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地銀は半数が消滅してもおかしくない…米国で相次ぐ銀行破綻が日本にもたらす意外な副作用

プレジデントオンライン / 2023年3月28日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

■リーマンショックの再来が危惧されていた

鈴木俊一財務相は3月22日の衆議院財務金融委員会で、欧米金融機関に広がる信用不安の日本市場への影響についてこう述べた。

「さまざまなリスクがあり得ることを念頭に置き、各国当局と連携しつつ、内外経済・金融市場の動向、それが金融システムの安定性や経済に与える影響などについて、決して楽観することなく、強い警戒心を持って注視したい」

さらに今回は信用不安が「非常に早いスピードでグローバルに広がったことには、注意する必要がある」と指摘した。

鈴木財務相が懸念する欧米の金融不安とは、資産規模で全米16位のシリコンバレー銀行が3月10日に、12日に同29位のシグネチャー銀行が相次いで破綻。さらに中堅銀行であるファースト・リパブリック銀行が流動性危機に瀕していることにある。また、欧米市場ではスイスの大手銀行クレディ・スイスの経営危機が深まり、金融機関最大手UBSによる救済合併に発展している。

クレディ・スイスは世界の「金融システム上重要な金融機関」に位置付けられており、破綻すれば影響はリーマン級となりかねないと危惧されてきただけに、スイス国立銀行(中央銀行)が7兆円を超える流動性資金を供給するなど、国を挙げての救済に乗り出していた。「UBSによる買収は、スイスの金融当局により事実上の強制と見ていい。買収額は4300億円と、結果的にUBSは破格の安値でかつてのライバル銀行を掌中に収めることに成功した」(市場関係者)と見ていい。

■米国の連鎖的破綻は予断を許さない

UBSによる救済合併で落ち着きを取り戻しつつある欧米市場に対し、米国の金融危機はいまも進行中で予断を許さない。危機の発火点となったカリフォルニア州のシリコンバレー銀は、3月10日に業務停止に追い込まれた。前日の9日に経営危機がツイッターで拡散され、預金全体の4分の1にあたる420億ドルが一気に引き出された。「ネット時代を象徴するような取り付け破綻」(市場関係者)と言える。

シリコンバレー銀行はテックやヘルスケア(医療)関連のベンチャー企業が銀行口座を開く銀行として知られていた。破綻の原因は、資金の調達と運用の急膨張とミスマッチ、そして急収縮にある。

同行は2021年、ハイテクブームに乗って預金残高が1020億ドルから1890億ドルへと2倍近くまで急増した。一方、貸出は預金増に追いつかず、それを補うために金利の高い固定金利型の有価証券投資に傾斜した。有価証券投資の規模は2022年のピーク時には政府保証債が1200億ドル、モーゲッジ固定債が910億ドルに達した。

しかし、FRB(米連邦準備理事会)が2022年3月からインフレ抑制のために急速かつ大幅な利上げに踏み切ると債券価格が大幅に下落、2022年末の債券評価損は資本勘定(資本金+剰余金)とほぼ同規模の150億ドルにまで拡大した。この時点で事実上、債務超過に陥っていた。

■「利上げが続く限り、危機はいっそう深まりかねない」

シリコンバレー銀行の破綻はFRBの超金融緩和によるテックバブルと、金融引き締めによる信用収縮の最初の犠牲者と受け止められる。同行の経営破綻に伴う信用不安から同じく取り付け破綻したシグネチャー銀行は暗号資産(仮想通貨)企業を主取引層にするという意味において、同じ緩和バブルの犠牲者といえる。

経営破綻した銀行の預金は本来、預金保険の限度額である25万ドル(約3400万円)までしか保護されないが、米金融当局は特例として破綻2行の預金を全額保護した。2行がテック、ヘルスケア、仮想通貨業者の決済性資金を担っており、多数のベンチャー企業が資金繰り倒産する懸念があったためだ。

これら一連の銀行破綻を受け、FRBは利上げを停止するのではないか、との見方が浮上していた。しかし、FRBは21、22日に開催したFOMC(連邦公開市場委員会)で0.25%の利上げを決めた。足元のインフレ率が6%と依然として高水準にあるためで、9会合連続の利上げとなる。

市場関係者は「今回の米銀2行の経営破綻はFRBによる利上げが危機の引き金であり、これまでの緩和バブルの清算といえる。その意味で、起こるべくして起こったようなものであり、利上げが続く限り、危機は去らないし、いっそう深まりかねない」と話す。

■日本への影響は地方銀行から広がる

その影響が最も大きくなるのではないかとみられているのが日本の地域金融機関だ。「日本の緩和バブルの影響は大きく、解消はまさにこれから。米国と同じように日銀が利上げに転じた瞬間に、地銀等が抱える国債をはじめとする有価証券に含み損が生じるジレンマを日本経済は抱えている。植田和男日銀総裁の緩和からの出口戦略は難題だ」(市場関係者)。

すでに、欧米の金利上昇に伴い外債投資に多額の評価損が生じている地銀が少なくない。それを象徴するのがSBIグループが出資する地銀9行(島根、福島、筑邦、清水、東和、きらやか、仙台、筑波、大光)の苦境だ。

「出資9行はすべて22年9月期に有価証券運用で評価損が生じており、その総額は1000億円を超える」(同)。しかも、うち2行は含み損から配当原資がマイナスに転じている。大半は米国債での評価損だが、さらに、今後、日本国債についても金利上昇懸念が高く、国内外債券で巨額な含み損に陥りかねない。

こうした有価証券投資の損失顕在化から地銀再編が促進されるのではないかとの見方も浮上している。金融庁は各県で「第一地銀と第二地銀を統合させる」というシナリオで動いている。そのシナリオの原点は2018年に金融庁の有識者会議がまとめたレポート「地域金融の課題と競争のあり方」に集約されている。

■全国の半数の県が「1行単独でも不採算」

同レポートでは、人口減少などにより、2行での競争が可能な地域は、宮城、神奈川、愛知、福岡など10府県、2行での競争は不可能だが、1行単独ならば存続可能な地域は、北海道、京都、愛媛、熊本など13道府県、1行単独になっても不採算の地域は、青森、富山、和歌山、島根、宮崎など23県となっている。

【図表】各都道府県における地域銀行の本業での競争可能性
出典=「地域金融の課題と競争のあり方」

「最大の注目点は、この金融庁レポートの分析には地銀が抱える有価証券投資の損益は加味されていないことだ。この分析が公表された18年以降、地銀は細る本業の儲(もう)けを補完するために内外の有価証券投資を積極化させており、その評価損リスクがいっそう高まっている」(金融庁関係者)という。

「1県1行体制」の動きはすでに各地で起こっている。21年1月に新潟県の第四銀行と北越銀行が合併して第四北越銀行となったのをはじめ、同年5月には三重銀行と第三銀行が合併して三十三銀行が誕生した。同年10月には福井銀行が同じ福井県内の福邦銀行を子会社化している。

ATMを操作する人の手元
写真=iStock.com/PKpix
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PKpix

■地銀の数は現在の半分では済まなくなる?

さらに22年4月に青森銀行とみちのく銀行が経営統合を行い、共同持ち株会社のプロクレアホールディングスを設立した。両行は25年1月をめどに合併し、「青森みちのく銀行」となる予定だ。

22年9月に八十二銀行と長野銀行が経営統合を発表、23年6月には八十二銀行が長野銀行を完全子会社化し、25年をめどに合併する予定だ。また22年10月には愛知銀行と中京銀行が統合し、持ち株会社「あいちフィナンシャルグループ」を設立、24年10月に合併する予定となっている。さらに22年11月には地銀グループ最大手のふくおかフィナンシャルグループが、同じ福岡県内の福岡中央銀行を完全子会社化すると発表したほか、横浜銀行が神奈川銀行を完全子会社化することを決めた。

金融庁内部には「地銀の数は現在の半分でいいのではないか」との意見も聞かれる。米銀の破綻は、いずれ日本では「地銀の再編」という形で顕在化しよう。

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森岡 英樹(もりおか・ひでき)
経済ジャーナリスト
1957年生まれ。早稲田大学卒業後、経済記者となる。1997年、米コンサルタント会社「グリニッチ・アソシエイト」のシニア・リサーチ・アソシエイト。並びに「パラゲイト・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年4月、ジャーナリストとして独立。一方で、公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。

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(経済ジャーナリスト 森岡 英樹)

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