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参加国わずか28…WBC=野球"オワコン化"で盛り上がるのは侍ジャパン優勝の日本だけという皮肉な現実

プレジデントオンライン / 2023年3月28日 11時15分

米国を下して優勝を決め、喜ぶ大谷(=2023年3月21日、アメリカ・フロリダ州マイアミ) - 写真=AFP/時事通信フォト

侍ジャパンが3度目の優勝で幕を閉じたWBCだが予選参加国はわずか28だった。2022年のFIFAワールドカップ予選209と比べるとはるかに少ない。スポーツライターの酒井政人さんは「野球の母国・米国では人気度がNFLやNBAに比べて下がっている。また国内も野球人気の土台となっている高校野球は、球数制限や試合方式などで世界標準にほど遠い部分があり、課題は山積している」という――。

■予選参加国数…サッカーW杯209に対しWBCはたった28

「ワールド・ベースボール・クラシック(以下、WBC)」が大いに盛り上がった。侍ジャパンは米国との決勝戦を3―2で制して、3大会ぶり3度目の優勝を飾った。日本戦の平均世帯視聴率は決勝までの7試合連続で40%超え(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。国内ではサッカーワールドカップ並みにヒートアップしたといえるだろう。

3月18日に開幕した選抜高校野球大会(春の甲子園、以下センバツ)ではWBCでの日本の活躍に関連したちょっとした騒動が起きた。東北高(宮城県)の選手が初回に出塁すると、自軍ベンチに向かって、WBCで侍ジャパンのラーズ・ヌートバーが披露した「ペッパーミルパフォーマンス」(両手で胡椒挽きを回すような動き)を行ったのだ。この行為が論議を呼んだ。

試合後、日本高野連は、「不要なパフォーマンスやジェスチャーは、従来より慎むようお願いしてきました。試合を楽しみたいという選手の気持ちは理解できますが、プレーで楽しんでほしい」という声明を発表。一方で東北高の佐藤洋監督は、「これだけ野球界が盛り上がっているのに、こんなことで子供たちが楽しんでいる野球を大人が止めるのかな」と語っている。ネット上では、高野連の頭の固さを示唆する意見と同時に、出塁が相手守備の失策によるものだったため、パフォーマンスは敬意を欠くとの指摘もあった。

ベースボールと、教育の一環としての野球。WBCと高校野球は全く同じスポーツでありながら、根本的に大きな違いがあるようだ。

■見習うべきは高校野球のほうではないのか?

大きな違い……例えば、投手に対する球数制限もそうだ。

WBCは1次ラウンドが1試合につき65球、準々決勝は80球、準決勝以降は95球が上限。さらに登板間隔にもルールがあり、1試合で50球以上投げたら次の登板まで中4日を空けなければならない。1試合で30球以上、または2試合連続で投げた場合は、次の登板まで中1日を空けるのが決まりだ。

球数と登板間隔に規定があるのは、投手のダメージを考慮して、ケガを防止するため。そうしたケアは高校生にもあってしかるべきだが、センバツはどうなのか。

阪神甲子園球場
写真=iStock.com/Loco3
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Loco3

3年前から制度化されており、大会期間中、「1週間で合計500球」(夏の甲子園も同様)となっている。その後は1週間が経過するまで登板できない。

今回のWBCで侍ジャパンは全7試合で14人の投手が登板。米国との決勝では、今永昇太が先発すると、戸郷翔征、高橋宏斗、伊藤大海、大勢、ダルビッシュ有とつなぎ、最終9回は大谷翔平が締めくくった。日本勢の最多投球回は大谷の9.2イニング(135球)。最も投げた1週間の球数は86球だった。

先発投手の場合、NPBのレギュラーシーズンの先発投手は100~110球前後を中6日で投げることが多く、MLBは90~100球前後で中4日がスタンダードだ。両リーグとも球数制限が決まっているわけではないが、おおよそ約1週間で200球前後ということになる。

そう考えるとセンバツの「1週間で500球」という球数制限はWBCだけでなく、NPB、MBLと比べても、尋常ではない多さであることがわかる。以前はこうした制限が一切なかったのでいくらかマシとはいえ、高校生の身体は成長過程にあり、それを考慮するとこの球数制限ではダメージが及ぶリスクが高いと言わざるを得ない。

高校野球では侍ジャパンのように第一線の投手をたくさんそろえることはできず、1人か2人に負担がかかる構図となる。高野連は球児の安全面をもう少し考えてWBCに準ずる球数制限にしてもよいのではないだろうか。

試合方式にも両者には大きな隔たりがある。

出場チームはWBCが20で、センバツが32。試合数はWBCが最大7試合(日程は全15日間)、センバツが最大5試合(順延がなければ全14日間の予定だった)。WBCは1次ラウンドが5チームによるリーグ戦のため、出場チームは最低でも4試合をこなす(※その後は準々決勝ラウンドを勝ち抜いた4チームによるトーナメント方式で準決勝、決勝を行う)

一方、センバツは最初からトーナメント方式だ。全国からチームを集めて1試合で半数(16校)を帰らせてしまうことになる。明らかに“費用対効果”が悪く、教育的な立場から考えても、WBCのように1次ラウンドは数チームによるリーグ戦を行う方式がよいのではないだろうか。その場合、現状は甲子園のみの会場を複数カ所にするなどの改革が必要になるが、それは他のスポーツの全国大会ではごく普通のことである。

ついでに言えば、出場登録メンバー数にも大きな違いがある。

WBCが選手30人(投手は最低14人、捕手は最低2人)で、センバツは18人。WBCの方が倍近い人数だ。多くの選手にチャンスを与えるためにも、高校野球はベンチ入りの人数をもっと増やしてもいいのではないだろうか。

■野球は“オワコン化”していくのか

今回のWBCは予選を含めて28チームが参加した。世界一を決める大会としては極めて規模が小さい。2022 FIFAワールドカップ予選は209チームが参加している。

野球は、日本国内でサッカーと並ぶ“メジャースポーツ”だが、世界的に見ると、五輪種目から外されるほどの“マイナースポーツ”だ。

野球の本場でも危うい状況になっている。米国ではNFL(アメフト)がダントツの人気ナンバー1で、MLB(野球)は人気面でNBA(バスケ)に抜かれたという声も強い。

フィールド上にあるアメリカンフットボール
写真=iStock.com/8213erika
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/8213erika

MLBはNPBと同じような構図で若年層ファンが減少している。ワールドシリーズの全米平均視聴率は2003年に12.8%あったが、2020年は史上最低の5.1%、2021年は6.5%、2022年は6.1%と20年ほど前の約半数になっているのだ。熱心にMLBの中継を見ているのは、中高年以上のアメリカ人男性だけとも言われている。

WBCとセンバツの「球数制限」からもわかるように、野球にはグローバルスタンダード(世界標準)といえるものが存在していない。

またサッカー、バスケ、バレー、陸上、卓球などのワールドカップや世界選手権と呼ばれる大会は、各競技の国際連盟が主催しているが、WBCは状況が異なる。世界野球ソフトボール連盟(WBSC)が公認しているとはいえ、MLB機構とMLB選手会により立ち上げられたワールド・ベースボール・クラシック・インク(WBCI)が主催する大会なのだ。

WBCはMLB側が「野球世界一決定戦」をうたい文句にした“お金儲けの大会”との指摘も一部では出ている。収益が増えれば、当然、主催者側に入るマネーは大きくなる。今回のWBCでも準決勝の組み合わせが結果的に急遽変更され、米国と日本のカードが決勝に持ち越されたかたちになった。

米CBSによると、WBCの賞金総額は1440万ドル(約18億7200万円)で、優勝した日本は総額で賞金300万ドル(約3億9000万円)を獲得。選手と各国の団体に半分ずつ支給されるという。出場登録メンバーは30人。単純計算で日本チームの選手ひとりあたり、1300万円の支給となる。大型契約をしている大谷やダルビッシュらからすれば額は大きくないだろう。

大会MVPに輝いた大谷は言った。

「第1回大会からいろいろな先輩たちが素晴らしいゲームをした。それを見てきて、ここでやりたいという気持ちにさせてもらったのが一番、大きい。今回、優勝させてもらって、そういう子たちがまた増えてきてくれたら本当に素晴らしいこと」

侍ジャパンの意気込みはすさまじく、その戦いっぷりは野球ファンならずともワクワクさせられ、非常にエキサイティングだった。プレーする側も応援する側も日本人にとって高い熱量を持っているWBCだが、米国での認知度・人気度は日本ほどではない。WBCはこのままでいいのだろうか。

今回、MLBのトップ選手はWBCに保険をかけたが、ケガの多い選手には保険が下りなかったという。当初、MLBで通算197勝を誇るクレイトン・カーショー投手が参加予定だったが、保険の問題で出場を辞退している。このような事情もあり、米国の投手陣はすべてがトップクラスというわけではなかった。

米国は3年後の次回大会に向けて、一流の投手をたくさん招集できるか。また、国民のベースボールの人気を上向かせることができるか。さもなければ、野球の地位はさらに地盤沈下し、オワコン化してしまう可能性もゼロではないだろう。

FIFAワールドカップのように「真の世界一決定戦」となり、世界中を熱狂させられるのか。侍ジャパンの熱気がMLBの“本気”につながることを期待したい。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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