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そもそもすべての医療費は「自己負担ゼロ」にできる…「コロナ治療の有償化」に現役医師が反発を覚える理由

プレジデントオンライン / 2023年3月29日 11時15分

新型コロナウイルス感染症対策本部の会合で発言する岸田文雄首相=2023年1月27日午後、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

■ツイッターで「自己負担」がトレンド入り

やはり「医療費の削減」、それが目的だったのだ。

新型コロナウイルス感染症の感染症法における位置付けを、5月8日以降、現行の「新型インフルエンザ等感染症」(ちまたでは「2類」と言われるが正確ではない)から、季節性インフルエンザと同等の5類感染症へと見直す方針を決めた岸田政権。

コロナの治療費や検査費用の自己負担について、方針決定当初の1月末時点では、患者に急激な負担増が生じないよう期限を区切って公費負担を継続していく方針を示していたはずだが、3月10日に示された医療提供体制の見直しでは、外来においては原則通常の保険診療に切り替える(コロナ治療薬の費用等を除く)とされたのだ。

つまり「コロナ5類化」とは、医療機関の負担軽減やら発熱者の受け皿を増やすためやらと、いろいろなメリットが喧伝されたが、けっきょくはコロナにかかる医療費を減らすこと、すなわち「公費の削減」が主たる目的であることが、これでハッキリしたということだ。

この政府の方針がメディアによって明らかにされた3月1日、ツイッターでは「自己負担」がトレンド入りし、さまざまな声がタイムラインにならんだ。

■「払えない」「当然」…なぜ世論が二分されているのか

「しばらくは無料で段階的にと言ってなかったか? 話が違う」「これで軽症の人は検査しなくなって野放し、コロナを広めたいのか」「無理……払えない」「自分の身は自分で守れってか、自己責任か」「ますます弱者はつらくなる」という懸念を示す意見がある一方で、

「当然」「やっとか」「1年遅いわ」「コロナもやっとカゼになったな」「これで医療機関も検査で儲けられなくなったな」「税金のムダ使いがこれでなくなる」

という歓迎の声も少なからず認められた。

このように「自己負担」については賛否両論、文字通り「世論が二分」されているわけだが、これはいったいどういうことであろうか。

まず否定的意見について考えてみよう。この3年間コロナについての医療費は公費負担だったと言われるが、それはどういうことか。それは抗原検査やPCR検査、そしてこれらが陽性と判断された場合の治療にかかる費用が公費負担であったということだ。つまり発熱して発熱外来を初診した場合に発生する初診料、そしてその医療機関が講じている感染対策にかんする診療報酬部分については、個々の受診者の自己負担割合に応じて窓口負担は、これまでも求められていた。

一部の人にはこの点について誤解があって、「コロナは全額公費負担と聞いていたのに、窓口で実費を請求された」と言う人も見受けられるが、あくまでも公費負担は検査とコロナの治療の部分だ。

■今後は診療報酬分+検査費用も負担に

医療機関の機能によっても若干異なる場合があるが、ある診療所で例えれば、「初診でコロナPCR検査、処方箋発行」を行った場合、診療報酬点数上はトータル1762点(10割負担で1万7620円)。現行ではこれらのうち、検査に関係する部分である850点(同8500円)が公費、すなわち残りの912点(同9120円)分は保険診療として、自己負担割合に応じた窓口負担が請求される。つまりこの場合、3割負担の人であれば、現行でも2736円の支払いとなっている。

「5類化」後は、これにさらに検査にかかる費用の自己負担分が上乗せされる(※1)となれば、「無理……払えない」という声、軽症者が受診しなくなることで感染が広がるとの懸念は容易に理解されるだろう。いや、軽症者でなくとも、この窓口負担を支払えない人は、検査を控え受診を我慢し、自宅で重症化するまで、あるいは死亡するまで発見されないという事態さえ引き起こしかねないともいえよう。

※1:診療報酬点数トータル1762点(10割負担で1万7620円)の内訳は、院内トリアージ実施料300点(新型コロナの疑い患者について、必要な感染予防策を講じた上で実施される外来診療を評価するもの)と診療・検査医療機関への上乗せ加算147点(発熱外来設置を評価するもの)が含まれているが、これらは「5類化」に向けて順次算定されなくなることが予想される(現在、中医協で議論中)。よって、912点にそのまま検査点数が上乗せ加算されることはないと考えられる。

■医療機関が公費で大儲けしたと感じる人も

では、窓口負担増を歓迎している人は、いったい何に期待しているのだろうか。これらの意見を見渡すと、まず「コロナを特別扱いしなくなる」ことを第一に歓迎しているようだ。「コロナはカゼ」「そもそもコロナなど存在しない病気」「コロナはPCR検査が作り出したもの」といった非科学的な意見さえも散見される。

そこから「コロナは特別な病気ではないのだから、公費を投入することは間違いである」という意見につながっていくようだ。また一部の病院が病床確保料を不正に受給していたことを非難しつつ、コロナ禍によって医療機関が公費で大儲(もう)けしたと感じている人もいるらしい。窓口負担増によって「医療機関が検査で儲けられなくなる」「税金のムダ使いがなくなる」という意見の背景には、自己負担増に対する不満以上に、医療機関への不信感と怒りが存在しているのかもしれない。

しかし冷静に考えてみれば、窓口負担増によってダメージを被るのは医療機関ではないことは明白だ。いや被害を受けるのは、医療機関のユーザーである患者さん自身だ。とくに低所得者ほど、その打撃は大きいものとなる。

■そもそも窓口負担は本当に必要なのか?

政府はこれまでも、個人に自己負担を課すことで国民の受療行動や医療費支出をコントロールしようとしてきた。かつてはゼロであった高齢者の窓口負担を徴収することにしたし、大病院にかかる場合に紹介状がないと自己負担額を上乗せするという施策も行った。さらに最近ではマイナ保険証を使わない者へのペナルティー加算もあり、すべてこれに当たる。

そもそもコロナに限らず、医療機関における窓口負担は当然のものなのだろうか。3割負担の人の場合、窓口で支払わない7割部分についても、すでに保険料や税金で納めているのであって、医療にかかる多くの費用は自分の財布から出ているカネだ。なぜこの上、窓口でさらに支払わなければならないのか。

医療機関の窓口で実費を支払うとなった場合に、もし手元に余裕がなかったら受診を躊躇せざるを得ない場合もあるのではないか。病気やケガという“危機的事態”に、財布の中身と相談せねばならない現状は、アタリマエのこととして受け入れねばならないことなのだろうか。

あまりにも制度として定着しすぎているがゆえに、知っている人のほうが今は少ないかもしれないが、国民皆保険制度が達成された1961年当時は、被用者本人の自己負担は0割であった。その後、行政改革、構造改革という「改革」の美名の下に、そして社会保障費の増加を口実として、84年には1割、97年に2割、03年から3割と段階的に増やされてきたのだ。

病院の待合室
写真=iStock.com/SetsukoN
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SetsukoN

■公費負担では医療資源の使い方が歪んでしまうのか

また「日本では少ない自己負担額で良質な医療を、いつでも、どこででも受けられる」と聞かされつづけていると、この3割でも「少ない自己負担」と思ってしまう人もいるかもしれない。しかしヨーロッパなど世界に目を向ければ、英国やドイツなど窓口負担ゼロという国も、じつはまったく珍しくないのだ。

今回の5類への見直しにあたって千葉県の熊谷俊人知事は自らのnoteに、現行のコロナ治療にかかる公費負担について、一定期間は公費負担は必要かもしれないとしつつも、「全額公費負担によって医療資源の使い方が歪(いびつ)になっている側面があるのは事実」と述べ、公費負担を外すことは「限られた医療資源を最大限に活かす」ことになるとの見解を示している。

熊谷知事の言う「医療資源の使い方が歪」というのが、コロナだけに全額公費負担している状況が歪んでいて、そもそもすべての医療は窓口自己負担が課されるべきでないとの意味であればまだ理解できるが、文脈からはそうは読み取れない。医療資源は有限なのだから、通常の医療と同様にコロナにも窓口自己負担を課して当然という意味であることは明らかだ。

■「一億総窓口負担ゼロ」はその気になればできる

たしかに医療資源すなわち財源は無限ではない。しかし窓口負担分にかかるカネはそんなに莫大なものであろうか。厚生労働省の2020年「国民医療費の概況」によれば、国民医療費約43兆円のうち患者等負担分は約5兆円だ。

これは岸田政権が目指す防衛費倍増計画のうち、2023年度予算の防衛費とほぼ同規模、つまりその気になれば工面できる金額なのだ。もちろんそのすべてを国に求める必要はない。紙幅も限られているので詳細を知りたい方は以下のサイト(※2)をご覧いただきたいが、その財源は国と事業主とでのワリカンでも解決し得るのだ。

※2:医療費の窓口負担「ゼロの会」

つまり「一億総窓口負担ゼロ」は、まったくの夢物語ではないということだ。事実、窓口負担ゼロを実現させようという声は、患者団体だけでなく、今や著名人からも上げられてきている。国民にとっての優先順位が何かを理解し、“その気になれる政権”であれば、今すぐにでも実行できるレベルの政策といえるだろう。

■これを機に国民的議論を始めてはどうか

窓口負担ゼロのメリットは、受診控えがなくなるというだけではない。医療機関における金銭の授受が削減されることから、未収金回収や窓口でのトラブルといった受付業務の負担軽減にもつながる。一方、デメリットとしては、自らの懐に痛みの実感がわかないことから、不要不急の受診を誘発し医療費を高騰させるのではないかとの指摘もあろうが、それは現場の医療提供サイドが不要な検査や治療を行わなければ良い話である。

第一、窓口負担が無料の国で、用のない人が医療機関に殺到して医療崩壊を引き起こしているなどという話もまったく聞かない。むしろ、窓口負担を課すことによる受診抑制のほうが、手遅れの人を増やし、医療機関に余計な負荷をかけ、さらに結果として医療費の増大を招くことにつながるだろう。

今回の「5類化」とそれにともなって政府から示された「医療費の窓口自己負担増の再開政策」を奇貨として、これまで多くの人が知らず知らずのうちに実現できるはずないと思いこまされてきた「窓口負担ゼロ政策」について、真剣かつ具体的に国民的議論を開始してはいかがだろうか。

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木村 知(きむら・とも)
医師
医学博士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。1968年、カナダ生まれ。2004年まで外科医として大学病院等に勤務後、大学組織を離れ、総合診療、在宅医療に従事。診療のかたわら、医療者ならではの視点で、時事・政治問題などについて論考を発信している。著書に『医者とラーメン屋「本当に満足できる病院」の新常識』(文芸社)、『病気は社会が引き起こす インフルエンザ大流行のワケ』(角川新書)がある。

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(医師 木村 知)

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