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人を好きになるのは非生産的で危険なこと…中国で高校生以下の恋愛がタブー視されるワケ

プレジデントオンライン / 2023年3月31日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tiero

日本と中国の恋愛事情はどう違うのか。北京在住26年のライターの斎藤淳子さんは「子供たちは『人を好きになるのは非生産的で危険なこと』と幼いうちから教えられているため、中国には恋愛をネガティブに捉える考え方が根付いている」という――。

※本稿は、斎藤淳子『シン・中国人 激変する社会と悩める若者たち』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

■高校以下の学生の恋愛はタブー

恋愛と結婚が公的な空間に引っ張り出され制限された歴史を経た中国では今でも高校生以下の恋愛をタブー視する空気が強い。その証拠に中国には高校以下の学生の恋愛を表す特別の語彙(ごい)がある。中国ではこれを大人のノーマルな恋愛とは区別して「早恋」と呼ぶ。これは、基本的に非生産的でリスクが高い好ましからぬ行為で、場合によっては青少年の不良行為の一種と見なし、大人は忌み嫌う。

例えば、大学教授の陳さん(70年代生まれ、40代女性)もそんな見方をする人の一人だ。陳さん自身は大学院在学中に自由恋愛で今の夫と知り合い、結納金も受け取らずに2000年に「開明的」な結婚をした人だ。しかし、中学生の息子さんの恋愛観については以下のように述べる。

「高校までの恋愛? そりゃ、肉体的な行為はだめよ。そうねえ、勉強に影響がなければ、それ以外のことはいいけど、大学受験前で、(精神的に)セーブが効かなくなるのが心配だわ。やっぱり一番いいのは恋愛はしないことね」

■正しい中国の青年期の過ごし方

このように、米国留学経験もありオープンで「開明的」な陳さんでさえ、高校生以下は恋愛はしないのが一番と考えている。無事に天下分け目の大学受験を経て、大学に入学した後は親も黙認するが、高校まではただひたすら黙々と勉強に打ち込むべきというのが、中国のほとんどの親や大人が長年共有している「正しい中国の青年期の過ごし方」だ。

そして、社会に出たら今度は180度変わって、さっさと相手を見つけて結婚して孫を生んでおくれと要求するのだから、子どもにしたらたまったものではない。

また、第3章(『シン・中国人 激変する社会と悩める若者たち』)で触れたBさんも高校3年生の時、好きな女の子がいて1年以上アプローチしていたが、そのことがある時担任にばれた。担任は恋心で成績が下がるのを心配してBさんの親を呼び出して彼の「早恋問題」について注意したという。

幸い、理解のあったお母さんはその時は彼にも何も言わずにいてくれ、彼の成績も下がらなかったので、その後は事無きを得たという。Bさんがその後、トップ校に合格したのは書籍で述べた通りだ。

■恋愛は「成功のために」バッサリと切り捨てる

ここで、先生も親も心配しているのは、ただ一つ。大学受験への影響だ。重要なのは一生を分ける受験勉強だ。その一方で、それと比較して若者の恋はあまりに「危なく」、「無駄」なこと。だから、学生が恋愛をし始めたら先生や親は止めさせる。この対応は中国では当たり前という。

ノートや教科書で勉強する人の手
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

ここで天秤にかけられているのは人生の成功に必須の勉学成就とそれを邪魔しかねない非生産的な恋愛だ。年頃の子どもを持つ親として、子どもが恋に落ちてジェットコースターの如く心が揺れ動き、受験に悪影響が出ないかと心配する気持ちは理解できる。

しかし、そこまで合理性で割り切れないのが人間の複雑さであり面白さなのだが、中国はこの辺を「成功のために」バッサリと切り捨てる残酷なところがある。厳しい環境で生き抜くための合理性信仰の強さなのか、元来の感情世界への軽視なのかは不明だが、情緒や情感をことのほか重んじる日本の感覚とは大きく異なる。

■日中では恋愛の位置づけが根本から異なる

実は、興味深いことに恋愛に対する感覚の違いは両国の文学の世界でも認められるようだ。日本の大学院で比較文学の博士号を取得し、中国の大学で教鞭に立つ日中文学の専門家は、両国の恋愛を扱った文学作品の位置付けの違いを以下のように指摘する。

「日本では恋愛を題材とした『万葉集』や『源氏物語』などが公的な空間でも認められ、一貫して楽しまれてきた。一方で、中国ではそれとは対照的に古来より中国の公式の場で認められた『文』の範疇には、恋愛についての作品は含められなかった。

一時的に南朝時代(5〜6世紀)は恋愛関係の作品が認められたこともあったが、時代が下るとともに批判を受けるようになった。両国の恋愛作品の文学における位置づけは大きく異なる」という。

どうやら、日中では恋愛の位置づけが歴史を通じて根本から異なるということのようだ。こうした歴史における恋愛の位置づけの違いは日中それぞれの特色を掘り下げる上でも非常に興味深いテーマだ。いずれにせよ、こうした中国独特の恋愛文化が今日の中国の若者の恋愛と結婚観にも影響を与えているのは間違いないだろう。

■恋愛をネガティブに捉える考え方

また、Bさんよりも約10歳若い20代のZ世代にも「早恋」に対する大人の態度について聞いたが、状況はほとんど同じだった。広東省のあるZ世代は高校の時「早恋」を両親に反対されて親子喧嘩が絶えず、ある日、とうとう家出をして公園で一夜を明かしたこともあったという。

孤独な少女
写真=iStock.com/xijian
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/xijian

一方、また別のZ世代の男女二人は、高校時代には先生と親には秘密で付き合っている人がいたが、直接は干渉されずに「曖昧に」しておいてくれたという。親からすると「当然ながら、勉強第一」だが、「勉強さえできていれば、恋愛していても良い」ということだったと振り返る。さすがに直近の10年になってくると親の寛容度も上がっているのかもしれない。

それにしても、思春期を経て高校生にまで成長して好意をもった異性にアプローチしたことを担任の教師からいちいち注意されるというのは、年頃の本人たちにとっては決まりの悪い学園ルールだ。だんだん薄まっているので、今は北京などの大都市では少なくなっているようだが、これが少し前までの中国では「基本形」だった。

ここで留意すべきは、中国に根付いている恋愛をネガティブに捉える考え方だ。人を好きになるのは非生産的で危険なことと若者たちは幼いうちから大人に教えられて育つ。これはなんとも残念だ。

■結婚証明書なしでは男女は同じ部屋に宿泊できない

90年代に、中国の5つ星高級ホテルではなく、一般市民が利用するローカルホテルに泊まったことのある人なら、夫婦や子ども連れの家族で一つの部屋に一緒にチェックインする際に「(二人の写真入りの)結婚証明書の提示」を求められたことがあるだろう。「この子が我々の子どもです、我々は夫婦です」と両親そっくりの息子を指して言っても「子どもは何の証明にもならない」と言われた知人もいる。

中国のローカルホテルでは、結婚証明書なしには男女は同じ部屋には宿泊できないというルールがある。その頃まで中国では、夫婦と証明できない男女が同室に宿泊するとは、断じて許されない「品行不正」なる行為とされていたからだ。

この結婚証明書は、地方政府の民政局で結婚登記をすると数週間後に二人で一緒に撮る結婚証明写真入りで発行される。これは2005年ごろまで中国人の国内旅行の必須アイテムだった。

■そもそもは売春を取り締まるのが目的

ある華僑新聞は2000年当時に北京の2軒の2つ星ホテルで起きた出来事として、米国に帰化した中国人夫婦がホテルで夫婦証明書の提示を求められたが、そんなものは外国人が持っているはずもなく、宿泊できなかったと書いている。

3つ星以上のある程度グレードの上のホテルへ行けば泊めてくれるはずだ、と言われて追い出されたという。実際、筆者も5つ星ホテルではトラブルになったことはないが、2000年前後に田舎の小さな旅館に泊まる時に、フロントで夫婦であるかどうかをチェックされたことがある。

このように、中国では、十数年前まで「男女が同室を利用する場合は、結婚証明書を提示」というルールが現役だった。これは法律としては成文化されていないが、中国人なら誰もが知る「常識」の規則という。そもそもは、外国人に見られたら「みっともない国の恥」と認識されていた売春を取り締まるのが目的だったという。

■中国が「国際的」になってから日はまだ浅い

80年代に北京市内の数少ない国営高級ホテルで働いていた人の話では、管轄の公安当局は、ホテルから毎日宿泊者の年齢、身分、部屋分配と人数とその「関係」の届け出が必須で、怪しい人物と判定されると、ホテルにやってきて客室に突撃調査が入ることもあったという。

ホテルはそのトラブルを防ぐために、チェックインの際に客の「関係」を事前に調べるのが慣例になったという。これが中国の三十数年前の空気だった。中国がいろいろな意味で「国際的」になってから、日はまだ浅い。

筆者の友人の話では、1988年に上海のホテルの出口で彼女の大学の同級生の中国人女性が外国人男性と出てきた際に、売春容疑で警察に捕まり大変な騒ぎになったという。当時、彼らは普通の成人として男女交際をしていただけだったが、取り調べで未婚男女の同室宿泊という「重罪」を逃れるために「婚約者」と主張。

知り合いなどのコネも総動員して寛大な対処を得て、警察からは釈放されたものの、「ならば即、結婚を」と求められ、二人は電撃結婚をして出国せざるを得なくなったという。そのくらい、中国社会の男女関係に関するルールは保守的だった。

■ホテル内にビッグデータ監視網が張りめぐらされている

2022年の今日でも、中国のネットのQ&A欄には「夫婦でホテルにチェックインする際に、結婚証明書の提示は必要ですか?」と心配する声が寄せられている。それに対して「結婚証明書はなくても、二人の身分証明書があれば、大丈夫ですよ」と最新のお役立ち情報が載っている。

斎藤淳子『シン・中国人 激変する社会と悩める若者たち』(ちくま新書)
斎藤淳子『シン・中国人 激変する社会と悩める若者たち』(ちくま新書)

ちなみに今では中国でホテルに宿泊する場合は、全ての人の身分証明書(外国人はパスポート)の提示とその場で本人の顔写真の撮影(顔認証)が義務づけられている。ホテルによっては荷物検査もある。ホテルに泊まるだけなのに、まるで入国検査さながらの厳しさだ。

全てのホテルのフロントに設置された専用機器から読み込まれる顔認証と個人データは瞬時に政府と共有される。今は、写真付きの結婚証明書などという牧歌的な証明書どころではない。誰がいつ、どんなふうに部屋に入ったかわかるよう死角なくホテル中に設置されたカメラと、泣く子も黙るビッグデータ監視網がホテル内を含めて全国の施設に張りめぐらされている。

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斎藤 淳子(さいとう・じゅんこ)
ライター
北京在住26年。米国で修士号取得後、北京に国費留学。JICA北京事務所、在北京日本大使館勤務を経て、北京を拠点に共同通信、時事通信、読売新聞のほか、中国の雑誌『瞭望週刊』など幅広いメディアに寄稿。NHKラジオやJ-WAVE、TBSラジオなどでも中国の現地事情を解説している。共著書に『夫婦別姓 家族と多様性の各国事情』(ちくま新書)、『在中日本人108人のそれでも私たちが中国に住む理由』(CCCメディアハウス)などがある。

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(ライター 斎藤 淳子)

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