中小企業は「高学歴人材」を採用しないほうがいい…経営コンサルが「優秀人材には気をつけろ」と助言するワケ
プレジデントオンライン / 2023年3月30日 9時15分
※本稿は、小山昇『会社を絶対潰さない 組織の強化書』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■中小企業には、優秀すぎる人材は必要ない
組織を強く、大きくしたいなら、社員教育をして個の能力を伸ばすと同時に、「従業員数の増員」「人材の補充」が不可欠です。
従業員数を増員する際、赤字の社長の多くは、「優秀な人材を採用したい」「優秀な人材を採用すれば、組織も優秀になる」と考えています。ここで言う「優秀さ」とは、「高学歴である」「前職で圧倒的な実績を残している」など、他者よりも「優」れている、「秀」でていることです。
ですが私は逆です。優秀な人材を求めてはいません。むしろ、他者よりも「優」れていたり、「秀」でている人材は必要ない。
組織を強くするために必要なのは、「そこそこの能力を持った社員が、同じ価値観を持つ」ことです。
「既存社員よりも優秀な新卒社員を採用しない」理由は、おもに「3つ」あります。
①既存社員も新卒社員もやる気をなくすから
「学歴や成績は参考程度にしか評価しない」のが、わが社の採用基準です。
私の経験則として、「わが社の場合、難関大学・有名大学を優秀な成績で卒業した新卒社員ほど、辞めてしまう」傾向にあります。新卒社員のレベルが既存社員よりも「高すぎる」ことが原因です。
レベルが違いすぎると、既存社員も新卒社員も実力を発揮することはできない。したがって、「優秀すぎない人材」「既存社員とのレベル差が少ない人材」を採用して、「能力差が出ない組織づくり」をすることが大切です。
②組織には、さまざまな人材が必要だから
たとえばプロ野球。
プロ野球の花形は4番バッター(ホームランバッター)です。ですが、4番バッターばかりを集めても優勝できません。1番から9番まで各打順には役割があり、各選手の個性を最大限に発揮するには、役割に沿って打順を組む必要があります。
経営も野球と同じです。
「能力」(学歴)の高い人だけで組織を組んでも、組織はまとまらない。組織力を高めるためには、総合力で勝負すること。異なる役割を持った人たちが、全体の目標を共有し補完し合う「有機的なつながり」をつくることです。
わが社はすでに、さまざまな個性や特性、役割を持つ既存社員がいるので、彼らとのつながりを考えた人選が重要なのです。
③組織の均一化、標準化、平均化ができなくなるから
お客様には、どの社員が担当しても同じサービスを提供しなければなりません。そのためには、
「金太郎飴のように均整のとれた組織をつくること」
能力の高さに関係なく、
「人が入れ替わっても、誰が担当しても、同じ質の仕事ができること」
「誰に聞いても、同じ答えが返ってくること」
が重要です。
中小企業に必要なのは、突出した能力のある社員ではありません。能力も学歴も「それなり」でいいので、全員が同じ結果を出せることが大切です。
強い組織をつくるには、「均一である」=「全員が同じ価値観を持つ」ことが求められます。いくら頭が良くて能力が高くても、会社の考え方に従えない人は、結果として戦力にならない。価値観が揃っていなければ、組織はバラバラになる。
一方で、価値観が揃っていれば、社員全員で同じ戦い方ができるため、個々の能力が少しくらい劣っていても、組織力で勝負できます。
■人の成長スピードには「差がある」のが正しい
畑に種を蒔いたとき、「すべての種が同じタイミングで一斉に芽吹く」ことも、「すべての芽が同じ早さで同じように成長する」こともありません。発芽日数や生育スピードには、違いがあります。早く育つ芽、大きく育つ芽もあれば、そうでない芽もあります。
人の成長も同じです。人それぞれ、成長のスピードは異なります。
![開発と成長のイメージ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/6/1200wm/img_56d625cd982cbe98462b52c0fc3131d8294465.jpg)
学んだことをすぐに理解・実践できる社員もいれば、そうでない社員もいる。すぐに結果を出す社員もいれば、時間がかかる社員もいる。
それなのに多くの社長は、
「社員教育をすれば、全員一度に芽が出て、同じように育つ」
「なかなか芽が出ないのは、その社員に力がないから」
と考えています。
人の成長には「差がある」のが正しい。成長スピードも、理解力も、知識レベルも、人によって異なります。
したがって、社員教育の基本は、画一的な指導をしないこと。
「相手の成長レベル(相手の特性)に合わせた教え方をする」
「同じレベルの社員を集めて教える」
ことが大切です。
■知識を教えるだけの教育や人の行動が変わらない教育は意味がない
社員教育の目的は、
「部下の行動を変え、成果を出させる」
ことです。
「知識を教えるだけの教育」や、「人の行動が変わらない教育」は無意味です。
私は、社員教育を「教育」と「育成」のセットで考えています。
【教育と育成】
■「教育」の概念……「教」えて、「育」てる
●教える……インプット。知識を与えること。
●育てる……アウトプット。振り返りをさせること。
■「育成」の概念……成果に結びつける。結果を出させる
わが社は、大型バスを貸し切って、従業員(社員、パート、アルバイト)が全営業所を視察するバスウォッチングを毎年開催しています。
バスウォッチングも、
「教えて、育てる」
「インプットしたものを、アウトプットさせる」
しくみのひとつです。
現場の視察によって、「この営業所では、こういうことをやっているのか」と、知識を得ることができます。この時間は、「教える時間」(インプット)です。
社員は50個以上、パート、アルバイトは20個以上の「気づき」をメモに取り、終了後、社長と上司にレポートを提出します。バスの中ではひとり2分、「今回勉強になったこと」「気がついたこと」「実行したいこと」などを発表・共有します。この時間は「育てる時間」(アウトプット)です。
バスウォッチングだけでなく、わが社の勉強会や懇親会の多くは、「教える時間」と「育てる時間」がセットになっています。知識を得たら、振り返るのが基本です。
■社員に成果を出させるために必要な2つのポイント
教えて、育てたあとは(教育の次は)、「育成」です。育成とは、社員に成果を出させることです。
部下の育成は、上司の仕事です。わが社では、
「たくさんの部下にA評価を取らせた上司」
「部下の『こうしたい』『こうなりたい』という目標達成に貢献した上司」
を「優秀な上司」と考えています。
成果を出させるために大切なことは、「2つ」あります。
①目標を設定し、上司と部下で共有する
事前に目標を決めておかなければ、「成果が出た、出ていない」を判断できません。
実績が「80」だったとき、この数字を見ただけでは、成果が出ているのか、出ていないのか、わからない。
ですが、「100」という目標が設定されていれば、「成果が出ていない」「目標まで20足りなかった」ことがわかります。
成果目標のレベルが高すぎると現実味がないため、「部下が到達できるレベル」に設定することが重要です。
職責が低いほど「短期間で実現できる目標」を設定すること。長くとも「3年以内に達成できる目標」にしないと、部下のモチベーションが続きません。
②実際の仕事を真似させる指導をする
現場は、お客様との信頼関係を築く場であると同時に、社員を教育する最高の場です。物事は、口で説明するだけではダメ。実物、現場を体験させるのが一番です。
知識は「口」で教えることはできますが、体験、経験は、現場で学ばせるのが基本です。
上司は、自分が現場に出るときに、部下を同行させる。そして、自分の背中を見せる。
そうすれば部下は、上司の知見を実際の仕事を通じて理解できます。
![小山昇『会社を絶対潰さない 組織の強化書』(KADOKAWA)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/4/1200wm/img_0478f7d058f235dd0436e9b5170600a4257104.jpg)
部下に一番響く指導は、一緒に働いている同僚が結果を出していることを、そのまま真似させて結果を出させることです。
でも人は、小さなプライドがあるから、素直に人の真似をしません。
しかし、小学校1年生は高校1年生の真似はできないし、中学校1年生は大学1年生の真似はできません。「人の真似ができることはレベルが高いこと」です。
このことを部下に教えることが大事です。そうでないと、人の真似をするようにはなりません。
人間は、失敗や人の真似からしか学べないのです。
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武蔵野 社長
1948年山梨県生まれ。東京経済大学を卒業し、日本サービスマーチャンダイザー株式会社(現在の株式会社武蔵野)に入社。一時期、独立して自身の会社を経営していたが、1987年に株式会社武蔵野に復帰。1989年より社長に就任して現在に至る。2001年から中小企業の経営者を対象とした経営コンサルティングを展開。全国各地で年間240回の講演・セミナーを開いている。主な著書に『人材戦略がすべてを解決する』『新版 経営計画は1冊の手帳にまとめなさい』『99%の社長が知らない 会社の数字の使い方』(以上、KADOKAWA)、『4万人の社長・幹部がベンチマークした すごい会社の裏側(バックヤード)!』(あさ出版)、『儲かる会社のコミュニケーションの鉄則』(朝日新聞出版)などがある。
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(武蔵野 社長 小山 昇)
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