし、「文化」だから、社会に浸透してしまっている。だから「他の男性も同じことをしてくるかも」って警戒しちゃうのはわかる。

【アル】ノットオールメン(全ての男が悪いわけじゃない)なんてことは百も承知だけど、こっちは傷が癒えてないので。しかも女が性暴力や性差別にこれだけ苦しんでるのに、無関心で無理解な男性が多いじゃないですか。こちらの苦しみを知ろうともせず、「痴漢は冤罪(えんざい)もあるよね」とか言われたら殺意を覚えますよ。

【田嶋】女性がさんざん傷つけられてきて、男性を信用できなくなるのは当たり前で、それでも男性についていかざるをえないのは、女性が自分のパンを稼ぐのは当たり前じゃなかったからだよね。

【アル】ミサンドリー(男性嫌悪)がまったくない女性はいないと思います。ただ私の場合、フェミニストとして活動するうちにミサンドリーが減ったんですよ。一つは中高生の男の子たちに授業をする中で「尊いなあ、守りたいなあ」と思ったから。

【田嶋】親目線というか、教育者目線で「男性」を見るようになったのかもね。

【アル】そうなんです。もう一つは仕事を通してジェンダー意識の高い男性たちに会うようになって、希望を感じているから。

■男と女だって最後は親友

【田嶋】私はそういうのに騙されないよ(笑)。

アルテイシア・田嶋陽子『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか⁉』(KADOKAWA)
アルテイシア・田嶋陽子『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか⁉』(KADOKAWA)

【アル】私、騙されてるんですか?(笑)

【田嶋】だってあなたみたいな知名度のあるフェミニストに会ったら、マッチョを前面に出すなんてできないじゃない。あなたに合わせて良い顔もするだろうし、そんなのに騙されちゃダメ。

【アル】先生もわりと男性を信用してなくないですか?(笑)

【田嶋】そういう仕事の付き合いじゃなくて、もっとパーソナルな関係の中で、男だって涙を流してすがってくる人もいれば、弱音を吐く人もいるでしょう。

恋愛の良いところは、男が鎧を着る前の、素の自分に戻ったときが見られること。もちろん、鎧を脱いだ姿を見られないまま関係が終わっちゃうこともある。でも素の姿を見られるところまで関係を深められたら、自分のそういう姿を見せた女に男は悪さをしないと思うの。まあ甘ったれて暴力を振るったり暴言を吐いたりする男もいるけど、そういうのはしょうもないから放り出す!

【アル】放り出そう! 鎧を脱いだ生身の男性と深く付き合ってみると、男性全体の見方が変わってくると。

【田嶋】そんなことは言えない。社会が男性主人公だから、男らしさ女らしさはしみついているから、その中で育った人は男でも女でもそう簡単に変われない。ただ人間同士だから、対等に何でも言い合える関係は作ろうと思えば作れると思う。あなたたち夫婦も16年も一緒にいられるなんて、そういう関係を築いてるからだと思う。

【アル】うちは友情結婚みたいな感じですので。

【田嶋】親友でしょう。男と女だって最後は親友だよね。お互いに鎧を脱いで安心していられる相手なんでしょ。それってすごく素敵なことじゃない。

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アルテイシア(あるていしあ)
作家
神戸生まれ。著書に『フェミニズムに出会って長生きしたくなった』『モヤる言葉、ヤバイ人』『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』他、多数。

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田嶋 陽子(たじま・ようこ)
女性学研究者
元法政大学教授。元参議院議員。英文学・女性学研究者。書アート作家。シャンソン歌手。女性学の第一人者として、またオピニオンリーダーとしてマスコミでも活躍。津田塾大学大学院博士課程修了。イギリスに2度留学。『愛という名の支配』『ヒロインはなぜ殺されるのか』『我が人生歌曲』など著書多数。

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(作家 アルテイシア、女性学研究者 田嶋 陽子)

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