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「4~6時間台のランナーが絶対履いてはいけない厚底」下手すると股関節周りの骨折やケガに泣くハメになる

プレジデントオンライン / 2023年3月28日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sportpoint

マラソン大会が通常モードを取り戻しつつある。数年ぶりにフルマラソンに挑戦する市民ランナーも多いだろう。元箱根駅伝ランナーであるスポーツライターの酒井政人さんは「フルマラソンで3時間半を切るような上級者はカーボンプレート搭載の厚底シューズでいいが、4~6時間台を目指すランナーは別タイプのシューズがお勧めだ」という――。

■猫も杓子も厚底を履けばいいってもんではない

2023年の東京マラソンは4年ぶりに一般参加の定員(3万8000人)がコロナ禍前の水準に戻るなど、マラソン大会は“通常”を取り戻しつつある。今春は1万人を超える大規模レースがいくつも開催される予定だ。3~4年ぶりにフルマラソンに参加するという方は少なくないだろう。

この間、各ブランドはシューズの開発を続けており、次々と新モデルが登場した。市民ランナーはどんなシューズを履くべきなのか。フルマラソンで着用するならクッション性の高い“厚底”の一択だが、人によって最適な厚底は異なる。どう選べばいいのか考察していこう。

まずは厚底シューズの基本をおさらいしたい。

2017年にナイキが一般発売した厚底シューズが世界のマラソンを変えた。反発力のあるカーボンプレートを軽量でエネルギーリターンの高いフォームで挟んだ構造になっており、従来のレースシューズと比べて、ソールが3倍ほど厚い。そして格段に速くなった。

男子でいえばマラソンの世界記録を2度、日本記録を4度もナイキの厚底シューズが塗り替えている。圧倒的な速さを誇るナイキ厚底に対応するため他社も追随。いつしかカーボンプレートを搭載した厚底モデルが“世界基準”になったのだ。

マラソンではエリート選手のほとんど全員がカーボンプレートを搭載した厚底モデルを履く時代になっている。そしてタイムが大幅上昇。厚底登場直前の2016年と2022年の男子マラソンの世界リストを比べると、50位(2時間8分01秒→2時間6分08秒)は1分53秒、100位(2時間9分28秒→2時間7分14秒)は2分14秒、150位(2時間10分46秒→2時間8分04秒)は2分42秒もタイムが短縮しているのだ。個人差があるとはいえ世界トップクラスでも約2~3分のタイム上昇が明らかになっている。

■速すぎる厚底シューズの弊害

カーボンプレートを搭載した厚底シューズが爆発的な速さを発揮している一方で、最近はその弊害が問題視されている。大腿(だいたい)骨や仙骨の疲労骨折など股関節周りのケガが増えているのだ。これは薄底シューズ時代(※膝から下の故障が中心だった)にはほとんどなかったものだ。

一体、何が起きているのか。着地時にカーボンプレートをしならせることで、プレートが元のかたちに戻るときに、反発力が生まれる。それがスピードにつながっているわけだが、レース終盤は疲労からカーボンプレートをしならせるのが難しくなる。そうなると体重を前にかけて、無理にカーボンプレートを曲げようとするため、股関節周りの負荷が高まり、前述したようなケガにつながってしまうのだ。

なおカーボンプレートをしならせることができないと、前に踏み込むことができず、十分な推進力は得られない。筋力のないランナーや、ゆっくり走るときは、カーボンプレートをしならせるのが難しくなる。フルマラソンで3時間半を切るような上級者はカーボンプレート搭載の厚底シューズでいいが、フルマラソンで4~6時間台を目指すランナーは別タイプのシューズがお勧めだ。

■市民ランナーに寄り添ったアシックスの新戦略

各メーカーが“高速化”に注力していたなかで、『メタスピード』シリーズが好調なアシックスが新戦略を発表。新たな“シューズウォーズ”が始まろうとしている。2月下旬にサブ4(フルマラソン4時間切り)を狙うランナーに特化した『S4(エスフォー)』というモデルを発売したのだ。

きっかけはアシックス代表取締役社長CEO兼COOの廣田康人氏のひらめきだった。皇居を走っているときに、「なぜサブ4向けのモデルがないんだ」と思いついたという。

「全日本マラソンランキング」(アールビーズ調べ)によると、コロナ禍前の2018年度は男性のサブ4達成率が29.1%だった。市民ランナーのなかでは“中上級者”というレベルになる。一方で、それより少し遅い男性の4時間~4時間30分の層も17.1%を占めており、同3時間30分以内(12.2%)よりも多いのだ。

ビジネスチャンスを考えると、サブ4向けモデルを発売するのは理にかなっているといえるだろう。

アシックスはサブ4向けのモデルとして、『エボライド』『マジックスピード』『GT2000』などの商品を紹介してきたが、『S4』は従来モデルと比較して「抜群の推進性」が特徴だという。廣田CEOも「履けば違いがわかりますよ」と絶対的な自信を持っている。

ビジュアルはアシックスの最高峰モデルである『メタスピード+』と似ており、ミッドソール内の前部から後部にかけてカーボンプレートを搭載。ミッドソールは2層構造で上層部には『メタスピード+』と同じ軽量&高反発の独自素材を配置している。安定性を確保するためにアウトソールの接地面を拡大するなど、「サブ4達成を目指すランナーに適したライド感」にこだわったという。

アシックスの『S4(エスフォー)』
写真提供=アシックス
アシックスの『S4(エスフォー)』
写真提供=アシックス
アシックスの『S4(エスフォー)』
写真提供=アシックス
アシックスの『S4(エスフォー)』 - 写真提供=アシックス

「アシックス『S4』ローンチイベント」に参加した筆者は、『S4』を履いて走ることができた。まず感じたのが快適でナチュラルな走り心地だ。『メタスピード+』と比べると、推進力はやや物足らない印象があったものの、サブ4を達成するにはキロ5分30~40秒ペースで走ればいい計算になる。とにかく速いモデルよりも、ほどよく速く、安定感のあるモデルが望まれる。それを満たしているのが『S4』といえるだろう。さらに価格は2万2000円(税込)で『メタスピード+』より5500円安い。

感心したのは、新モデルを発売して終わりではないところだ。『S4』の発売に向けて、トレーニングメニューやレースを提供。世界でも類を見ない“パッケージ販売”に挑んでいる。

トレーニングに関しては、シューズボックス内のQRコードからサブ4を達成するためのメニューにアクセス。リアル&オンラインでトレーニングが体験できる。そしてレースはサブ4を達成するために特化した「Challenge 4」というイベントを5月に大阪と東京で開催するという。

サブ4に特化したモデルはこれまでほとんどなかった。『S4』は『メタスピード+』のアドバンス版だが、アシックスとしては『S4』で多くの市民ランナーにサブ4を達成させて、信頼を得た後、『メタスピード+』でさらなるタイム短縮を目指してほしいと計算しているだろう。市民レースが続々と復活するなかで、アシックスは他社がさほどアピールしてこなかった場所からからシェアを奪いにいく。

■ノンカーボンシューズという選択

フルマラソンで4時間半以上かかる男性ランナーは全日本マラソンランキング2018年度によると全体の53.8%。半数以上のランナーは、トイレ休憩や給水時に歩くことを加味しても、平均速度はキロ6分ペースよりも遅くなる。

このレベルではカーボンプレートが搭載された高速モデルよりクッショニングがあって、安全性の高いシューズがいい。なかでも筆者がお勧めしたいのが、ナイキの「怪我ゼロ」をコンセプトにしたモデルである『インヴィンシブル スリー』(税込2万2000円)だ。

カーボンプレートは入っていないが、ミッドソールにはナイキ最高峰モデルと同じフォームを使用。従来モデルより前足部は幅広になり、着地時のブレを抑えるヒールグリップも付いている。安定感が高まっただけでなく、速さも兼ね備えているのだ。

ナイキの『インヴィンシブル スリー』
写真提供=ナイキ
ナイキの『インヴィンシブル スリー』
写真提供=ナイキ
ナイキの『インヴィンシブル スリー』
写真提供=ナイキ
ナイキの『インヴィンシブル スリー』 - 写真提供=ナイキ

筆者も愛用しているが、履いていて本当に気持ちがいい。ふわふわの感触はココロも軽くなる。どこまでも走れそうなシューズだ。

プレート入りでも、ノンカーボン素材のモデルを着用するのもアリだ。ニューバランスはプレート入りシューズの入門モデルとなる『Propel v4』を発売。その最大の特徴はプレートにTPU(熱可塑性のプラスチック)といわれる素材が使用されていることだろう。

TPUはカーボンほど硬くなく、ほどよい反発がありながら安定感がある。そのためケガのリスクも小さくなる。さらにカーボン厚底シューズの半額ほどの価格(税込1万2100円)で非常にトライしやすい。

他にもアディダス、ミズノ、プーマ、ホカオネオネ、オンなども多彩なモデルを発売している。各メーカーによってカラーというか、クセがそれぞれ異なる。トップランナーが着用している最高峰モデルではなく、自分のレベルやタイプにあったモデルを選ぶと、レースでも快適に走ることができるはずだ。ぜひ久々のマラソン大会を楽しんでいただきたい。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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