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橋下徹「マイナンバーの機能を組み込んだスマホを国民に配りなさい」日本のDXを一気に前進させる奥の手

プレジデントオンライン / 2023年3月30日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tukinoto

日本のデジタル化はどうすれば進むのか。元大阪市長の橋下徹さんは「憲法9条問題とデジタル政府が進まない問題の根っこは同じである。日本の法律はできることをリスト化する『ポジティブリスト方式』だが、有事の戦闘状態では禁止事項を列挙した『ネガティブリスト方式』が合理的だ。有事で何が起きるかを事前にすべて予測することは不可能である」という――。

※本稿は、橋下徹『日本再起動』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

■日本のDX化が一向に進まない理由

2021年の通常国会で菅政権の肝煎(きもい)りだった「デジタル改革関連法案」が成立し、同年9月にデジタル庁が設置されました。

ようやく行政と社会のデジタル化が本格的に動き出すということで、僕は、自民党デジタル社会推進本部の座長代理を務める平将明衆議院議員にインターネット番組に出演してもらい、デジタル発展途上国・日本の実情と行政のデジタル改革について議論しました。

そこで得た知見をもとに日本の前進を妨げているものの正体を論じていきましょう。

コロナ禍で行われた20年の国民1人10万円の一律給付金は、自治体から送られてきた用紙に支給希望者が手書きで個人情報と預貯金口座番号を書いて返送し、それを行政が確認してから世帯主の口座に入金される仕組みでした。

時間も手間もかかるやり方ですが、日本政府も自治体も国民個人の口座番号を把握していないので、こうするしかありませんでした。

これは、日本の政治行政が国民からの批判を恐れて、政府はできるだけ国民の個人情報を保有しない、他の個人情報とひもづけない、という方針でやってきた結果です。

その背景には、国・政府が集めた個人情報の流出が怖い、いろんな個人情報に国がアクセスできるようにするのは国に監視されているようで嫌だという、やや行きすぎた国民の不信感・不安感があると思います。

そのため、国民ひとりひとりの状況に応じて行政が支援する環境が整わず、コロナ禍では国民を救うための対応が完全に遅れました。

これによって誰の目にも明らかになったのは、日本のDX(デジタル・トランスフォーメーション)化への対応の遅れでした。

■世界各国の軍隊は法律の禁止事項以外は「できる」

「デジタル政府」が進まない問題は、実は憲法9条問題と根っこは同じなのです。

憲法9条において、日本は国際紛争を解決する手段としての武力の行使を放棄し、陸海空軍その他の戦力は保持しないとされています。

武力の行使は絶対にしないというところからスタートし、自衛権の範囲でそれを使用する場合があるからと自衛隊ができ、そして必要最小限度の自衛力しか保有しないし使わないとなりました。

そこで自衛権の範囲内で武力行使として「できること」をひとつひとつ法律でリスト化していきました。

裏を返せば、法律で許容事項としてリスト化されたこと以外は何もできないということです。こうしたやり方を「ポジティブリスト方式」といいます。

他方、世界各国の軍隊は、自衛権の行使としての武力行使は国民・国家を守るうえで必要なことはすべてできることを大前提に、「できないこと」だけを禁止事項として法律でリスト化する「ネガティブリスト方式」をとっています。

これはつまり、裏を返せば法律で禁止事項としてリスト化されたこと以外は何をしてもいいということです。

晴れた沖縄の海上をパトロールする米軍ヘリ
写真=iStock.com/petesphotography
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/petesphotography

有事の戦闘状態では当然、禁止事項を列挙したネガティブリスト方式が合理的です。ポジティブリスト方式だと、有事で何が起きるかを事前にすべて予測して、国民・国家を守るために許される武力行使を完全に法律化することが求められますが、それは不可能です。

有事は予測できないことの連続なのですから。法律で禁止されていること以外は原則「できる」というネガティブリスト方式をとらざるを得ません。

■マイナンバーの法体系を変える

これと同じことがデジタル政府問題においても生じているのです。

マイナンバーに各種の個人情報をひもづけて、必要なときに政治行政が使えるかたちになっていれば、一律給付金についても非効率な方法は避けられたはずです。

マイナンバーに預貯金口座番号や携帯電話番号、メールアドレスをひもづけるだけで、適宜必要な人に行政から情報提供や給付金の支給ができます。

しかし、マイナンバーの現在の法体系は「できること」を法律で列挙するポジティブリスト方式となっており、一律給付金の事務にマイナンバーを使うことや、マイナンバーと預貯金口座番号や携帯電話番号・メールアドレスをひもづけることは明記されておらず、それらはできないとなっていました(その後、預貯金口座をひもづけられることが法律に明記され可能となりました)。

ここが、デジタル政府が進まず、日本がデジタル化しない根本原因です。

ゆえに、個人情報の目的外使用や情報漏洩、のぞき見などやってはいけないことを明記して厳罰化し、それ以外は個人情報をフルに活用できるようにマイナンバーの法体系をネガティブリスト方式へ変更することが絶対的に必要なのです。

自衛隊に関する法体系をネガティブリスト方式にするのは、憲法9条の改正が必要になり、ハードルは高いと思いますが、政治行政と社会のデジタル化に関する法体系を改めることは憲法改正までは必要ありません。法律の改正でできます。

行政や社会を大胆にデジタル化するためには、ネガティブリスト方式の法体系の下でマイナンバーとあらゆる個人情報をひもづけていくことが必要不可欠であり、これこそがデジタル社会の進展に向けてのセンターピン(ここを実現すれば、すべてが変わっていく急所)です。

■日本をデジタル化する2つの原動力

これまでマイナンバーと個人情報のひもづけを批判してきた人に限って、一律給付金の遅れについて「行政の対応は遅い!」「もっと国民の生活を支えろ!」と言う。しかしです。

1億2000万人の国民を行政が迅速、的確に支えようとするのなら、国民ひとりひとりのID(マイナンバー)と個人情報をひもづけて政府が把握しておかなければなりません。

行政が国民をしっかり支えようとすれば、マイナンバーカードの普及とその活用が大前提となるのです。

マイナンバーカードを活用した政治行政のデジタル化が整備されていれば、新型コロナウイルスのワクチン接種はもっと円滑に進めることができたでしょうし、感染者の把握や入院調整という事務負担によってパンクした保健所を救うこともできたでしょう。

マイナンバーカードの保有を国民全体に義務化することについては、それこそ赤ちゃんが生まれたときに自動的にマイナンバーを付与し、カードを交付する制度にすればいいのです。

そして、マイナンバーを、法律の禁止事項以外にはフル活用できるというネガティブリスト方式の法体系に整備する。この2つが日本をデジタル化する原動力であり、これはまさに政治家の仕事です。

黒板に書き出すルールのリスト
写真=iStock.com/marrio31
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/marrio31

■コンプライアンスを重視する企業の動きを止めない

マイナンバーの法体系をネガティブリスト方式に変えることに、国民の皆さんが不安を感じることもたしかにわかります。実際に、僕も大阪市長時代に週刊誌で自分の戸籍が話題になった際、役所の職員に戸籍をのぞき見された経験がありますから。

そのようなリスクには厳罰を定めることなどのやり方で対応して、これまでのデジタル化の遅れを取り戻してもらいたい。

そのためには国民のデジタル化に関する考え方、思想を変えていく必要があります。国民の意識改革です。それを促す役割は政治家にあります。

令和の時代で活躍すべき次の世代の政治家たちが、「デジタル化によって行政が弱者をきちんとサポートする社会をつくりましょう」と訴えかけたり、ダイナミックにデジタルの利便性を語ったりするのです。

できること、やっていいことだけを法律でリスト化するポジティブリスト方式は、イノベーションが起きにくく、日進月歩のデジタルの世界と一番相性が悪い。

企業が新しい技術やサービスを社会実証実験しようとして法律を見ると、そのような想定をしていない時代につくった法律ゆえに、やっていいことのリストに新しい技術やサービスが載っていないことが多く、コンプライアンスを重視する企業はそこで動きが止まってしまいます。

禁止事項だけを列挙したネガティブリスト方式の法体系を整え、「禁止事項として書かれていないことはどんどんやれ!」と大号令をかけることがイノベーションを生む源です。

■マイナンバーの機能を組み込んだスマホを配布する

世界の先進各国の政府は2000~10年代に国民ひとりひとりのナンバーをICチップに組み込んで、各種個人情報とひもづけながら、国民に対する行政サポートに役立て始めています。

橋下徹『日本再起動』(SBクリエイティブ)
橋下徹『日本再起動』(SBクリエイティブ)

日本がデジタル行政の遅れを取り戻すための僕からの提案は、子供が生まれたときや小学校の入学時、あるいは義務教育が終わったとき、または成人する18歳のときでもいいのですが、マイナンバーの機能を組み込んだスマホを配ってしまうことです。

そうすれば、行政は低コストで効果的なサービスを国民に提供できるし、日本社会のデジタル化も一気に進むと思います。

情報漏洩や不正使用などには厳罰化で対応し、どうしても個人情報のひもづけが嫌な人には正当な理由に基づくひもづけ解除(オプトアウト)の余地を残しておくなどの知恵を絞りながら、ネガティブリスト方式によるマイナンバーのフル活用を進めていくべきです。これは政治家の仕事です。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。北野高校時代はラグビー部に所属し、3年生のとき全国大会(花園)に出場。『実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。最新の著書に『最強の思考法 フェアに考えればあらゆる問題は解決する』(朝日新書)がある。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)

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