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トヨタは「会社の花見」でもカイゼンを繰り返す…「花見の幹事」から役員に出世した人がやっていたウラ技

プレジデントオンライン / 2023年3月25日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

■満開が早まると花見の趣旨も変わる

花見は時期、内容、社会からの監視という3点で変化している。

まず時期だ。

気象庁は「気候変動監視レポート2022」で、日本国内の桜の開花日について、次のように発表した。

「1953年以降、さくらの開花日は、10年あたり1.2日の変化率で早くなっている」

また、同レポートには1990年平年値(1961~1990年)と2020年平年値(1991~2020年)を比較している。平年値とは30年間の平均の値だ。

平年値を見ると、主な都市における桜の平均開花日も早くなっている。東京、大阪、新潟、青森の平均開花日は5日、仙台、名古屋、広島、福岡では6日も早くなった。

つまり、1960年から90年まで、東京で桜が満開を過ぎるのは4月の第1週、小学校の入学式頃だった。それが現在では3月の終わりには満開だ。

そうして開花時期が早まると花見の趣旨は変わる。

会社で花見をやる場合、4月初旬だったら、新入社員の歓迎会だ。ういういしいスーツ姿の若者が宴に出てくる。がばがば酒を飲むことはまずない。一方、3月の下旬にやるのであれば年度末の、おつかれさま会になる。

入社予定の新人も参加するかもしれないけれど、おつかれさま会、歓送迎会であれば、へべれけになるまで飲む人も出てくるだろう。荒れた花見になって、周囲からクレームが出ることもある。

■内容は豪華になったが、SNSで晒されることも

ふたつめは花見が豪華になったことだ。かつてのそれはナッツ、ポテトチップスといった乾きもの、玉子焼き、稲荷ずし、焼き鳥、コロッケといったつまみで、缶ビールやコップ酒を飲むのが一般的だった。

それが今ではバーベキュー、焼きたてピザ、寿司、といった豪華なものが出てくる。ウーバーイーツなど配送サービスも一般化した。また、イベント会社が花見の設営を請け負って、場所取り、幔幕(まんまく)の設置から豪華メニューの配達までを行うこともある。参加者は身ひとつで行くだけ。花見の幹事がいてもやることはない。

3つめの変化は社会の目が厳しくなったことだ。豪華なつまみやカラオケの登場で盛り上がるのはいいけれど、まわりの人々がスマホを持っているわけだから監視されているなかで宴会を行うことになる。迷惑になる行為をしたらたちまち写真や動画をSNSで投稿されて炎上する。ときには花見が中止に追い込まれることだってある。

■非公式な社内行事が監視される時代

コロナ前のことだが、横浜、桜木町駅近くにある桜の名所、掃部山(かもんやま)公園ではある会社の花見が問題になった。大手エンジニアリング会社はマナーが悪くて途中で中止になった。大手建設会社のそれはSNSで炎上した。

エンジニアリング会社は公園のほぼ3分の1の面積にブルーシートを敷き、しかも無人で場所取りをした。さらに使用期間を5日間と貼り紙した。それでは他の花見客の憤激を買うに決まっている。このケースは会社が知ることとなり、途中からブルーシートは撤去された。

大手建設会社の場合はイベント会社が代行して場所取り、投光器などを設置した本格的な野外パーティー会場にしてしまった。花見は挙行されたがやはり周囲の客が社名を特定してSNSに投稿、炎上した。

「花見なんて従来通り、総務部が管掌すればいい」
「営業部の花見ならいつもの通りのやり方で新人にやらせておけ」

一般の会社は花見について、それほど気にかけてこなかった。他人の目を意識してこなかった。社内行事のひとつではあるけれど、公式のそれではないと軽く考えていたのだろう。だが、誰もがSNSを使う時代、世間の目がある場所での行いは厳しくチェックされるようになったのである。

■花見の幹事を完璧にこなした人間は出世する

その点、トヨタの花見は違う。

花見のような行事についても、ちゃんと他社の目を意識している。そして、しっかりと準備して、変化にも対応している。花見だからといって手を抜かないのがトヨタだ。気構えが一般の会社とは違うのである。

さて、3月末に出す『トヨタがやらない仕事、やる仕事』(プレジデント社)には花見の幹事がやることについても書いた。

コロナ禍で3年ぶり、4年ぶりに花見を行う会社もあるだろう。トヨタが花見をどう考えているかを知ってから満開の桜を見に行っても遅くはない。

――会議の延長にあるのが社内行事です。社員旅行、駅伝、懇親会、送別会、部内の花見……。コロナ禍で開催はがくんと減りましたが、トヨタは現場がある会社ですから社内行事や飲み会が多い会社だといえます。

お花見のシーズンになると、豊田市にある本社や各工場の人たちは市内の水源公園でお花見をします。

トヨタでは「雑事が大事」とされていて、お花見でも日ごろの業務と同じように担当者が決められます。歴代の幹事がブラッシュアップしたマニュアルを元にして、飲食の手配から場所の確保までさまざまな仕事をすることになっています。

そして「花見の幹事を完璧にこなした人間は出世する」という伝説もあります。

では、どんなことをやるのか。幹事経験者で役員に出世した人の話を紹介します。

■「部長にどえらく叱られた」ことまで書き残す

「花見の幹事、いきなりはできないんです。

まず、マニュアルがありますからそれを見て、今年はどこをカイゼンしようかと考える。ただし、予算は前年と変わりません。マニュアルにはチェック項目がいくつもあります。

ドレスコードはどうする? 集める会費はいくらにするか? ゴザの用意と場所取りはどうするか? それを書類にするんです。今ではパワーポイントかな。

目的は『花見を成功させる』。その後、チェックポイントを書いていく。それでも初めて幹事をやった人間は失敗します。料理を頼んだのはいいけれど、冷たい食べ物ばかりのセレクションで参加者からブーイングを食らったとか。

天気は晴れるに決まっていると考えて雨具の用意をしなかったら雨が降ってきて、部長から、どえらく叱られたとか。

そんなよかったこと、悪かったことを記録して翌年に残す。花見の記録をこれほど詳細に残すのはトヨタくらいです。『部長にどえらく叱られた』とちゃんと書いておくのはとても重要です」

お花見
写真=iStock.com/imagenavi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imagenavi

■PDCAをSDCAにするのは会議も花見も同じ

前年のマニュアルには花見のPDCA資料が載っている。初期の花見計画、当日の記録、よかったこととダメだったこと、翌年のためにカイゼンするところ。すべてを書く。

「そして、一度作ったPDCA(プラン、ドゥ、チェック、アクション)の書類を来年使う時、それはSDCAのマニュアルと呼ばれます。Sとはスタンダードの略です。一度、行ったプランはスタンダードとなり、その翌年から必ずカイゼンしなくてはいけないのです。

「そうしてカイゼンしてできたマニュアルがまたスタンダードになる。花見でもトヨタのそれは前年よりも、どこかよくなっています。ただし、予算はほぼ同じですから、担当者はビールをシャンパンにするといった金がかかるカイゼンはできません。ビールの半分を酎ハイにして、お金を浮かせて、それでシャンパンでなくスパークリングワインを2本買うといったカイゼンを考えるのです。

花見の幹事をすることは仕事の仕方を覚えることでもあります。PDCAをSDCAにするのは会議でも変わりありません。

また、花見では毎年、何らかのチャレンジが期待されます。完璧にこなすとは前の年と同じ花見をやるのではなく、どこかにカイゼンが必要なのです。もちろん、チャレンジが失敗したからといって責められることはありません。記録に残るだけです」

幹事経験者は最後にひとこと付け加えました。

「花見の幹事が完璧にできるやつは一事が万事ですから、ほぼ出世してます」

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野地 秩嘉(のじ・つねよし)
ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『京味物語』『ビートルズを呼んだ男』『トヨタ物語』(千住博解説、新潮文庫)、『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)、『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』(ダイヤモンド社)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。旅の雑誌『ノジュール』(JTBパブリッシング)にて「ゴッホを巡る旅」を連載中。

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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉)

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